孫 正義 グループ代表挨拶

わが国の情報通信戦略について(於:民主党 情報通信議員連盟 総会)

ソフトバンクグループ代表の孫 正義は11月10日(水)、与党民主党内で情報通信のあり方を検討している「民主党 情報通信議員連盟」の総会に招かれ、「光の道」に関する講演を行いました。その講演内容をお届けします。

30年後の日本のGDPは世界第8位に転落



ソフトバンクの孫です。
大変お忙しい先生方にお時間いただき、私の話をさせていただく機会をくださったことを、感謝申し上げます。

まず、今日の日本の状況には、いろいろな問題があります。すでに皆さんご存じの通りですが、競争力の低下・医療費の問題・財政・GDP(国内総生産)の低迷など、さまざまな問題があります。日本のGDPは、今年中国に抜かれましたが、このままで行くと8年後には、中国のGDPは日本の2倍になります。GDPで中国に少し抜かれたというのが今年の状況ですが、2倍も抜かれるとなりますと、国際間の交渉やその他の問題でも対応がますます難しくなってしまいます。それだけ日本の国力が落ちるということですので、今のままではまずい。しかし「あきらめるにはまだ早い。まだ間に合う」というのが、本日のテーマです。

では、何をどうすれば間に合うのか?それは「IT立国による日本の新たな成長」こそが、日本を救う鍵になると、私は思っております。

今の日本に必要なものは、「長期ビジョン」です。民主党も自民党もその他の政党も、選挙のたびにマニフェストを掲げますが、このマニフェストが3年、5年という身近なターゲットでは、マニフェストを達成できたかどうかという議論で終始してしまいます。もっと必要なことは、「20年後30年後の日本をどうするのか?」という「長期ビジョン」ではないかと思うのです。





30年という単位で、考えてみましょう。

現在の日本のGDP成長率は、各国のアナリストによると、今後平均年1%くらいしか伸びないだろうと言われております。実際に過去20年の平均成長率は、1%か0%程度でした。これが「失われた20年」ということです。もし今から30年間このままの状態が続くと、どうなるのでしょうか。「中国に抜かれた、中国に2倍抜かれた」どころの話ではありません。日本はアメリカ・中国だけではなく、インド・ブラジル・メキシコ・ロシア・インドネシアにまで抜かれ、世界で第8位になってしまいます。「それらの国々は日本がODAで助けている国じゃないのか?助けている国から逆に抜かれてしまうのか?」これが、日本が置かれている状態なのです。

せめてそれを、年3%成長に持っていきたい。毎年平均3%伸ばすことは、とても難しいことです。また3%伸ばせたとしても、中国・アメリカ・インドに次ぐ、第4位です。しかし1%成長のままでは、ブラジル・メキシコ・ロシア・インドネシアに次ぐ、第8位となってしまいます。これらの国々に対しては、まだ競争力を保ちたい。そのためには、3%成長を持続させなければなりません。3%成長になると、どうなるのでしょうか。現在の日本のGDPは、約500兆円弱です。このまま年1%の成長率で行くと、30年後は約700兆円です。年2%成長で約900兆円、年3%では約1,200兆円ということになります。したがって、現在のGDPである500兆円を30年後に1,200兆円にするということは、2倍以上増やさないと、年3%という成長率は達成できません。この700兆円のギャップをどの産業で埋めるのかということが、いま我が国に求められている中長期のビジョン、つまり「日本の本質的な成長戦略をどう描くのか」ということです。

ところで、年3%成長にすることができても世界では第4位。「目標第4位」では、国民の元気は出ませんし、産業界の気合も入りません。そこで、別の角度からの物差しで見てみます。

もし年3%の成長ができた場合、日本は先進国の中で、「一人当たりGDP」では世界一になることができます。国民から見た場合、GDPは「国全体がどれだけ豊かか?」という指標ですから大切なことではありますが、一方で「一人当たりGDP」は、国民一人当たりの生活実感や生活レベルを表します。したがって、最後はこれが重要です。そういう意味で、「国民一人当たりのGDPで世界一を目指す」ということであれば、気合の入るビジョンとして、目標たりえるのではないでしょうか。
年3%成長で、これは実現できるのです。

