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ACTIVATORS TALK【USA編】グローバルな視点で未来を切り拓く。アメリカで活躍する若手研究者の挑戦

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先端技術研究所の研究員「Activators」が研究や開発、仕事について語る「Activators Talk」。第4弾は、20代でグローバルに活躍する先端技術研究所メンバー2人の対談をお届けします。アクセラレーテッドコンピューティングのパイオニアとして知られるNVIDIAとソフトバンクは、生成AIと5G/6Gによる次世代プラットフォームの構築に向け、2023年から協業を開始しました。川井雄登さんと田村峻さんは2024年4月から、アメリカ・カリフォルニア州にあるソフトバンクとNVIDIAが共同で立ち上げたラボ(USラボ)に着任し、「AI-RAN」の実現に向けて活動しています。日本とアメリカの橋渡しとしての役割をはじめ、グローバルエンジニアの一員として働くために必要な能力や心意気について聞きました。

<プロフィール>

「AI-RAN」の実現に向け、入社3年目で米拠点に着任

―2人は2022年にソフトバンクに新卒採用で入社し、先端技術研究所に配属となりました。エンジニアに興味を持ち、ソフトバンクを志望した経緯を教えてください。

川井:記憶をさかのぼると10代のとき、自律移動型ロボットの競技会「ロボカップジュニア」に出場したのですが、その頃からエンジニアに対する憧れはありました。大学に進学して以降は無線通信を学び、大学院で研究に没頭し、将来は通信業界に進みたいと思うように。ソフトバンクの採用面談では人事の方がエンジニアに対してすごく理解があると感じました。また、先端技術研究所の活動を知り、ここの一員になりたいと思いました。

田村:私は興味を持った方向へ進んでいったら自然と理系に進み、エンジニアになっていたという感じです。大学院では社会基盤学を専攻し、フランスに留学して交通の分野を研究。電動スクーターの利用データ分析や路面解析技術などを通してAIの研究を行っていました。それもあって、ソフトバンクとトヨタ自動車などが共同出資しているMONET Technologies株式会社(以下、MONET)の事業や研究に興味が湧き、ソフトバンクへの入社を志望しました。

―先端技術研究所における専門分野と研究内容について教えていただけますか?

川井:私は大学院の研究の延長線上で、モバイルネットワークの最適化や標準化に向けた研究開発に取り組んでいました。2年目以降は、ソフトバンクが通信やAIのリーディングカンパニーや大学と共に立ち上げた「AI-RANアライアンス」が掲げる「AI for RAN」のコンセプトのもと、AIの活用によって既存のRANの周波数利用効率および性能を向上させるための研究開発に携わっています。AIとRAN(Radio Access Network)の融合によって、世界中に存在する膨大なRANインフラを、AI基盤として再定義するイノベーションを推進するために活動しています。

田村:私はMONETの一員としてAIを用いた地図作成技術、なかでも3DマップやHDマップの研究開発に取り組んでいました。2022年11月のChatGPTのリリース前後、世界的に言語周りの生成AIの研究開発が加速しましたが、先端技術研究所内でもAI専属のチームが組織され、私もその一員に。今は「AI on RAN」という枠組みの中で、基地局から直接AIサービスを提供し、より低遅延なサービスの実現に向けた 研究や、「AI and RAN」という仮想化を用いたAIとRANの重畳に関する研究に携わっています。

2024年2月に、バルセロナで開催された世界最大規模のモバイル関連展示会「MWC2024」。
渡米前、川井さんと田村さんは世界各国から訪れた来場者にソフトバンクの先端技術をアピールした。

―2024年4月にUSラボに着任しました。辞令を受けたときの率直な感想はいかがでしたか?

田村:何となく前々から上司から探りを入れられてはいましたが(笑)、内示をいただいたときは驚きましたね。けっこう急でしたし。

川井:本当に急だったよね! 大慌てで引っ越しの手配や手続きをして、渡米の前日に家の引き渡しが完了したという(笑)。とはいえ、個人的にはとてもうれしい話でした。会社のバックアップを全面的に受けながらアメリカの最高の環境で働けるなんて、またとない機会。入社3年目の若手にも関わらず、こんなチャンスをいただけるのは、とてもありがたいことだなと思いました。

田村:私は、いつかIT業界の本場・アメリカで働きたいというミーハー心がもともとあったので(笑)。その夢が叶い、とても嬉しかったです。

粘り強いコミュニケーションで日米を橋渡し

―USラボでは、どのような体制で働いているのでしょうか?

