“未完成から始める”街づくり ― JR東海が挑む地域共創
2026年3月12日掲載
リニア中央新幹線神奈川県駅(仮称)が設置される神奈川県相模原市・橋本駅周辺ではまちづくりの新しい動きが始まっています。東海旅客鉄道株式会社(JR東海)が手掛ける「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」は、テクノロジーに“楽しさ(FUN)”を掛け合わせ、人と人、企業と地域がつながるイノベーション拠点です。今回の放送では、その仕掛け人である事業推進本部 課長代理の櫻井俊氏が、挑戦の裏側と、地域に根差した共創のリアルを語りました。この記事では、FM AICHIで2025年12月10日(水)に放送された 『TOKAI リーダーズ・コンパス』におけるインタビューをもとに、彼らがどのように“地域とともに未来を創る挑戦”へ挑んでいるのか。そのリアルなストーリーをお届けします。
TOKAIリーダーズ・コンパス
FM AICHIで放送中(2026年2月現在)の『TOKAIリーダーズ・コンパス』はソフトバンクが提供するラジオ番組です。日本のモノづくりの中心地である愛知県・東海エリアで「イノベーションに挑む企業」のキーパーソンに、挑戦へのストーリーをうかがっています。
放送局:FM AICHI(株式会社エフエム愛知 名古屋 FM80.7MHz / 豊橋 81.3MHz)
放送時間:毎週水曜 20:00~20:30
出演者紹介
新しい挑戦「FUN+TECH LABO」の誕生
大野: FM AICHIをお聴きの皆さん、こんばんは。大野泰敬です。
渡邊: FM AICHIパーソナリティ渡邊晶子です。
大野: さて、本日お話をうかがうのは、東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部 課長代理の櫻井俊さんです。よろしくお願いいたします。
櫻井: よろしくお願いいたします。
大野: この事業推進本部というのは、新規事業を作っていく部隊になりますか?
櫻井: そうですね、新規事業や駅ビル、ホテル、流通など、いわゆる鉄道以外のグループ事業を行っている部署になります。
大野: 結構、多岐にわたるんですね。
櫻井: そうですね。その中でも私は、まちづくりに関わる取り組みや、新規事業開発を担当しています。
大野: そうなんですね。そして今取り組まれているのが、リニア中央新幹線神奈川県駅が設置されるJR・京王電鉄橋本駅の近くに設置・運営されているイノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」ですね。
櫻井: はい。
大野: この「FUN+TECH LABO」は、どういう事業をされているんですか?
櫻井: 「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」というのは、テクノロジーに「楽しい(FUN)」を足すという意味を込めた造語です。リニアの駅周辺を軸にそのエリアの価値を高めたり、イノベーションを起こすことを目的にいろいろなコミュニティを作ったり、人を引き寄せる取り組みを進めています。神奈川県や相模原市からもお仕事をいただきながら推進している事業になります。
大野: 渡邊さん知っていましたか?
渡邊: 恥ずかしながら、今回のご出演に合わせてホームページを初めて拝見したのですが、すごく賑やかで可愛らしい印象を受けました。
大野: そうなんですよ。私はそういうイノベーション拠点があるというのは知っていたのですが、JR東海がやっているとは知らなかったんです。なので最初、「ぜひお話をお聞かせください」と言ったら、「なんで我々のことを見つけたのですか?」って(笑)。
櫻井: 少し自己肯定感が低すぎて(笑)。なんで見つかったのだろうと。
大野: どうやって見つけたのですか?って逆に聞かれるという。
渡邊: ちなみに大野さんはどのようにして取り組みを知ったのですか?
大野: 私はやはりイノベーションだとか、地域でそういった活動をしているものに興味関心があったので。まさかJR東海さんがやっているということは知らなくて、すごくびっくりしたんです。そもそも一番最初、やることになったきっかけというのは何だったんですか?
櫻井: 元々リニアの神奈川県駅が、神奈川県相模原市の橋本駅の目の前に設置される計画があります。私たちのチームは、その近くでまちづくりに関わっている部隊だったんです。その中でイノベーション拠点のようなオフィス開発をすると、地域の皆さんの役にも立ち、自分たちの事業収支にとってもいいのではないか、と半ば妄想のような構想を膨らませていました。そのタイミングで相模原市さんが「イノベーション創出促進拠点運営事業」という公募事業を出されたんです。
大野: なるほど。
櫻井: それで、今までイノベーション拠点など運営したこともないのに、「応募してみよう」と部内でなりまして。
大野: おお、それもすごいですね。
櫻井: そのときの上司が少し変わった人で(笑)、「櫻井はあの『Wedge』という雑誌に出向していたから、いろんな知り合いもいるし大丈夫だよ」と、よく分からない思い込みで応募して(笑)。部内でそうなってしまったらやるしかないので、まあ頑張りましょうということになって。それが本当に最初のきっかけですね。
大野: 要はやったことないのに、企画書を出してみたら通ってしまったということですよね?
