“攻めと守りのDX” ― 矢崎総業が描く変革の最前線
2026年1月16日掲載
自動車部品の世界的メーカーとして知られる矢崎総業株式会社。同社のAI・デジタル室は、社内改革と新規事業開発を両軸に、企業の変革を推進する重要な部門です。経営コンサルタントから転身し、現在この部門を牽引する砂岡孝則氏は、“攻めのDX”と“守りのDX”を両立させながら、変化を恐れず挑戦を続けています。この記事では、FM AICHIで2025年10月29日(水)に放送された「TOKAI リーダーズ・コンパス」におけるインタビューをもとに、彼らがどのように“変革の最前線への挑戦”へ挑んでいるのか。そのリアルなストーリーをお届けします。
TOKAIリーダーズ・コンパス
FM AICHIで放送中(2026年1月現在)の『TOKAIリーダーズ・コンパス』はソフトバンクが提供するラジオ番組です。日本のモノづくりの中心地である愛知県・東海エリアで「イノベーションに挑む企業」のキーパーソンに、挑戦へのストーリーをうかがっています。
放送局:FM AICHI(株式会社エフエム愛知 名古屋 FM80.7MHz / 豊橋 81.3MHz)
放送時間:毎週水曜 20:00~20:30
出演者紹介
ゲストのご紹介
大野:FM AICHIをお聴きの皆さん、こんばんは。 大野泰敬です。
渡邊:FM AICHIパーソナリティ渡邊晶子です。
大野:さて、今日お話をおうかがいするのは、矢崎総業株式会社AI・デジタル室 副室長の砂岡孝則さんにお越しいただいております。よろしくお願いいたします。
砂岡:よろしくお願いいたします。
渡邊:よろしくお願いいたします。
大野:矢崎総業さんがどういう会社で、どういうことをやっているのかご存じですか?
渡邊:本当に大きな組織で、いろいろなことをやられている会社というか、グループだなという印象が強いです。
大野:自動車部品の製造カンパニーという印象が強いんですけれども、その中でAI・デジタル室というのが新しく設置されたんですね。
砂岡:そうですね。
大野:どういったミッションを担っている部署なんですか?
砂岡:AIとかデジタルを使って新規事業を立ち上げるということと、社内の改革によって競争力を上げるという、いわば攻めのDXと守りのDXの両方をやっていくという部門になります。
キャリアの転機、公認会計士からDXの道へ
大野:まさに変革の中心にいらっしゃると思うんですけれども、すごいご経歴だなと思いました。最初、公認会計士から入り、その後、経営コンサルタントを経て今の会社に入社されたんですね。元々は会計士やコンサルタントという外から見る立場から、あえてこの事業会社に飛び込もうと思った動機というのは何だったんですか?
砂岡:第三者として仕事をするということに、ちょっと物足りなさを感じてきたというのが一番ストレートな理由です。元は会計士として財務とか会計の分野でアドバイザー的な仕事をしていたんですけれども、それでは物足りなくなって、もうちょっと経営全般の改善に関わりたくて経営コンサルに入りました。ただ結局、経営コンサルだと最終的な成果にはコミットできなくて。一生懸命PowerPointで資料を作って経営者にプレゼンするということをやるんですけれども、あっち側に行きたいなと思うようになりました。コンサル経験者の事業会社転職あるあるのパターンですね。
大野:分かります。私は逆で、事業会社からコンサルになりましたが、お客さまに提案しながら、やっぱりもっと踏み込んでやりたいなという思いはありますね。
渡邊:お互い外から見ていたところに飛び込んだという感じなんですね。
大野:ある意味、公認会計士や経営コンサルタントというのは華やかなキャリアですよね。それに対して事業会社って結構地味なところも多いし、大変な部分もあるし、歴史が古いところだと新しいことにチャレンジするのも中々大変そうだなっていうイメージがあるんですけれども、あえてそこに飛び込んでみようって思われたんですか。
砂岡:そうですね。私自身、経営コンサルを極めたと言えるほどのキャリアではないんですけれども、自分の中である程度やりきったというのがあって。キャリアを捨てるつもりで、事業会社でやっていきたいと思ったのが5年前のことですね。
大野:でも、ふと考えてみたら、今までDXとか、新しいことをやっていない会社に入るということは、それだけ色々なことにチャレンジできる可能性があるということですよね。
砂岡:そうですね、まさにその通りで、会社が誕生した時点から、社内の色々な仕組みがデジタル化されていると思うので、IT企業にとってはDXという概念があまり存在しないんじゃないかなと思いました。ただ矢崎みたいな古い日本の製造業って、それこそDXという言葉がそのまま当てはまるんです。「X(Transformation)」しないとデジタルが使えないというところなので、そういう意味でデジタル化の伸びしろが大きい業界であり会社かなと思っています。
大野:このAI・デジタル室というのは、社長直轄になるんですか? 社長とか役員の方の直轄?
