“つながる工場と人づくり” ― ブラザー工業が挑む全社DX
2026年4月17日掲載
オフィス向けプリンターや複合機を主力に、産業用プリンターや工作機械、新規事業にも挑むブラザー工業。今回は専務執行役員の伊藤敏宏氏を迎え、コロナ禍であらわになった物流・在庫の不透明さを起点に、ビジネスと工場オペレーション、そして全従業員の学びを束ねて進める“人を軸にした全社DX”のリアルに迫ります。現場のPDCA文化や、学びを就業時間で支える仕組みも見どころです。
この記事では、FM AICHIで2026年1月14日(水)に放送された『TOKAI リーダーズ・コンパス』におけるインタビューをもとに、彼らがどのように“人を軸にした全社DX”へ挑んでいるのか。そのリアルなストーリーをお届けします。
TOKAIリーダーズ・コンパス
FM AICHIで放送中(2026年4月現在)の『TOKAIリーダーズ・コンパス』はソフトバンクが提供するラジオ番組です。日本のモノづくりの中心地である愛知県・東海エリアで「イノベーションに挑む企業」のキーパーソンに、挑戦へのストーリーをうかがっています。
放送局:FM AICHI(株式会社エフエム愛知 名古屋 FM80.7MHz / 豊橋 81.3MHz)
放送時間:毎週水曜 20:00~20:30
出演者紹介
コロナが生んだ危機感
大野: FM AICHIをお聴きの皆さん、こんばんは。大野泰敬です。
渡邊:FM AICHIパーソナリティ渡邊晶子です。
大野:さて、本日お話をおうかがいするのは、ブラザー工業株式会社 専務執行役員の伊藤敏宏さんです。本日はよろしくお願いいたします。
伊藤:よろしくお願いいたします。
大野:ブラザー工業さんはさまざまな事業を展開されていますが、今はどの分野がメインになるのですか?
伊藤:現在の主力は、プリンターと複合機になりますね。
大野:最近だとスポットクーラーや燃料電池などの新規事業にも取り組まれているそうですね。
伊藤:そうですね。まだ規模としては小さいのですが取り組みを進めています。一方で、主力のオフィス向けプリンティング事業は売り上げの6割ぐらいを占めている事業になりますね。
大野:昔からさまざまな事業を展開されている企業ですが今日は、新しい時代に合わせて事業や戦略を変化させている中で、DXをどのように推進されているのかを深掘りしながらお話をうかがいたいと思っています。現在、ブラザーグループでは、3つの柱でDXを推進されているとのことですが、その中の1つである「ビジネスDX」、各事業のビジネスモデルを変革する取り組みは、具体的にはどういったことをされてるんですか?
伊藤:事業は絶えず変革をしながら成長していくものだと考えています。今主力のオフィスプリンターのほかにも、成長事業としては産業用のプリンターなど、産業領域の方に事業を変革していこうとしています。ビジネスそのものの事業ポートフォリオの変革もありますが、プリンティング事業や工作機械事業でのDXなど、各事業の中での変革の1つとして、このビジネスDXがあります。
大野:2つ目は「オペレーショナルDX」ということですが、これは工場とつながったり、見える化をしていくことが中心になるのでしょうか?
伊藤:そうですね。つながる工場、見える工場、止まらない工場ということで、やはり製造工場は、生産を止めない、品質を安定させるというのが一番です。そういったサプライチェーンの中でDXを使って、見える、つながる、止まらないというようなところを推進していくのが「オペレーショナルDX」になります。
大野:いろいろな企業でそういうことをやっていこうという思いはあると思うんですが、ブラザー工業さんはかなり早い段階から舵を切っていたような印象です。何か危機的な状況だとか、危機感みたいなものがあったりしたんですか。
伊藤:そうですね。一番大きかったのはやっぱりコロナですね。コロナで物流や部材調達が非常に困難になった。要は外に出られないと、工場が止まってしまうし物流関係も止まってしまう。倉庫には山のような在庫があり、船の上にも在庫がどれだけあるのか、というような状態でした。通常であれば、工場から販売会社のある国まで船で2~2.5カ月程度のリードタイムなのですが、それが「いつ着くの?」というような状態になってしまったことが非常に大きいです。先程「プリンターが主力です」と言いましたが、プリンターには消耗品が必要です。インクカートリッジがなければ印刷できないので、お客さまに迷惑がかかってしまいます。消耗品の品切れは車のガソリン切れと同じで、あってはならないことなので、お客さまがお困りにならないようにということが、すごく大きなきっかけでしたね。
大野:コロナで外出制限があったときに、どこに今どれくらいの在庫があるとか、部品となるようなものが船で今どこにあるのかっていう情報が、集まってなかったということですね。それは確かに怖いですね。
つながる工場と事業変革
大野:売れるものがないし、工場も稼働できず止まってしまうという現象が起きたのですか?
