Blogsブログ

ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

#AI-RAN #コアネットワーク #AI #次世代通信
#モバイルネットワーク #GPU仮想化

Scroll

1. モバイルネットワークの仕組み

皆さんはスマートフォンで利用しているSNSや電話が、どのような仕組みで実現されているかご存知でしょうか?おそらく皆さんが目にすることができるのは、スマートフォンと無線基地局のアンテナだけでしょう。しかし、その先には通信事業者が全国に張り巡らせた広大なモバイルネットワークが広がっており、さらに先にはインターネットや電話網が繋がっています。この記事ではモバイルネットワークの基本的な構成と仕組みを説明します。その上で、次世代のモバイルネットワークの実現に向けたソフトバンクの先端技術研究所の取り組みについて紹介します。

モバイル通信の仕組み 篇 | ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

モバイル通信の仕組み 篇(日本語字幕)

モバイルネットワークは、主にUE、RAN、CN、TNによって構成されています。これらの構成要素が互いに協調することによって、皆さんのスマートフォンはインターネットや電話網に繋がっています。下記に各構成要素の仕組みについて簡単に説明します。

モバイルネットワークの仕組み | ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

UE(User Equipment)は、スマートフォンやタブレットなどの端末の総称です。UEは電波を利用してモバイルネットワークに接続し、データや音声を送受信します。モバイルネットワークへの接続に際しては、端末の認証や通信の暗号化などの制御も担当します。 RAN(Radio Access Network)は、UEと電波を利用して通信する無線基地局の総称です。RANは、アンテナを介した電波の送受信や無線の信号処理だけでなく、多数のUEが同時に通信するために無線資源の効率的な管理や、移動しながら通信するためのエリアカバレッジの管理を担当します。 CN(Core Network)は、UEが送受信するユーザーデータの転送や、UEの通信プロトコルの処理を担う機能(Network Function)群の総称です。CNは複数のRANと接続され、ユーザーデータをルーティングし、インターネットや電話網など他のネットワークに接続する役割を担当します。また、ユーザー認証や課金の管理、セキュリティ管理などの通信プロトコル処理も担当します。 TN(Transport Network)は、RANとCNの間を接続するネットワークの総称です。TNは、日本全国に張り巡らされた光ファイバーと、それらによって接続されたネットワーク装置によって構成され、日本中に設置されたRANがCNを介してインターネットや電話網に至るまでのパスを担当します。

モバイルネットワークでよく聞く4Gや5Gといった用語は、UE、RAN、CNが進化する過程における世代(Generation)を示しています。これらの世代は約10年に一度の頻度で刷新されます。現在は5Gが最新の規格であり、世界中の通信事業者が商用展開しています。そして、今後は6Gに向けた研究開発や標準化が行われ、2030年頃には5Gと並行して商用展開されていくと考えられています。

2. コアネットワークのステートレス化

背景(Beyond 5G/6Gに向けた期待と課題)

Beyond5G/6Gに向けてモバイルネットワークを使った重要なユースケースの一つに、デジタルツインが挙げられます。デジタルツインは、現実社会のさまざまな情報をデジタル化し、そのデータを収集して仮想空間を形成することで、最適化に向けてシミュレーションする環境です。デジタルツインを実現するには、至るところに設置された多数のセンサーから、24時間365日休むことなくデータを収集する必要があります。したがって、今後のモバイルネットワークが果たすべき重要な役割として規模性と堅牢性が挙げられます。

現在のCNはスマートフォンやタブレットをはじめとした数千万のUEと、数十万以上のRANを集中的に管理していますが、6Gに向けては、センサーなどのIoTデバイスを含むUEの数が数億台に増加すると予想されています。このようなUEの増加に対応した規模性と、24時間365日止まることのないサービスの堅牢性を提供するには、5Gで標準化されたCNの構成では課題があります。最も大きな課題の一つは、CNは複数のNF(Network Function)によって構成されており、それぞれのNFが個別に多数のUEの状態(ステート)を維持管理している点です。全てのNFが正常に動作している間は大きな問題は起きませんが、いずれかのNFに障害が発生した場合、関連する全てのNFに対して想定を超える負荷が掛かります。その結果、CNの輻輳(処理の混雑)が発生して機能不全に陥ることで、全国のあらゆるUEに対して大規模な障害が発生します。

ソフトバンクの先端技術研究所の取り組み(プロシージャ型5GC)

