時代と共に進化する音楽 ― “選択と集中”でブランドを再生
2026年4月13日掲載
音楽とテクノロジーの融合が加速する今、AIは音楽の創り方そのものを変えようとしています。 ローランド株式会社は、シンセサイザーの先駆者として世界中のクリエイターを支えてきましたが、その歩みは決して平坦ではありませんでした。電子楽器の需要が減少した時代、ブランドの再生をかけた大胆な「選択と集中」。そして今、AI時代の音楽体験を再定義する挑戦。 この記事では、FM AICHIで2026年1月7日(水)に放送された『TOKAI リーダーズ・コンパス』におけるインタビューをもとに、彼らがどのように“AI時代におけるブランドの進化”へ挑んでいるのか。そのリアルなストーリーをお届けします。
TOKAIリーダーズ・コンパス
FM AICHIで放送中(2026年4月現在)の『TOKAIリーダーズ・コンパス』はソフトバンクが提供するラジオ番組です。日本のモノづくりの中心地である愛知県・東海エリアで「イノベーションに挑む企業」のキーパーソンに、挑戦へのストーリーをうかがっています。
放送局:FM AICHI(株式会社エフエム愛知 名古屋 FM80.7MHz / 豊橋 81.3MHz)
放送時間:毎週水曜 20:00~20:30
出演者紹介
シンセサイザーに魅せられた原点とローランドへの想い
大野:FM AICHIをお聞きの皆さん、こんばんは。大野泰敬です。
渡邊:FM AICHI パーソナリティ、渡邊晶子です。
大野:さて、本日お話をおうかがいしますのは、ローランド株式会社 代表取締役社長 CEOの蓑輪 雅弘さんにお越しいただいております。よろしくお願いいたします。
蓑輪:よろしくお願いします。
大野:私の青春時代と言えばローランドの製品を買って、寝る間も惜しんでずっとシンセサイザーを触っていました。
蓑輪:ありがとうございます。
大野:蓑輪さんが入社されたのが1996年ですね。TM NETWORK、小室ファミリーが大活躍していた頃ですよね。
蓑輪:そうなんです。ちょうど大学時代が92年から96年で、インターネットが始まった時代でした。コンピューターが中学時代からずっと好きで、一方で音楽はピアノを少しやっていたので、その流れで、中学時代にTM NETWORKの音を聴いて、シンセサイザーにハマりました。このネットワークとシンセサイザー、両方を使って世界を変えることができないかなと思っていたら、ちょうどローランドという会社がコンピューターミュージックとシンセサイザー両方に長けていたということで、入社するきっかけになりました。
渡邊:完璧な志望動機ですね。
大野:そうですね。1996年代は全盛期の頃だったと思うのですが、入社されて、20年30年経ってくると、楽器や音楽の作り方・楽しみ方というのが大きく変わってきたのではないかという気がするのですが、そのあたりは実際いかがですか?
蓑輪:そうですね。私が入った頃は、インターネットもまだ始まったばかりで、大衆化はしていなかったですし、シンセサイザー自体もまだ8音同時に出るか16音出るか、両手で弾いたら精一杯みたいなものだったので、制限がとにかく一杯ありました。今はAIで自動的に曲が出来上がりますし、制限がない世界になって、さてどうやって楽器メーカーとして音楽産業へ貢献していくかというのは、本当にチャレンジの時期に来ているなと思います。
AIと音楽の共創 ― 新たな表現を支えるテクノロジー
大野:今までは例えばギターの何々、シンセサイザーの何々、といった商品を出していたけれども、今はサービスとかビジネスのやり方というのも結構変わってきているなという印象があるのですが、それに合わせて、新しい商品・サービスというのが誕生してきているという感じなのですか?
蓑輪:そうですね。例えばクラウドサービスをサブスクリプションでスタートしています。楽器を始めようという人は沢山いても、すぐに諦めてしまう。それを、どうやったら続けてもらえるかというところが、チャレンジポイントになってきているので、そういうお客さまに寄り添うサービス、買った後も続けてもらって活用いただけるサービスを提供していきたいと思っています。
大野:「サブスクリプション」というのはどういうサービスを展開されているのですか?