国家のビジョンには「戦略」が必要不可欠





年3%成長、さらに700兆円を追加で伸ばすことは大変です。したがって、「どの産業で伸ばしたらいいのか」ということが、まさに「戦略」。すなわち「国家戦略」になるのではと私は思います。成長産業への集中的な人・物・金のシフト。会社の経営で言えば、衰退する事業部や赤字の事業部から、伸びる・伸ばせる事業部や儲かる事業部に人・物・金といった資源を集中する。会社経営では当然のことであり、国家運営でも100%同じだと、私は断言します。ですから国家のビジョンには、「戦略」が必要なのです。

日本では、どの産業が伸びているのでしょうか。過去20年を見ても、伸びない産業はずっと伸びていません。もしここで奇をてらったアイデアを一発出しても、状況は変わりません。50年100年の戦略的ビジョンで、伸びる産業を伸ばしていかなければならないのです。ちょうどTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の問題が議論になっておりますが、農業や漁業などは、全部足してもGDPの2%ぐらいです。農業だけでは1.5%ぐらい。つまり20兆円ほどです。もしこの20兆円を2倍にしても40兆円、3倍にしても60兆円です。つまり20兆円の農業・漁業を倍にしても、20兆円しか増えません。ですが、我々が増やさなければならないターゲットは1,200兆円です。「今からさらに700兆円伸ばすにはどうすべきか」という議論が、今後の国家運営、国家経営での最重要戦略になります。

従来型の「組立産業」や「労働集約型産業」は、賃金の安い国々に持って行かれます。したがって我が国は、「知識集約型」で知恵を使って勝負すべきです。日本が元気だった時代、ソニー、トヨタ自動車、松下電器、ホンダ技研などの企業が、まさにその時代の最先端の技術を使い、知恵を使って産業を伸ばしていきました。こうしたことは、ただの精神論では実現できないことです。そしてこれから伸びる産業、伸ばしていくべき産業とは、「知恵を集約した産業」、つまり「IT産業」ということになります。IT産業のGDPの成長への寄与率は、40%くらいあります。しかし今、日本のIT産業に占める労働者の割合は、たったの3%。会社に置き換えて「どの事業部に何人社員を置くか?」と考えてみると、まだ3%しか投入されていません。これを2倍増、さらに10倍以上にしていかなければなりません。





1980年代、日本が元気だったころは、「電子立国」「メカトロニクス立国」でした。メカトロニクスで世界一だったアメリカを、日本が追い越したわけですが、アメリカはその後、IT産業で復活しました。ITを使って伸びる産業や会社が売買されることを通じて、金融も復活しました。アメリカが復活した一番の要因である、その時代の最先端技術であるITを、1980年代の日本がメカトロニクスで追い越したように、もう一度アメリカを追い越すのです。世界最先端を行くアメリカのITを、日本の知恵と技術の力で追い抜くのです。そうすれば、日本復活の処方箋とすることができます。何もあきらめる必要はないのです。 そういう意味で、まさに2010年代の日本は、「IT立国」としていかなければなりません。もう一回「電子立国復活」では手遅れです。そういう産業は、中国・インド・台湾・韓国にシフトしていきます。ましてや農業で取り戻すのは不可能です。

復活の事例として、ひとつ例を挙げます。

倒産寸前だったアメリカのApple社。これがなんと、全世界のIT、テクノロジーの分野で、Googleやマイクロソフトを抜き、世界一の時価総額を持つ会社になりました。全産業の中でも時価総額は世界第2位です。他の産業も、全部抜いたわけです。つぶれる寸前だった会社が、なぜここまで復活できたのか?それはたった一人、スティーブ・ジョブズ氏がAppleに戻ってきたからです。彼は工場を売却しました。Appleはソフトウエアとハードウエアのメーカーですが、現在は一台も自分たちでは生産していません。では彼らは何をしているのか?それは「設計」です。Appleはハードを設計し、デザインし、ソフトを設計し、開発し、マーケティングし、ブランディングを構築しています。とかく日本では“ものづくり”という言葉にノスタルジーがあり、“魔法の言葉”のように言われますが、Appleは、工場は売却し、台湾の製造工場で生産させています。組み立ては中国の工場でしています。そのため非常に高い利益率を持ち、日本の誇るソニーやパナソニックの10倍近い利益率があると言われており、しかもその伸び率は倍々で増えています。こうしてAppleは、新しい時代のイノベーションをしているのです。したがって“ものづくり国家”日本を、組立ではなく設計開発を中心とした「頭脳集約型国家」に、生まれ変わらせなければなりません。

