プレスリリース 2025年
AI技術によるRANの性能向上効果を実証
~「AI for RAN」の実現に向けて三つのユースケースを実証~
2025年3月3日
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)は、AI-RANのコンセプトの一つであるAI(人工知能)技術によるRAN(無線アクセスネットワーク)の性能向上を目指した「AI for RAN」の研究を行っています。このたび「AI for RAN」の実現に向けて、「アップリンクチャネル補間」「サウンディング参照信号の予測」「AIを活用したMACスケジューリング」の三つの無線性能向上のためのユースケースの検証を行い、それぞれRANの性能向上効果を実証できましたのでお知らせします。
これら三つのユースケースにおける無線性能向上は、お客さまの通信品質向上のみならず、ソフトバンクの無線ネットワークのキャパシティー拡張への貢献が期待されます。増大する無線ネットワークのトラフィックに対応するため、新たな基地局設置によるキャパシティーの拡張を行ってきましたが、今回実証したAI for RANの効果で、新たな基地局を設置することなくキャパシティーの拡張が可能であることが示され、AI for RANにより基地局への投資を抑制することが期待されます。
アップリンクチャネル補間(UL Channel Interpolation)
5G(第5世代移動通信システム)で主に利用されているTDD方式(時分割方式)では、アップリンク(Up Link、以下「UL」)に使用できるスロットはダウンリンク(Down Link、以下「DL」)に比べて少なくなります。特に、マルチモーダル生成AIアプリケーションによって生成されるAIトラフィックは、従来の音声およびデータアプリケーションと比較して、アップリンクとダウンリンクのトラフィック比率が高くなると予想されています。そのため、より効率的なデータ送信を行うことが求められます。そのパフォーマンス向上には、基地局側で受信する信号に対してチャネル推定精度を高める必要があります。
移動通信環境では、時間や位置、無線の使用状況や干渉波など、さまざまな要因により無線環境が複雑に変化しており、チャネル推定精度の向上がより重要になります。ソフトバンクは、AI技術を用いたチャネル推定精度向上のため、ラボ環境においてスマートフォンを用いた実証実験を行い、従来技術とAI技術の比較試験を行った結果、品質が悪いエリアにおいて、ULユーザースループットが約20%改善することが確認できました。
この技術が適用された基地局では、干渉が強い環境下でもULの通信速度の低下を抑制し、動画や画像などのアップロード時の通信体感の向上を実現します。
この取り組みは、ソフトバンク、NVIDIAおよび富士通株式会社(以下「富士通」)の3社が協業し、NVIDIAが実証検証のためにNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipをベースとした「ARC-OTA」(Aerial Research Collab - Over The Air)の商用テストベッドの提供とNVIDIA AI Aerialレイヤー1ソフトウエアのカスタマイズを、富士通とソフトバンクがAIのデザイン・開発を、富士通が組み込み用インターフェースの開発を、ソフトバンクが全体のコーディネーション、実証実験環境の構築と評価をそれぞれ担当し、評価したものです。
また、3月3日からスペインで開催される「MWC Barcelona 2025」のAI-RANアライアンスのブースでデモを行います。


サウンディング参照信号の予測(SRS Prediction)
5Gおよび6Gでは、基地局のテクノロジーの進化によってアンテナ素子数が増えたマッシブアンテナ(Massive Antenna)によるビームフォーミング性能の向上が期待されています。ビームフォーミングは、TDD方式では、端末から送信されるサウンディング参照信号(Sounding Reference Signal、以下「SRS」)を用いて伝送路の推定を行うことが一般的です。SRSは、端末から一定の間隔で基地局に送信されますが、基地局と通信する端末の数が増えるとSRSの送信間隔が長くなります。SRSを受信しないタイミングでは伝送路の推定を行うことができないため、SRSがどのように変化するかを予測する必要がありますが、端末の移動速度が速い場合、チャネル変動が大きく、SRSの予測が難しくなります。この予測が外れた場合、誤った情報に基づくビームフォーミングを行うことによりパフォーマンスの低下が懸念されます。
今回ソフトバンクは、AI技術を活用して、受信しないタイミングのSRSの予測を行うことで、通信性能改善の検証を実施しました。検証にはシステムレベルシミュレーター上で、多層パーセプトロン(Multilayer Perceptron、以下「MLP」)アルゴリズムのAIを使用しました。検証の結果、時速80kmで移動する端末のDLスループットが約13%向上することが確認されました。


AIを活用したMACスケジューリング(MAC-Scheduler)
マッシブアンテナによりビームフォーミング性能が向上するため、MU-MIMO(Multi-User Multiple Input, Multiple Output)を用いたユーザーの多重化による、セル容量の増加が期待されています。しかし、MU-MIMOによる多重化を行うためにはユーザー間の相関関係や無線品質、MACレイヤーでの無線リソースの割り当てを行うスケジューリング(MACスケジューリング)の優先順位などを考える必要があり、さまざまな要素を考慮しなくてはなりません。さらに、端末の台数の組み合わせによる膨大なマトリクス計算が発生し、処理が複雑になっています。
ソフトバンクは、AI技術を活用してMACスケジューリングを行うことで、効率的なペアリングによる性能向上の検証を行いました。システムレベルシミュレーター上でMLPアルゴリズムを用いてMACスケジューリングを行った結果、ユーザー平均スループットが約8%改善することが確認できました。

さらに、ソフトバンクは、AI技術によるRANの高性能化の検証を効率的に行うため、検証基盤としてシステムレベルシミュレーターの開発を行いました。システムレベルシミュレーターを用いることにより、さまざまなAIによる効果を効率的に検証することが可能になります。
ソフトバンクは、今後もAI技術を駆使した通信技術の開発を進め、より高品質な通信サービスの提供を目指していきます。
ソフトバンクの執行役員 兼 先端技術研究所 所長の湧川隆次は、次のように述べています。
「ソフトバンクが推進する『AI for RAN』は、AIによってRANの性能向上に大きな効果をもたらすことを示しています。AIを利用するために通信仕様の変更をする必要がなく、実装においてこのような高い性能向上を達成できることは、通信業界におけるAIの革新を通して、われわれのインフラが大きく進化する可能性を示唆しています。ソフトバンクは引き続きイノベーションを進め、お客さまに最高の通信体験を提供することを目指していきます」
NVIDIAのVice President of TelecomsのSoma Velayutham氏は、次のように述べています。
「ソフトウエア定義プラットフォームとともに無線信号処理に組み込まれたAIは、従来の技術では達成できなかった変革的な向上をもたらし、継続的な性能と効率のベンチマークを設定することを可能にします。NVIDIA AI Aerialを活用したソフトバンクのRAN向けAIの革新は、AI-RAN技術の進展において重要なマイルストーンを示し、AIによって卓越した性能と効率を実現する能力を強調するものです」
富士通株式会社 執行役員EVP システムプラットフォームビジネスグループ 副グループ長の水野晋吾氏は、次のように述べています。
「富士通はこれまでGPUを採用した高性能なvRANソフトウエアの技術開発に取り組んできました。今回、ソフトバンク、NVIDIAとの共同研究において、アップリンクの性能改善に富士通のAI技術が貢献できたことは、これからの無線技術とAI技術の融合による無線ネットワークの高度化に向け、意義深い成果になったと考えています。これからもAI技術を含めた新たな技術開発が、より多くのお客さまと社会へ価値を提供していくことを期待しています」
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