“現場に答えがある” ― 矢崎総業が描く地域共創の新規事業
2026年2月25日掲載
生活を支えるモノづくり企業として知られる矢崎総業株式会社。その中で、経営企画室 新規事業統括部にて統括部長を務める尾林健太郎さんが率いるチームは、介護・農業・リサイクルなど、従来の枠を超えた事業に挑戦しています。雇用を守るために始まった新規事業が、今では地域課題を解決し、産業の循環を生み出す存在に――。この記事では、FM AICHIで2025年11月19日(水)に放送された『TOKAI リーダーズ・コンパス』におけるインタビューをもとに、彼らがどのように“地域とともに歩む新規事業”に挑戦しているのか。そのリアルなストーリーをお届けします。
TOKAIリーダーズ・コンパス
FM AICHIで放送中(2026年2月現在)の『TOKAIリーダーズ・コンパス』はソフトバンクが提供するラジオ番組です。日本のモノづくりの中心地である愛知県・東海エリアで「イノベーションに挑む企業」のキーパーソンに、挑戦へのストーリーをうかがっています。
放送局:FM AICHI(株式会社エフエム愛知 名古屋 FM80.7MHz / 豊橋 81.3MHz)
放送時間:毎週水曜 20:00~20:30
出演者紹介
ゲストのご紹介
大野:FM AICHIをお聴きの皆さん、こんばんは。 大野泰敬です。
渡邊:FM AICHIパーソナリティ渡邊晶子です。
大野:さて、本日お話をおうかがいするのは、矢崎総業株式会社 経営企画室 新規事業統括部 統括部長の尾林 健太郎さんです。よろしくお願いいたします。
尾林:よろしくお願いいたします。
大野:矢崎総業というと車載機器のイメージが強いんですが、尾林さんの新規事業統括部はどういったことをメインにやられているんですか?
尾林:新規事業統括部は、2000年頃からスタートしておりまして、最初は介護、次に農業、そしてリサイクルというような形で進んでおります。
大野:今一番力を入れているのはどちらなんでしょうか。
尾林:スタート時の規模が大きく、職員さんと利用者さんという相手がいるお仕事ということで、介護が一番力を入れているものになるかと思います。
雇用を守るために始まった「介護事業」の原点
渡邊:新規事業を立ち上げますというときって、例えば矢崎総業さんだったら自動車部品からちょっと発展して「お隣の畑でも頑張ろう」というように立ち上げるイメージがあるのですが。
大野:なぜこの3つを始めることになったんですか。
尾林:2000年あたりのITバブルが弾けたとき、矢崎総業のお仕事がどんどん海外に出ていってしまったことで海外に工場をどんどん建てることになり、国内の子会社のお仕事がぐっと減ってしまったんです。自動車用のワイヤーハーネスというものは手作業によるものだったので、その作業にあたっていた方々の労働力が余ってしまう。片や、たまたま2000年に介護保険法の施行があって、介護事業が民間にも開放され始めました。介護もやっぱり人手が必要だということで、介護事業に取り組むべきなんじゃないかということになりました。その際、工場の閉鎖が決まっていた四国部品という会社があったんですが、工場を操業しながら、介護の資格も皆で取ろうということになりました。今まで働いていた人たちが、工場が閉じたあとも生活できるような基盤を作りつつ、四国部品に残ってくれてもいいし、他社で働いてもいいので、皆で資格を取って頑張ろうと、そんなところから始まったのが介護事業ですね。
大野:すごくいい話ですね。
渡邊:そういうところまでしっかりサポートをされるんですね。
大野:既存の営業力を生かすとか、既存のアセットをうまく使うということではなく、雇用している人たちの仕事を生み出し続ける、雇用を守っていくために事業を作っていったということですね。
尾林:そうですね。矢崎総業という会社自体の考え方が、本業を含めてそういう形なんです。自動車の工場もただ儲けるためというよりも、世界の中の貧困地域、労働する場所がないところに工場をドンと建てて、その地域の治安を良くすることなどを考えています。新規事業に限ってというわけではなくて、会社全体としてそういう考えなんだなというのは我々も感じています。
農業とお菓子づくり ― 地域に根ざす多角化の発想
大野:農業はどのタイミングでスタートされたんですか。
尾林:農業は介護の後、2005年ぐらいから順々に立ち上がっていきました。最盛期は青森、鳥取、熊本と福島、あとは新潟で肥料工場とかもやっていたんですが、事業的にうまくいかないものもございまして、今は青森で食品、あとは変わり種になるんですが、高知でお菓子作りというのもやっております。
渡邊:お菓子!
尾林:お菓子も作っているんです、実は。
大野:それは自分たちが作っている農作物をうまく使って、それを商品化するということなんですか?