伊藤:そうですね。部材調達もなかなか難しく、工場のラインが止まってしまうことはありましたね。
大野:「あ、これはまずいぞ」となってから、DX化に取り組もうと決められたのは、大体リードタイムで言ったらどれくらいのタイミングだったんですか?
伊藤:近々の対応を最優先にしているので、システム化をするとかそのオペレーションDXを回していくところは、落ち着いてからになります。1年後くらいから取り組んだと思います。
大野:1年でもやっぱり早いですね。しかも、これだけの大企業になると、全社で舵を切ろうとなっても意外と大変なのではないかと思います。ブラザー工業さんはやはり、新規事業とか新しいものを作っていく文化が根付いているんでしょうか。
伊藤: そうですね。「BVCM」といって、サプライヤーさんと工場とお客さまをつなぎ、お客さまが困っていることに対して工場で何ができるのか、開発設計で何かできないかと一気通貫で考えます。そうしたサイクルを迅速に回していく仕組みが従来から社内に根付いています。「こういうことをやろう」と言ったらみんなでチームになってやる文化がありますね。
大野: 多分これは3つ目の方にも関わってくるのかなと思うんですが、そのDXを社内で推進していくときには、「DX人財」の育成や、社内のスキル全体を上げていく必要性があると思うのですが、そのあたりはどういう活動をされてらっしゃるんですか?
伊藤: DX基盤の一番大事なところはやっぱり「人」なので、全従業員にDXを理解してもらって、業務の見直しから改善につなげるため、まずはITやシステムの基礎を学ぶところから始めました。その中で、得意な人や興味がある方をリーダーとして選び、DXを推進しています。
大野: 従業員の中にはDXみたいなものは、ちょっと分からないって方もたくさんいるわけじゃないですか。そういう人たちに拒否感なく、理解してもらうためには結構工夫が必要だったと思います。そのあたりは、先程お話にあったように従業員の方の中からリーダーを作って、その方がメンターのような役割でサポートをしてあげることで、うまく社内に浸透していった感じなんですか?
伊藤: それも非常に大きかったと思います。ただ当初は年配の方だと「もう私はいいです」というような気持ちが芽生える方もいたと思います。そこを簡単なことからでもいいから、リスキリングに取り組み、新しい勉強をしていこうと呼びかけました。また、就業時間中にシステムの勉強をしてもいいよという形にしました。
渡邊: なるほど。
伊藤: 自己啓発として余暇の時間にやりなさいではなくて、就業時間を使い、しっかり勉強しましょうということをやりましたね。
大野: そのときの勉強というのは、ChatGPTとかGeminiとか、生成AIみたいなものなんですか?
伊藤: それより前ですね。
大野: すごい早い。
渡邊:早いんですか。
大野:最近だとAIというものを一般の人も使うようになっていますが、それが来る前からいろいろと取り組まれて、しかも全従業員がターゲットですもんね?
伊藤:我々も「え、全従業員?」というのはありましたが、社長が進めるんだ、やるんだということで、強いリーダーシップで推進されました。
大野: そこがすごいなと思います。「社長はああ言うけど、無理だよね」という人がいるとうまくワークしないと思いますが、それをできるようにするためにどうしたらいいかを皆で必死に考えて、やっていたからこそ、今こういう成果が出ているのではないでしょうか。そのあたりは実際どうだったんですか?
伊藤: そうですね、やっぱり各部門に1人2人のリーダーっていうのを設けて推進したのが大きいんじゃないかなと思いますね。部門によってはなかなか進まないっていうこともあったと思いますが、リーダー会みたいな形で、リーダーの人たちが「こんなふうにすればいい」だとか「こういう工夫をすればいい」っていうのを横展開するというか、みんなにシェアしていくと、それをほかの部門や推進できていない部門も「じゃあそれをやってみよう」っていうことになりますし。とにかくあらゆる工夫をしてやってきましたね。
全員参加のDX人財
渡邊:全従業員対象ということで、非常に受動的な質問で恐縮なんですが「勉強をみんなでしましょう」っていうときに、何も分からない人たちに向けたファーストステップはどういうことをされるんですか? 勉強してくださいねって言われても分からない方っも多いと思うんですが。
伊藤:動画を用意して「皆さん動画を見ましょう」ということから始めました。
渡邊:じゃあ、今こういうものがありますよとか、こういうこともできますよというのを動画で?