このような課題に対して、ソフトバンクの先端技術研究所では、ウェブとクラウドの技術を最大限に活かした全く新しいCN(プロシージャ型5GC)を開発しています。開発に当たって我々が着目したのは、1秒間に最大1億件以上の決済処理を遅滞なく実行している大手ECサイトの購買イベントの規模性と堅牢性です。これらのECサイトの特長は、処理に対して単一の機能が責任を持ち、個々の機能をステートレスにすることで、クラウドコンピューティングの機能を最大限に活かしている点です。我々はこれらの特長をモバイルネットワークに適用するべく、CNの構造を再構成することにしました。具体的に取り組んだ内容は下記の通りです。

CN全体機能を手続きごとに分割
既存のCNでは複数のNFが連携することによって実現されていた手続きの群れを、単一の手続きだけを責任を持って処理する小さなソフトウェア(Procedure Function)に分割しました。
Procedure Functionのステートレス化
各手続きが持つUEやRANの状態(ステート)をProcedure Functionから分離して外部のデータベースで共通して管理するようにしました。
Procedure Functionのリアクティブ化
既存のCNはNFが常駐して手続きを待ち受ける方式でしたが、プロシージャ型5GCでは手続きが来た時にはじめてProcedure Functionを実行するようにしました。

これらの取り組みによって、CNを大手のECサイトと非常に似た構成に変更することができました。結果として、クラウドコンピューティングの機能を最大限に生かし、コンピューター資源がある限り、規模の制限なくUEやRANの接続が可能になりました。また、仮にProcedure Functionに不具合があった場合でも、既存のCNのように全体に被害が波及するような事態も発生しないので、障害の局所化が可能になります。

モバイル網のステートレス化 篇 | ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

モバイル網のステートレス化 篇(日本語字幕)

これまでの成果と今後の予定

本研究開発のこれまでの成果として、電子情報通信学会のNS(Network Systems)研究会で、コンセプトや設計、基本性能の評価を発表しました。

プロシージャ型処理を用いたステートレスな5Gコアネットワークの実現 NF型5GCソフトウェアを用いたステートレスなプロシージャ型5GCの実装 ステートレスな5Gコアネットワーク実現に向けたデータ構造の設計

また、同内容を取りまとめてIEEE International Black Sea Conference on Communication and Networkingに論文として投稿し、採録が決定しています( https://blackseacom2023.ieee-blackseacom.org/ )。

今後は、実機のRAN装置やUEとの相互接続検証、パブリッククラウドを活用した規模性の評価の実施、実験局を利用した実運用の評価を予定しています。また、これらの実証実験から得られた知見を標準化団体に対してフィードバックすることも検討しています。

3. GPUを使った仮想化

背景

増え続ける通信のニーズを支えるために無線基地局は絶えず進化をしてきました。しかし、これまで基地局は専用のハードウェアで作られていたため、基地局の進化はハードウェアベンダーに依存していました。これに対して、専用のハードウェアで実装されていたものをハードウェアとソフトウェアに分離し、汎用のコンピューター上に基地局をソフトウェアとして実装する技術がvRAN(virtual Radio Access Network)です。vRANによりソフトウェアの更新のみで機能を追加することが可能となるため、通信ニーズに対して迅速にかつ容易に対応できるようになります。
ただし、無線信号のデジタル処理については汎用コンピューターで実行するには処理速度が足りず、この処理に特化したハードウェアモジュール(アクセラレーター)を汎用コンピューターと組み合わせることが不可欠です。
アクセラレーターの種類にはASIC/FPGA/DSP/GPUなどさまざまなものがありますが、柔軟性と性能の間にはトレードオフの関係があり、それぞれバランスの異なる特徴を持っています。性能に特化すると基地局の機能進化が困難になったり、逆に柔軟性を持たせると消費電力が大きくなったりするといった課題があります。

ソフトバンクの先端技術研究所の取り組み

このような課題に対して、ソフトバンクの先端技術研究所では、GPUをアクセラレーターに利用することで柔軟性と性能のトレードオフの解決に取り組んでいます。
GPUは他のアクセラレーターに比べ、AIの推論や学習、3DグラフィックなどvRAN以外のアプリケーションを効率的に利用できます。これによりvRANが実装されたモバイルネットワークの基盤を利用して、さまざまなアプリケーションのためのMECの拠点にすることも可能になります。
ソフトバンクでは、2019年からGPUをvRANに利用するための取り組みを行っており、これまでにアクセラレーターとしての性能検証、MEC/AIとしての効果検証および、vRANとMEC/AIを共存させた検証を行っています。取り組んできた具体的な内容は以下の通りです。