成長への戦略は一本にしぼるべき

では「IT立国」で、日本がもう一度世界一を取り戻すために、何をすればいいのか?
その例は、お隣の韓国にあります。1990年代、IMF危機で、韓国は国そのものが倒産寸前に追い込まれました。その時私は、就任間もない金大中大統領(当時)に招かれました。私のほかに、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏も招かれました。

私は金大統領から、こう聞かれました。
「孫さん、ビル・ゲイツさん、我が国はつぶれそうだ。復活させなければいけない。どうしたら良いか知恵をくれ」
そこで私は、「方法は3つある」と申し上げました。
「1つ目 ブロードバンド、2つ目 ブロードバンド、3つ目 ブロードバンド」と。
金大統領は、私の隣にいたビル・ゲイツ氏に、「あなたはどう思いますか?」と問いかけました。すると彼も「100%賛成だ」と言いました。

金大統領「孫さんとビル・ゲイツさん2人がこれをやれというなら、私はこれをやる。約束する。ところでそのブロードバンドって何ですか?」
孫「それは一言でいえば高速インターネットです。大統領もインターネットはご存じですよね?」
金大統領「それぐらいは私も知ってる」
孫「それを高速にする。単に高速にするのではなく、1,000倍高速にする。これがブロードバンドです」

当時のインターネットは、アメリカが第1位で日本が第2位。韓国は出遅れていました。しかし私たちの進言を受け、金大統領が決断したことで、韓国では「大統領命令」として「IT基本法」ができました。その結果、韓国は世界一のブロードバンド国家になりました。日本はADSLで一度、世界一速く・安いブロードバンド大国になりましたが、現在の状況は、世界第3位です。もう一度これを抜き直し、世界一になりましょう。

情報通信のインフラさえ整えば、ソフトウエアなどのアプリケーションは民間が頑張ります。ですから“天下国家のこと”を議論される議員の先生方、国会、政府の皆様には、「インフラの議論」を集中してやっていただきたいのです。そこで私は、「IT立国世界No.1へ」というビジョンを、「日本の成長戦略の一番ど真ん中に据えるべき」と、提言します。
「戦略」とは戦いの大枠を決め、他を全部削ることです。「決断」とは、決めて他を切る、という意味です。官僚やジャーナリストの皆さんは、常に両論を併記しなければいけない立場です。片方を言えば、もう片方にも言及しなければなりません。

しかしこれでは国は動かない。
したがって、“最後に腹をくくる”のは政治家の先生方です。政治家の先生方に、あまり細かいことを言っても仕方がない。政治家に求められるのは、重箱のすみをつつくような話ではなくて、“ど真ん中のど真ん中で腹をくくる”ことだけなのです。法律を決める以外に、役割はありません。法律は民間人に決めることはできません。国民に選ばれた、議員の先生方にしかできないのです。ですからその法律を決める立法府の一番中心におられる先生方に、腹をくくっていただきたい。

新成長戦略に“御託”を100個並べてもわけが分からない。
中心は一本に絞らなければなりません。

Appleのスティーブ・ジョブズ氏は、「iPod」一本に絞り、それを成長させて「iPhone」をつくりました。工場を売り、最高のイノベーションを行った。これで復活することができました。日本全体がそういう復活劇を演じなければいけません。だから「IT立国」。これで日本を復活させると決めて、他を絞りましょう。

電子教科書と電子カルテを無償で配る





「IT立国」を成すためには、ITを担える人材を育てなければなりません。では、どうやって育てるのか。答えは簡単。それは「学校教育」です。
今から30年後の日本が、平均で年3%の成長をし続けるとします。その30年後の成長を担うのは、その時に40歳前後になっている人材です。彼らは今日現在10歳前後、つまり小学3年~4年生の子供たちに、今からITを徹底的に覚えさせることです。ITを自由自在に使いこなせる人材を学校でどんどん養成して、IT産業に送り込むという、いわば“国家の人事異動”をしなければなりません。この“国家の人事異動”は、教育以外にはなしえません。

