HAPS飛行実現のための航空気象とその重要性

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1. 対流圏の特徴と航空機への影響

一般的な航空機は、対流圏と言われる地上から高度10〜16kmまでの大気内を飛行します。対流圏はその名の通り対流がある大気層です。地球表面は太陽熱射により暖められますが、緯度により太陽入射角が異なるため暖められる量が異なります。これを均一化させるための対流により、風が吹いたり雲ができたりジェット気流が発生したりするのが対流圏の特徴です。
航空機は翼に風を受けて揚力を発生させるため、対流に大きく影響を受けます。しかし対流は地形等の様々な条件で乱れることがあり、この乱れは機体の揺れとなって現れます。また、風が強い場合は機体が流されることもあり、補正のために余計な推力を必要とすることもあります。
その他にも積乱雲や台風、雷なども航空機にとって大きな脅威となります。
このように航空気象は航空の安全と効率を支える重要なものです。

2. HAPS航空機の構造と飛行特性

皆さんが想像する航空機は沢山の乗客や荷物を満載して高速で飛行するイメージではないでしょうか?
実際、大型旅客機の重量は約300トンもあり、巨大で大出力のジェットエンジンで時速約900kmの高速で飛行しています。
HAPS航空機はどうでしょうか?滑空特性を上げるため極限まで機体重量を軽くし、グライダーのように翼幅が長い構造。速力は自動車並み。ソーラー発電によるモーター推進と、一般的な航空機とはかなり異なる性能・構造となっています。そして一番の違いは気圧が地上の1/20である成層圏をソーラー発電のみで数ヶ月間飛行する航空機であることです。まさに自足自給をする航空機であり、地球環境に非常に優しい航空機でもあります。
このように特殊な環境で特殊な性能・構造を持つ航空機が、具体的にどのような環境を飛行するのかを次に見ていきます。

HAPSの機体 | HAPS飛行実現のための航空気象とその重要性

3. HAPS航空機が直面する特殊な気象条件

皆さんが生活している地上の温度は場所や高度で大きく異なりますが、国際的な標準大気状態では摂氏約15℃です。一般的に高度の上昇と共に温度は下がり、-100℃近くまで下がることもあります。そして成層圏との境である対流圏界面付近から上昇に転じます。
つまり地上から成層圏まで行き来するHAPS航空機は15℃から-100℃までの温度差に耐えうる構造でなければなりません。地上が30℃を超える地域もあるので、その場合は更に温度変化の範囲が広がります。

成層圏の気温変化 | HAPS飛行実現のための航空気象とその重要性

また対流圏にはジェット気流が存在します。地域により大きく変わりますが、時速200kmを超える風が吹く場合もあります。HAPS航空機は自動車並みの速度のため、ジェット気流に流されてしまいます。特にジェット気流付近は大気の乱れで揺れることもあり、速力が遅く、特殊な構造をしたHAPS機体にとっては大きな脅威となります。
また常に太陽光を受けながら飛行する必要があり、そのための機体姿勢や飛行ルートも風速により大きく影響してきます。
まさにHAPS航空機は自然と協調しながら飛行を行うことになります。

成層圏の風速変化 | HAPS飛行実現のための航空気象とその重要性

4. 成層圏は成層なのか?

成層圏は高度10~16kmから約50kmまでの大気層であり、HAPS航空機の運航は高度20km付近を想定しています。成層圏は名前の通り各高度の大気層が交じり合わない、つまり対流がなく大気が非常に安定した成層であると言われています。また対流圏のような雲の発生もありません。
前述のようにHAPS航空機は特殊な性能・構造であるため、雲がなく気流の安定した成層圏を飛行することは理想的と言えます。しかし成層圏は本当に安定しているのでしょうか?

実際はある程度の乱流や強風が発生する場合もあり、雷電現象があることも分かってきています。HAPS航空機は地上の通信エリアを確保するため、風に流されることがなく一定の場所に留まる性能が求められます。また機体が大きく揺れると地上の通信エリアが変化したり、搭載通信機器へのダメージも懸念されるため、成層圏の気象状況を把握することが重要となります。しかし成層圏を飛行する航空機は圧倒的に少なく、専用の気象観測も行われていないため詳細な状況がまだよく分かっていません。
このように、地上では20kmの距離はすぐ近くですが、高度20kmの成層圏は人類にとってはまだまだ未開な空域なのです。

5. HAPS飛行に影響を与える環境脅威

HAPS航空機が飛行する上で、風や温度、雷電現象などを説明しましたが、他にも留意が必要な現象があります。それは火山灰や紫外線、オゾンなどです。
大規模な火山噴火では火山から放出された灰やエアロゾルが成層圏内に数ヶ月から数年にわたって留まることがあるため、HAPSの長期間飛行に影響を及ぼす可能性があります。また高高度なため紫外線やオゾンによる機体素材への影響にも対応が必要です。

6. HAPS成功の鍵は気象

HAPS航空機は、高温の地上から、ジェット気流や乱流にさらされながら上昇し、途中約-100℃まで下がる極低温域を抜け、紫外線やオゾンにさらされる地上気圧の1/20である成層圏に到達します。自動車並みの速力であっても風に負けず、一定の場所で長期間安定的にサービス提供するミッションをクリアしなければなりません。
まさにHAPS成功の鍵は気象にあると言っても過言ではありません。
我々ソフトバンクではHAPSの安定した商用サービス化を目指し、気象現象の研究に取り組んでいます。

航空気象 | HAPS飛行実現のための航空気象とその重要性

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