行政の独自データを生成AIで活用 ~日向市モデル「Hyuga_AI」の挑戦~
2025年2月10日掲載
自治体における生成AI活用の最前線として、宮崎県日向市が昨年から開始した「Hyuga_AIプロジェクト」。本プロジェクトで生み出された「Hyuga_AI」は、例規集・議会議事録などの独自データ学習と、独自ネットワークを構築する自治体特化型の生成AIモデルとなっています。今回は日向市総合政策部行政改革・デジタル推進課の寺尾課長に「Hyuga_AIプロジェクト」についてご講演いただきました。
本記事は「Hyuga_AIプロジェクト」実施の経緯に加えて、Hyuga_AIのモデル紹介や導入に伴う課題と解決策、また、具体的活用事例や今後の展望について講演の模様を記事化したものです。
人口減少・少子高齢化に立ち向かう日向市、生成AI導入の背景
自治体における生成AIの活用は急速に広がりつつあります。総務省資料「自治体における生成AI導入状況」によると、2023年12月時点で、都道府県の51.1%、政令指定都市の40.0%がすでに生成AIを導入しており、その他の市区町村でも9.4%が導入を完了しています。導入済みの自治体では、あいさつ文案の作成、議事録の要約、企画書案の作成などの業務で生成AIが活用される一方で、AIによる生成物の正確性への懸念や、導入効果の不明確さ、人材不足などが課題として挙げられています。
このような状況の中、日向市は生成AI活用の先進的な取り組みを行っており、導入に至った経緯について、寺尾氏は次のように語ります。
寺尾氏:「日向市もほかの自治体様と同様、人口減少や少子高齢化が進む中では、今後デジタル活用による業務効率化が急務です。ただ、日向市の規模では、内製での実現は難しいのが現状です。そこで、縁あってソフトバンクとDX推進に係る包括連携協定を昨年締結いたしました。
そのような状況において、Azure OpenAI Serviceのリリース情報をキャッチしたことから、AIの導入や活用に向けて動き始めました。サービスの選定においては、会議録や例規集・業務マニュアルなどの庁内データの活用と、閉域環境での適切なデータ保護を最重要視し、ソフトバンクと協議を重ねながら当サービスの導入を決定しました」
「Hyuga_AI」が実装した生成AIモデル
PoCは2023年12月から利用職員数を徐々に増やしながら二段階に分けて実施しました。その結果、日向市では2024年7月に全庁での利用展開が実現し、現在は約680名の職員にアカウントを付与しています。進め方のステップ1として「庁内の業務改善」、将来的にはステップ2として「市民サービスの向上」に生成AIを活用するべく取り組みを進めています。
寺尾氏は最初に、「Hyuga_AI」で実装している生成AIのモデルや機能などの仕様の詳細を語りました。
寺尾氏:「利用する生成AIモデルについて、2023年12月のPoC開始時にはGPT4(32k)およびGPT3.5(16k)を使用していました。それから約1年が経過する中で最新モデルを実装しながら、現在は、GPT-4o、o1-mini、o1-previewを使用しています。
機能としては、Code InterpreterやFile Searchによるファイルの取り込み、さらにDALL-E3を用いた画像生成も導入しています。
なお、プラグイン機能については、現在約5,700ファイルにおよぶ庁内データをコンテナに保存し活用しています」
コンテナに保存するデータについては、共通利用できるデータや各部局での利用に限るものなど、利用実態に合わせて閲覧権限を分けており、講演では生成の際に利用している具体的なデータの例を示しながら説明しました。
試行錯誤の連続、「Hyuga_AI」の改善の軌跡
一方で、PoCを始めてから現在に至るまで、さまざまな不具合や障害など、思惑通りにいかない事態が多々発生したと寺尾氏は語ります。
寺尾氏:「まず第1次PoCの初期段階では、コンテナに保存された庁内データから『最適な文書が検索されない』『議員名を認識できない』『適切な期間を特定できない』『会話履歴が引き継がれない』など、さまざまな問題が発生しました。
これらの問題について、プロンプトが原因なのか、RAG※が原因なのかといったさまざまな角度から検証を行い、継続的な改善に取り組みました。また、新しい生成AIモデルを採用することで、初期仕様では解決できなかった問題も改善されました。