次に30年後の企業人には、「リーダーシップ」が強く求められると考えています。そのため、競争意欲・プレゼン能力・グローバルな交渉力・検索能力・分析能力・応用能力・説得能力、こういうものを、学校教育の中心軸に据える必要があります。現在学校には小学生・中学生・高校生・大学生で約1,800万人の学生がおり、教師・教員を合わせると約2,000万人ですが、このすべての学生・教員2,000万人に、電子教科書の無料配布を提案します。日本語は、日本人なら話すことができますが、これから必要なのは3つの言語です。それは「日本語と英語とIT言語」。これを小学校1年生から、使える状況にしなければいけません。そのためには、ITの使い方そのものを教えることも大切ですが、しかしすべての学問を勉強するときに電子教科書を使っていると、知らないうちに「ITとはなんぞや」ということを、体で覚えていきます。この電子教科書を、2,000万人すべての学生・教員に配るには、1学生当たり月に280円で済みます。1台約2万円で電子教科書の機器を作り、それを6年間のリースのような形で提供します。これは、現在政策として行っている「子ども手当」(児童一人当たり月額1万3,000円支給)の内数でできますし、仮に外数になったとしても、280円くらいならば誤差の範囲と言えるでしょう。

電子教科書を使うと、学生たちは感動を覚えます。勉強をするときに「感動を覚える」ことほど、ものごとを覚えたり考えたりすることに、効率のよいものはありません。英単語も発音記号ではなく、ちゃんとしゃべってくれます。こういう形で勉強すれば、はるかに早く外国語も覚えられます。教材のすべてをクラウド化して、すべての学生や教員がいつでもどこでもアクセスできるようにします。学校や自宅まで光ファイバーが引かれ、教室の中、自宅の中、
おじいちゃん・おばあちゃんの家の中、建物の中ではWi-Fiの無線通信でつながっている
——こうすることで、生徒の学習度合を教師が把握できますし、
例えばいじめメールのようなものを、学校側で遮断することもできます。





もう1つは医療です。日本は医療費の高騰により、国自体が倒産しかねない状況にあります。これもクラウドの活用で、かなり解決できます。まずすべての医療関係者に、「電子カルテ」を配ります。これも電子教科書で配るものと、まったく同じ端末です。これを約300万人の医師、看護師、薬剤師、医療事務の人々全員に無料で配ります。これも1人当たり月280円で実施できますので、年間費用は100億円程度で済みます。私が現役の医師に聞いたところでは、電子カルテを導入すると、約3割程度コスト効率が良くなるそうです。その理由は、重複検査が必要なくなり、医療事務がコストダウンできるからです。医療費が3割削減できると、年間で10兆円ほどのコスト削減ができます。つまり年間100億円の投資をすることで、10兆円もの医療費を削減できるのです。
台湾では、医療費の精算を電子化し、オンライン請求を政策で義務化しました。オンラインでは入金にかかる期間は15日で、100%の入金が実現しています。紙のときはどうだったかというと、入金は30日、しかも90%の入金率だったそうです。韓国も同じです。オンラインでは15日ですが、書面だと40日。韓国でもオンライン率が、たった5~6年でほぼ100%になりました。日本にはこうしたインセンティブがまったくなく、紙でもオンラインでも同じ。いわば悪平等になっている。これではオンライン化は進みませんし、効率も上がらない。ですから日本も、こうしたインセンティブの導入が必要です。

先ほど年間100億円の電子カルテの配布で、10兆円規模のコスト削減ができると申しました。現状税収が40兆円に満たない我が国が、将来は医療費だけで40兆円超えてしまいます。これでは国は成り立ちません。確かに議員の皆さんが取り組んでおられる、「事業仕分け」も大切です。100億円、1,000億円の議論も大切です。しかし、私に言わせればそれは「重箱のすみっこ」。大切な議論ですが、議論の桁が小さすぎます。年間10兆円規模の議論をしたらどうでしょうか。会社では担当の役員や事業部長が、経費削減などいろいろ言いますが、社長がやるべきことは「一番大きい急所から、先に変える」ことです。国家運営の中で、今もっともお金が掛かっているのは「医療費」です。2010年は38兆円ですが、今のままで推移すると、2025年頃には52兆円になってしまいます。これをせめて今のレベルに抑えるためにも、電子カルテを導入して、3割の効率アップをしましょう。
10兆円規模の構造的改革を、継続的に行うべきです。

「IT立国」のために必要なインフラとは?