川井:プロジェクトの立ち上げ時期ということもあり、少人数のチームで働いています。田村がAI、私がRANといった感じで大まかに専門領域を分担しながら、それぞれ多岐に渡る仕事を行っています。

田村: NVIDIAと協力し、さまざまなGPUを使ったソフトウェア開発や基地局の検証などを行っています。現状、先端技術研究所のエンジニアと連携することも多いので、私たちは日米間のコミュニケーションの橋渡し役も担っています。

―プロジェクトを進める中で、どのような楽しさや難しさがありますか?

川井:アメリカは仕事や意思決定のスピードが日本より断然早いので、そこは性に合っていて楽しいと感じます。日本は、リソースとスケジュールがある程度決まっている状態で目標を定めることが一般的ですが、アメリカはその逆の印象です。明確な目標や課題が先にあって、そのためにリソースを集めたり、スケジュールを組み立てたり。ただ、立場上、日本側のスケジュールとアメリカ側の想いの板挟みになることが多く、そこは大変でもあります。

田村:言語や時差の壁があるから、橋渡しは一筋縄ではいきません。言語は通訳できても、想いや文化まで伝えきれるとは限らない。双方に理解や納得してもらうために、私たちが粘り強くコミュニケーションを取ることが大事だと思っています。

―そもそも2人は英語への不安はなかったのでしょうか?

田村:そうですね。私はフランス留学で英語を使っていましたし、どちらかというと楽観的な方なので不安はありませんでした。

川井:私は英語力に自信がなかったので、着任前はやっていけるのかという不安はありました。ただ、着任の前に海外出張があり、英語を使って仕事する経験を積めたので、着任後もスムーズに仕事ができましたね。

田村:アメリカに来てから上司やこちらのメンバーと日々議論する中で、お互いの英語力は格段に上がっているはずだよね。

川井:そうだね。特に専門用語は世界共通だから、私くらいの英語力でも議論できると感じますね。あとはもっとボキャブラリーを増やし、より議論を深めていきたいと思っています。

―アメリカの研究環境や施設面で驚いたことはありますか?

田村:やっぱり数々の高性能なGPUを用いて、さまざまな検証を行えることはエンジニア冥利につきますね。

川井:それに加え、USラボのある敷地がとにかく広くて驚きました。ランチに行くにしても、自分が好きな食堂に行こうとすると徒歩10分近くかかるので、移動に車を使っています。

田村:多様な人種や民族の方々が働いているから食堂のメニューは豊富だし、基本的にはどれもおいしいですね。

―世界トップのIT企業が集まり、テクノロジー産業の中心地といわれるシリコンバレーで働いて約半年。どのようなやりがいを感じていますか?

田村:世界の第一線で活躍するエンジニアたちと仕事することで、最高峰の技術や仕事観に触れられることは、自分にとってとても有益に感じます。今後の自分のキャリアに大いに活かしていきたいと思っています。

川井:世界的な企業の本社や支社が地域内にあるので、彼らとの交流が気軽にでき、さまざまな専門知識を吸収できるのは貴重な経験ですね。

田村:あとは、日本とアメリカ、双方の要望をつなぎ課題を解決しながら目標を達成したときはとてもやりがいを感じますね。

川井:何か問題が起きたとき、私たちがアメリカ側でコミュニケーションを取って迅速に解決できると、私たちがここにいる意義を実感しますね。実績としてはまだまだなので、より信頼していただけるよう真摯なコミュニケーションを積み重ねていきたいです。

田村:それから、プロジェクトを通して、先端技術研究所のさまざまな部署やチームと関わることが増えたのもやりがいにつながっているかな。

川井:プロジェクトの立ち上げ時期ということもあって、大きな意思決定の場に立ち会う機会が以前よりだいぶ多くなったよね。

田村:そういう機会が増えたので、先端技術研究所の方針やビジョンがより明確に理解できるようになったと感じます。

―グローバルで活躍するエンジニアには何が必要だと思いますか?

