教育×生成AIの未来はどうなる?【専門家対談:後編】
2024年12月4日掲載
「GIGAスクールサミット」に毎年ご登壇いただいている奈良教育大学大学院 小﨑誠二先生と認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム 新保元康先生のお二人をお招きし、GIGAスクール構想における教育のデジタル化と未来について語っていただく本対談企画。後編のテーマは「教育×生成AI」です。教育への生成AI活用についてはさまざまな議論があるものの、今現在教育現場ではどのような影響が及んでいるのか、お二人に伺いました。
▶前編はこちら:GIGAスクール構想の現状から見えた課題【専門家対談:前編】
登壇者ご紹介
生成AIの潮流は教育現場へどんな影響を与えるか
GIGAスクール構想によってデジタル化への取り組みが進む一方で、今度はAIの進展という社会的な変化が生まれました。
生成AIを始めとしたAIの社会実装が進む中、教育現場での使用に関しては「生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン(2023年7月4日公表)」が文部科学省より展開され、学校現場における生成AIの利用についての指針が示されるなどの動きもあります。
お二人はこの流れをどう感じていらっしゃるのでしょうか。
生成AIと倫理観
小﨑先生:「生成AIは非常に強力なツールであり、教育現場での活用には大きな可能性があります。最近のソフトバンクさんのイベント(SoftBank World)や、Google さんMicrosoft さんのイベントでも大々的に生成AIが取り上げられています。教育の場でもそうですが、世の中はその特徴を十分に掴めていないのが現状です。
例えば、生成AIを検索エンジンのように情報をまとめたり表現するための便利なツールとして利用しようとしますが、そうではなく『ジェネレーティブAI』つまり生成するわけですから、AとBの情報から新たなCを創り出すという独特な特性を持っています。国際数学オリンピックや司法試験、大学共通テストでも高得点をとったり合格できてしまう生成AIですから、いくらでも悪用されてしまう可能性もあります。でも、それで生成AIを使うことをブロックしたり禁止措置を取るのではなく、より良い使い方を模索する方向に持っていけると思います。
インターネットが一時期真面目な人々に受け入れられにくかったように、生成AIもまずは一定の不安を伴うものになると思います。悪い使い方を防ぐためには、ユーザーが生成AIの特性を理解して、倫理観を持って使用することが不可欠です。
シンギュラリティ※1という一つの節目が数年後に来るとソフトバンクさんも言ってましたが、すでにそんな時代が間近に迫っていると自覚してる人たちが出てきています。しかし、AIがすごい力を持ったとしても、人間の知恵とモラルによって制御できる。私は学校教育の学びのレベルにおいて、生成AIは子どもたちの個性を邪魔せず支援してくれるものになり得る可能性があると感じています」
小﨑先生は、生成AIが持つ潜在的な役割とそのリスクについて改めて認識すると共に、人間の根本である倫理観をもって正しく活用することで、生成AIが教育も支援してくれる強力なサポーターとなる未来が描けると語りました。
ゾンビ業務を残さない
新保先生も「正しく使う」という前提に共感を示しながら、教育現場においてもトライ&エラーをやっていくべきだと続けます。
新保先生:「現状、学校での利用はほとんどありませんが、今後は日本の人口減少と人手不足という大きな壁を乗り越えるために、必ず生成AIの力を借りなければなりません。小﨑先生がおっしゃる通り、実際に使ってみてその機能や限界を理解し、どのように教育に生かすかを考えることが必要です。そうした中で、ハルシネーション※2という課題が出てきます。生成AIを使う先生たちを見ていると、生成AIが回答したことを神のお告げのように語る人もいて、非常に危険だと感じる場面があります。私も一回パッと出てきた回答に『これは本当ですか?』と生成AIに聞き直すと、『失礼しました』と返された経験が何度もありますよ。
AIは誤った情報を生成するリスクがあって、見破るにはそれなりの教養や経験値がないと難しい。ちゃんと使っていくためには実際に自分で使いながら訓練していくことが大事です」
オンラインでの対談の様子
オンラインでの対談の様子
また、校務への生成AI活用という点では心配している事象があると語ります。
新保先生:「前段でもデジタルの校務活用拡大についてお話ししました。生成AIも同じように、授業に関することでなく校務へ適用していくことで業務の効率化を図ることができます。
しかし注意したいのが、『ゾンビ業務』を残さないという点です。『ゾンビ業務』というのは、生成AIによって本来学校がやる必要のない、削減すべき業務が残ってしまうことを指します。『この仕事大変だから生成AIにやらせよう、あらできた、じゃあ生成AIに任せよう』となるのではなく、そもそもやらなくていい仕事であれば、やめればいいという簡単な話です。無駄を残すようなことに生成AIを使ってはいけないというのが大事なポイントかなと思います」
AIは人を原点に戻してくれる
小﨑先生:「使うことで学んで情報を見極める、つまり情報活用能力を養うという点で一つエピソードを話すと、この前子どもたちから国語辞典に書いてあることについて『先生、これ信用していいんですか?』って聞かれたことがありました。見る人によってはそこまで考えるわけです。あまり批判的思考や不信感の塊になりすぎても良くないとは思いますが、こうした考えは良い傾向で、新保先生が言った『本当にやるべきことなのか』と立ち返ることも大事なんです。
人は食べていくために仕事をしているのに、仕事のせいで食べる時間がないといった本末転倒なことが世の中でたくさん起きています。AIに任せられるところは任せて、人としてより良く生きていこうという世界へ挑戦できると私は捉えています」
AIは、人間を原点に揺り戻してくれるチャンスだと小﨑先生は語りました。
ソフトバンクへの期待と今後の展望
デジタル化やAIの社会実装が、学校教育のあらゆる側面で変化をもたらしている中、ソフトバンクとしてどのようなサポートができるのか、改めてお二人に私たちに期待することをお聞きしました。
小﨑先生:「社会課題を解決したいというソフトバンクさんの目指すところは、まさにストライクで我々と一致してます。『令和の日本型学校教育』として、これまでの日本の教育方法や文化を生かしてさらに発展させていこうというときに、同じ方向性であることは非常に頼もしいですし、一緒に大きな役割を果たしていただきたいと思ってます。
足元では、学校の通信ネットワーク環境整備が追いついておらず学び以前につまずいているところがあるので、社会インフラを担う企業として安心・安全な通信環境を提供していただくというところに期待したいです」
新保先生:「学校教育は安定しているという良さがあります。ただ、安定は大事なことですが、やはり時代に合わせて変化させていくことが求められています。新しい時代を切り開く、そういった意味の海援隊のロゴを掲げるソフトバンクさんにこれからも旗を振ってもらい、さまざまな取り組みを支援してほしいと思っています。
何より、これまでのソフトバンクさんとの取り組みを通じて、私たち学校関係者への熱いリスペクトを感じています。『変えていこう』という意気込みとこれまでの教育に対するリスペクトを土台に、新たなことに一緒にチャレンジさせてほしいと思っています」
GIGAスクール構想が始まったこの数年の加速度は目覚ましく、教育現場一人ひとりの努力とイノベーションが、次世代の教育を支える原動力になっています。その活動を支える役割として、私たち通信事業者ができることを改めて考えさせられる対談となりました。
第5回GIGAスクールサミットでは、奮闘される先生方の実践発表や視聴者からのリアルな声に回答するパートなど盛りだくさんの内容が詰め込まれています。アーカイブ動画をご用意しておりますので、ぜひご覧ください。