「IT立国」について、いろいろ申し上げましたが、それは「国民の人事異動」「国のコスト構造の転換」「産業全体の見直し」です。しかし電子教科書があっても、それが接続されていなければ、教育の機会均等は得られません。同様に田舎のおじいちゃんの家で在宅医療をしたくても、訪問先では電子カルテがつながらなければ、医療の機会均等も損なわれます。では、これらのことを実行するための、基本的インフラとは何でしょうか?

それが「光の道」です。

「光の道」という名称は、やや宗教的な響きを持っていますが、私はここで宗教論を述べるつもりはありません。「光の道」で成すべきは、「日本の天下国家のインフラの議論」です。このことは菅 直人首相も、「日本の復活の鍵」ともおっしゃっておられます。原口 一博議員が総務大臣だった折、この「光の道」構想を“原口ビジョン”として掲げられました。原口前総務大臣は、「2015年ごろを目処に、すべての世帯にブロードバンドサービスを実現しましょう」という戦略大綱を、今年の8月31日に発表されました。ぜひこれを先生方のお力で「光の道3法案」として来年の通常国会にご提出いただき、天下国家のためにご議論いただきたい。ぜひ野党の皆さんを説得いただき、何党が良い悪いという小さな次元ではなく、「天下国家のためにあるべき」という議論を、ぜひ堂々と展開していただきたい。
先生方のところには、よく陳情が来ると思います。しかし私は、陳情に行くのは嫌いです。ましてや「お金をください」という陳情は、心がすたる。私が申し上げているのは、そういう陳情ではなく、「税金を1円も使わずに、天下国家を良くしましょう」という成長戦略です。税金を使って何かを行うのは、策としては上策とは言えません。会社で言えば、新しい事業部長が新事業を立ち上げるときに、「最初の3年は赤字を勘弁してください。そうしたら後々立派にしてみせます」と言うのと同じですが、そういう人は、たいてい成功しません。そうではなく、「1年目から黒字にしてみせます!しかも将来我が社を背負って立つ事業部にしてみせます!」ということであれば、あまり議論はいらないと思います。

では、税金を1円も使わずに、どのようにしてこの新成長戦略を実現できるのか?

日本には通信インフラとして、電話回線、つまりメタル回線(銅線)があります。もともとは電電公社が持ち、現在はNTT東日本とNTT西日本(以下 NTT東西)に引き継がれています。ところでNTT東西は、実は2つの事業を行っているのはご存じでしょうか?1つは、物理線としてのメタル回線、あるいは光回線を引く部門。もうひとつは、その回線を活用して、通信サービスを提供している部門です。この2つの事業が、1つの会社の中に入っています。私はこれを、“上下分離で分社化する”ことを提案しています。分社化することで何が良いのかを「A案」、「B案」で、分かりやすく表にしてみました。

A案では、税金負担あり、しかも地方切り捨て。できあがるのは2025年以降で、2025年完成すらコミットしていません。光ブロードバンドサービスの国民負担は月5,000円。しかも家に引きこむ光工事代、あるいはユニバーサル基金、これらは国民負担。現在のNTT東西の労働人口を使います。
B案では、税金を1円も使いません。地方を切り捨てず、全国で行います。ここには地方出身の議員の先生もおられますが、先生のところの地元で選挙民の方々は、必ずしも都心に住んでいる方ではない。田舎のほうに住んでいる地元の方々を切り捨てていいのか。私は切り捨てるべきではないと考えます。

「医療の機会均等」、「雇用の機会均等」、「教育の機会均等」のために、誰も切り捨てない。この議論を始めてから1年近くたちましたので、2015年という目標は1年後ろになりますが、せめて2016年には実現させたい。国民が光回線を利用するときの費用は、現在のNTT東西が提供している5,000円ではなくて、1,150円で行います。ユニバーサル基金や工事代は無料で国民負担なし。もし「電話しか使わない」という人は、今まで通りの電話代のまま。これはA案もB案も一緒です。違うのは、光回線を使いたいというときに、従来と同じ5,000円のA案か、1,150円で使えるB案かという点です。