尾林:いえ、それは工場のキッチンでスタートしているんです。高知県の田野町という3,000人くらいの小さな町で、地元の特産品を使ったお菓子作りコンテストみたいなのがあるんです。そこで優勝した商品があって、それで終わっちゃうのではなく商品化できないかなと考えて、工場のキッチンでみんなで作って、これはうまくできそうだなという感じで始まりました。工場が閉まった後に、介護部門だけではなくてお菓子作り部門というのが立ち上がって、これも5、6人の小さいところですけれども、田野町の道の駅のすぐ横で工房を持ってやっています。
大野:地域経済を支えるとか、何かを守っていくということをベースに新規事業ができているんですね。
尾林:そうですね、地域と一緒に地域の困りごとを解決する。それがお仕事になればいいなというところが原点なので「これをやると儲かるんじゃないか」という感じではなくて、困りごとを解決した先には必ず数字が付いてくるという、そういう考え方ですね。
大野:なるほど。最初から利益とかビジネスを追い求めるのではなく、困っていることを解決していけば、数字はあとからついてくるんじゃないかと。
尾林:そういうことですね。
大野:でも実際そうですよね。ある程度活動が広がっていけば、当初予定していたビジネスとは違うところでもマネタイズができるようになるというのは、すごくある気がしますね。
渡邊:たしかに広がりも生まれそうですし、応援したいなという気持ちが湧いてきますよね。
大野:そうですね。介護と農業と、後はリサイクル事業もされているということでしたが、これはどういうことをやられているんですか。
尾林:リサイクル事業は、岐阜の東白川村というところで紙リサイクルというのをやっております。これは印刷会社さんとコラボして始めたものなんですけれども、普通の郵便はがきや年賀状はカットした周りの部分を捨てていたんですが、それを細くして何か商品化できないかなというので、そこから発泡剤をみんなで考えて作っていったというのがスタートになります。
大野:段ボールとかに入っている緩衝材ですよね。それがはがきの端っこの部分でできているということですか。
尾林:そうですね、なので白いんです。
渡邊:スタジオにも今お持ちいただいているんですが、見た目からは分からないですね。
尾林:発泡スチロールとかだと化学物質100%で作るんですけれども、これは48%くらいがポリプロピレンで、あとは紙とコーンスターチです。
渡邊:半分以上が自然由来なんですね。
尾林:そうですね。
渡邊:今、大野さんに触り心地を確かめていただいていますが。
大野:紙とは思えないぐらいに、緩衝材として出来上がっています。
尾林:ふかふかです。
大野:すごいですね。これは最初から狙ってこれを作ったんですか。
尾林:これは当時集まった方々で、アイディアを持ち寄りました。一緒に検討した中に知識を持った先生もいらっしゃって、それをもとに皆で作り上げていきました。
大野:地域が抱えている課題というのは本当にたくさんあると思うんですけれども、新規事業をやるときに「ここだ」と見ているポイントというのは、どこにあるんですか?
尾林:2000年頃は「社員の雇用を守らないといけない」というところをしっかり見て、そのままずっと走り続けていたんですね。ただ、ここ何年か私が担当したときに、20年経って同じ意義でやっていていいのかという疑問が湧いたんです。その振り返りをしたときにふと地域を見ると、人が足りないんです。どこもかしこも人手不足だという状態に変わっていて、それなのに同じビジネスモデルで続けていったら「これは破綻するよ」というのがここ何年か気付きなんですね。そこで地域と話をする中で、やっぱり「人が」「人が」というところになっていて。今の困りごとというのは、地方であればあるほど労働力が足りないという結論に行き着いています。なので、次のビジネスの方向性というのは、ただやるのではなくて、それをどう解決しようかというところに舵を切ろうとして動いているというところです。
大野:地域に産業を作るとか、ビジネスを作れば人が集まってくるので、そういう場所作り、ビジネス作りというのを心がけられているということですね。すごいですね。こういうことを矢崎創業がやっているというのは知らなかったです。
尾林:こういった小さい事業もあるということは、あまり知られていないですね。
大野:こうした社会課題の解決や地域経済を支えていくというストーリーは、本当に非常に素晴らしいんですけれども、ビジネスとして考えたときに中々利益が上がらなかったりとか、スケールしなかったりということは社内でも指摘されると思うんです。そのときに例えばコストを削減しなきゃいけない、あるいは事業そのものも撤退しなきゃいけないという判断をするときがあると思うんですけれども、そのときはどういうふうに対応されていくんですか。
尾林:やはり単純にコストカットをしてしまうと、事業というのは身動きがとれなくなっちゃうんですね。必要なものにお金をかけるということもできなくなっちゃうので、ある程度コストカットは必要ですが、それ以上にというのは難しいなと。その中でやっぱり運営している各社のやる気というかモチベーションが非常に高くて、まだまだいけるぞという意気込みと今後の成長性、事業計画を見た中で、いけるところは継続していますし、やはりちょっともう無理だというところは撤退を進めざるを得ないということになりますね。どうしても、立ち上げたときの関係者の方々の意気込みはすごいんですが、次の社長さん、関係者に引き継がれて、3代目、4代目くらいになると、何でこんなに月次分析の赤字で怒られないといけないのかみたいな話で、モチベーションも下がっていっちゃうんですね。そういう会社もある一方で、もっと地域のために頑張ろうというような会社さんもあります。ですから、やはり地域の声を聞きながら進めていくというやり方です。
大野:関わった方とか、そこに従事されている方からすると「辞めないでくれ」という声もあると思うんです。私は結構、情が動いちゃうタイプではあるんですが、でも、そこは思い切り決断しなきゃいけないじゃないですか。そのときにぶれない軸としてあるものは何なんですか? 私だったら気持ちがぶれちゃいそうな気がするんですよね。
尾林:最初はうまくいかなかったです。涙涙(なみだなみだ)の撤退であったりだとか、お叱りをものすごく受けたりもするんですけれども、やっぱり何個も何個も進めていくと、何となく「みんなでどうしていきたいのか」が分かってくるので、しっかりと話し合うということですね。要は、社長、部長だけで「よし、閉めよう」ということではなくて、やっている人たちも含めて、みんなで「今こういう状況なので、今後どうしようか」「もっと盛り返すためにはみんなの力が必要です」と言いながら盛り返していくのか、現場の人たちも含めて「ちょっと難しいな」というところは閉めていくのか、という形で皆を巻き込んで合意形成していかないと、負担がかかってしまうというか、一部の人だけにグッときてしまうというのもありますので、その辺は注意しながら動いていますね。
渡邊:尾林さん矢崎総業に入られてから財務室でご勤務されていましたけれども、そのときと比べて今、現場にたくさん出られて、その判断をする軸だったり気持ちっていうものも変わってくるものですか?
