小売業のシフト管理が複雑化。属人化から脱却する“仕組み化”を解説
2025年8月4日掲載
近年、小売業界では店舗の運営形態が大きく変化しています。ドラッグストアで生鮮食品が扱われたり、スーパーが小型店舗を展開しコンビニのような役割を担うなど、従来の業態ごとの区分が曖昧になりつつあります。この変化に伴い、現場の業務内容は多様化し、従来の「感覚的な人員配置」では通用しない時代に突入しています。本記事では、小売業界のシフト課題に最適な解決策を提案するクロスビット社の河合氏の監修の下、現代の小売業のシフト管理の複雑さを深堀し、その解決策をご紹介します。
複雑化する小売業の形態
近年小売業界は、従来の業態別の役割や営業形態が大きく変わりつつあります。背景には、消費者ニーズの変化や高齢化や過疎化、地域密着ニーズ、さらには慢性的な人手不足など、複数の社会的要因が重なっています。
ドラッグストアで生鮮食品を扱ったり、スーパーが夜間営業や小型化を進めるなど、店舗が担う機能が大きく広がり、「業態」の境界が曖昧になっています。このような動きは、ただ商品や営業時間が変わるだけでなく、店舗に必要な人材構成や業務内容の設計にも直結する大きな変化と言えます。スーパーマーケットひとつに注目しても、大型店と小型店で人員配置に大きな特徴の違いがあります。
大型店の特徴
大型のスーパーマーケットでは、売り場面積が広く、レジ業務、商品管理、惣菜の調理・販売、生鮮食品売り場担当など、部門ごとに役割が細分化されています。それぞれの業務に専門的なスキルが求められるため、各部門の業務量やピーク時間帯に応じて、適切な人員を配置する必要があります。人員を多く配置しすぎても、時間帯によってはスタッフが暇を持て余してしまうなど、非効率な状態が発生しやすいのも現実です。リアルタイムで現場の状況を把握することは難しいため、15分単位でやることを細かく決めて運用している店舗も存在します。
小型店の特徴
一方、小型店では少人数で店舗全体の業務をカバーする必要があり、レジ、接客、品出し、などを横断的にこなす「マルチタスク型」の人材が求められます。業務の切り分けが難しいため、大型店のように細かくシフトを区切ることはありませんが、パートで働いている人も多いので、急な欠員や繁忙時には近隣店舗から応援を手配する必要が出てきます。そのため小型店の人員配置においては、他店舗間を調整するコミュニケーション能力も重要なスキルとされます。
このように、大型店・小型店、それぞれの状況に応じた最適な人員配置とシフト設計が不可欠ですが、実際のシフト管理の運用では多くが管理者の経験やスキルに強く依存しており、調整にかかる時間も膨大で、現場にとっては大きな負担となっているのが実情です。
複雑な現場に追いつかないシフト運用の現実
小売現場の業務は複雑化し、人員配置にも高度な判断が求められるようになっています。しかし、実際のシフト設計の現場は、旧来の属人的な運用から脱却できていないケースが多く見られます。実際、シフト作成業務の 7割以上 がいまだに 紙やExcelによって行われている という調査結果もあり、依然としてアナログな運用が主流です。見た目には整っていても、色分けや数値入力による管理は再現性やスキル伝承に乏しく、業務全体の可視化とはほど遠い状況といえます。
月30時間以上がシフト作成に費やされているという企業もあり、優秀な店長・マネージャークラスの時間が日々の事務作業に奪われているというのも実情です。また、Excelでは計画は立てられても、結果の検証や改善といった「PDCA」の工程につなげづらいという課題もあります。
業務に基づいたシフト設計である「LSP(Labor Scheduling Program)※」という概念も存在しますが、取り入れてから数年経っても期待した成果がでず、理想と実務のギャップが浮き彫りになるという声も存在します。
※店舗運営などにおいて必要な業務量に対し、適切な人員構成を設計するためのプロセスや手法を指す
ユースケースに学ぶシフト改革~既存の仕組みを見直す
小売業界の現場は、業態の多様化とシフト管理の属人的な運用という二重の課題に直面しています。ここでは、シフト改革のユースケースをご紹介します。
地方の大手スーパーマーケットでは、アプリケーションを通じてシフト希望の提出や回収、シフトの共有が行えるクラウド型のシフト管理ツールを導入し、従来月30時間以上かかっていたシフト作成業務を、2〜3時間程度にまで短縮することに成功しました。実はこの取り組みの本質は、ツールの導入による業務時間短縮のみならず、業務設計そのものを見直したことにあります。
具体的には、人員配置や業務進捗の可視化により、人件費の過不足を定量的に把握できるようになり、「誰が・いつ・何を担当するのか」の判断が精緻化されました。さらに、現場を熟知し、改善に前向きな店長がプロジェクトをリードしたことにより、組織全体での定着と効果の拡大につながりました。
シフト管理業務は、単なる業務調整にとどまらず、人材を生かし育てるきっかけにもなり得る重要な業務です。特に小売業界の現場では、この業務を習得することでスキルが評価され、役職や責任範囲の広がりといったキャリアステップにつながるケースもあります。このように、シフト管理のデジタル化は、人材育成・現場改革・経営改善へと波及する変化の起点となり得ます。成功の鍵は、ツールを導入すること自体ではなく、「仕組みを見直す」という視点にあると言えるでしょう。
シフト管理を“経営の武器”に
現在の小売業界では、従来の「この時間帯には何人いれば良い」といった感覚的な人員配置では対応しきれず、“業務内容と時間帯に即した最適な配置”への転換が求められています。その実現には、属人的な運用を脱し、業務の流れを見える化した上で、仕組みとして最適な配置を組み立てることが不可欠です。
その鍵となるのが、シフト管理のデジタル化 です。これにより、従来マンパワーに頼っていた業務が効率化されるだけでなく、適切な人員配置が可能になり、サービス品質や顧客満足度の向上につながります。また、ムリ・ムダのない配置は、従業員の働きやすさや納得感にも寄与し、職場の活性化や定着率の改善にも効果を発揮します。
変化の激しい時代において、こうした仕組みの整備は、持続可能な店舗運営を実現する第一歩です。今こそ、現場の運用を見直してみてはいかがでしょうか。
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