このA案とB案についてTwitter上で、どちらが良いかアンケート調査をしてみました。

一晩で1,300件の回答があり、98%はB案がいいという答えでした。何を聞いても、常に2%くらいはいろいろな人がいます。私はこれを決して否定しておりません。100%というのはありえませんので、この結果はむしろ健全な証拠だと思います。この結果から分かることは、98%の国民は「切り捨てられるのはイヤだ」「(速度を)速くしてほしい」「(料金を)安くしてほしい」と望んでいることです。寄せられた主なコメントとしては、「断然B案だ」「とにかく早く整備してほしい」「地方活性化にダイレクトに繋がる」「田舎の実態を委員の先生方に見に来てほしい」というものが得られました。

次に皆さんは「B案は実現できるのか?」と疑問に思うかもしれません。私の答えは「実現は可能」ということです。誰もやらないということであれば、私どもがやってみせます。税金を1円も使わずに、メタル回線全廃して全部光回線に切り替えます。これで日本の天下国家が良くなります。なぜ税金を使わずに、しかも安くできるのか?今、通信事業者が行っているのは、「注文が来るたびの個別接続」です。例えば水道管を引く場合、普通は町中まとめて引く一括工事をします。もし「水道がほしい」という家にだけ、1軒1軒回っていたら、工事は細切れになり工事代が高くなる上に、遅々として進みません。これが現在行われているA案なのです。

B案では、一気呵成に計画的に光回線を引いていきます。先ほども触れましたが、日本の通信インフラは、50年前に引いたメタル回線と、光ファイバーによる回線が二重に張られているのが現状です。このメタル回線をなくすと、年間7,000億円の経費削減ができます。メタル回線の維持のため、毎年約3,000億円の赤字が出ていますが、メタル回線を撤去し、光回線に置き換えることで、2,000億円の黒字を出すことができます。なぜなら、経費が7,000億円減り、その分の赤字が黒字に転換するからです。実はこのメタル回線による赤字が、光回線の料金が高い原因になっているわけです。NTTの現在の株主から見た場合も、約3,000億円近い赤字を出している部門を切り離すことになるので、会社は増益となり、当然株価が上がることが見込まれます。

このアクセス回線部門を切り離し新たな会社を作るには、およそ3兆円かかります。では、この3兆円は、税金を使わずに誰が用意するのでしょうか?

「私たちがやります」

いくら「日本の成長のために3兆円が必要」と言われても、「増税せよ」ということでは、先生方もお困りになるでしょう。そこで「私たちが3兆円出します」ということでしたらどうでしょうか。「それなら苦しゅうない」ということにはなりませんか?反対する国民も、いないと思います。確かに最初の5年間は、私どもも赤字になります。初期費用に3兆円かかりますし、さらに年間4,000億円ぐらいかかります。しかしメタル回線を全廃して5年過ぎた後は、黒字になります。メタル回線と同じ値段のままでやっても、ちゃんと利益が出せます。何しろ赤字を出すメタル回線がないわけですから。民間の銀行から全額資金調達できますので、税金は1円もいりません。ですから、「儲かるからやらせてください」というお願いをしているわけです。

しかしNTT東西は「NTT法」という法律で、企業形態が決まっております。ぜひ議員の先生方には、これを国会でご議論していただき、「赤字部門を切り離して、分社化しなさい。以上」と決断いただけば、日本のインフラが無料で21世紀型になります。
先生方が、腹をくくっていただければいいのです。

NTT東西には労働組合があります。先生方にとって労組は大事ですから、「労組が反対するのでは?」ということが気になるかもしれません。確かに彼らとよく話をしないと、反対することでしょう。しかし、きちんと話をすれば、きっと納得して賛成してくれます。なぜかというと、いまNTT東西の3分の1は、50歳以上の社員です。この人達が若いときに、メタル回線を引いたわけですが、彼らにもう一度、定年退職する前に21世紀のインフラを引いていただく。そうすれば生きがいが出て、喜んでやってくれると思います。従業員をリストラするどころか、むしろ達成ボーナスが出るかもしれません。雇用が維持できるどころかプラスアルファ、処遇も維持どころかプラスアルファが期待できるのです。今、NTT東西が持っている回線部分にかかわる1兆円の負債は、私どもが代理弁済します。さらに5,000億円増資し、新しい建設資金3兆円も全額用意します。全部で4.6兆円ですが、国家予算は必要ありません。私どもは光回線を値上げすることなく、むしろ値下げして国民に提供し、世界最強のインフラを提供します。

