プロジェクトPickUp 2014年

ソフトバンクのビジョンを実現する 愛のあるロボット「Pepper」の開発

ソフトバンクグループは、2014年6月5日に世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の開発と、2015年2月からの一般販売開始を発表しました。また2014年8月1日には、ロボット事業を専門にする会社として、新たにソフトバンクロボティクス株式会社(以下「ソフトバンクロボティクス」)が設立されました。今回、同社のプロダクト本部 PMO室 室長の林 要にインタビューしました

[注]
  • 当初、“「Pepper」の開発リーダーを務めるプロダクト本部 PMO室 室長の林 要”と記載しておりましたが、「開発リーダー」という表現は誤りのため該当部分を修正しました(2018年1月23日)

世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper」

「Pepper」開発までの経緯を教えてください。

林:2010年の「ソフトバンク 新30年ビジョン」発表後、ソフトバンクグループ代表の孫 正義は、ロボット事業のためにプロジェクトを立ち上げました。その後、人型ロボット工学の世界的な先駆者であるALDEBARAN Robotics SASと出会い、2012年より共同で「Pepper」の開発をすることになりました。私は、同年4月よりプロジェクトに携わることになり、現在に至ります。

ロボット開発を手がける企業が他にもある中で、ソフトバンクグループが目指すものは何でしょうか?

林:人型ロボットを手がける他社は“人間の動きが真似できる”ことに興味があるように思います。つまり、「二足歩行できる」「階段が上れる」「紙コップが持てる」といったことが重要であるのに対して、ソフトバンクグループは最初から「クラウドAI(人工知能)」を活用したコミュニケーションに重点をおいたロボットを目指しました。「クラウドAI」にこだわる理由は「情報量が多い=知性」になるからです。人の気持ちの振れなどといった情報をクラウド上に集積し、AIで処理するというプラットフォームを最初から目指してきたという点で、他社とは大きく違うと思います。

人を喜ばせることにこだわって開発された「Pepper」

「Pepper」の特徴について簡単に教えてください。

林:「Pepper」は人の動きを模倣するためではなく、あくまで人とコミュニケーションをするために開発されたロボットです。例えば、「Pepper」は二足歩行ではなく、あえて「オムニホイール」という360度どちらの方向にも移動できる特殊な車輪を採用しています。これはコミュニケーションを優先したためです。
まず二足歩行はバッテリーの持続時間に影響します。二足歩行でのバッテリーは30分から1時間程度しか持たないのに対し、このホイールであれば12時間持続させることができます。「コミュニケーションしたい」と思ったときに「Pepper」が充電中で反応できないようなことが続くと、人はコミュニケーションを気軽に取らなくなります。また「Pepper」は、ソフトバンクショップでの配置を考慮して開発されました。これまでのパーソナルロボットの多くが、専用エリアで、しかも監視者がそばにいるような限定的な環境で動作しているのに対して、「Pepper」は店内に放置されているようなものです。小さなロボットならまだしも、「Pepper」のように大きなロボットが自律的に動くためには、安全性に細心の注意を払う必要があります。より安定的に、かつ人の呼びかけに素早くスムーズに反応するだけでなく、不意な接触にもバランスを保てるよう安全性も確保しました。人に気軽にコミュニケーションをとっていただくという目標を達成するため、「Pepper」は考え抜いて設計されています。

また、人とより良いコミュニケーションをするためには、心を開いてもらう必要があります。例えば、「Pepper」と話をすると目が合います。実は「目が合う」ということは非常に重要で、人は目が合って初めて「自分に意識が向いている」と思うわけです。スマートフォンの画面に向かって同じことをしても、そこまでの感情移入はできません。人と接する体験と近いインターフェースの上で、さらに人の感情に応じた反応ができれば、人はロボットにも愛着を持って接することができるのではないでしょうか。私たちが誰かと話すとき、必ず相手の目を見て相手の気持ちを考えながら話します。「Pepper」も相手の目を見て、さらに相手の表情と声から感情を認識することができます。そのような意味でも、「Pepper」は、人と親しくコミュニケーションを取るために、新しい種類のインターフェイスとして設計されています。

ユーザーインターフェースという点では、「手」も同様です。従来型のロボットでは、手に物をつかませるためには、指一本一本にアクチュエーター(駆動装置)を搭載し、指の動きを制御します。一方「Pepper」の手は、物を持ったりつかんだりするためのものではなく、身振りや手振りなどのコミュニケーションの一部という発想で作っています。もちろん、何かをつかめるように開発することは可能ですが、それをするとコストが上がり、生産性が低下し、安全性のハードルも高くなるため、現状の技術では大規模展開が困難になります。実際、「Pepper」の手を触ると非常にしなやかですが、それはお客さまに危害を与えないだけではなく、滑らかな動きを可能とするためでもあります。お客さまは「Pepper」を見ながら会話しますから、「Pepper」の手の動きなどが不自然だと違和感を持ってしまいます。そうならないよう、「Pepper」はこだわりを持って設計されています。

開発において注力した点や苦労した点などを教えてください。

林:安全面も苦労しましたが、一番苦労したのは「どうしたら人を喜ばせられるのか」という点です。「Pepper」のキャラクターは、外見形状や性能とも密接に関係するものなのですが、実は開発初期の段階では、そのことを理解できていませんでした。そのために試行錯誤を繰り返すことになりました。最初のうちは、さまざまなことにチャレンジしてみるものの、「何となくフィットしていない」という違和感がありました。そうした違和感を直すためには、キャラクター面も直さなければいけませんし、ロボットの性能に関係するOSやハードウエアにも手を加えなければいけません。多くの機能をすりあわせてバランスを取りながら改良を加えていく作業は、緻密で地味で、そして途方もない作業でした。しかしながら、暗中模索からのスタートだったおかげで、今ではノウハウが随分たまり、次からはかなり効率的に開発できると思います。

今後の展望についてお聞かせください。

林:まずは第一歩を踏み出すことができました。今後、ロボット産業が円滑に立ち上がるためには、相当なハードルがまだあると思っています。その第一線でソフトバンクロボティクスが円滑に立ち上がれるかどうかは皆さまからのさまざまな面でのご協力がなければ成し得ないと思っています。われわれも答えを探している部分もありますが、皆さまからご好評をいただき、第一歩を踏み出せたことは大変幸運です。これからも、皆さまにはぜひ「Pepper」の保護者になったような気持ちで、見守り応援いただけたら幸いです。

(掲載日:2014年8月22日)

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