生成AIを用いた企業改革を支援するGen-AXの挑戦ーソフトバンク子会社「Gen-AX」のCEO砂金氏が語る生成AIー
2024年10月11日掲載
生成AI技術の進化が加速する中、多くの企業がその恩恵を受けるために動き始めています。Gen-AX(ジェナックス)株式会社(以下、Gen-AX)は、生成AIの可能性を最大限に引き出し、企業の業務改革を支援するためにソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)の100%子会社として設立されました。今回はGen-AXの代表を務める砂金信一郎氏に、生成AIの現状と未来の可能性、Gen-AXの役割や提供予定のサービスについて語っていただきました。
Gen-AX設立の背景と目的
Gen-AX設立のきっかけは、ソフトバンクの創業者 である孫正義が生成AIの技術を推進する決意を示したことに始まります。ソフトバンクはグループ全体としてAI(人工知能)への取り組みを強化しており、生成AI技術をどのようにモデルとして成立させ、事業化するかについて議論を重ねる中で、まず日本語に特化した大規模言語モデルの研究開発を目的としてSB Intuitions株式会社(以下、SB Intuitions)を設立しました。その後、プロダクト開発とお客さまと伴走しながら業務変革を支援するコンサルティングの2つの役割を持つGen-AXを設立したと砂金氏は語ります。
「生成AI技術をどうビジネスにするのか、今はまだグローバルで見てもあまり成功している企業はありません。どういう業務にインパクトが出せるのかということに対して責任を持って解決をしていくことをGen-AXの目的としてます」
例えば、照会応答業務でメールの問い合わせに対し検索技術を応用しながら生成AIで回答させるというものを1つ取っても、現場で使えるレベルとデモで動くというレベルには埋めがたい差があると砂金氏は続けます。
「現場で本当に役立ち、生成AIがないと仕事にならないレベルにするには、どういうプロダクトがあればよいのか、徹底的に考えながら開発することがGen-AXの役割の1つです」
また、もう1つGen-AXとして成し遂げたいこととして「生成AI技術を道具として提供するのではなく、それを使ってお客さまの業務変革を実現することがゴール」と強調します。そのために、プロダクトのみではなくコンサルティングサービスも併せて提供し、お客さまに寄り添いながら支援する体制を整えようとしています。
生成AIの進化と社会受容性
近年の生成AI技術の進歩や加速は、技術そのものの発展だけでなく、「社会的な受容性の向上」によるものも大きいと砂金氏は語ります。
「技術の発展以外にビジネス応用という観点で着眼しているのが、専門家やエンジニア側ではなく業務の中でAIを使う人たちの社会受容性です。1年前にはChatGPTと会話することが新鮮で驚きだったかもしれませんが、現在では多くの人々の日常生活や仕事の一部としてAIが浸透しています。この世の中の変化の方が、今後のことを考えると重要だと思います」
また、現状では最新のAI技術であるGPT-4oやClaude 3.5にはまだ限界があり、理想と現実の間には乖離があるものの、これは時間の問題であり、技術がさらに進化することで解決されるだろうと言います。砂金氏は過去にMicrosoftで働いていた頃、クラウド技術が初めて導入された際も同様の経験をしていると続けます。
「クラウド技術も、当初は懐疑的な見方が多かったものの、現在ではクラウドが基幹システムとして不可欠な存在となっています。
AIも同様に、現在はその価値がまだ完全には理解されていないかもしれません。しかし、技術の進化と共に社会受容性が高まり、将来的にはAIが生活や社会の中で不可欠な存在となっていく。今の生成AIは、技術と社会が共に進化しよりよい未来を築くための入口に立っているのではないかなと思っています」
生成AIについて語る砂金氏
Gen-AXの事業内容と大事にしていること
Gen-AXのプロダクトの方向性については社名にも込められています。
「Gen-AXという社名は、ジェネレーティブAI(Generative AI)とトランスフォーメーション(Transformation、DXのXと同義)を組み合わせたものです。ジェネレーティブAIの技術を用いて社会や業務の変革を実現するという理念を表現しています。単に、SaaSプロダクトを提供するだけではなく、コンサルティングを通じてお客さまと共に業務変革をやり遂げることを大事にしています」
また、自律型AIであることも大事にしていると砂金氏は語ります。
「AIにプロンプトで細かく指示を出し、指示通りに返してくれるものではなく、自律エージェントを目指しています。
自律エージェントとは、AIが自分で考えて仕事をやりきるためにタスク分解をし、足りない情報を把握し、追加で情報が必要であれば人間に聞くというように、考える主体が人間側ではなくAI側にあり人間がAIをサポートするような状態です。それを作り出せるような会社でありたいと思っています。ただし、最初から自律型AIが人間の支援を得ることなく勝手に学習し続けられるかというと、そこまで便利になっていません。そのため、コンサルティングの中でしっかりメニュー化してお届けできたらいいなと考えています」
利用者が本当に求めるSaaSプロダクトを目指す
Gen-AXが提供するSaaSプロダクトは、検索技術のRAG(検索拡張生成)ベースのシステムをまず完成させる予定だと言います。砂金氏はその特徴について次のように説明します。