蓑輪:ソフトウェアをサブスクリプションで使えるというところが、一つの大きいビジネスのもとなんです。配信機材なども扱っていますので、配信機材を買っていただいた方が、AIによって、著作権をきちんとクリアした形のBGMを自動生成できるようなサービスというのも、このサブスクリプションの一つのパートとして提供しています。
渡邊:生成というのは、どんな指示を出せば作ってもらえるのですか?
蓑輪:少し「明るい感じ」とか、「アップテンポな感じ」とか。本当に、AIと喋っているような言葉を選んでいただければ、それによって作られる音楽が変わっていきます。だから楽器を弾くというよりは、イメージを伝えることでできると捉えていただければと思います。
渡邊:私は自分でやるというのはまだないのですが、何かのイベントだったり、それこそ配信で音楽を使うときには、著作権をクリアしたものの中から選んでいかなきゃとなると、そこに時間を取られてしまったり、人と被らないようにと考えると、やることが増えてしまうので、オンリーワンのようにオーダーメードで自分のやりたいものをピンポイントで選んで作ってもらえるのは、すごく魅力的だなと思いました。
大野:そうですよね。AIが登場してきてこの1、2年で結構音楽の作り方も変わってきているだろうし、一般の人がAIに触れる機会も増えてきたのかなという印象ではあるのですが、そのあたりはローランドとして、どういう風に捉えられているのですか?
蓑輪:ローランドの一番のお客さまはミュージシャンなんです。ミュージシャンの人から見ると、AIが勝手に音楽を作ってくれるというのは、やはり脅威です。自分たちのクリエイティビティを勝手にやられてしまう、もしかしたらコピーされてしまうかもしれない、というところで、私たちが最初に取り組んだのが「音楽を作っているミュージシャンの方たちの権利をきっちり守っていこう」ということで、ユニバーサルミュージックグループさんと提携して発表したのが「AI for Music」という形です。使い方の共同宣言というかプリンシパルというのを発表して、まずミュージシャンの方に安心してもらおうというところを最初にやりました。
大野:おお。
蓑輪:とはいえAIを使わない手はないですよね。我々としては脅威ではなくて、AIをチャンスに変えていこうということで使っていきたいと考えています。作曲するイメージを膨らませたり、楽器を弾くということをやりたい人にとってはサポートツールとして。BGMなどで著作権をきっちりクリアしたものが勝手にできてくれればいいという方にとっては自動的に作曲を作るものとして。2つの違ったソリューションを提供していくという風に我々は考えています。自動作曲にも使っていくし、ミュージシャンの人にとっては「あなたの考えているのはこういうことではないですか?」というクリエイティビティを刺激する提案をしてくれたら、何か新しい作曲のアイデアが生まれてくるかもしれないですよね。
大野:プロの方向けと一般の方向けで、そのAIを活用した音楽のサービスというのは始められているのですか?
蓑輪:まだテストサービスですが、先ほどのBGMを作るというのはもうサービスインしています。作曲のサポート、アシストをしていくというものは、例えば先ほど大野さんが話をされていた我々の機材のJV-1080ですと、最大拡張時には何千もの音色(おんしょく)が入っているんですよね。
大野:入っていますね。
蓑輪:その何千音色の中から、どの音色が自分のメロディに合っているかを探すのは、実は本当に大変なんです。
渡邊:確かに、全部把握しておくのは無理ですよね。
蓑輪:そこで、今ベータ版で提案しているのが「Tone Explorer(トーンエクスプローラー)」というサービスなのですが、フレーズを弾くと「そのフレーズに合った音は、こういうものではないですか? 」と提案するツールを提供しています。
渡邊: それって、例えば提案してもらったものに対して「いや、ちょっと違うんだよね」とか「あ、そうそうそう!」というやりとりは蓄積されていくんですか?