櫻井: そうですね、もちろん自治体の公募事業なので正式なプレゼンがあり、審査会もありました。当時は審査会でかなり厳しいご指摘をいただき、「もう落ちたかな」と思いながら帰りましたがなんとか採択していただきました。そこから相模原市さんと契約を結び、その後は神奈川県さんともイノベーション創出促進にかかわる連携協力協定を結ぶなど、いろいろなことが転がるように進んでいき、今の状態にたどり着きました。
大野: 最初取れたときに「あ、やばい、取れちゃった」とはならなかったのですか?
櫻井: 大野さん鋭いですね。「この動き誰か止めてくれないかな」って正直思いましたね(笑)。やはり怖くて。
大野: そうですよね。
櫻井: 怖かったですね。
渡邊: それだけ社内的にも前例がない分野と言いますか、挑戦だったということですよね。
櫻井: そうですね。地域の方と連携をして、駅周辺の価値を高めること自体に反対する人は社内にはもちろんいません。ただ、それを自治体の皆さんから事業として受託するというのは、グループ会社の中では例があると思いますが、当社ではほとんどなかったと思います。
大野: そうですよね。街づくりで参画する場合、ビルを建ててテナントに入っていただき、それをどう誘致するのか、というのはなんとなくイメージが湧くのですが、イノベーション拠点を運営するというのは、初めてなんですかね?
櫻井: 初めてですね。いわゆるJRグループの中でも、JR東日本さんやJR西日本さん、JR九州さんなどは、まちづくりにも積極的に取り組まれていろいろと連携されていることが多いのですが、我々東海はイノベーション拠点を運営するといった取り組みはあまりなかったと思いますね。
子どもたちとの出会いが生んだ転換点
大野: このイノベーション拠点ではイベントを開催して、いろんな人たちに来てもらい、そこで意見交換をして新しいものを生み出す、あるいは場所を貸し出すなど、どういう役割を担っているのですか?
櫻井: 主には大野さんがおっしゃった前者の役割ですね。特に子供向けに楽しい「FUN」なイベントをやることによって、子供たちに楽しんでもらいながら、一緒に関わっている大人同士、企業同士が仲良くなるということも目的にしています。会社という枠を超えて、担当者同士がつながり、価値観を共有できる場にしたいと考えています。大野: 渡邊さんは自分でイベントをやったことはありますか?
渡邊: 自分で打ち出してというのはほぼないですね。どちらかと言えば呼んでいただいて参加しています。
大野: ですよね。やるのはものすごく大変なんですよ。まず準備も大変ですし、「人来るかな?」と本当にドキドキします。
櫻井: 本当に、人が来ないんですよね。
大野:最初やっていたときは2-3人しか来なかったんですよね?
櫻井: そうなんです。「FUN+TECH LABO」と掲げて「子供たちに楽しんでもらう」と言いながら内容は良いのですが真面目な大人向けのビジネスセミナーをやっていたら、東京ならまだしも、わざわざ新宿から40分電車に乗って相模原にはなかなか人は来てくれませんでした。
渡邊: なるほど。
櫻井: その結果、講演で来ていただいた有識者の皆さんに大変申し訳ない気持ちでいっぱいでした。知っている人で埋めたりもしました。でもそれって全然新しいコミュニティを橋本に作ることにつながっていないじゃないですか。だからもう何の意味もなくて本当に申し訳ない気持ちでした。
大野: そこをどうやって突破されていったのですか?
櫻井:最初のきっかけは3月に建物が開いた日に、地元の小学校の先生が急に来てくれたんです。 橋本小学校にとても素晴らしい先生がいらっしゃるのですが、「こんな拠点ができてうれしい」「将来のリニアの駅周辺のまちづくりを、総合学習の時間で子供たちにジオラマで作ってもらいたいと思っている」「助けてくれないか」と言ってくださったんです。小学校の先生に依頼されるなんて人生で初めてだったのでうれしくて、出前授業をやったんですよ。ヤマハ発動機株式会社さんや自動運転ベンチャーの株式会社ティアフォーさんたちと一緒にやったのをきっかけに子供たちとのつながりができて、子供たちを楽しませようとすると、結局大人が楽しくて。その過程で大人同士の理解が深まる。お互いの会社の文化やどうしたら決裁が通るのか、何を大事にしているのか。そうしたことを、イベントの準備を通して理解していくのだと感じました。そこが転換点でしたね。それが2024年の5月です。
大野: そこで戦略を変えて方向性が変わってきたという感じですかね。
櫻井: そうですね。子供向けのイベントをやることによって、まずは大人同士のつながりをたくさん作って、FUN+TECH LABOや相模原市に来られる人たちが気軽に相談できる仲間たちをたくさん作るんだ、という方針転換をして、今に至るという感じですね。
大野: 大きい、かっこいい戦略や絵を描くというよりは、小さくてもいいから、いろんなことをいろんな人たちとやって高速でPDCAを回していく。そういうやり方ですか?