L1アクセラレーター性能検証
上り(UEからRAN方向)および下り(RANからUE方向)のデータ通信をシミュレーションし、処理速度と消費電力を測定して、5Gの通信性能として求められる低遅延処理時間を満たすとともに、消費電力を低く抑えられることを確認。
MEC AI(Maxine)効果検証実験
「NVIDIA Maxine」を活用し低解像度(180p相当)の映像を伝送して、MECサーバーでAIによる“超解像”処理を行い、高解像度(720p相当)の映像を生成できることを確認。MECサーバーを活用しない場合と比較して、小さいネットワーク帯域幅で同等品質の映像配信を実証。5Gの上り通信に対するAIとMECの有効性の証明。
AI-on-5G Lab.の開設
5GのvRANおよびMECが融合した仮想化基盤環境で、AI技術を含むさまざまなソリューションの実証やビジネス領域への技術応用を行うことができる研究施設「AI-on-5G Lab.」を開設。
vRANとMEC AIを共存させた検証
vRANと画像処理MECアプリケーションのEnd-to-End接続検証を実機にて成功。また、vRANと同一ハードウェア構成にて、AIでのリアルタイムの人物検出に成功。


2023年5月、生成AIと5G/6Gに向けた次世代プラットフォームの構築を目指してNVIDIAとの協業を発表しました。vRANやAIなどさまざまなアプリケーションの需要に応じてコンピューター資源を動的かつ効率的に割り当てる機能の開発と検証や、vRANの無線資源や消費電力のさらなる最適化に取り組んでいく予定です。

GPUを使った仮想化 篇 | ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

GPUを使った仮想化 篇 (日本語字幕)

これまでの成果

NVIDIAのGPUを活用した5G仮想基地局の技術検証を実施 5GとMEC、「NVIDIA Maxine」を活用して映像を“超解像”する実証実験に成功 完全仮想化されたプライベート5Gの商用化に向けて研究施設「AI-on-5G Lab.」をNVIDIAと合同で開設 GPUを利用したvRANの実証実験に成功 NVIDIA、ソフトバンクの生成AIと5G/6G向け次世代データセンターでのGrace Hopper Superchip 活用に向けソフトバンクと協業

4. RAN制御機能の研究

背景

モバイル通信では世代を重ねるごとに接続されるデバイスの多様性が増し、さまざまなサービスを提供できるようになってきました。それに対応するように新しい周波数が割り当てられ、通信の品質や速度の向上と改善がなされています。
一方で課題もあり、広いエリアカバレッジ構築に適した低い周波数帯は、モバイル通信の他にもさまざまな用途に用いられているため空きがなく、今後も容易に獲得することはできません。また、さまざまな用途で無線通信が利用されるようになったことやデバイスの進化に伴って通信量がますます増加することにより、無線インフラの混雑によって引き起こされる通信速度の低下が懸念されています。
有限な周波数資源の中で通信品質を担保し、無線インフラの投資効率を高めるためには、周波数利用効率の向上が重要となります。

ソフトバンクの先端技術研究所の取り組み

さまざまに変化する通信のデマンドに対して、その瞬間その場所で適切かつ効率的な無線リソースの割り当てを可能とする無線インフラの実現のために、ソフトバンクの先端技術研究所では基地局間協調技術に着目して研究開発を行っています。
例えば、SFN(Single Freqency Network)と呼ばれる技術があり、基地局間協調技術の一つです。通常、周辺の基地局が送信する信号はノイズとして受信信号の品質を下げる要因となりますが、SFNでは隣接し合う基地局同士が連携・協調しあって、巨大な一つの基地局として動作することでノイズ信号を抑制し受信信号の品質を向上させます。また、UEが移動することで発生する基地局間の切り替え(ハンドオーバー)も発生しないため、切り替えによる信号処理が削減されることで、ユーザー体感向上のみならず無線・コンピューターの両方の資源利用効率も改善されます。
多くの基地局を管理・制御する基地局間協調機能部が、RAN情報だけではなく場所ごとの季節/時間/天候によって変化するユーザーデマンドの推定を加えた統計/分析/学習を行うことは、ユーザーデマンドに応じるだけでなく柔軟かつ効率的な無線インフラの実現に向けて非常に重要となります。これらをAI処理して最適なRANの制御プロファイルを導き出すことで、同じ場所でも時間によって連携・協調をしあう基地局の組み合わせや基地局内部処理リソースを柔軟に変化させたり、より高効率な無線リソースに割り当てたりすることもできるようになります。
事業者のみならずユーザーにとっても満足度の高い次世代の無線インフラの構築に向けて、前述のような多様なアプローチで研究を行っています。

RAN制御機能の研究 篇 | ソフトバンクの次世代モバイルネットワークの実現に向けた取り組み

RAN制御機能の研究 篇(日本語字幕)

Research Areas
研究概要