- Blog
- HAPS
HAPSの高精度発電シミュレーション技術の重要性
#HAPS #高精度発電シミュレーション
2024.06.11
ソフトバンク株式会社


Blogsブログ
1. HAPSの高精度発電シミュレーションが必要な理由
(HAPSのエネルギー収支の解説はこちら)
ソーラーHAPSが飛び続けるには、発電量が消費量を上回る必要があります。モーターの電力消費量の予測は容易ですが、太陽電池の発電量の予測は複雑です。太陽は刻一刻と角度を変え、機体表面の太陽電池の設置角度はバラバラで、HAPS全体がヨー・ロール・ピッチの3軸回転運動をし続けるためです。予測が外れてエネルギーが不足した場合、サービスや機体の高度維持が困難になるため、HAPSのサービス実現には発電量シミュレーションの高精度化が不可欠です。
ソフトバンクは国立大学法人宮崎大学GX研究センターの西岡研究室と共同でHAPS発電量シミュレーションモデルを開発しています。同研究室で元々取り組まれていた、地上用移動体のシミュレーションモデルの知見を基に、ソフトバンクの成層圏環境や機体に関する知見を合わせて開発されたこのシミュレーションモデルは、機体のヨー・ロール・ピッチ方向の動きを再現し、太陽光の散乱や自己影の影響を考慮した3Dメッシュで日射量を正確に予測します。これにより、HAPSの飛行中の日射量とエネルギー収支を精密に計算することが可能となりました。
2. 成層圏光源モデルの補正と高精度化
HAPSが飛行する高度18〜24kmの太陽光スペクトルは、Air Mass 0である宇宙空間と概ね一致することが実測データで明らかになっています。しかし、これは太陽高度の高い時間帯のみ成立し、太陽高度が低い時間帯では大きな誤差が生じます。今回、コンピューター上に成層圏環境を再現し、大気の散乱および吸収スペクトルを補正し、任意の緯度・経度・高度・日時でのスペクトルや日射量を計算できる光源モデルを開発しました。このモデルを用いて高度20kmを再現したところ、光の直達成分・散乱成分はAir Mass 0(1366W/㎡)から1〜2%減程度の差であることが確認され、太陽高度の高い時間帯の実測では、確かにセンサーの測定誤差に紛れるレベルであることがわかりました。太陽高度の低い時間帯は成層圏特有の現象が多くパラメータの調整は難航しましたが、あらゆる緯度・経度・高度・時間帯において実測に近い光源モデルが完成しました。

3. 3Dメッシュモデリングの役割
機体上の太陽電池モジュールのサイズに基づいて、自動的に1メッシュを割り当て、メッシュごとの発電量を計算します。HAPSの翼上面は鞍型曲面であり、特に太陽高度が低い時間帯には複雑な自己影が発生します。予め、あらゆる方向からの光線による余弦損失や自己影の有無を想定しておく必要があります。無尾翼、単翼、タンデム翼、気球、飛行船といったあらゆるHAPS機体形状に対応できるよう工夫しました。

4. HAPS高精度発電アルゴリズムの基本構築と合理化
HAPSの飛行中に太陽電池の発電量を正確に再現するため、3次元空間を扱うテンソル、行列、ベクトルを用いたアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは、気圧や大気パラメータ、地面や雲からの反射を考慮し、太陽放射照度モデルと翼上面の太陽電池モジュールとの自動紐付けを実現します。また、翼の動的変形もモデル化することに成功しました。このアルゴリズムを得たことで、柔軟な構造をもつHAPSの太陽電池が受ける日射量を効率的に計算し、運航におけるエネルギー収支の精度を向上させることが可能となりました。

5. 高精度発電シミュレーションの結果と分析
ある条件下でHAPS翼面上の太陽電池の発電量を積算して算出した結果が以下のグラフです。地上で平面に設置された太陽電池では、太陽高度に対してどの方位からも余弦損失が同じであるため、等高線は同心円を描きますが、HAPSの翼面では、太陽高度が20度(日の出から3時間、日没前3時間程度)を下回ると、同心円が崩れることが分かりました。

航空機のヨー・ロール・ピッチの変化の出力影響のうち、以下は日の出直後の太陽が低い時間帯でヨー方向に360度回転させ、翼上の特定地点(A、B、C、D)の照射強度を示したグラフです。その結果、鞍型曲面が生む自己影による発電量減少も再現されました。

6. 高精度発電シミュレーションの総括と将来の可能性
HAPSは、通信、観測、災害対応など多岐にわたる分野での応用が期待されていますが、これらを確実にするには、飛行対象地域での正確なエネルギー収支予測が不可欠です。
今後もパラメータの微調整による精度向上、離陸から着陸までの全工程の再現、長期運用を想定した劣化などの過渡的な側面にも注目してモデルをアップデートしていきます。HAPSが高高度での安定した通信サービスを実現するためソフトバンクのHAPS研究チームは技術開発に邁進します。
執筆者:岡田行平