櫻井: はい。かっこよく言うとそういうやり方ですが、実際はドタバタで。 でも相模原市さんも喜んでくださっているしやろう!みたいな感じでやってきたんですが(笑)、うちの会社は戦略を見直してくれる部長たちが結構いるので、所々で見直しを入れてくれるんです。
大野: おおー。
櫻井: 言語化してくれる人がいるので。
渡邊: 言語化してくれる人?
櫻井: 自分が今やっていることを説明すると、「あ、これはJR東海にとってこういう意味のある仕事だね。こうやってやればいいじゃん」とか。「そうです!それが言いたかったんです」みたいな。
渡邊: なるほど。
櫻井: はい、整理することが得意な人がJR東海には沢山いて。社内壁打ちというか社内メンターというか。
渡邊: いい循環ですよね。現場で実験的なイベントをして、それが社内で言語化されてまた戻ってくる。
櫻井: そうなんです。
大野: 事業推進本部、いい本部ですね。うまくワークしている印象です。
渡邊: すごく楽しそうな雰囲気もありますよね。
櫻井: 楽しいですし、本当に尊敬していますね、自分のところの上司たちを。
大野: 当初描いていたプランとは少し違うやり方にはなってきているけれど、PDCAを回しながらなんとかやってきていると。その中でやはり地域との関係、要は仲間をどう増やしていくのかが大きなポイントになると思うのですが、この地域の仲間を増やしていくところで、一番重要な点はどのあたりになりますか?
櫻井: やはり「意義」を大事にすることだと思います。軸がぶれるとみんなが離れていくんですよね。JR東海が自治体からも収入を頂いている事業なので。ただ楽に儲けようとしたらいくらでも方法はあります。そうではなく、「地域のため」「子供たちのため」という目的を共有できるからこそ、皆さんも乗りやすいのだと思いますね。その中で、出せる資源をお互いに出す。出せない分には別にいいんです。その場合は「もしよかったら眺めていてもらえるとうれしいです」という距離感で関われる仲間になれればいいと思っています。綺麗事かもしれないですが、そこがやはり一番大事ですかね。
渡邊: お話を聞いていて、地域の方たちから出てくるアイデアを受け取り、吸い上げて形にしているというところも大きいのかなと感じたのですが、「こちらで決めたこれをやります」だけにはしない、ということは意識されていたりするのですか?
櫻井: そうですね。基本的に先程の大野さんの「お客さんが来てくれないと始まらない」につながるのですが、結局お客さんに来てもらって楽しんでもらわないと、どんなに良い取り組みをしても意味がありません。こちらからプロダクトアウトで提案をするにしても、相手のニーズを踏まえたマーケットインの発想で何かを進めるにしても、お互いのやりたいことを合わせていく作業が欠かせません。手間はかかりますが、最後はみんなが楽しめることができるので運営としても楽しいし、事業としても、発注主である市や県も喜んでくれるということにつながっていくのかなと思います。
“関係代(かんけいしろ)”が導く、共創の街づくり
大野: あとお話を聞いていて、いろんな人達を頼って、うまくその人達と連携しながら進められてきているんじゃないかなという気がするのですが、その辺の感覚っていかがですか?
櫻井: 私たちの強みだと途中で認識したことなのですが、分からないことやできないことを素直に「こういう目的があるのですが、こういうことしかJR東海できません」と言うと、結構みんなが助けてくれるんです。
大野: おおー。
櫻井: カヤバ株式会社という自動車などの振動を吸収する部品(ショックアブソーバー)を製造するグローバルメーカーの工場が相模原にあるのですが、そのカヤバの工場の方が「こんなに市民にさらけ出してくれるまちづくりってなかなかないですよね」とおしゃってくださったんです。普通まちづくりってディベロッパーがかっこいいコンセプトを打ち出し、「〇〇イノベーションシティ」といった名称を掲げて、もう出来上がったものを見るだけというものが多いのですが、JR東海が「これがまだ決まっていません」とか「こういうの悩んでいます」というのを出して、自分たちがどうしたらこの街に貢献できるか教えてくれる。これはなかなかないですよと言ってくださって。私たちからするとただ困っていただけなのですが、喜んでもらえたんです。
渡邊: 大事かもしれないですね。腹の内を見せる、ではないですけど。
櫻井: そうですね。神戸にKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)という拠点があって、そのセンター長の方が言葉にしてくれたのですが、「関係代(かんけいしろ)を作るんだ」と。「関係代を作ると、そこに人を巻き込んでいくことができる」と言われて、そこから最近真似しています。のり代の「代(しろ)」ですね。特に大企業とか、少し管理に余裕があったりする企業ほど、そういうのを見せられると助かる企業もたくさんあるように思います。あと地域連携が元々得意な企業とかもいますよね。
大野: そういうコミュニケーション能力って、やはりJRの中で「Wedge」にいらっしゃった編集部時代の経験も役に立っているんですかね?