蓑輪:そうですね、「あなたは前回これを選びました」というのをサービスが学んでいくと、この提案の精度がパーソナライズやカスタマイズされていくという形に進化していくのだと思います。
渡邊:もう敏腕アシスタントのような存在になっていきそうですね。
蓑輪:演奏したい人にとっては、ロボットが演奏してくれても楽しくないじゃないですか。だからAIは、その人の要望を置き換えるものではないと思うんです。あくまでも、いいアシスタント。弾くのを助けてくれる、弾く練習を助けてくれる、作曲するアイデアをアシストしてくれるという風に、AIはどんどん使っていくべきではないかなと思っています。
大野:こういったAIを活用したものもあれば、色々なブランドの立ち上げですとか、海外企業ともアライアンスをされている。例えばAppleですとかSONYといったような企業さんとも連携されているとおうかがいしているのですが、なぜこういった、色々な企業さんと連携する動きをされているのですか?
蓑輪:楽器業界自体としては、非常にニッチなのですよね。例えば車業界とかほかの業界に比べると、やはり趣味性が高くて。世界をマーケットにしていてもそんなに大きな市場ではないことを考えると、ニッチで、ブランドイメージが高いというのを大事にしながらも、私が今日お話ししているような楽しみ方というのを、もっと多くの人に知ってもらいたいなと思う。そうするとやはり「餅は餅屋」の人とお付き合いしていくのが、ブランドを広めていくきっかけになるのではないかと思っています。
大野:今まで音楽を作ったことがない、触れたことがない人でも、気軽に触れてくれるのが皆さんにとってうれしいわけですよね。
蓑輪:そうなんです。
大野:どういう風になったら、渡邊さんはいいですか?
渡邊:私が子供の頃、クリスマスにサンタさんが小さいキーボードを持ってきてくれました。でも、最初は自由に弾いてと言われても分からないんですよね。なので、ガイドの赤いランプがついて、それを押していくと曲になる機能があって、そういった最初の自由に弾く楽しさを知る前の、チュートリアルみたいなものがあると次のステップに行きやすいかなと思いますね。
「選択と集中」でブランドを再生したリーダーの決断
大野:市場の変化やその時代時代で人々の考え方も変わっていると思うのですが、おそらくそのローランドという会社も、この3、40年で良いときもあれば悪いときもあったと思うんです。悪いとき、どうやって上昇気流に乗せるというか、組織のマインドを変えるような動きをしていったのでしょうか。戦略とか戦術の部分を思いっきり変えていったんでしょうか。
蓑輪:ローランドは電子楽器にフォーカスした会社ですので、2000年代になって電子楽器の技術というのがどんどんコンピューターに取り込まれていったんですね。もう何でもかんでもコンピューターがあれば、楽器はいらないみたいな極論になってきたときが、やはり一番危機感がありました。そこにリーマンショックが重なった時期が本当に厳しくなりました。 そのときに復活するためにやったのが「選択と集中」です。ローランドブランドに対して、お客さまは何を期待しているのかという原点にもう一度立ち返りました。 2014年にAIRAというブランドで、ダンス&DJのブランドというのを研ぎ澄ませてやったりもしましたね。少しマニアックな話になりますが、ローランドのリズムマシンTR-808がヒップホップの誕生に、続くTR-909がハウスやテクノというダンスミュージックを作るきっかけになったという歴史があります。そういった「新しい音楽ジャンルを作り出すほどのパワー」を持った伝説的な楽器をもう一度届けていくべきではないか。そう考えて「選択」と「集中」を行い、ブランドイメージを復権させていったのが、2014年頃からの活動です。
大野:「選択と集中」って、簡単そうで難しいですよね。例えば、今まで伝統があるからこそ、思いを持っている人たちがいっぱいいるわけじゃないですか。その中で選択と集中するって、結構大変だったのではないかなと思います。すんなり社内を通ったのか、やはり課題があって、そこを乗り越えるための工夫をしたのかでいくと、いかがでしたか?
