- 01.テラヘルツ通信の基本的な概念と仕組み
- 02.テラヘルツ波の活用:過去と現在の事例
- 03.テラヘルツ波による次世代通信技術
Blogsブログ
- 2024.09.19
- Blog
- 無線
テラヘルツ 連載シリーズ:第1回 テラヘルツとは何か
#6G #光無線/テラヘルツ #テラヘルツ #周波数
移動体通信分野において、携帯電話の最初の世代である第1世代移動通信システムは1980年代に導入され、その後約10年ごとにその世代が進化してきました。移動体通信で使われている技術は、その革新によって世代交代が行われていて、第1世代はFDMA(周波数分割多元接続)、第2世代はTDMA(時分割多元接続)、第3世代はCDMA(符号分割多元接続)と呼ばれる方式が使われてきました。2024年現在、日本では第4世代である LTEと、第5世代である 5Gが主流のサービスとなっていますが、第4世代、第5世代では OFDMA(直交周波数分割多元接続)と呼ばれる技術が採用されたほか、MIMO(Multi-Input Multi-Output)と呼ばれる技術が導入され、世代がかわるごとに周波数の利用効率は向上しています。
またこれまで、新しい世代の導入時には、新しい周波数の電波が割り当てられ、3Gでは 2GHz帯、4Gでは2.5GHz帯(日本ではBWA向け)や3.5GHz帯、5Gでは4.5GHz帯とミリ波が移動体通信向けとして利用されるようになりました。
5Gが登場してからおよそ10年後、2030年頃には、第6世代移動通信システムである「6G」の実用化が期待されていて、世界中で研究開発および技術の標準化が進められています。
今回、6G時代において実用化が期待されているテラヘルツ通信について、全3回のシリーズに分けて、詳しく解説していきます。
この記事では「テラヘルツとは何か」をテーマに説明します。
1. テラヘルツ通信の基本的な概念と仕組み
”テラヘルツ(Thz)”とは、キロ、メガ、ギガ、テラといった単位の接頭語が周波数の単位である”ヘルツ”に付いた言葉です。
正確には1THz = 1000GHzですが、通信業界では一般的に100GHz~10THzの周波数の電波を「テラヘルツ波」と呼んでいます。
しかし、1THz未満は厳密にはテラヘルツではないため、「サブテラヘルツ波」という表現をされることもあります。
また、5Gでも使われている「ミリ波」は、波長が1~10mmで周波数が30~300GHzの電波のことを指しており、 この場合、波長が0.1~1mmで周波数が300GHz~3THzの周波数を「サブミリ波」と呼びます。このため、同じ100GHzの電波であっても、「テラヘルツ波」「サブテラヘルツ波」「ミリ波」といった複数の呼称があり、業界、学会によってその呼び方が変わるので、注意が必要です。
この記事では、100GHz以上の周波数の電波を「テラヘルツ波」と呼ぶことにします。
また、国際的に定義されている電波の上限は 3THzまでであり、テラヘルツの上は光の領域となります。光の領域では、周波数ではなく波長で表すことが多いのですが、敢えて周波数に換算すると、目に見える光(可視光)はおよそ405~790THz、それよりも波長が長い領域(周波数が低い領域)は赤外線とされ、近赤外線(384~100THz)、中間赤外線(50~100THz)、遠赤外線(20~50THz)、極端赤外線(0.3~20THz)とされています。
テラヘルツ波は「電波でもあり、赤外線の一種でもある」という領域に位置していて、電波と光の両方の性質を持っていることが知られています。このような性質を持つテラヘルツ波について、あまりに周波数が高いためこれまで通信で使われることはありませんでしたが、実際に使われるようになるとどのようなことができるのかを 次の章で紹介していきます。

図1. テラヘルツ帯の定義
2. テラヘルツ波の活用:過去と現在の事例
テラヘルツ波は遠い昔から自然界には存在していましたが、人類がテラヘルツ波を能動的に発生させて通信に利用することができるようになったのはここ最近の話で、それまでは受信するだけの電波でした。
例えば電波天文学の分野では、冷却した超電導受信機と大型パラボラアンテナを使ってテラヘルツ波を観測することで、宇宙初期の原始的な銀河の塵の分布や、惑星系の形成、分子輝線の観測による宇宙の進化などを解明しようとする研究が進められています。他にも地球観測を行うリモートセンシングでは、水、酸素、二酸化炭素などの分子を同時に検出することが可能です。これらが含まれる温室効果ガスをテラヘルツ波を使って精密に観測することで、地球温暖化などの喫緊の課題に取り組んでいます。
また、テラヘルツ波が持つ透過性と分光技術を用いて、薄い絵画の断層を分析する研究(トモグラフィー)も行われています。これは光パルスから生成された広帯域のテラヘルツ波により実現可能です。他にも、人間が自然に放出するテラヘルツ波をテラヘルツカメラで受信することで、衣服の下に隠し持っている金属の物体を安全に検知することができるなど、テラヘルツ波によるイメージング技術なども実用化が進んでいます。
このように、さまざまな分野でテラヘルツ波は利用されていますが、近年、通信のために細かく周波数を取り決めるという段階まで技術が進み、このテラヘルツ波を使ってデータ通信をしようとする研究が始まりました。

Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

(引用元:古墳壁画の保存活用に関する検討会(第2回)資料3「テラヘルツ分光・イメージングによる漆喰の状態調査」)
3. テラヘルツ波による次世代通信技術
2024年現在、モバイル通信は5Gが広く普及しつつあります。
日本でもほぼ全国にわたって5Gが使えるエリアが広がっており、5Gにおいて追加されたミリ波の利用が増えれば、さらに高速な通信が当たり前のように使えるようになると期待されています。
しかし、モバイル通信のトラフィックは想像を越えて増加しつつあり、今後、6Gが実用化されるころには、ミリ波を活用してもネットワーク容量がひっ迫する可能性があります。
そのため、5G以降の移動通信システムの世代では、さらに広い周波数が求められており、テラヘルツ帯は6Gにおける新しい周波数の電波の候補として期待が高まっています。
世界の無線の管理を行っている国際団体であるITU-Rは、4年ごとに世界無線通信会議(WRC)を開催しており、2019年に開催されたWRC-19では275GHz以上の電波の使い方が議論されました。その結果、合計137GHz幅の周波数が通信サービス用途として各国で使える段階になりました。
これまでに、モバイル通信サービスを提供している日本国内の事業者(2024年時点で4社)に対して割り当てられているの周波数の帯域幅は、4社合計で 約3GHz幅ほどですが、WRC-19以前に特定されていた周波数(97.5GHz幅)と合わせると、将来的に合計で 234 GHz幅の周波数が通信用途で使えるということになります。
これだけの広い周波数を通信で使えるようになれば、通信のひっ迫の心配は大幅に軽減され、さらに新しいモバイルアプリケーションの発明にもつながることが期待されています。
次回はテラヘルツ波の通信利用に注目して、その研究開発の歴史とテラヘルツ波による通信の特徴や課題について紹介していきます。

2024.03.22
Blog
6G時代の新しい電波の使い方~通信とセンシングの融合~
#6G, #光無線/テラヘルツ