砂岡:そうですね、一つの本部機能という意味では社長直轄というのは間違っていないです。ただ、いわゆる世の中でいうDX本部というのとほぼ同じかなと思っています。どこかの事業部の紐付けとかではなくて、一つの独立した本部という意味では、社長直轄ですね。
新しい組織をつくる挑戦と人の力
大野:会社の中で新しいチームを作っていくって、結構大変なイメージなんですけれども、外部から招集した方でチームを構成されたんですか?
砂岡:結果的にそうなりましたね。最初は矢崎の社内でデジタルとかを担う人たちを集めて本部を立ち上げることになりましたが、集めた結果、そこまで集まらなかったんです。私が入社したときは、当時AI・デジタル室で12人目の社員だったんですね。そこからは外部から人材を集めて、コンサルとかSIerとかIT企業、AIベンチャー、そういったところから人材を集めました。
大野:私も過去に同じような立場にあって、新規事業の組織を作ろうとしたときがあったんですけれども、そういうので募集要項を出しても、まず採用・給与・評価の基準とか、人事制度の色々な面に壁があるじゃないですか。中々集まらなかったんですよね。そこはどうやって乗り越えられたんですか?
砂岡:まずは、独自の人事制度を認めていただいたというのがあります。後はダイレクトリクルーティングですね。人事部門経由ではなく、自分たちで直接口説きに行きます。今でもやっているんですけれども、エンジニアの面接はエンジニアがやらないと、やっぱり口説けないということですね。見極めること以上にアトラクトするっていうことが、やはり大事になります。
渡邊:それでいうとAI・デジタル室というのは、砂岡さんのような知識のある方、専門家を「こういうことを進めていきましょう」と集められたと思いますが、現場の人たちからの反発というか、摩擦というのは正直なところどうでしたか?
砂岡:矢崎はみんなお行儀がいいので、最初は言わないんですけれども、やっぱり「なんだこいつら」って感じだと思いますよ(笑)。
渡邊:随分ストレートな(笑)。
砂岡:ただ私はコンサル時代でも同じようなことを経験していて、例えば本社部門の役員の方から仕事を受けて、事業部の立て直しのコンサルとかに行くと、当然ですけれども歓迎されません。「ゆくゆく俺たちクビを切られるのかな」という反応があって、ロクな関係にならないんですけれども。そういうのも色々経験していたので、逆にそれが当たり前という感覚です。だからこそ泥臭く信頼関係を作るための努力は、全員がやっている感じですね。
大野:そういうときにどうやって感情を切り替えているんでしょうか。ほとんどの人は、結構打たれちゃったり飲まれちゃったりするとは思うんですけれども、そういうことに影響を受けずに推進するために、何か意識されていることはありますか?
砂岡:私自身は意識していることは特にないですが、割と感情の起伏がないんですよ。何を言われてもポケっとしていられる方で。これは自分の人生の過程で、何かのボタンが飛んでしまったのかもしれないんですけれども、逆に言えば、今の自分の強みであると思っています。ちょっとしたことでいちいち傷ついていたら、中々大きな仕事はできません。それは意識しているというよりも、経験上身に付いてきたことかもしれませんね。
大野:渡邊さん、そういうところはどうですか?