蓑輪:当時4期連続赤字ぐらいになっていて、会社の中にも閉塞感というか、なんとかしなければいけないという気持ちがあったので、当時の社長がそれを進めたときに、意外とすんなりいったかなと。ずっと機能別で、生産なら生産部門、営業なら営業部門って横串が強かったのを、ギター関係のブランドの「BOSS」を完全に独立させたりとか、ダンス&DJのところもきっちり別会社、カンパニーインカンパニーで切り分けたりとかというので、縦軸をガーンと通してやったのが、「選択と集中」と「組織変更」というところのヒントだったのではないかなと思います。
渡邊:同時に両方推し進めていくというのは、ものすごい改革ですよね。
蓑輪:当時は不採算だった赤字部門の整理も断行しました。それこそ当時はビジネスとして成立させるのが難しかったソフトウェアビジネスを一旦切り離したり、トラディショナルな古い路線の楽器なども整理の対象にしたりして、「今後伸びていく」と確信できる分野を見極め、そこに資源を集中させました。
大野:そのときの、蓑輪さんのモチベーションの源泉ってどこにあったのですか?
蓑輪:ブランドが落ちていっていることを一社員としても理解していたときに、リズムマシンをもう1回復権させていくのだという、比較的尖ったところのマーケティング担当としてアサインされていたので。「新しいところで自分が成功しなければ、ローランドブランドの復権はない」という覚悟でいたので、そこがグッと何か後ろから背中を押される感じはしましたね。
大野:でも逆に言うと自分が社運を、名運を背負っている状態だったわけですよね。
蓑輪:当時は売上高の中に占めるダンス&DJ機器ってもうほぼなかったんです。リズムマシンというのが完全にコンピューターとかに取り込まれてしまっていたので、ビジネスとしてはもうなかったんですね。なんでもかんでもコンピューターに入ってしまって、世の中がつまらなくなっている時代になっていたんです。デジタルとアナログの復権というのもそうなのですが、最近でもレコードをCDとかサブスクで曲を聴くんじゃなくて、わざわざ買って、レコードプレーヤーに針を落として聴くというのがものすごい伸びているじゃないですか。
渡邊:はい。
蓑輪:楽器の業界も同じようなことが2014年ぐらいにあって、マウスとかトラックパッドでプチプチ音楽を作っていても、つまんないよという人が現れ始めたんです。音楽というのは手で触ったり叩いたりして作って、ヒューマンマシンインターフェースを通じて音楽を、自分の魂を込めていくのだみたいな流れがちょうど来たんですよ。この時流の運というのもあったと思います。
渡邊:しっかりそこを見て、乗っていくというのは、やはり社長の手腕ですね。今日はローランド株式会社 代表取締役社長 CEO、蓑輪雅弘さんにお話をおうかがいしました。
大野:では最後に一つ、さまざまな努力をされてきたかと思うのですが、道標となった言葉はどんな言葉だったのでしょうか。
蓑輪:私は「相互尊重」。お互いを尊重していくというのを非常に大事にしています。海外とか知らない業界の方とかとお付き合いをする上で、その人が何を考えているのか、その人はなぜこういう発言をしているのかという、その背景を知って、物事を一緒にやっていかないと上手くいかないことがいっぱいあったので。やはり相手を尊重して、相手にも自分をきっちり理解してもらって、物事を進めていく。これをやったときに必ず成功できるなと思っているので、この「相互尊重」というのを大事にしています。
大野:蓑輪さん、本日はありがとうございました。
蓑輪:ありがとうございました。
まとめーーAIを、音楽創造のパートナーへ
AIを脅威ではなく「創造のパートナー」として受け入れる。ローランド株式会社の取り組みからは、技術に飲み込まれず、技術と共に成長する姿勢が見えてきます。AIの力を借りながらも、本質である「人の想い」を軸に据え続けるという姿勢は、変化の激しい時代を生きるすべてのビジネスリーダーに通じるメッセージです。 “選択と集中”でブランドを磨き直し、AIで音楽の未来を切り開いていく ローランドの挑戦は、テクノロジーの進化を「人の創造力を拡張する道具」として捉える、新しい時代のリーダー像を示しています。
AIによる記事まとめ
FM AICHIのラジオ番組『TOKAIリーダーズ・コンパス』にて、ローランド株式会社がAI時代において、音楽の創り方とブランドの在り方をどのように進化させているかを紹介しています。電子楽器と音楽制作環境の変化を振り返りながら、著作権配慮型BGM生成や音色提案機能といった新サービスと、経営危機を乗り越えるために進めた「選択と集中」によるブランド再生の歩みを伝えています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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