田村:英語力が必要なのは当然ですが、テクニック的なことより「英語を話すことに抵抗がない」というマインドが重要な気がします。簡単な会話でも頻繁に英語を使うことで、相手とのコミュニケーションが深まり、信頼関係が築けると思います。

川井:実体験として、働いているうちに自然と英語力は身につくので、私も積極的なマインドが大事だなと感じますね。他に必要なのは、自分なりの主張を持つこと。アメリカは主張が強い人が多いので、自分の主張を持っていないとコミュニケーションが円滑にいかず、苦しい思いをしてしまうかもしれません。

田村:相手に対して壁を作らず恥ずかしがらず、英語で積極的にコミュニケーションを取ることが大事ですね。

―日常生活についてはいかがでしょうか。生活環境や文化の違いで戸惑ったり、順応するために苦労したことはありますか?

田村:シリコンバレーは大企業が集まる経済地域ということもあってローカル色がなく、正直、異文化はあまり感じないですね。アジア系のスーパーマーケットも多く、日本と変わらず買い物できますしね。

川井:私は日本ではペーパードライバーだったので、アメリカの車社会に馴染めるか最初は不安でした(笑)。でも、東京に比べると道幅が広く、交通量も少ないのですぐに慣れてホッとしました。

田村:アメリカでの暮らし、意外とすぐに馴染んだよね。ちなみに、この先アメリカでやってみたいことってある? 私はヨセミテ国立公園でハイキングしたいなと思ってるんだけど。

川井:学生時代からテニスに打ち込んでいたので、アメリカで仲間を見つけたいなぁ。日本からラケットを持参し、準備は万端です(笑)。

「AI-RAN」によって、社会にインパクトを与える新しい価値を創造したい

―Activatorsとして、これからどんなことを成し遂げたいですか?

田村:私は学生時代から、社会の全体最適化をしたいというビジョンがあって交通の研究をしていました。先端技術研究所のメンバーとして活動する今、社会の全体最適化にはAIの研究開発が必要不可欠だと実感しています。通信インフラとAIを組み合わせた「AI-RAN」によって、社会にインパクトを生み出すような新たな価値を創造していきたいですね。

川井:事業化を見据えた研究開発を行う先端技術研究所のメンバーとして、ネットワークの最適化という専門分野を活かし、「AI-RAN」の発展に貢献していきたいです。

―2人のように企業の研究者を志す若者が多くいると思います。アドバイスはありますか?

田村:研究者に対して、一つの道を極めるストイックなイメージを持つ学生の方も多いかもしれません。でも、R&Dと呼ばれる企業の研究開発機関は、想像以上に自由度が高いところが多い。誤解を恐れずにいうと、新規性や事業性といった枠組みから外れなければ、何をやってもいい。他の企業や学術機関の協力を得たり、幅広い分野を研究できたりするので、ぜひ今のうちから視野を広く持ってほしいなと思います。

川井:同感ですね。企業で研究するメリットは、研究開発に関わる人が格段に増えること。自分では思いつかないアイデアや知らない知識を得られ、大きな意思決定の場にも立ち会える。人を巻き込みながら進む力がある人は、R&Dで活躍できると思います。実はアメリカに赴任する前、退職して大学院で博士号を取ろうか悩んでいました。そんなとき、これ以上ない恵まれた環境で働けることになり、今、この選択肢は自分にとって大正解だったと思っています。

―今回の取材を通して、2人がすごく信頼し合っていることが伝わってきました。同期としてお互いはどんな存在なのですか?

川井:田村は私が知らないAIの知識をどんどん与えてくれる、なくてはならない存在です。勉強を怠らない努力家の一面を、人としてすごく尊敬しています。田村の決断に間違いはないと絶大な信頼を寄せています!

田村:私も全く同じです(笑)。私が知る限り、川井のRANの知識は先端技術研究所内でもトップレベル。彼の知識をもっと研究開発に活かして AI-RANを実現させたい。そのためにも、アメリカでの業務をさらに発展させていきたいですね。

【コラム】理想のActivators

―社会を駆動させる活性因子「Activators」としてグローバルに活躍していますが、Activatorsの理想の姿を一言で表現していただけますか?

田村:「社会実装の触媒」という言葉を思いつきました。すでにある研究開発を最終的にどう社会実装につなげるか。そこが Activatorsには求められていると思います。

川井:自分の興味があることを社会に役立てることができれば、持続的に研究を頑張れる。そんなサステナブルな Activatorsを目指したいと思い、「社会に役立つ好奇心」という言葉にしました。

※現在、川井さんと田村さんは「SB Telecom America Corp.」に所属しています。

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研究概要