- 01.通信業界の現状と課題
- 02.AI需要に伴うGPU市場の拡大
- 03.攻めの事業戦略:新たな収益創出と拡大
- 04.AI-RANの収益性評価
- 05.AIインフラの社会実装に向けて
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通信業界の課題とAI-RANがもたらす収益拡大の仕掛け
#AI-RAN #AITRAS #ビジネスモデル #収益モデル
2025.02.28
ソフトバンク株式会社


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1. 通信業界の現状と課題
GSMA Intelligenceのデータによると、カナダ、米国、日本、韓国、英国、フランス、ドイツの6か国および世界全体の平均ARPUの推移は概ね横ばいであり、物価上昇を考慮すると実質的な減少傾向であることがわかります。一方で、通信事業者の設備投資額は増加の傾向が続くと予測されています。
このような現状では、通信事業者にとっては、設備投資にかかるコストをいかに回収するかが重要なテーマであると考えます。

2. AI需要に伴うGPU市場の拡大
生成AIの登場以来、AIは社会のあり方を急速に変えており、その計算基盤となるGPU市場も拡大しています。ネットワーク経由でGPUをサービス提供するGPU as a Service(GPUaaS)市場は急成長が予想され、Fortune Business Insightsの最新調査(2025年2月発表)によると、市場規模は2024年の43.1億米ドルから2032年までに498.4億米ドルに拡大し、年平均成長率(CAGR)35.8%で成長すると予測されています。

3.攻めの事業戦略:新たな収益創出と拡大
AIを運ぶインフラへの転換
ソフトバンクは、AIの時代を見据え、日本全国に計算リソースを行き渡らせる次世代社会インフラ構想を推し進めています。(詳細については、AI-RAN特集をご覧下さい)
RAN制御機能とAIサーバー機能を同一のハードウェア基盤上で実現するAI-RANは、分散型AIデータセンターを構成する要素の一つです。これにより通信事業者は、モバイル通信サービスとGPUaaSを同一のハードウェア基盤上で提供でき、新たな収益を生み出すことが可能です。通信事業者は、AI-RANによりGPUaaS市場に参画することができ、大きなビジネスチャンスを得ることができます。
柔軟な事業戦略
AI-RANは、RAN(無線アクセスネットワーク)とAIの二つの異なる用途をベストミックスすることで設備の稼働率を向上させることができるようになります。これにより、ピーク時のサービス品質の担保のために確保されたRAN向けのサーバーリソースを、モバイルトラフィックが少ない時間帯にはAI向けに配分することで、収益を増やすことが可能です。
さらにGPUaaSに対する需要の拡大が期待できる場合、AI向けにサーバーリソースを積極的に配分すべくサーバーを増強し、収益拡大を狙う戦略を取ることもできます。
つまり通信事業者は、GPUaaS市場の成長(時期と規模)に追従した設備投資の判断を実現することができます。
AI需要に応じた柔軟な設備投資

AI-RANの初期ターゲット:都市部
人口や産業が集まる都市部はAIおよびGPUaaSへのニーズが大きいエリアであるため、AI-RANの初期のターゲットとして着目しています。
同様にモバイルトラフィックも人口が密集する都市部に集中します。混雑エリアでの通信品質向上には、広帯域の周波数を用いた高度なアンテナ技術や隣接するセル間の協調制御が効果的です。RANへのAIの活用はセル境界のスループットやセル全体でのキャパシティー向上を実現します。
都市部に適したAI-RANの構成
混雑エリアでのスループットやキャパシティー向上を実現する高度なアンテナ技術やセル間協調制御を効果的に機能させるには、同一サーバーで多くのセルを集約制御するC-RAN(Centralized-RAN)構成が適しています。 C-RAN構成は、無線機であるRU(Radio Unit)のみをセルサイトに設置し、RUを集約して制御するDU/CU(Distributed Unit / Central Unit)の機能は、集約サイトに構築するサーバーに実装する構成です。
C-RAN構成:集約サイトのサーバーが複数のセルサイトのRUを集約制御

