データベースのクラウド移行を阻む要因と解決策を解説

2025年4月16日掲載

データベースのクラウド移行を阻む要因と解決策を解説

近年、クラウド化の波はあらゆる業種・業界に広がっています。IaaS、PaaS、SaaSなど多様な形態でクラウドサービスが登場し、多くの企業が基幹業務や業務アプリケーションのクラウド化に取り組んでいます。しかしその一方で、なぜか最後までクラウドに移行されない存在があることをご存じでしょうか? それが「データベース(DB)」です。特に基幹システムや古いアプリケーションと結びついたデータベースはオンプレミス環境に取り残され、いわゆる「塩漬け状態」になってしまうこともしばしば。

多くの企業では、業務の中心に据えられているデータベースがオンプレミス(自社保有のサーバ)に残り続けており、周辺のアプリケーションが先にクラウド化される「部分最適」のような状態に陥っています。特にレガシーシステムや基幹業務システムにおいては、「塩漬け」とも言えるほど、長期間クラウドに移されないまま残されているデータベースも存在します。

本記事では、なぜデータベースはクラウドに移行されないのか?という疑問を出発点に、その背景にある技術的・組織的な課題を紐解いていきます。そして、塩漬けになりやすいアプリケーションやシステムの特徴、実際の事例、さらには解決の糸口についても掘り下げて解説していきます。クラウド移行が進まずお悩みの方、自社システムの現状を見直したい方に向けて、実践的なヒントをお届けします。

目次

記事執筆者のご紹介

ソフトバンク 陳 欣盈

陳 欣盈

ソフトバンク株式会社
法人統括 AIプラットフォーム開発本部 クラウド開発第2統括部 クラウド技術企画推進部

クラウドサービス領域でGTM戦略、営業推進、マーケティング施策を幅広く担当。AWS、Microsoft Azure、Google Cloud、 Alibaba Cloud、 ASPIRE、OnePort、dailyAIなどのクラウドサービスに携わり、現在はOracle Cloud Infrastructure(OCI)を担当。

クラウド移行が進む中、なぜデータベースは残されるのか?

クラウド移行は、コスト削減、可用性の向上、スケーラビリティの確保、そしてBCP(事業継続計画)の観点からも非常に有効な手段です。にもかかわらずデータベースでは、以下のようなことが多く見られます。

これらの背景には、単に「技術的に移行が難しい」という理由だけではなく、さまざまな要因が絡み合っています。企業にとってデータベースとは、単なるシステムの一部ではなく長年積み上げてきた業務ノウハウやトランザクションデータの塊であり、移行に失敗することは業務停止などの事業リスクに直結します。

結果として、企業はリスクを避ける形で「現状維持」を選択しがちになり、データベースのクラウド移行が後回しにされるという状況が続いているのです。

データベース移行のハードルとは

では、データベースのクラウド移行を阻む要因とは何なのでしょうか? 以下に4つの代表的な観点から解説します。

1. 技術的課題

データベースの移行は、単なるサーバーのコピーでは済みません。以下のような技術的課題が存在します。

これらの問題を解決するには、技術的知識とリソース、そして慎重な計画が必要です。

2. コスト面の制約

クラウド移行によってコスト削減できるケースは多いですが、移行初期には以下のような一定の費用がかかり、ボトルネックになりがちです。

オンプレですでに償却済みの資産がある場合、「今さら移行するよりも使い続けた方が安い」と判断され、クラウド移行が棚上げされることも多くあります。

3. 法規制、コンプライアンスの壁

特定の業界や業種では、データの保存場所に厳しい規制があります。以下のようなケースが代表的です。

これらの法規制を考慮し、クラウド事業者の対応状況や運用ルールを整備しなければならず、プロジェクトが複雑化します。

4. 組織とリソース問題

最後に、見逃されがちですが非常に大きな要因となるのが「組織的な抵抗」と「人材リソースの不足」です。

特に少数のシステム担当者で運用している場合には、新しい技術に取り組む余力が不足しているケースも見られます。

「塩漬け」されるアプリケーションとシステムの特徴

データベースがクラウドに移行されないまま残り続ける背景には、接続されているアプリケーションやシステムの性質も深く関係しています。ここでは、特に「塩漬け」になりやすいアプリケーション・システムの特徴を整理してみましょう。

1.レガシーアプリケーションの問題点

企業が長年にわたり使用してきたレガシーシステムは、独自のビジネスルールや運用フローに最適化されており、設計書が残っていなかったり、開発者が退職していることも多いです。こうした「ブラックボックス化」したアプリケーションは、移行対象として扱いにくく、手を付けられずにそのまま残されがちです。

また、特定のOSや古いバージョンでしか動かないといった制約も多く、クラウド環境では再現できない、あるいは再設計が必要になる場合もあります。

2. 商用パッケージ(ERP、業務システム)に多いケース

ERP(統合業務システム)や販売管理、会計ソフトなどの商用パッケージ製品は、データベース設計や操作仕様がベンダーに依存しており、自由に移行・改修することが困難です。また、サポート期限やバージョンアップに追従している限り、無理に移行するメリットが見いだせず、長期間オンプレで稼働し続けることになります。

ベンダーのクラウド対応が不十分だったり、クラウド化には別途ライセンス契約が必要というケースもあり、結果として「移せない」のではなく「移さない」選択が取られてしまいます。

