プロジェクトPickUp 2010年

ITが教育サービス業界に新しい波をつくるデジタルペンとインターネットを用いた
「プロセス指導」学習システム

ソフトバンクBB株式会社 情報システム本部 システムサービス事業統括部
ラーニングソリューション部 部長
尾形 修(おがた おさむ)

ソフトバンクBB株式会社(以下 ソフトバンクBB)は、株式会社Z会(以下 Z会)と共同で、Z会の高校生向けWEB講座において、専用のデジタルペンとインターネットを用い、解答プロセスの可視化を図る「プロセス指導」の学習システムを開発しました。このシステムの活用により、生徒のつまずきに合わせた学習指導が可能になりました。このようなプロセス指導は、教育サービス業界初の試みです。この学習システムの企画・開発を担当した、ソフトバンクBB 情報システム本部 システムサービス事業統括部 ラーニングソリューション部 部長 尾形 修に、開発におけるこだわり、ITを活用した教育支援の今後についてインタビューします。

デジタルペンを用いた解答で、受講生の思考プロセスをデータ化し分析

インタビュアー:
デジタルペンを使った「プロセス指導」の学習システムとは、どんなものなのでしょうか?
尾形:

プロセス指導の学習システムは、WEBミーティングを使用した「リアルタイム指導」と、ラーニングマネージメントシステムを使用した「オンデマンド学習」で構成されています。WEBミーティングでは、受講生はデジタルペンを使用して解答し、講師はリアルタイムで解答プロセスを把握することができます。また、デジタルペンの新機能「タイムスタンプ機能」*1を通じて、講師側は、オンデマンドでも解答プロセスを把握することができます。この解答プロセスを把握して指導を行うプロセス指導は、Z会の「嫌いでなくなる数学WEB講座」(2009年8月開講)で、2009年12月より実施されています。

本システムで使用しているデジタルペンは、MVPenテクノロジーズ社協力のもとに開発した「タイムスタンプ付MVPen」です。これをパソコンに取り付け、クリップになっている付属のユニットを答案用紙にはさみ込むだけで、受講生にとって単なる黒ボールペン(=デジタルペン)で書いた文字を、そのまま講師側のパソコン画面に表示させることができます。紙はどんなものでも構いません*2。また表示画面では、書き始めからの思考プロセスをデータ化する「タイムスタンプ機能」によって、書かれた文字列を、思考に費やした時間ごとに色分けした静止画で表示できるほか、動画として書いたとおりに再生することもできます。

従来の通信教育では、講師は受講生の答案用紙を受け取るだけで、生徒が答えを書いた順番や、解答につまずいたポイントを把握する仕組みがありませんでした。それが、「タイムスタンプ機能」によって、「10分悩んだポイント」「いったん飛ばした後、再度トライした設問」など、解答プロセスにおけるつまずきが一目で見えるようになりました。これによって講師は、受講生の弱点にフォーカスした指導を行うことができます。

インタビュアー:
開発はどのようにスタートし、推進されたのでしょうか?
尾形:

一昨年、Z会にWEBミーティングを使った遠隔指導をご提案させていただき、共同研究がスタートしました。まず、WEBミーティングとデジタルペンを使用した指導のトライアルを、小学生向けの講座で実施。その結果をもとに、より教育向けの特色を出したWEBミーティングの開発、デジタルペンへの「タイムスタンプ機能」の付加、ラーニングマネージメントシステムの導入を図り、高校生向け講座での導入に向けて、準備を進めました。

小学生向けの講座では、「1対1」での指導でしたが、Z会より「1対N」という形態でも、「1対1」と同等な教育効果を実現したいというご要望をいただきました。そこで、「1対N」の講座中に、いつでも「1対1」の個別指導を実施できる仕組みを入れ、当事者以外に指導の声が聞こえないようにする機能を追加しました。また講師の方が、指導に集中できる環境整備のため、操作の簡略化にもこだわっています。Z会と何度も重ねた議論の末、タイムスタンプ機能も含めて、求めるシステムが完成しました。

教育にもデジタル情報革命を

インタビュアー:
プロセス指導を受講した生徒の皆さんの反応はいかがですか?
尾形:

「通塾の時間が不要」「夜遅くでも受講できるため、部活動と勉強を両立できる」「分かるまで説明してもらえるので数学嫌いが直った」「講師との適度な距離感がよい」などの意見が多数寄せられ、通信教育・個別指導塾・家庭教師のそれぞれの特長を取り入れた新しい可能性を感じています。解答プロセスの把握による、ポイントを絞った適切な指導も、好評に寄与している要素のひとつだと思います。

今回開発したプロセス指導の学習システムは、ロジックを組み立てて思考する学科に非常に有効です。数学に限らず、英作文や小論文など思考力を鍛える学科での指導に、特に役立つツールになっています。今後もご要望にお応えできるよう、システムなどさまざまな面で進化させていきたいと思っています。

インタビュアー:
今後の展望をお聞かせください。
尾形:

現在の日本では、収入が年齢とともに上がっていくという前提が崩れているにもかかわらず、子どもへの教育費用は、高等教育に向けて増加していく構造のままです。このままでは補完教育を受けさせられないということさえありえます。また「教育における地域間格差の解消」も、教育支援に取り組む意義のひとつです。講師不足などの理由によって、高度な補完教育を受ける機会に恵まれない地方の子どもたちでも、インターネットを使った遠隔指導を利用することで、高いスキルを持った講師の指導を受けることが可能になります。

今、必要なことは、低価格で良質な補完教育を提供し、教育に新しい波を起こすことだと思います。私たち自身に教育のノウハウはありませんが、ITを活用したシステム面でのサポートはできると考えています。教育分野では、ITの導入が遅れています。先進的な取り組みも一部にとどまっていますので、私たちのさまざまな活動によって、インパクトを与えていきたいと考えています。

デジタル情報革命を通じて社会に貢献することは、ソフトバンクグループが掲げている経営理念でもあります。この革命を教育の分野でも起こすべく、引き続きチャレンジしていきます。

(掲載日:2010年2月8日)

[注]
  • *1コンピュータでファイルに記録されるワンストローク単位の筆跡データのこと。
  • *2用紙サイズA4以内。
  • *内容は掲載当時の情報です。記載されている会社名、サービス名、肩書などは現在と異なる場合があります。