渡邊:私もだんだんなくなってきました、年とともに。
大野:やっぱり最前線で戦っている人たちってそうなっていくんですかね。
渡邊:どうなんですかね。感情の起伏があった方が豊かな人生かなとも思うんですが、ありすぎると参ってしまうというか、何もできなくなるようにも思います。
大野:分かります。私も新卒で会社へ入ったとき、いちいち感情に影響を受けていたら疲れてきちゃったんですよね。そういうのが面倒くさいなと思って、感情を切り離したら、すごく楽になったんですよね。そこからもう無双状態でしたけど(笑)。
渡邊:(笑)砂岡さんも今、大きく頷かれていますね。
“感情を超えて動く力”が生むDXの推進力
大野:矢崎総業へ入られて、色々なことをやられている中で、最大の功績は不採算事業の改革を進めてこられたかと思いますが、そこは具体的にどういうメスを入れていったんですか。
砂岡:不採算というと、ちょっと社内的に語弊があるかもしれないんですけれども、元々コンサル業界のときに何をやっていたかというと、あまり具体的には言えないんですが、投資ファンドの方々と一緒に会社を買収してバリューアップして事業から利益を回収し、投資を終了するということをひたすらやっていたんです。そういったバックグラウンドですので、矢崎に入ると、色々な事業部の業績が気になっちゃってですね。入社して最初3カ月ぐらいで思ったのは、矢崎ってどの事業部も製品もシェアが高いんですよ。お客さまからの評価が高くてシェアも高いのに、思ったほど利益が出てない事業部が結構ありました。私はコンサル業界にいたときは経営学を一生懸命勉強していたんですが、経営学の理論からするとおかしいわけなんです。これは何か理由があるなと思って分析をしていった結果、いくつかの本質的な理由や構造的に利益が出ない原因というのがある。そこに科学的にアプローチするという、前職でやっていたようなことをやっているだけなんですけどね。
大野:そのときの判断基準となるもの、いいものと悪いものを判断する基準があると思うんですけれども、何か意識されていることはありますか?
砂岡:思い込みを持たないこと、先入観を持たないこと、客観的であること。これは僕がコンサルの時代からやっていたことですね。あまり自分の直感とかは信じていなくて、競合とフラットに比較をした上で、何故うちの方が製品は強いのに、競合の方が利益が出ているんだろうという、本当にただファクトに基づく素朴な疑問というところですね。
大野:話が合うなあ(笑)。私の場合は最初は感情論だったんですよね。どちらかというと自分の思い込みとかだったんですけれども、コンサルの仕事とか、役員の方を説得するようなときに、感情論だけだとどうしてもダメで、客観的な数字分析が絶対に必要になるんですよね。それをやっていくうちに、感情はむしろどうでもいいんだなという、それよりもフラットな立場で全体を俯瞰(ふかん)して見られるかどうかということの方が絶対に大事だし、得てして直感というのは合っていないことの方が多いですね。
渡邊:砂岡さん、矢崎総業は創業一家の方たちもたくさんいらっしゃいますけど、その役員の方たちに対するプレゼンや、AIで新しいことを提案するというときに、意識されていることって何かありますか?
砂岡:創業家役員だからといって特別に意識していることはないですね。ただ社内に伝える、動かすという意味で言うと、創業家役員の力がやっぱり強いので、彼らにしっかりと認めていただければ、ほかの役員にも認めていただきやすいところはありますね。それはオーナー企業だとどこでもそうだと思いますが、約2兆6,000億円という売上規模の会社は、ほかの会社では中々ないところかなと思っていますね。
大野:後は自分の中の一つの判断基準として、財務成果を見られているということなんですけれども、この財務成果の測定とか管理みたいなものは、どうされているんですか。
砂岡:新規事業であれば分かりやすく事業計画上の利益ということですけれども、社内の改革においても、使った費用に対してどのように各事業部で利益貢献をしたかというのを、淡々と測定して可視化をするというだけですね。
大野:最初社内でそれをやっていこうというときに、先ほどのお話にもありましたけど、反発みたいなものはそんなになかったんですか?すぐ受け入れられたものなのか、それとも細かく説明して説得していったのか。
砂岡:それでいうと、これは矢崎だからというよりも、大きな事業会社だとどこもそうだと思うんですけれども、表立って反発はないんですよ。でも、一番の障害は無関心だと思っていて、話をしていると「たしかにその通りだね」と言いつつ動かないみたいなことがよくあることだと思っています。なのでボトムアップとトップダウンを両方で進めて現場の納得感というか、動いてもらうための腹落ち感と言いますか、それを泥臭くやっていくだけですね。トップダウンという意味では創業家役員がキーになりますし、ボトムアップという意味では、コンサル時代に培った「最初は嫌われて当たり前だ」というところから、なんとか現場で信頼を得て、手伝ってもらうということをひたすらやるだけですね。
大野:渡辺さんは、そういうところはどうされているんですか?
