手話をAIでリアルタイムに文字化。デフリンピックと自治体実証で進む社会実装の最前線
2026年9月9日掲載
企業や自治体においてダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進が進む中、現場では、障がいの有無に関わらず、いかに円滑なコミュニケーションを図るかが重要な課題となっています。
この課題をテクノロジーで解決すべく、ソフトバンクが現在開発・検証を進めているのが、AI手話翻訳のSureTalk(シュアトーク)です。手話と音声をAIでリアルタイムに翻訳し、会話内容をテキストで共有するこのツールは、通訳者の手配や事前準備に依存せず、聞こえない・聞こえにくい人と聞こえる人のスムーズなやり取りを支えることを目指しています。
本記事では、SureTalkの開発背景から東京2025デフリンピックでの活用事例、さらに精度向上に協力いただいている習志野市での事例を通じて、社会実装へ向けた取り組みをご紹介します。
聴覚障がい者との「コミュニケーション課題」
DE&Iを推進する企業や自治体において、聞こえない・聞こえにくい人と聞こえる人が対面で意思疎通を図る際には、依然として制約が存在します。
オフィスでの会議はもちろん、店舗の受付や窓口でのお客さま対応など、対面でのやり取りが必要な場面は多岐にわたります。しかし、主な手段である手話通訳者の派遣は、事前の手配やコストを要し、急な来客や日常的な相談に全て対応することは物理的に困難です。
また、筆談は情報の伝達速度や双方向性に課題があり、感情や細かなニュアンスを伝えるには限界があります。そのため、特別な準備を必要とせず、誰もが使い慣れた言語で対話を開始できる技術的な解決策が切実に求められています。こうした現場の空白を埋めるべく、ソフトバンクが開発・検証を進めているのが、AI手話翻訳のSureTalkです。
AI手話翻訳「SureTalk」とは
SureTalkは、ソフトバンクと国立大学法人電気通信大学の共同研究により開発された、手話と音声をリアルタイムにつなぐAI手話翻訳サービスです。
聞こえない・聞こえにくい人と聞こえる人が、対面の場で、会話の内容を同じ画面上で共有しながら対話できることを目指して設計されています。
カメラだけで手話を認識
PCやタブレットのカメラを使い、AIが指先や腕、表情など全身約70カ所の特徴点をリアルタイムに解析するため、専用センサーや特別な環境を必要とせず、店舗や窓口、イベント会場など日常の場面でそのまま利用できます。
手話を自然なテキストへ
手話特有の文法や語順をAIが理解し、助詞の補完や動詞の活用を行うことで、意味が伝わりやすい自然なテキストに変換します。
双方向チャットで可視化
手話と音声の両方をテキスト化し、チャット形式で一つの画面に表示。
お互いの顔を見ながら、会話の流れを視覚的に確認できます。
手話登録で対応語彙を拡張
ユーザーが手話動作を「手話登録」として追加できる機能を備えています。専門用語や新語、地域特有の表現など、未対応の動きは登録されたお手本データをもとにAIが学習・改善を行い、対応できる言葉の幅を広げていきます。
開発背景:会議における「会話のズレ」を解消したい
SureTalkの開発は、技術の誇示ではなく、ビジネスの現場で直面した「非効率」を解消したいという実体験から始まりました。開発を主導するソフトバンクの田中敬之は、自身のチームに聞こえない社員が配属された際、従来の情報保障手段では解決できない構造的な課題を痛感したと言います。
1対1なら通じる、しかし複数人の会議では「壁」が生じる
プロジェクト立ち上げのきっかけは、非常に身近なところにありました。
田中:「私のチームに聴覚障がいのある社員が部下として配属され、一緒に仕事をすることになったのが始まりでした。通常、1対1で話すときは、文字起こしや筆談でもお互いに理解するまで待つことができるため、意思疎通は問題なくできます。ただ、複数人の会話になると、健聴者による音声でのやりとりが主流となり、議論がどんどん先に進んでしまいます」
会議において情報の保障として文字起こしを活用していても、そこには構造的な問題があったと田中は指摘します。
田中:「結局、聞こえない人は文字起こしを頼りに内容を追うため、ずっと下を向いて画面を読んでいるような形になります。それでは発言者の表情や場の空気感までを共有することは困難です。さらに、文字起こしを読んで理解し、そこから自分の意見を発信しようとしても、タイピングしている間に話は次へと進んでしまう。議論の輪に入ることができないもどかしさがありました」