「例えば損害保険の認定業務などの照会応答業務において、現場の業務知識を持つ人に対し、検索エンジンが過去の照会履歴から正しいであろう回答を5つほど選んで提供します。その中から適切なものを人間が選んだ後、回答を作成させる際には裏側で参照されている情報源も要約部分から見ることができるようにすることで、信頼性の確認ができます。また回答作成後にも、根拠となる関連資料の確認が可能です。事実に基づいた検索から回答作成までを、業務の中で使える形で作ろうとしています」
回答生成のイメージ
また、利用者が適切な回答を選びやすいUI設計を取り入れる予定だと言います。さらに、利用者自身がモデルを改善できるようにし、データ追加や学習の結果を管理できる仕組みも構築中だと説明します。
「モデル自体をお客さま自身でどんどん改善してほしいと思っています。よかれと思ってデータを追加したら性能が劣化したということがよくあるので、そうならないように管理ができる仕掛けを構築したいと思っています。モデル学習が非常にうまくできていると、あともう少しこういうRAGのデータがあると精度を上げられますよとサジェストして人間側の作業をアシストする。インターネットの検索エンジンでキーワードが予測されて表示される機能と同じように、システム側から歩み寄ってAIをより賢くしていかないと、本来みんなが期待しているRAGは作れないと思います」
プロンプトの工夫は重要ですが、それだけでは望む結果が得られないことが多く、プロンプトだけで全ての問題を解決するのは難しいとも砂金氏は続けます。
「性能を確保するためには、AIの仕組みを理解している専門家がプロンプトの調整や追加学習、強化学習といった方法を使い分け、SaaSの裏側で実装し、利用者が本当に求める価値を提供するところまで踏み込むことが重要だと考えています」
中長期的には、自律エージェントによる音声会話の実現も目指す予定だが、まずはテキスト応答から段階的に進めていく計画だと言います。
AIファーストな文章とKPI作成の重要性
RAGを活用する際、AIが理解しやすい文章と人間が理解しやすい文章は異なると砂金氏は述べます。
「例えば、現場の業務マニュアルは人間が読みやすいように図表を多用していますが、AIにとってはロジカルに書かれた文章の方が理解しやすいです。これまでの大前提は、人間が作業を行い、AIが補助する形でした。しかし今後、AIが自動で業務を行い、人間がサポートする形に変えていくためには、AIに最適化された文書作成が必要になります。
AIが主語となる業務のために、AIが読みやすい文書の作成方法や管理方法、自律エージェントの運用方法を体系化し、一連でコンサルテーションできたらいいなと思っています」
また、お客さまと接する中で、組織のデジタル化やAI導入の現状を評価し、次に何をすべきか具体的に提示してあげることが重要だと感じていると砂金氏は言います。
「データが整理されてないお客さまは、一度DXを行った上でないとAI活用はなかなか難しいと思います。まずはDXや社内版ChatGPTなどを一定期間行った上で、次のステージに進んでいただくといいと思います」
さらに、多くの企業が業務を自動化し、効率化する際の影響を評価するためのKPI(重要業績評価指標)をうまく設定できていないことも分かってきたそうです。
「KPIを見つけ出し、お客さまが納得感ある形で合意され、それがビジュアライズされて、数字で見ると改善されているということ、腹落ち感を醸成するというのは、社内の人たちだけでやるのは難しいと思います。お客さまが向き合っている業務をKPI化して可視化し、コスト削減なのか、売上向上なのか、従業員満足度向上なのかを整理する。そこも非常に大事なコンサルティングの範疇じゃないかなと思っています」
ソフトバンクとの連携や今後の展望
ソフトバンクと連携することでGen-AXはプロダクトサービスの高度化に専念できると砂金氏は言います。また、SB Intuitionsが作成する日本語モデルやTASUKI Annotationのデータの活用など、グループとの連携も視野に入れているそうです。
最後に、Gen-AXの今後の展望について砂金氏は以下のように語ります。
「2026年ごろまでをターゲットに、企業エージェントを完成させたいです。
例えば、ソフトバンクの企業エージェントであれば、通信事業会社ソフトバンクに関するあらゆる質問に答えられる状態を目指しています。このように企業に関するすべての情報を提供できる企業エージェントの状態を作り上げることで、その後、パーソナルエージェントのようなものが世の中に浸透すると思います。将来、パーソナルエージェントに質問すると、裏側で企業エージェントと連携してすべてを手配してくれる世界が訪れると考えています。まるで、秘書と会話しているかのように、エージェントがすべてをサポートしてくれる形を目指しています。それは我々がやりたいというのもあるし、我々が頑張らなくても非日本語圏でそういう状態にきっとなるだろうと考えると、遅れを取らずに這いつくばってでもそこに合わせていきたいなと思っています」
Gen-AXの挑戦はまだ始まったばかりですが、そのビジョンと取り組みは、生成AI技術の未来を切り開く大きな一歩となり、企業のビジネスにおいて重要な役割を果たすことが期待されます。
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