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話者の言葉を携帯電話に字幕表示し、聴覚障がい者の学習を支援「モバイル型遠隔情報保障システム」

ソフトバンクモバイル株式会社(以下 ソフトバンクモバイル)では、携帯電話やインターネットが、障がいを持つ青少年の学習や自立の促進に寄与しうる可能性に着目し、国立大学法人 筑波技術大学、NPO法人 長野サマライズ・センター、国立大学法人 群馬大学と協同で、聴覚障がい者の“情報保障”(知る権利)をサポートするための「モバイル型遠隔情報保障システム」の導入実験を行っています。

「モバイル型遠隔情報保障システム」とは

ソフトバンクモバイルは、NPO法人長野サマライズ・センターに2008年1月より携帯電話を貸し出し、聴覚障がいを持つ児童・学生などのために、遠隔地にいる通訳者が講義内容などの話者の言葉を要約して携帯電話にリアルタイムで表示させる「モバイル型遠隔情報保障システム」の開発を支援してきました。2009年4月からは、国立大学法人 筑波技術大学や国立大学法人 群馬大学と協同して実用化に向けた導入実験を開始しています。このような携帯電話を使った聴覚障がい者への情報保障の取り組みは、全国で初めての試みです。

iPhone 3Gに話者の言葉をリアルタイムで表示

聴覚障がいを持つ方が参加するセミナーや講演会では、通信ネットワークで結ばれた2台のパソコンを用いて、2名の通訳者が連携して話者の言葉を要約してパソコン上に文字化する「パソコン要約筆記」が一般的です。この方法は、聴覚障がいを持つ方への情報保障の手段として有効ですが、通信ネットワークに接続されたパソコンが必要であり、かつ、通訳者がその場に立ち会わなければならないことから、利用シーンが限られてしまう状況にあります。

今回導入実験を行っている「モバイル型遠隔情報保障システム」では、携帯電話(iPhone™ 3G)を用いることで、通信ネットワークに接続されたパソコンを用意することが難しい環境においても、要約筆記を利用することができます。しかも、携帯電話を通じて話者の音声を遠隔地にいる通訳者に送信し、そこで文字化された字幕データを同じ携帯電話で受信・表示する仕組みであるため、通訳者がその場に同席する必要もありません。このシステムの利用により、通信ネットワーク環境が整備されていない学校の各教室や、体育館などのパソコンを持ち込むことが難しい環境、あるいは屋外など移動をともなうような状況においても、聴覚障がいを持つ方が要約筆記による情報保障を受けることが可能になります。また、特に初等・中等教育の場において、大人である通訳者が教室内に入る必要がないので、聴覚障がいを持つ児童や同級生にとって心理的な配慮になることも期待されています。さらに、ソフトバンクモバイルが提供する、音声通話やパケット通信の定額制サービスをご利用いただくことで、このシステムで用いる携帯電話の利用料金を割安に抑えることもでき、どなたでも継続して利用できる仕組みだといえます。
このような特性によって、従来は情報保障を受けることができなかったさまざまな場面においても情報を得られる機会が広がり、聴覚障がいを持つ方の社会参加の一助になるものとして、関係者から大きな期待が寄せられています。

「モバイル型遠隔情報保障システム」の仕組み

導入実験(1)〜永明小学校の事例〜

プール開きの授業での導入実験の様子
(茅野市立永明小学校)

2009年6月、茅野市立永明小学校(長野県)でのプール開きの授業において、「モバイル型遠隔情報保障システム」の導入実験が行われました。通常であれば、サポート役の教諭が児童の横に立ち会って、指導教諭の話す言葉の要点をメモ用紙に書いて聴覚障がいを持つ児童に見せる方法で情報保障を行っていますが、今回はシステムの利用により、児童が「iPhone 3G」を手に持って画面に表示される指導教諭の言葉を読み取る方法で行われました。

