経営陣ファイル 2011年

震災報道で「Ustream」が果たした役割
その特性を活かして放送メディアを補完 Ustream Asia株式会社

ソフトバンクグループでライブ映像配信サービスを手掛けるUstream Asia株式会社(以下「Ustream Asia」)のサービスサイト「Ustream.tv」(以下「Ustream」)では、東日本大震災の発生直後からNHKや民放各局の災害報道番組が配信されました。その結果、国内外を問わず、さまざまな環境に置かれた多くの方々が、この度の震災に関する貴重な情報を知得することができました。そこで、今回のこの一連の背景にどんなことがあったのか、また東日本大震災で証明されることとなった、緊急時に果たすべき「Ustream」の役割や可能性などについて、同社代表取締役社長の中川 具隆にインタビューしました。

広島の中学生が始めたNHK番組の映像配信

2011年3月11日(金)午後2時46分、東日本大震災が発生しました。地震発生直後よりテレビ各局では報道特別番組に切り替わり、以来数週間にわたり、震災の情報が、ほぼ絶え間なく報道されることとなりました。この間、これらの報道特別番組が視聴者に届けられるに当たって補完的な役割を果たしたのが「Ustream」でした。テレビ放送を見ることができない人々、例えばテレビが設置されていないオフィスで働く人、海外で日本の放送が見られない人などにとっては、「Ustream」が大きな情報源となりました。

NHKのケースでは、地震発生から17分後の午後3時3分には、「Ustream」上で早くも番組が配信されていました。もちろん通常時はテレビの放送が「Ustream」上で流されることは、放送局の企画などの特別な場合を除いてありません。では、なぜこれほど早く配信が実現したのでしょうか。

「震災発生当時、私はサンフランシスコにあるUstream, Inc.を訪ね、ちょうど会議を終えたところでした。そこに地震発生の一報が入り、すぐに日本のオフィスや家族に電話をしました。しかし、全くつながりません。そして日本のYahoo!や報道機関のニュースページを見て、相当な規模の大地震が発生したことを知りました。『東京の首都機能はだめになったかもしれない。もう二度と家族に会えないかもしれない』と、直後は本当に焦りました。その後メールで『NHKの映像が、Ustreamで勝手に流されている』という情報が入りました」

このように当時の様子を語るのは、Ustream Asia 代表取締役社長の中川 具隆です。「Ustream」上で「映像が勝手に流されている」という状況について、次のように振り返りました。

「一言でいえば、無断配信です。調べてみたところ、広島の中学生がスマートフォンを用いてテレビ画面を撮影し、それをそのまま流していることが分かりました。本来であればこうしたものはすぐに止めてしまいますが、この時は未曽有の緊急事態が発生しており、すでに数万人の視聴者がいました。そこで、まずはその映像をそのままに、社内の関係者を通じて、NHKに特別に許諾を得ることにしました。またNHK自身が『Ustream』を使って正式に番組を配信してほしいということも、併せてお願いしたのです。そして驚いたことに、わずか15分後にNHKから返事があり、すべて承諾する旨の回答をいただきました」

この結果、NHKの番組が「Ustream」で配信され、多くの人がそれを通じて、震災に関する情報を得られることになりました。NHKの他にも、災害時には「Ustream」を使って配信することを事前に決めていたTBSをはじめ、最終的にテレビ・ラジオ計13局が「Ustream」で災害報道番組の配信を行いました。

人々の善意に支えられた災害報道番組の配信

一連の震災に関する配信では、同社にとって記録的な視聴があり、また海外からのアクセスも増大しました。後に統計を取ったところでは、広島の中学生が配信を始めて以来2週間で、「Ustream」で配信された災害報道番組はのべ6,800万回視聴され、ソーシャルストリームには100万件以上のコメントが寄せられることになりました。さらにNHKは「NHK WORLD TV」という、英語放送の番組も「Ustream」で配信しました。この番組は約70%が海外から、残りは日本国内から見られていました。また日本語の番組も、海外からのアクセスが全体の26%に上りました。