3. 移行のROIが見えないケース

特に問題なく稼働しているシステムの場合、移行にかかる工数とコストに対して、明確なメリット(ROI:投資対効果)が見えないことがあります。「今すぐやらなくてもいい」「動いているものはそのままで」と判断されると、優先順位が下がり、半ば放置されてしまいます。

こうして、移行対象の棚卸のたびにリストには載るものの、毎年「今年も様子見」となる――これが、塩漬け状態を生み出す典型的なパターンです。

実際にあった「塩漬け」事例紹介

ここでは、実際に「クラウド移行が進まない」事例を、業界ごとに紹介します。

金融業界の勘定系システム

勘定系システムは、金融機関の心臓部とも言えるシステムであり、取引記録や残高管理など非常に高い信頼性と安定性が求められます。こうしたシステムは長年の運用実績を重ねたオンプレミス環境に構築されており、クラウド化には慎重にならざるを得ません。

また、クラウド環境でのトランザクション処理性能の担保や、金融庁のガイドラインへの準拠といった課題も多く、移行の実現性と安全性を天秤にかけた結果、現状維持が選ばれるケースが多いのです。

製造業の生産管理システム

製造業では、生産管理や設備管理などのシステムが自社業務に合わせて強くカスタマイズされており、その多くはオンプレミスで稼働しています。特に、工場の制御系システムと接続している場合、ネットワークの遅延や障害が致命的になる可能性があるため、クラウド移行に消極的な傾向があります。

このように、「止まってはいけない」現場においてはオンプレミスの安定性が最優先されるため、クラウド化が後回しにされるのです。

公共機関の住民情報管理システム

地方自治体や公共機関におけるシステムは、個人情報の取り扱いや法規制に対して非常に厳格な対応が求められます。クラウド導入に対しては、物理的なデータ保管場所(国内かどうか)や運用者の管理体制が重視され、外部クラウドに預けること自体に強い抵抗感があります。

こうした状況もあり、自治体の中にはいまだにメインフレームを使い続けているところもあります。クラウド活用が進む民間企業とのギャップが顕著な領域と言えるでしょう。

塩漬けのままで本当にいいのか?

塩漬け状態のシステムは「現状維持」ではありますが、放置すればするほどリスクとコストが増加していきます。

1. 保守・運用コストの増加

古いシステムやOS、データベースはサポート期限切れとなり、保守費用が高騰します。さらに、古い機材の交換部品が手に入らない、あるいは専門知識を持つ技術者が減っていることから、突発的な障害対応にも時間と費用がかかるようになります。

2. セキュリティリスク

サポートが終了したソフトウェアにはセキュリティパッチが提供されず、脆弱性を放置することになります。特にデータベースは重要な情報の宝庫であり、サイバー攻撃の標的となりやすい領域です。古い環境をそのまま使い続けることは、情報漏洩やサービス停止といった重大なリスクを招きかねません。

3. 人材不足による技術継承問題

オンプレミスの古いシステムに精通した人材は年々減少しており、エンジニアはクラウドネイティブ技術にシフトしています。現行システムの仕組みを理解できる人が社内からいなくなると、トラブル時の対応が困難になり、システムの持続性そのものが危ぶまれるようになります。

解決の糸口:クラウドに移せるケースを見極めるには

全てのデータベースをクラウド移行するべきとは限りませんが、「移せるものは移す」という判断も必要です。近年では多様な移行手法やクラウド基盤の選択肢が登場しており、状況に応じた対応が可能になっています。

1. ハイブリッドクラウド/データベースの仮想化

オンプレミスとクラウドを連携させたハイブリッド構成により、リスクを抑えながら段階的な移行が可能です。また、データベースの仮想化やリモート接続により、物理的な制約を超えて柔軟に運用できるケースも増えています。

2. リファクタリング/リホスティングの選択

アプリケーションを完全に作り直す「リファクタリング」ではなく、既存の構成を大きく変えずに移行する「リホスティング(リフト&シフト)」という手法も有効です。例えば、仮想サーバにOSごと移すことで、アプリとデータベースを最小限の手間でクラウド環境に移すことができます。

3. ソブリンクラウドという選択肢

データの主権やガバナンスが重視される分野では、「国産クラウド」「ソブリンクラウド」といった選択肢も注目されています。これにより、国内でのデータ保管や、法規制への対応を確保しつつ、安全なクラウド移行を進めることが可能になります。

まとめと今後の展望

クラウド移行が加速する中、データベースの存在は企業のクラウド戦略における最後の砦とも言える重要なテーマです。技術的・組織的なハードル、法規制、コストなどさまざまな事情により、データベースだけがオンプレに残されるというケースは少なくありません。

しかし、塩漬けにされたシステムを放置していては、コストの増大、セキュリティリスク、人材継承の問題など、将来的なリスクが高まる一方です。今こそ、自社のIT資産を棚卸しし、どのデータベースが「移せるか」「移すべきか」を見極めるタイミングに来ています。

クラウド基盤の多様化、移行支援ツールの進化、ソブリンクラウドの登場といった追い風もあります。状況に合わせて適切な選択をすることで、データベースも安全かつ着実にクラウド移行させることができるでしょう。

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