- 01.6G時代の電波の新しい使い方
- 02.6G電波センシングの技術開発
- 03.ソフトバンクの6G電波センシングの取り組み
- 04.ソフトバンクが描くISAC普及の未来像
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6G時代の新しい電波の使い方~通信とセンシングの融合~
#6G #光無線/テラヘルツ #ISAC #センシング #レーダー
2024.03.22
ソフトバンク株式会社


Blogsブログ
1. 6G時代の電波の新しい使い方
現在、世界中でBeyond5G/6Gに向けた研究や標準化活動が進んでいます。その中で、通信用途以外にも電波を活用しようとする動きが加速しています。その一つに「ISAC(Integrated Sensing and Communication:通信とセンシングの融合)」と呼ばれる技術があります。
「センシング」という言葉は、広義には環境や物理的なデータを収集する広い分野を指しますが、その中でも我々は電波を使って位置情報や人の動きなどを捉える技術に着目しています。
これらを実現するための手法として、大きく二つの技術があります。一つは反射波を利用するRADAR方式、もう一つは電波の反射経路や変動を利用するCSI方式が挙げられます。それぞれの方式で特徴が異なり、ユースケースに合わせてどちらの技術を利用するのが効果的かなどの研究を行っています。

2023年6月にITU-Rから発表されたIMT-2030(6G)のユーセージシナリオ
2. 6G電波センシングの技術開発
2-1.RADARの技術
RADAR(以下「レーダー」)は電波を対象物に向けて発射し、反射して戻ってきた電波(反射波)を測定・解析し、対象物の測位を行う技術です。
電波は光の速度で空気中を伝わるため、電波を発射してから反射波を受信するまでの時間を測定することによって、対象物までの距離を計算することができます。

送信する電波の波形の違いによって方式が異なり、「パルスレーダー方式」と「FMCW方式」が有名です。
パルスレーダー方式
パルスレーダー方式は、電波のパルスを送信し、反射して戻ってきたパルスを受信するまでの時間を測定することで、対象物までの距離を測定する方式です。
パルスの長さが短いほど測定の精度(分解能)が上がるという特徴があります。

パルスレーダー方式
FMCW方式
FMCW方式は、時間とともに周波数が変化する電波(チャープ信号など)を用いる方式です。反射波を受信した後、送信波形との相関を取ることによって、電波を発射してから受信するまでの時間を計算し、対象物までの距離を測定することができます。
送信信号の周波数幅が大きいほど、測定の精度(分解能)が上がるという特徴があります。
通信規格では、最大400MHz幅を使うことのできるミリ波通信との相性が良く、3GPPにおいても、Rel-19の議論の中で仕様策定に向けた議論が行われています。

チャープ信号の波形(左:時間における振幅変化、右:時間における周波数変化)
2-2. CSIセンシング技術
CSI(Channel State Information)センシング方式は、受信した波形が、送信した波形と比べてどのように変化しているかを測定することで、電波が伝わる空間(以下「チャネル」)の状態を推測します。このチャネルの情報から、送信側と受信側の間にどのような変化が起きているかを計算・推測する技術です。
我々が日常的に利用しているLTEや5G、無線LAN(IEEE 802.11nなど)の電波では、OFDMと呼ばれる変調方式が採用されています。OFDM信号には、常に決まった周波数と時間で送信される「パイロット信号」と呼ばれる信号が含まれています。このパイロット信号がチャネルを伝わる間に、電力(電波の振幅)や、到達時間(位相)が変化しますが、この変化を読み取ることでそのチャネルに起きた変化を捉えることができます。

パイロット信号の振幅・位相の変化を取得することでチャネル(Hn)の状態や変化がわかる。
このとき、複数のアンテナを用いることで、より多くの情報を得ることができるようになります。
チャネルは人がその空間を動くだけでも変化するため、例えば人の有無や、寝る座る歩くなどの行動の識別についても検知することが可能になります。さらには、カメラの映像と合わせた学習を行うことで、人の輪郭まで再現するようなAIモデルの開発に成功した論文なども発表されています。
3. ソフトバンクの6G電波センシングの取り組み
ソフトバンクの先端技術研究所では2021年から「通信とセンシングの融合」に関する検討を開始し、2022年には、街を走る車や人を対象に、5G基地局を使って位置情報を取得することを目指した実験を行っています。
2022年に実施した屋外実験では、「センシングと通信の融合」の技術検証のため、高さ約8mのところに設置した基地局から5Gの変調信号を送信し、5G端末を搭載していない車や人からの反射波を受信して解析することでそれらの位置推定を行い、結果として誤差約2mの精度で車や人の位置情報を取得することに成功しました。
実験で得られたさまざまな課題を解決するため、今後も研究開発を進めていきます。

4. ソフトバンクが描くISAC普及の未来像
現在では、生活のいたるところに多くのカメラが存在しています。カメラで撮影した画像をAIで解析してその結果を利用するというアプリケーションが多いですが、カメラによるプライバシーの侵害が問題になっており、一部の施設では設置したカメラを撤去した事例もあります。
一方で、電波センシングの利点として、プライバシーの保護が挙げられます。
カメラほどの解像度が不要なアプリケーションでは、個人を特定できない程度の解像度で情報を取得することができる電波センシングが向いていると考えられます。
また、電波は回り込む特性を持っており、見通し外の変動も捉えられることが強みとして挙げられます。この特性を使って、物陰に隠れた侵入者の検知や、建物内に取り残されている人の検知などへの応用が期待されます。
しかし、センシング専用の機器を新たに導入したり、設備を維持するにもコストがかかります。ソフトバンクでは、通信事業者であることの強みを活かし、既存の基地局にセンシングの機能を追加することで、ISACを普及させていきたいと考えています。