尾林:やっぱり財務室だと、お金なんですよね。
渡邊:そうですよね。
尾林:数字だけなんですよね。しかも2兆円の企業の財務室で、億とかその下っていうと、誤差の範囲に入ってくるような数字なんです。兆の桁で売り上げを書いていると、100万、200万なんて小数第何位の四捨五入みたいな話になってくるので。でもやっぱり現場に行くと、そこに人がいて、みんな一生懸命働いて、汗水たらしてキラキラしているんですよ。だけど財務に入ると、それが小数点の四捨五入になってしまうという、この違いというのは大きく感じますね。
大野:そうですよね。大きい売り上げの会社であればあるほど、新規事業とかの売り上げって本当に誤差になってしまう。ただ、本当にそこに関わっている人は、情熱もそうだし、人生を賭けてやっている人たちというのがたくさんいるので、そこは確かに書類上だけでは見えない。
尾林:見えないんですよ。
大野:そこはやっぱり見るようになってから、考え方が変わったりしたんですか?
尾林:やっぱりこれも本当にドラマの世界ですよ。事件は会議室で起こっていると思っていた若い時代があったんですけれども、実際に現場に行って初めて、会議室ではなくて現場で全てが起こっているんですよね。本当に小さいことも積み上がっていくのは全て現場だし、現場のわずかな綻びが大きく数字に関わってくるんです。そうすると、何かあったときには現場にパッと見に行った方がすぐ分かるし、やっぱりパッと現場に行けるというのが大切かなと思っています。
地域とともに未来を描く ― “為せば成る”の精神
渡邊:さて、そろそろお時間となってしまいました。今日は矢崎総業株式会社 経営企画室 新規事業統括部 統括部長の尾林 健太郎さんにお話をうかがいました。
大野:では最後に、色々な活動をされてきたと思うんですが、道しるべとなった言葉、自分の人生の座右の銘としている言葉をお聞かせいただければと思います。
尾林:地味な言葉なんですけれども、上杉鷹山さんが言っている「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」というような言葉があるんですが、中学のときにずっと学校にそういう掲示があって、そのときからずっとその言葉が残っています。とにかく何でも自分でやってみようという気持ちを忘れないように頑張る、ということを自分の中で道しるべにしております。
大野:尾林さん、ありがとうございました。
尾林:ありがとうございました。
まとめ
尾林さんの言葉から伝わるのは、「人を中心にした経営」の温かさでした。数字では測れない現場の努力、地域への想いを軸に、矢崎総業は新しい価値を生み出しています。“為せば成る”という言葉の通り、一歩を踏み出す勇気が未来を動かす。この物語は、地域と企業がともに成長するためのヒントを教えてくれます。
AIによる記事まとめ
FM AICHIのラジオ番組『TOKAIリーダーズ・コンパス』より、矢崎総業が雇用維持を起点に介護・農業・リサイクルへ展開した経緯をお伝えします。ITバブル後の国内雇用減少に対し介護へ参入し、地域資源を活用した菓子製造や紙端材由来の緩衝材開発へ拡大しました。現場の声を基に事業判断を行う姿勢をお伝えします。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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TOKAIリーダーズ・コンパス
ソフトバンクが提供する東海地域で放送中のラジオ番組です。番組では、東海圏から未来を切り拓くリーダーたちを迎え、経営の舞台裏や挑戦へのストーリーをうかがいます。普段は聞けないキーパーソンの素顔やエピソードから、明日へのヒントが見つかる…そんな「羅針盤(コンパス)」のような番組です。