継続的な改善のために、PoC期間中に「Hyuga_AI庁内プロジェクトチーム」を結成し、各部局から選抜されたメンバー16名で毎週検証を重ねてきました。そして、ソフトバンクや開発ベンダーとの週次のミーティングにおいて検証内容を共有し、改善を進めてきました。このミーティングは現在も続いています」
「Hyuga_AI」導入の効果
こうした改善を経て、「Hyuga_AI」が全庁展開されました。導入前に全職員を対象に実施した生成AIの業務活用に関するアンケートでは、「効果があれば活用したい」と考えている職員が約70%おり、生成AIの認識度が低い中、その効果に懐疑的な職員も多い状況でした。しかし、その後のアンケート結果について、寺尾氏は次のように語りました。
寺尾氏:「第1次PoCが終了したタイミングで、PoCに参加した100名の職員にアンケートをとったところ、『業務効率化できた』と回答した人が約80%となりました。さらに、『利用を継続していきたい』と回答した人は95%に上り、多くの職員から利用継続に前向きな回答を得ることができました。
また同じアンケートの中で業務効率化について尋ねたところ、1日5分以上の業務効率・短縮効果があったという方が64%を占めていました。
アンケート結果を平均すると1日あたり17.19分の改善という結果が第1次PoC終了時点で得られました。導入時点において1日20分を目標にしていたので、このまま取り組みを進めていけば目標の達成も可能であると考えています」
日向市では、「Hyuga_AI」のダッシュボードで職員の利用状況を常時把握しており、部署別に勉強会を開くなど活用促進に向けた継続的な取り組みも行っています。
「Hyuga_AI」を用いたデモンストレーション
最後に「Hyuga_AI」を使ったいくつかの事例が紹介されました。その一例として、一般質問の答弁を想定して「日向市のワーケーション事業の今後の展望について」という質問が出た場合を例に、寺尾氏の解説が次のように続きます。
寺尾氏:「庁内データを取り込んでいないGPT-4oで生成させた場合には、『具体的には、市内の観光施設や宿泊施設との連携を強化し、ワーケーションプランの提供を促進してまいりました』といった一般的な回答が返ってきますが、本市の具体的な取り組み内容は回答されていません。
一方で、『Hyuga_AI』で『ChatGPT-4o+議会議事録プラグイン』を選択し、同じプロンプトを入力すると、『令和2年度からワーケーション事業に取り組み、これまでの3年間に延べ1,100名の参加者を受入れ…、サーフタウン日向としてのブランド生かし…』といった本市の具体的な取り組みや特徴を踏まえた回答を生成することが可能です。
これまで、答弁作成において職員が全て考えていた部分の業務を相当軽減できています。また、ほかにも多くの良好な反応もいただけています」
講演の中では「Hyuga_AI」を利用したデモンストレーションが行われ、実際に搭載されているプロンプトテンプレートの紹介、職員の利用状況ダッシュボードなどが投影されました。
まとめ
本記事でご紹介した以外にも、市の独自データファイルの格納に関する詳細説明やデモンストレーションの続きなど、日向市で活用されている「Hyuga_AI」のさまざまな取り組みは、これから各自治体での生成AI活用を進める上で必見の情報です。ぜひ、以下のリンクから講演をご覧ください。
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本ブログでご紹介した日向市の講演は以下よりご覧いただけます。
> AIで自治体業務の未来を拓く ~日向市「Hyuga_AIモデル」に込めた期待と自治体変革の可能性~
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生成AI(ジェネレーティブAI)
生成AI(ジェネレーティブAI)は、コンピュータが学習したデータを元に、新しいデータや情報をアウトプットする技術です。これまで人間が実施していた「考える」や「計画する」をAIが実行し、アイディアやコンテンツを生み出します。 性の向上を実現します。