「私自身もそうでしたが、海外に出張している人や旅行中の人、また海外に住んでいる日本人の方などにとっては、日本の災害報道をそのまま見ることができ、大変助かったと思います。また英語放送については、海外から日本に旅行している人や住んでいる人で、日本語が分からない方々にとって有用だったのではないかと思います。日本のテレビ映像を見ても衝撃的なばかりで、日本語が分からないと避難の方法など、肝心な情報を得ることができないわけですから」(中川)

今回のような大きな災害では、地域ごとの情報も非常に重要になります。この面でも「Ustream」は大きな役割を果たしましたが、そこには「Ustreamer」(ユーストリーマー)と呼ばれる、いわゆる「Ustream」のヘビーユーザの方々の協力がありました。
「あるとき全く知らない方から、Twitterでアドバイスをいただいたのです。『私は阪神大震災を経験した者です。次のステップとして絶対にローカルな情報が必要になるので、被災地のテレビ局やラジオ局にUstreamで配信してもらった方がいいですよ』と。ところが私たちには、地域のメディアとの接点がありませんでした。そんなとき、あるUstreamerの方から『テレビ局の同意を取り付けたので、私が代わりに配信します』という申し出を受けたのです。念のためそのテレビ局に問い合わせてみると、本当に許可されていました。最初の広島の中学生もそうですが、今回の震災では善意のある方々にうまく運用していただきました」と、中川は述懐します。ローカルメディアの重要性を強く認識した現在は、地域からの講演依頼には積極的に応じ、「Ustream」に対する理解を深めていただき、より地域に密着した活動に利用されるよう、全国を飛び回っているとのことです。

さらに使いやすいオープンなサービスプラットフォームを目指す

今回の経験を通じて、Ustream Asiaとテレビ局は、双方でさまざまな模索が始まっています。「従来、放送とインターネットの関係は、“どちらが覇権を取るか”というステレオタイプの議論に終始するところがありました。ところが今は、放送に携わる方々も、インターネットをどううまく使っていくかということを考えています。彼らはインターネット企業に負けないくらい、多くのネット配信に精通した技術系スタッフを集めているというのが、最近の状況です」(同)
実際に在京テレビ局の中には、災害対策マニュアルに「Ustream」での配信を組み込む動きが始まっています。また地震や台風のような災害だけではなく、大規模な事件や事故の際にも、「Ustream」で配信することも検討されています。一方、Ustream Asiaでも「Ustream」がオープンなサービスプラットフォームであるという位置付けがより明確になったことで、「Ustream」がマスメディアの補完メディアとして活動できる場を得ようとしています。両者が高いレベルで協力することができれば、災害のような緊急時に有益な情報を、より早く、より広く配信することが可能となります。今、両者の間では、これらの配信がスムーズに行われるよう、着々と準備が進んでいます。

最後に中川は、今回の一連を振り返り、次のように語りました。
「改めて『Ustream』というサービスが、ビジネス的にはもちろんのこと、本当に役に立つサービスであり、社会基盤にもなりうる素晴らしいプラットフォームであるということを、改めて身にしみて感じました。『Ustream』は双方向であるため、情報を持っている人や発信したい人が、それを必要としている人に対して送り届ける強力な手段になり、しかも簡単に国をも越えてしまいます。しかし『Ustream』自体は、自分たちが番組を制作するメディアではなく、あくまで映像配信サービスのプラットフォームです。『Ustream』を使って情報を発信したい人、その情報を受け取りたい人の間に立ち、サービスプラットフォームをより使いやすくしていくことが、我々の使命であると考えています」

Ustream Asiaでは今回の震災で得た教訓を踏まえ、より強固なプラットフォームとするため、技術や組織をはじめとした物心両面で、さまざまな強化を図っています。また、「Ustream Studio+」(ユーストリーム・スタジオ・プラス)の展開、パソコンやスマートフォンがなくても簡単に「Ustream」で配信できる「Ustream認定配信関連機器」の展開、韓国KT社との合弁会社Ustream Koreaの設立など、積極的に活動しています。
今後のUstream Asiaに、どうぞご期待ください。

(掲載日:2011年11月18日)

[注]
  • *内容は掲載当時の情報です。記載されている会社名、サービス名、肩書などは現在と異なる場合があります。