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AIによるRANの進化 ~ AI for RAN ~

#AI-RAN #AI #ML #RIC #チャネル補間

2020年に5Gが商用化され、5Gの電波が使えるエリアは拡大していますが、当初期待されていたパフォーマンスが十分に発揮されているとは言えない状況です。そこで、AI(人工知能)/ML(機械学習)の力で5Gを進化させる取り組みが盛んになってきています。3GPP Release18以降の5G-Advancedでは、AI/MLによる最適なネットワーク全体のオーケストレーションを実現する機能への取り組みや、AI/MLによる無線アクセスネットワーク(RAN)の性能を改善しようとする取り組みなどが検討されています。また、既存のネットワークにおいても、RANの運用の効率化やパラメータ設定の自動化などにAI/MLの導入が進んでいる状況です。
本記事では、ソフトバンクが提唱しているAI-RANにおいて、AI/MLを適応することでRANの性能を最大限に発揮させようとする機能全般を「AI for RAN」と定義し、その「AI for RAN」が目指す方向性や具体的な研究開発事例などをご紹介します。

1. AI/MLによるRANの高度化の現在

RANの最適化や運用の自動化などにAI/MLを組み込み、制御する仕組みとして、RIC(RAN Inteligent Controler)がO-RAN Allianceを中心に検討されています。O-RAN AllianceのRANアーキテクチャでは、基地局のパラメータ設計と設定、および運用の自動化・最適化を行う論理ノードとして定義されており、RANを構成するRU(Radio Unit)、DU(Distributed Unit)、CU(Central Unit)などの各ノード間とRICとのインターフェースはオープン化され標準化されています。これにより、大手基地局ベンダーとは異なる多くの新興ベンダーがこの市場に参入しようとしており、競争が激しくなってきています。

RICはRU/CU/DUなどのノードからデータを収集し、そこからAI/MLが最適なRANの制御手法や運用の最適化手法を指示しますが、具体的にはNear-RT-RICと、Non-RT-RICの2種類のRICが定義されています。

Non-RT-RICは中央のセンターなどに配備されることを想定され、多くの基地局からのデータを長いスパンで収集したデータから、AI/MLが最適なRAN制御ポリシーを決定し、RANにその指示を出し制御するようなユースケースが検討されています。

Near-RT-RICはRANのCUやDUと同一の場所に設置されることが想定され、通信を実施しているCUやDUからほぼリアルタイムで情報を収集・解析することで、短い時間(10ms~1秒程度)でRANを制御し、無線性能の向上を実現するなど、さまざまなユースケースが検討されています。

しかし、これらの標準的なRICによってRAN制御を実現しようとすると、現実的なハードウェア性能により、RANからのデータ収集の周期やそのデータ量を転送するのに時間がかかってしまい処理が間に合わない可能性があります。また、収集したデータをAI/MLを使って解析するためには十分なCPU/GPUの処理能力が求められるため、そのための専用なハードウェアをRAN装置とは別に導入する必要があるなど、性能向上とコストとのバランスを実現する上で解決すべき課題がたくさんあります。

2. AI-RANにおけるAI for RANとは

今回ソフトバンクが提唱しているAI-RANとは、データセンター内の十分な計算処理能力を有するハードウェアリソースを仮想化し、その上にRANとAIアプリケーションを重畳させることで、トラフィックなどに応じた柔軟なリソースの割り当てを実現する技術です。これにより、設備投資の最適化や設備稼働率の最適化を目指しています。
また、多数の基地局を集約してRANとRIC/AIを同じプラットフォーム上に重畳させることによって、データ転送の課題や計算能力不足などの課題を解決することが可能となります。

データセンター内のハードウェアリソースを仮想化 | AIによるRANの進化 ~ AI for RAN ~

さらに、RANとRIC/AIが重畳されることで、Near-RT-RICでも実現の難しい数ms~μsオーダーでのリアルタイムでのRAN制御の実現が可能となります。

これにより、従来は端末からのアップリンクの無線信号情報から特定のしきい値やアルゴリズムでMCSやリソースブロックの割り当てを行っていましたが、ここにAIによる予測やリアルタイムのデータ分析を組み合わせることによって、リアルタイムで無線環境を把握できるようになります。そこに最適なMCSやリソースブロックの割り当てを実施することで無線スケジューリングが最適化され、結果的にユーザースループットやユーザー体感の向上が期待されます。

また、多数の配下の基地局からデータを収集し、AI/MLで学習・制御することにより、複数基地局が連携し、その配下のエリア全体における基地局の送信パワーとビームフォーミングの調整、干渉波抑制制御などを実現することができます。これにより、パケ詰まりの抑制やMIMO率の向上、柔軟なキャリアアグリゲーション(CA)の組み合わせなどが実現可能となり、こちらでもユーザースループットやユーザー体感の向上が期待されます。

さらに、計算機リソースの利用状況やRANからの情報だけではなく、時間や天候、イベント情報などの外部データを連携させて統計や学習を行うことで、デジタルツイン上でAI/MLによるユーザー動向の予測などを行い、事前に最適なRANパラメータへ設定を変更することも可能となります。

3. 無線低レイヤーへのAI活用事例 ー AIによるチャネル補間 ー

低いレイヤーにAIを活用する事例として、AIによるチャネル補間の事例を紹介します。基地局が密集していて、かつ接続する端末が多い環境では、複雑な伝搬環境によるマルチパスフェージングの影響で無線信号が歪んで品質が劣化してしまいますが、推定や補間の信号処理によってそれを改善できる場合があります。しかし、複雑な環境で大きく劣化した信号を元に戻すことは大変難しく、その場合スループットは著しく低下してしまいます。

そこで画像解析AIに用いられている超解像技術をRANの無線信号処理に応用し、無線信号の復元(補間)を行うことで、スループットの改善がどの程度可能かシミュレーションを実施しました。超解像技術AIを使ったチャネル補間において、実際の環境に即した無線信号データをシミュレーションで生成して学習を行い、構築したAIモデルにこれまでの基地局システムと同一のUL信号を入力してスループットとSINRの変化を確認しました。すると、従来の信号処理技術と比較して約30%のスループットの改善が確認できました。今後は実際のRANソフトウェア上でAIと連携した動作検証を実施する予定です。

AIによるチャネル補間 | AIによるRANの進化 ~ AI for RAN ~
RANの無線信号処理 | AIによるRANの進化 ~ AI for RAN ~

ソフトバンクでは、Non-RT-RICで制御するような基地局の高いレイヤーから、Near-RT-RICでも実現の難しい低いレイヤーまで、全てのレイヤーにAI/MLを適応することでRANの性能を最大限に発揮させることを「AI for RAN」と定義しています。

今後は、一つでも多くのAI for RAN の機能の研究開発を推進し、その実現に向けて取り組んでいきます。

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