伊藤:そうですね。
大野:あとね、すごいなと思うのが、こうやって教育すればするほどどんどん社員ってスキルが上がるので「ちょっとほかの会社へ転職しようかな」っていう人も出てくるわけじゃないですか。だってAIが得意になってくる訳だから。
渡邊:自分のスキルにそれだけ価値があるわけですもんね。
大野:そうなんですよ。でも、個人の成長が会社のためになればいいっていう考え方で、人材流出を恐れてないというか、それによって判断するんだったら別にそれは構わないという感じなんですか?
伊藤: そうですね。転職してしまうんだったら教育はしたくないとかしないとかっていうことではなくて、どんどんスキルを身につけて、転職が必要であれば転職をすればいい。でもまたブラザーに戻ってくるっていうのも、ありなのかなっていうスタンスです。
大野:家族みたいですね。普通だったらスキルを上げて転職しようって人もいるかもしれないけど、いつでも戻っておいでっていう感じが、すごく暖かい。出戻りって結構あるんですか?
伊藤:「結構」はないですけど、事例としてはありますね。
渡邊:でも、そういう事例があることで、若手もいろいろな未来を見いだせそうですよね。頑張ろうって思えます。
大野:だから本当に会社としてももちろんそうだけど、個人として成長していくことが会社にとってもうれしいことですもんね。
伊藤:そうですね。それが一番大きいんじゃないかなと思いますね。やっぱり個人のスキルとか個人の成長があってこそ、会社の成長につながるということかなと思います。
大野: あとは、AIとかDXが進化すればするほど、効率化が進んで、業務で時間の余裕が生まれてくるのかなと思うんですが、生まれたその時間というのは、なにか別の施策に費やしたりされてるんですか?
伊藤: 先程お話ししたように事業ポートフォリオの変革ということで、成長領域でしっかり人財を活用していくっていうことからすると、生まれた時間と人を、そちらの成長領域の方に再配置やシフトして、そこで活躍していただくようにしていくのがいいと思っています。
渡邊:今日は、ブラザー工業株式会社専務執行役員 伊藤敏宏さんにお話をうかがいました。
大野: では最後に一つ、さまざまな努力をされてきたかと思いますが、「道しるべ」となった言葉。これはどんな言葉だったんでしょうか?
伊藤: 若い頃の道しるべはですね、結構努力が好きなので、「努力は必ず報われる」みたいなことでしたが、最近は「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいんだ」という言葉がとても心に響いています。私自身、笑ったり楽しく仕事をするのが好きなので、やはり笑うことはとても大事なことなのではないかなと思ってます。そういう意味でも、この言葉が気に入っています。
大野: 本日はありがとうございました。
伊藤: ありがとうございました。
まとめ
伊藤さんの語りから伝わるのは、DXを“仕組み”ではなく“人”の挑戦として捉えるブラザー工業の温度感です。コロナ禍の混乱を教訓に、つながる工場や新しいサービスへ踏み出しつつ、学びの時間を就業内に確保して全員を巻き込む。さらに「笑うから楽しいんだ」という言葉どおり、前向きな空気が変革を加速させているのが印象的でした。
AIによる記事まとめ
FM AICHIのラジオ番組『TOKAIリーダーズ・コンパス』より、ブラザー工業の伊藤敏宏氏へのインタビューをもとに、コロナ禍で顕在化した物流と在庫管理の課題を起点に進めた全社DXを紹介しています。事業変革を担うビジネスDX、工場の見える化と安定稼働を目指すオペレーショナルDX、就業時間内の学習で全従業員を巻き込むDX人材育成を軸に、人を中心に据えた変革の実像を描いています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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TOKAIリーダーズ・コンパス
ソフトバンクが提供する東海地域で放送中のラジオ番組です。番組では、東海圏から未来を切り拓くリーダーたちを迎え、経営の舞台裏や挑戦へのストーリーをうかがいます。普段は聞けないキーパーソンの素顔やエピソードから、明日へのヒントが見つかる…そんな「羅針盤(コンパス)」のような番組です。