システムを利用した児童は、「これまでは遠くにいる先生の言葉が聞き取れなかったけれど、携帯電話で確認できたので便利でした。教室内では、自分の耳で聞き取った内容を、携帯電話で確認できるようにしたいと思っています」と語りました。また、見学に訪れていた児童の保護者からは、「一番の感想は“とても便利”ということです。やはり、小さくて持ち運べるので屋外での利便性は非常に高いですね。『モバイル型遠隔情報保障システム』を利用して、本人も、今まで屋外で他の人が話す内容がこんなに分からなかった(聞こえていなかった)ことを実感したようでした。このシステムを利用することで、授業にしっかり参加できたようです」と、喜びの声をいただきました。

導入実験(2)〜筑波技術大学の事例〜

「iPhone 3G」を使って講義を受ける聴覚障がいを持つ学生(筑波技術大学)

国立大学法人 筑波技術大学は、聴覚または視覚に障がいを持つ人が学ぶ4年制の国立大学です。2009年6月、聴覚障がいを持つ同大学の学生13名が栃木県内の大手通信機器メーカーの製造工場を見学に訪れました。主な見学コースである製造ラインの内部は、安全確保のため、1.5メートル幅の通路の外に出ることができず、1列に並んで見学せざるを得ません。以前は、同行する手話通訳者による情報保障を行っていましたが、最前列の数人の学生しか通訳内容を理解できませんでした。しかし今回、「モバイル型遠隔情報保障システム」の利用によって、13名の生徒一人ひとりが「iPhone 3G」に表示される字幕を見ることで、案内者の説明を理解することができました。

工場という特殊な環境であるために、携帯電話の通話可能エリアから外れる(圏外となる)フロアも一部ありましたが、見学に参加した学生からは、「教室外の見学の際など、移動が多い場合に役立つ」という意見のほか、「周りが健聴者で、自分だけが情報保障を受ける必要がある時に、周りの人に気遣いさせたり、負担をかけずに、気兼ねなく利用できる点が便利」「広い講義室の後方に座っても、携帯電話に字幕が表示されれば助かる」など、さまざまな場面での活用を希望する意見が出されました。

今後さらに、群馬大学でも導入実験が開始される予定で、初等・中等教育に加え、高等教育の場でも多くの実験が行われます。群馬大学では、聴覚障がいを持った学生が教職課程の教育実習において授業を見学する際などに、システムを運用する計画です。

導入実験(3)〜ソフトバンクモバイルの事例〜

机に設置した「iPhone 3G」から情報を得る社内研修の参加者(ソフトバンクモバイル)

「モバイル型遠隔情報保障システム」の実用化と普及に携帯電話事業者の立場から携わるソフトバンクモバイルでは、2009年3月より、社員向けに開催される研修やイベントでの導入実験に取り組んでいます。従来、中途入社した社員向けのオリエンテーション研修に参加する聴覚障がいを持つ社員は、配布資料や投影資料を見ながら講師の口の動きを読み取っていましたが、導入実験では机の上に置かれた「iPhone 3G」の画面に表示される文字も参考にしながら研修を受講しました。

また、部門ごとに開催される新年度キックオフミーティングでの導入実験に参加した聴覚障がいを持つ社員は、「各部の部長が実際に話している内容がリアルタイムで把握でき、今まで参加してきたキックオフミーティングの中で最もよく理解できました」「話の内容だけでなく、話し方や表現を『iPhone 3G』の画面で“味わう”ことができて、その人の人柄も初めて見えてきたような気がします」といった感想が寄せられました。

ソフトバンクモバイルは今後、さまざまな場面での導入実験を通して聴覚障がいを持つ当事者の意見の収集に力を入れ、導入実験の関係者と協同で、「モバイル型遠隔情報保障システム」の利点と欠点を整理し、利用マニュアルと各種ノウハウや、既存の情報保障の仕組みと使い分けるためのポイントなどを取りまとめ、同社WEBサイトを通じて公開していく計画です。

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    Appleは、米国および他国のApple Inc.の登録商標です。
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    iPhone 3Gは、単独の通信業者のサービスでのみお使いいただけるよう設定されている場合があります。

(掲載日:2009年7月16日)