「本当に伝わっているのか」というマネジメント上の課題
こうした状況は、チーム運営の観点からも無視できない課題となっていました。
田中:「聞こえない社員本人が『やりづらい』と口にすることはありません。しかし、こちらとしては本当に内容を理解してくれているのか、確信が持てない難しさがありました。自発的な発信がどうしても少なくなってしまうため、納得感を持って主体的に動けているのかが把握しづらい。こうしたコミュニケーションの『ズレ』が、お互いに見えないストレスを生んでいると感じました」
通訳を待たず、その場で「対等に」話せる仕組みを
現場の非効率を目の当たりにする中で田中が目指したのは、既存の手段の延長線上にはない新しい対話の形でした。
田中:「通訳者の手配や事前の準備に依存せず、その場でお互いの母語(手話と音声)を使って、タイムラグなく対等に話せる仕組みが必要です。こうした現場の課題を社内のアイデア会議に提案し、事業として採択されたことが、今の社会実装への取り組みの始まりです」
単なる「情報の伝達」ではなく、お互いの力を最大限に発揮できるインクルーシブな環境をつくること。この明確なビジョンから、AI手話翻訳の開発は本格的に動き出しました。
東京2025デフリンピックでの実証:多言語と手話の壁を越える挑戦
2025年、日本で初めて開催されたデフリンピック。世界中から選手や関係者が集まるこの大会において、SureTalkは大規模な実証実験を実施しました。これは単なる技術検証の枠を超え、多様な言語や手話が飛び交う実社会での実装に向けた、重要な取り組みとなりました。
国際手話と多言語翻訳への挑戦
デフリンピックには海外から多くのアスリートが来日するため、日本手話だけでなく、国際手話や各国独自の言語への対応が求められました。今回の実証実験では、言語の異なる者同士が母語で意思疎通を図るための検証が行われました。
田中:「デフリンピックでは、例えばフランスの選手がいれば、フランス語への翻訳も必要になります。今回の検証では、日本手話と国際手話の会話だけでなく、翻訳結果をそれぞれの母国語で併記して出力する機能を動かしました。お互いが自分の手話を使った際、画面上に日本語とフランス語が並んで表示され、自分の音声言語で内容を確認できる仕組みです」
鉄道やホテルなど、即時性が求められる生活の場での対話
実証の場は、多くの外国人が利用する主要駅の改札や、ホテルのフロントなど、即時性と正確性が求められる社会インフラの現場でも展開されました。
特に鉄道駅では、複雑な乗り換え案内や突発的なトラブル対応など、筆談では時間がかかってしまう場面が少なくありません。実証実験ではSureTalkのリアルタイム翻訳によって、聞こえる人同士と変わらないスピード感で対話をサポートでtきるかを検証しました。
田中:「海外からみえたアスリートたちが日本で困らないよう、多少なりとも自分の手話で意思疎通ができる環境を作ることを期待して取り組んできました。アメリカ手話と日本手話の間で会話を成立させるなど、異なる言語体系の手話同士でもコミュニケーションが取れるようになる。それによって、今まであった『コミュニケーションの壁』が少しずつ低くなっていくことを、実証を通じて実感してもらいたいです」
参加した選手からは、技術的な精度への評価に加え、「自分の手話で直接スタッフと喜びや要望を分かち合えるのがうれしい」といったフィードバックが得られました。こうした実社会の多様な場面での実証結果が、SureTalkのさらなる精度向上につながっています。
習志野市での活用事例:手話を第1の言語として尊重する
自治体の現場においても、日常の市民サービスに即した実証実験が進んでいます。千葉県習志野市は、他市町村に先駆けて「通称『習志野市心が通うまちづくり条例』」を施行し、手話が言語であることを明記して今年で10年目を迎えます。市職員への研修や啓発にも注力する同市において、SureTalkの活用に向けた取り組みに協力いただいています。
習志野市 健康福祉部 障がい福祉課 阿部氏、須藤氏、春山氏
手話通訳者がいても解消しきれない「窓口の課題」
習志野市役所 健康福祉部 障がい福祉課には、現在、手話通訳士2名、手話通訳者1名のほか、手話対応のできる職員(聴覚障がい者含む)が在籍しています。障がい福祉課の須藤氏と、同課で手話による窓口対応を担う阿部氏、春山氏は、現場のリアルな課題をこう語ります。
須藤氏:「本市には手話通訳者が在籍していますが、別件対応中などでどうしてもすぐに対応できないこともあります。以前から自治体としても『通訳者がいないときにどうするか』という点には課題を感じており、何か別の手段が必要だという感覚を個人的に持っていました」