櫻井: 間違いなく役に立っていますね、「Wedge」は経済誌ですが、いろんなテーマを取材するので引き出しが多くなりましたね。最後の方は新型コロナの取材で現場の保健所の方の意見を聞いたりとか、災害取材に行ったりとか、経営学の先生にインタビューに行ったりとか、もう本当に幅広くやったので、それが絶対正しいとは限らないのですが、なんとなくいろんな分野のざっくりとした知識はあるんです。
大野: この取り組みが始まって、今何年目でしたっけ。
櫻井: FUN+TECH LABOは拠点が開いてからは1年半ですね。
大野: これはいつまで続けていくものなのですか?
櫻井: この拠点の建物自体はリニア駅周辺のまちづくりの範囲に入っているので、その進捗にもよります。現時点では具体的なことはまだ申し上げられませんが、リニア駅周辺で、その資源が続く限りはやっていけたらと思っています。
大野: この拠点を今後はどういう場所にしていきたいとお考えですか?
櫻井: 拠点自体のハードには大きさに限界があるので、ソフトコミュニティを増やして、我々がこれを持続可能に運営できるだけのお金を、例えば皆さんからの協賛なのか何かで少しずついただきながら、前向きな良い人が集まっているコミュニティを続けていきたいなと、自分のためにも会社のためにも、もちろん地域のためにも思っています。
渡邊: さて、今日もそろそろお時間となってしまいました。今日は東海旅客鉄道株式会社 事業推進本部 課長代理の櫻井俊さんにお話をうかがいました。
大野: では最後に1つ、これまでさまざまな努力をされてきたと思うのですが、道しるべとなった言葉はどんな言葉だったのでしょうか?
櫻井: 「戦術とは最高の常識である」という言葉ですね。
渡邊: どんな意味なんでしょう?
櫻井: 元々日本陸軍の士官学校のお言葉だそうですが、ビジネスにも通じる考え方だと思います。ビジネスでも多分同じで、まず常識、その国の文化や地域の風土、人などを理解していないと戦いようがない、ということです。だからそのビジネスのことだけを知るのではなくて、広範な知識を備えるべきであるという言葉です。
大野: 櫻井さん、本日はありがとうございました。
櫻井: ありがとうございました。
まとめ
「FUN+TECH LABO」は、単なるイノベーション拠点ではなく、人と人が信頼でつながる“関係代(かんけいしろ)”の実験場でした。
子どもたちとの出会いをきっかけに、地域を巻き込みながら挑戦を重ねてきた櫻井さん。完璧な設計図よりも、小さく試し、仲間とともに学び続ける姿勢こそが、まちづくりの真価を物語ります。
「戦術とは最高の常識である」――地域の文化や人を理解する姿勢が、次のイノベーションを生む。JR東海の新たな挑戦は、リニアが走る未来の都市に、人の温もりとつながりを灯していくはずです。
AIによる記事まとめ
FM AICHIのラジオ番組『TOKAIリーダーズ・コンパス』より、JR東海が橋本駅前で展開する「FUN+TECH LABO」の挑戦を紹介します。リニア新駅予定地で、構想段階の悩みや課題もあえて共有しながら地域と向き合う姿勢が特徴です。大人向けセミナーでの苦戦を経て子ども向け企画へ転換し、企業や行政とのつながりを広げてきました。完璧な構想よりも小さな実践と対話を重ね、仲間を増やしていくまちづくりのリアルをお伝えします。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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ソフトバンクが提供する東海地域で放送中のラジオ番組です。番組では、東海圏から未来を切り拓くリーダーたちを迎え、経営の舞台裏や挑戦へのストーリーをうかがいます。普段は聞けないキーパーソンの素顔やエピソードから、明日へのヒントが見つかる…そんな「羅針盤(コンパス)」のような番組です。