渡邊:私は一人親方なので、今のお話がすごく勉強になりました。トップダウンかボトムダウンかって、どちらか片方という印象が強かったんですけれども、両方の目線と、細やかな説明というところで成り立っていくんですね。
砂岡:そうですね。ボトムアップの話で言うと、役職者じゃない人からもしっかりと信頼を得るということですね。例えばどこかの事業部のデータを活用して新規事業を作るというときに、そのデータをもらうのが、まず大変なんです。データを出してもらうのに「ちょっと今忙しいんだけど」とか「このデータ何に使うの?」とか、機密情報なので、出さない言い訳はたくさんあるんです。出したところで、その人たちに何かメリットがあるのかというのもあります。でも個人的に担当者同士で信頼関係ができたら「あなたの頼みだったら聞いてあげるよ」と。「5時半にルーチンの仕事が終わったあと、やってあげるからさ」という、そういう細やかなことも結構大事です。それはコンサル時代からそうですね。
大野さんもよくご存知だと思いますが、コンサルの仕事で、例えば3カ月で成果を出すという上でも、現場の人へのヒアリングでいい話を聞けなかったら、その分だけ成果が出るのが遅れてしまいます。そこで必要なのは特別なスキルというよりも、泥臭い人間力みたいなところもありますね。そういう意味で言うと、大野さんみたいに朗らかでありつつも、感情を度外視して意思決定ができるというのはすごいなと思いますね。
大野:それは本当に生きていくために、何とか身に付いてきたという感じですかね。でも、すごく分かります。最初にクライアントになってくれた大手企業は、役員から入っていったんですよね。ところが現場へ行ったら、キックオフの会議でみんな何も用意してないし、何も話してくれないですよね。それは大変でしたね。でも、5時間かけてずっと話をして、説得してという。今すごい昔を思い出しました(笑)。
砂岡:最初は表立って反論もしてこないんですよね。多分それが一番やばいケースなんですけれども。で、裏ではボロクソに言われているというのがよくあるパターンですから(笑)。
渡邊:そろそろお時間となってしまいました。今日は矢崎総業株式会社AI・デジタル室 副室長の砂岡孝則さんにお話をうかがいました。
大野:それでは最後に、仕事ですとか、プライベートも含めて、道しるべとなっている言葉ですとか、座右の銘みたいなものはありますでしょうか。
砂岡:普段特別意識はしていませんけど、強いて言うと「プロ意識」は、自分が今まで大事にしてきたことかなと思いますね。
大野:「プロ意識」ですね。砂岡さん、本日はありがとうございました。
砂岡:ありがとうございました。
まとめ
砂岡さんのキャリアは、数字と論理の世界から“人と組織の変革”へと軸足を移した挑戦の連続でした。冷静な分析と、感情に流されない強さを持ちながらも、現場の人々と泥臭く向き合う姿勢。それこそが、矢崎総業のDXを前進させる原動力です。“攻め”と“守り”を両立させ、未来を見据えた変革を推し進める――その姿勢は、多くのリーダーにとって学びとなるはずです。
AIによる記事まとめ
FM AICHIのラジオ番組「TOKAIリーダーズ・コンパス」にて、矢崎総業株式会社の砂岡孝則氏が「攻めと守りのDX」を語りました。AI・デジタル室は、AIによる新規事業創出と経営改革を主導。戦略コンサルの知見を活かし収益課題のある事業を再編、独自の人事制度と地道な現場調整で組織の壁を打破しています。伝統的製造業がデジタルの伸びしろを生かし、成長を加速させる軌跡をうかがいます。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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