春山氏:「簡単な手続きであれば制度の担当者や窓口専属の職員などが筆談で対応することもありますが、内容が込み入ってくると、通訳者が呼ばれることもあります。また、最初から『直接手話で話したい』と希望される方もいらっしゃいます」
「筆談」と「手話」にある決定的な違い
インタビューの中で強調されたのは、聞こえない方々にとって手話は単なる手段ではなく、アイデンティティに関わる「第1の言語」であることです。
須藤氏:「日本語が第1の言語である私たちと違い、幼少期から手話で生きてこられた方にとって、日本語は『第2言語』のような感覚に近い場合があります。助詞の使い方が独特であったり、長い文章を読み解くのが負担であったりすることも少なくありません。一方で手話は、一つの動作に多くの情報量が圧縮されており、伝達のスピードも非常に速い。その人にとって最も自然な言語である『手話』でそのまま対話ができることは、一番正確にコミュニケーションをとれることにもなると思います」
市民と一緒に「SureTalkを育てる」プロセスが信頼を築く
実証実験の開始当初、AIの認識精度は発展途上であり、利用者からは厳しい意見が寄せられたこともありました。検証を続ける中で、市民の方々の反応にも変化が現れています。
阿部氏:「最初は『通じない』と辛辣な感想をいただくこともありました。改善を重ねる姿を見守ってくださる市民の方も増えています。最近では、久しぶりに利用された方が『おおおお!』と、成長に驚いてくださりました。こうして時折、実証実験にご協力いただいている市民の方々には、こんなにできるようになったんだっていう『育った感』を見ていただいていると思います」
SureTalkを利用する様子
未来への展望:全ての部署で「当たり前に通じる」社会へ
現在は障がい福祉課の窓口が中心ですが、将来的には市民課や介護保険課など、より広い分野での活用も期待されています。
須藤氏:「AIを活用した技術は、市民サービスのさらなる向上に役立つものだと考えています。市民サービスの質を高めていくことが、結果として、住みやすい街の実現につながっていくと捉えています。さらなる翻訳精度の向上と、日本語を手話に変換する逆方向の翻訳機能開発にも期待しています。手話ができる職員がいなくてもろう者がもつ言語(手話)で会話ができることで、より良い円滑なコミュニケーションにつながっていくと考えています」
習志野市の実証実験への協力は、単なる技術検証にとどまりません。自治体の理念と先端技術、そして市民のフィードバックが一体となり、手話を「言語」として当たり前に尊重し合える社会インフラを共創していく、先進的な取り組みとなっています。
SureTalkが拓く未来
SureTalkは、「誰もが自分の言葉でつながり合える社会」を目指し、デフリンピックや自治体の現場を実証の場として、実際の利用シーンに即した検証を重ねてきました。国際大会では、国や地域によって手話や音声言語が異なることが前提となり、日本手話だけでは対応しきれない場面も少なくありません。そうした環境の中で、対話をどのような形で支えられるのかを現場で確かめる機会となりました。
実証を進める中で明らかになったのは、手話通訳や多言語対応の専門人材が常に同席できない状況においても、会話を始めるための手段がその場にあることが重要だという点です。手話表現の幅広さや専門的な内容への対応については、認識精度を高めながらさらに進化させていく考えです。
今後は自治体の窓口対応にとどまらず、企業の会議や研修、日常業務など、さまざまな場面での活用を見据え、通訳を前提としなくても、それぞれが自分の言葉で対話に参加できる環境を整えていきます。こうした取り組みの積み重ねによって、聞こえない・聞こえにくい人が会話の流れを把握し、自身の考えを伝えやすくなる社会の実現を目指します。ソフトバンクは、立場や役割の違いにかかわらず、互いが力を発揮しやすい環境づくりを推進していきます。
AIによる記事まとめ
ソフトバンクが電気通信大学と共同開発を進める 「SureTalk(シュアトーク)」 は、手話と音声を AI でリアルタイムにテキスト化し、双方向の円滑なコミュニケーションを支援する AI 手話翻訳サービスです。カメラのみで指先や全身約70カ所の特徴点を解析し、手話特有の文法を自然なテキストに変換するほか、手話動作の追加登録によって語彙の拡張が可能です。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。