したがって「B案は実現できるのか?」への回答は、4.6兆円のリスクをとっても、私どもがやってみせますので、「実現できる」ということになります。5年前、ボーダフォン株式会社を買収して2兆円調達しましたが、あのときの苦しいソフトバンクの状態でできましたから、4兆円くらい調達できます。心配いりません。

21世紀の新たな人権「情報アクセス権」









質問の3つ目、「ソフトバンクがやるのはいいけど、今度はソフトバンクが国民の大切な通信インフラを私的独占するのでは?」という疑問にお答えします。

「ソフトバンク1社でもやってみせますが、よろしければ共同出資で、他に資本参加したいという企業がいれば、喜んで受け入れます」

「私的独占は困る」と他の事業者がおっしゃるなら、「皆さんも資本参加してください。喜んで受け入れます。国のために一緒にやりましょう」というのが、3番目のポイントです。オープンな運営で規制も受け入れますし、透明性確保もします。
具体的には、現在のNTT東西の親会社であるNTTの持ち株会社(以下 NTT)は、日本政府が40%で筆頭株主です。それに対して新会社には、国が40%(2,000億円)、NTT、KDDI、ソフトバンクが各20%(各1,000億円)という形で共同出資します。国は現在持っているNTT株式を、実質的な株式交換で新会社の株と2,000億円分交換します。残りの1.8兆円分は、NTT株のまま所持します。したがって、新たな税金投入ゼロです。そして新たにNTT、KDDI、ソフトバンクが、1,000億円ずつ増資します。これが共同出資案構想の骨子です。
もう1つ案があります。それは現在のNTT東西を、アクセス回線を提供する会社と、それ以外の部分で分割します。この新アクセス回線会社は、現在のNTT株主をそのままとした上で、同じ株主に新たに新会社の株を付与するというものです。そのアクセス回線会社に、ソフトバンクやKDDIなどが増資という形で参加します。
以上の2案を提案していますが、私どもはどちらでも結構です。もし誰も乗る人がいなければ、前者の案で、ソフトバンク1社になってしまってもやってみせます。

現在、総務省のICTタスクフォースで議論されているのは、3つの案があります。1つ目は、現在のNTTの形態のまま、会社の部門間に一種の情報障壁を設けて機能分離する案です。ただしこれには、さまざまな弊害があります。2つ目は、現在のNTTの傘下のままで、NTT東西と同じように、グループ会社のままで行う。これだと実質的に分社化にはなりません。そして3番目の資本分離の完全分離。これが私の提唱している案になります。今はNTTによる私的独占ですが、これを公益的提供にしていくのです。

私どもの提案にケーブルテレビや電力会社の方々から、「設備競争がなくなるので良くない」というお話をいただきました。では、国民が設備競争に求めるものとは、いったい何でしょうか?それは、「早く引いてほしい」「安く引いてほしい」「隅々まで引いてほしい」この3つです。ひるがえって設備競争を行っている現在どうなのでしょうか。「遅い」「高い」「一部地域」。設備競争とは言うものの、何も答えになっていません。私は、電力会社やケーブルテレビが、都市部の競争力があるところで設備競争を継続されるのは、大いに結構だと思っています。しかしそんな彼らですら、離島や山間部などに光回線を引くことをコミットしていません。ですから、彼らでもなかなかできない「全国隅々まで、しかも安く」ということを、この共同出資会社で行ったらどうかと提案しています。

もうひとつ、光とは言うけれど利用率はどうなのか?現状の光回線は、インターネットを利用する人全体の3割にしか使われていません。残り3分の1は、ADSLを利用しています。先ほどのB案でいくと、ADSLより安くて速く高性能であれば、現在ADSLを利用している人々も、当然光に乗り換えます。これで3分の2のご家庭が、光回線を使うことになります。残り3分の1のご家庭には、電子教科書や電子カルテを無償でつなぎます。ということで光のインフラは、100%の利用率になるのです。ここでいう光100%利用には、もちろん無線による通信も入っています。とにかく赤字のメタル回線を、光回線に置き換えるということを申し上げています。

