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RIS技術を用いた基地局アンテナの実現とRISアンテナの特性について
#6G #光無線/テラヘルツ #無線
#RIS技術 #RISアンテナ #ビームフォーミング
2024.10.25
ソフトバンク株式会社


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5G以降では人に対する通信だけでなく、モノに対する通信のニーズも高まっており、今後さらなる移動通信トラフィックの増加が予測されます。将来の移動通信トラフィックの増加に対応するために、広い帯域幅の利用が可能なミリ波帯(28GHz帯など)の周波数が5G用に割り当てられました。
しかし、ミリ波帯の電波の特徴として、伝搬損失が大きく、また電波の直進性が高いため、エリアを広く構築することが困難です。
エリア化の課題を解決するための手法の一つとしてRIS(Reconfigurable Intelligent Surface)技術を用いた解決策が提案され、多くの研究が行われていますが、まだ実用化には課題が残ります。
本ブログでは、これまでと異なる視点でRIS技術を応用することで、6Gを実用化に近づけるためのソフトバンクの取り組みについて解説していきます。
1. RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)技術の概要
5Gから通信で利用されるようになったミリ波帯などの高い周波数では、基地局から端末までの距離や周辺の建物の影響などにより、端末で受信することができる電波が弱くなってしまうという課題があります。
一般的に、エリア化に関する課題を解決するために、電波を細いビーム状にすることで電波の強さを上げ、その電波のビーム方向を電子的に制御することで、通信エリアを広くする技術(ビームフォーミング技術 / フェーズドアレイ技術)が導入されています。
ビームフォーミング技術以外の方法として、RISと呼ばれる特殊な反射板を用いることで、建物の影となる部分に電波を反射させることで通信エリアを広げるという研究開発が進められています。
図1がRISを用いた無線通信環境の構築イメージです。
基地局から送信された電波をRISを使って端末の方向に反射させることで、通信可能なエリアを広げる手法です。
エリアを広げる目的以外にも、基地局-端末間に存在する無線環境を適応的に制御することでMIMOの効率を上げようという試みもなされています。
このような流れから、RISと呼ばれる機能性デバイスが注目を集めており、さまざまな研究機関で検討が進められています。

図1. RIS技術を用いた無線通信環境の一例
2. RISの仕組みと実用化への課題
反射型のRISは、図2のように多数の無給電素子から構成されています。搭載されている無給電素子の大きさや形状を変化させることで、表面の特性(表面位相)に変化を与えることが可能となります。この表面位相を調整することで、任意の方向にビームを向けることが可能となります。

図2. RISの仕組み
しかし、RISを用いて無線環境を適応的に制御しようという試みについては、多くの課題があります。
基地局から十分距離の離れたRISに対して正確に電波をあてる制御技術の実現や、通信事業者ごとに特定の周波数帯のみで動作するようなRISの開発といった技術的な課題のほか、RISを理想的な場所に設置することの難しさなど、数多くの検討項目があり、実用化にはまだ時間がかかると考えられています。
ソフトバンクでは、RISの特徴である表面位相を変化させることで任意の方向にビームを強めることが可能という点を活用し、基地局内部の 移相器・アンプなどの無線部品を大幅に削減することで、シンプルな構造の基地局が開発可能になると考え、基地局の一部にRISを取り入れた「RISアンテナ」の研究開発を進めています。
3. RISアンテナによる基地局のシンプル化
ミリ波帯に対応した基地局では、その波長の短さから大量のアンテナ素子を並べることができ、このアンテナの素子が多いほどビームフォーミングの効果は向上します。
このように多くの素子を並べ、それぞれの位相を制御することでビームフォーミングを可能にしたアンテナをフェーズドアレーアンテナと呼びます。
図3に示すように、フェーズドアレーアンテナは多数の位相器・増幅器・アンテナ素子から構成されているため、構造が複雑かつ、比較的消費電力が高いという課題があります。一方で、RISアンテナでは、アンテナの近くにRISを設置し、電波の反射方向を制御することで、少ない増幅器・少ないアンテナ素子の基地局でも、多素子のフェーズドアレーアンテナと同等の機能を実現することが可能になります。
このようにRISアンテナは、ミリ波基地局の位相器や増幅器などによる複雑な回路を削減することで、基地局の構造をシンプルにし、コストの削減や消費電力の低減が期待されています。

図3. フェーズドアレーアンテナとRISアンテナ
4. RISアンテナの設計
ソフトバンクでは、RISアンテナの設計から研究開発を進めています。図4はRISがある場合・ない場合のミリ波基地局の電波放射パターンのシミュレーション結果です。結果から、アンテナの近くにRISを設置することで、アンテナ利得を向上させることに成功しています。また、図5では、RISの表面位相の分布を変化させることで、RISアンテナのビーム方向を変化させることに成功しています。グラフでは、30度方向にビームを向けるようにRISの表面位相を設定し、ビーム方向を制御することが可能なことがわかります。

図4. RISあり・なしによるアンテナ利得の違い

図5. 表面位相の調整によるビーム方向の制御(30度方向)
これらの結果から、多数の位相器・増幅器から構成されるフェーズドアレーアンテナを使用せずとも、RISアンテナによって、フェーズドアレーアンテナと同様に、アンテナの高利得化およびビーム方向の制御が可能であることがわかります。
5. 偏波独立制御型RISアンテナの研究開発
さらにソフトバンクでは、RISアンテナを使って周波数利用効率を向上させるために、偏波ごとにビーム方向を分離可能なRISアンテナの研究開発を行っています。
図6に示すように、RISアンテナにより形成されるビームを垂直偏波と水平偏波それぞれ異なる方向に向けることで、周波数利用効率が改善することを電波伝搬シミュレーションにより確認しています。このような特性を有するRISアンテナを実現しようと、図2に示すような無給電素子を用いた場合、無給電素子が両方の偏波に反応してしまい、偏波ごとに異なる方向にビームを向けることが困難でした。そこで、それぞれの偏波を独立に制御するRISアンテナを実現するために、熊本大学と共同研究を実施しています。具体的には、図7に示すような垂直偏波に反応する無給電素子と水平偏波に反応する無給電素子によりRISを形成し、偏波ごとに異なる表面位相を与えるようなアンテナ構造を検討しています。この構造を用いることで、それぞれの偏波が異なる方向にビームを向けることが可能となります。
将来的には、偏波ごとにビームをさまざまな方向に向けることが可能なRISアンテナを活用し、深層学習などのAI技術を組み合わせることでビームフォーミングをさらに効率的に行うことができると期待されています。

図6. 偏波独立制御型RISアンテナを用いたMIMO通信

図7. 偏波独立制御型RISアンテナの構造
今回は、RISアンテナに関する技術について紹介を行いました。ソフトバンクでは、効率の高い無線通信の提供を目指して、さまざまな要素技術の検討を行っていきます。