基本的人権について、今までは自由権・社会権・参政権を、皆さんは議論してこられました。私はこれに、新しい21世紀の人権として「情報アクセス権」があると考えています。田舎や離島などにも100%「光の道」を通して、この誰もが等しくものごとを知ることができる「情報アクセス」権で、「教育の機会均等」や「医療の機会均等」を実現しましょう。 地方自治体も競争力を取り戻せ、税金ゼロで成長戦略に役立ち、国民、NTT、株主、政府、自治体……“四方皆得”です。

今こそ「大政奉還」を









最後に申し上げます。
私たちには何もありません。一方、NTTグループには労組があります。労組の献金だけで1億円、天下りは30人以上、毎年のようにあります。選挙支援として17万人、メディア対策として年間900億円の広告宣伝費が投下されています。先生方から見て、17万の投票の行方は大切な問題です。選挙があるわけですから。でも考えてください。17万人を選ぶか、残り98%の国民の声を選ぶのか。先程のアンケートの結果では、98%の国民は「安いほうがいい」「速いほうがいい」「全国がいい」という声を上げています。17万票の目先の欲に目がくらんではいけない。はっきりと申し上げておきます。

私たちには「志」しかありません。
「志」をご理解いただける方に、口から泡を飛ばして説き歩くことしかできません。でも私は諦めません。

「天下りリスト」です。
この「天下りリスト」を見て国民の怒りが爆発しないか。この天下りの癒着構造で、だから光回線の料金が高くてもいいのか、だから国民を切り捨ててもいいのか、だから遅くなってもいいのか、だから地方の税金を使ってもいいのか。

最後に、メタル回線は誰のものかについてお話します。
メタル回線は、「国民のもの」です。
国民が電話加入権として、1回線当たり7万2,000円支払ったのです。そのお金でメタル回線を隅々まで引き、電信柱を建てました。私はメタル回線を全廃しようと申し上げています。しかし全廃するためには、国民のコンセンサスが必要です。
そこで私は国民の皆様に訴えます。
「皆様には古い電線は引き剥がすけれど、同じ価格でもっと性能がいい光回線を希望者全員にお届けします。離島に住んでいても、山間部でもお届けします。国民の皆さん、どうかご理解ください。それよりも、料金が高いままでいいですか?」と。

NTTは電話加入権を返さないと決めました。しかし4.7兆円は、すでに国民からもらっている、いわば「権利金」なのです。アパートでは、敷金や権利金は、普通は返します。でも電話加入権の権利金は、返さないと言っているのです。そういうことであれば、国民から4.7兆円預かって作ったメタル回線は、すべて国民に帰属することになります。
そういう意味で国民の手にメタル回線を「大政奉還」すべきなのです。

20世紀には、車の道、水の道、電気の道、電話の道がインフラとして作られました。「21世紀は情報の道として『光の道』を引こう」という、原口前総務大臣のビジョンに、私は心から共鳴しています。政権が民主党になって何年目でしょうか。3年後にはまた選挙があります。かつて明治政府が新しく誕生して、最初の5年間で何をしたか。お金はなかった。国民の賛同も十分に得られていなかった。でも明治新政府の政治家の先生方は、国民の目に見える形で成長を約束しました。電信というインフラや義務教育を作り、断髪令、廃藩置県を行い、郵便、鉄道を整備した——こうしたことを、最初のたった5年間でやったのです。国民に対し、成長戦略を目に見える形で描いてみせたのです。

今の民主党に一番欠けているのは何か?「成長戦略が見えない」
これが国民の本質的不満です。日本のプライドが、どんどん失われている。これを取り戻すために、「光の道」の実現で描く成長戦略以外に、いったいこれ以上の説得材料は何があるのでしょうか。

「IT立国」
戦略は絞るべきです。
100を並べ立てる戦略なんて、戦略ではありません。

日本のために、よろしくお願いします。

(掲載日:2010年11月17日)