4. AI-RANの収益性評価
前章では、通信業界の現状と課題を提起し、AI-RANによりGPUaaS市場へ参画してビジネスチャンスを得ることができることを示しました。本章ではAI-RANの収益構造に触れ、ケーススタディーを行い、定量的に収益性を評価します。
AI-RANの収益構造(C-RAN)
AI-RANの収益はモバイル通信サービスの売上とGPUaaSの売上で構成されます。モバイル通信サービスおよびGPUaaSを提供するためには、セルサイトと集約サイトそれぞれに以下の設備投資および運用経費が必要です。
AI-RANの収益構造(C-RAN)

総所有コスト:TCO(Total Cost of Ownership)
GPUaaSの売上ポテンシャル
NVIDIAは、AI-RANをデプロイするプラットフォームとしてAerial RAN Computer-1を発表しました。Aerial RAN Computer-1を構成する主要コンポーネントであるNVIDIA GB200-NVL2サーバーは、その計算能力の100%をAI用途で使用し、AIワークロード(Llama-3-70B FP4)を実行した場合、1秒あたり約25,000トークンを生成する性能を有するとされています。これは主流な大規模言語モデルを実行可能な性能をもつことを示しています。
NVIDIA GB200-NVL2サーバーをGPUaaSとして提供した場合、サーバー1台当たりの売上は、1時間当たり約20米ドル、一カ月で約15,000米ドルが見込まれると想定しています。
東京都心エリアでの収益性分析
日本で最もモバイルトラフィックが集中する都市の1つである東京都心の渋谷周辺エリアにAI-RANを展開することを想定したケーススタディーを行います。
セル収容に必要なRAN向けのサーバーリソースを確保しつつ、GPUaaSを提供することで得られる収益を評価します。さらに本ケーススタディーでは、サーバーで処理するRANとAIワークロードの割り当て比率が異なる二つのシナリオを用意し、投資収益率(ROI:Return on Investment)を評価します。
RANの割り当て比率を大きくすると、エリアのカバーに必要なサーバー台数の減少により、TCOおよびGPUaaSからの売上が小さくなります。一方で、RANの割り当て比率を小さくすると、必要なサーバー台数の増加により、TCOおよびGPUaaSの売上が大きくなります。
<ケーススタディーのRAN設計の条件>
・600セル(帯域幅100MHz、アンテナ構成4T4R)
・C-RAN構成で600セルの分のRUをGB200-NVL2サーバーに収容
※本ケーススタディーは、想定シナリオに基づく一例であり、実際の設計値や計画を意味するものではありません。
<収益評価の前提>
・売上:GPUaaSによる売上のみを評価対象としています。(モバイル通信事業による売上は共通として考慮外)
・TCO:集約サイトに係るTCOが評価対象(セルサイト側への設備投資はいずれも共通として考慮外)
賃料、電気代など運用経費(OPEX)は日本国内における提供価格が前提
・設備投資(CAPEX)の償却期間:5年
・評価期間:5年
<ワークロードの割り当てシナリオ>
1.67%:RAN、33%:AI (RAN Heavy)
2.33%:RAN、67%:AI (AI Heavy)
収益試算の対象範囲(C-RAN)

RAN Heavy(67%:RAN、33%:AI)のシナリオでは、5年間のROIは最大33%となります。日本市場を前提としたOPEXを除いたCAPEXに対する5年間の売上比率は約2倍です。
一方、積極的な収益拡大を目指すAI-Heavy(33%:RAN、67%:AI)のシナリオでは、AIワークロードへの割り当て比率が大きくなります。その結果、必要なサーバー台数は増加し、TCOはRAN Heavyのシナリオと比較して増加します。しかし、GPUaaSの売上増加分がTCOの増加分を上回ることで、5年間のROIは最大219%に達します。OPEXを除いたCAPEXに対する売上比率は約5倍です。
これら二つのシナリオの結果はどちらか一方が正解というものではありません。AIワークロードへのリソース割り当てを抑えつつ新たな収益獲得に向けGPUaaS市場に参画し、大きな成長が期待できる見通しが立てば、設備投資の規模とAIワークロードの比率を大きくすることで、積極的に収益拡大を狙うことができることを示しています。
同様の条件・前提で、x86ベースのvRAN(仮想化RAN)およびASICベースのカスタムBBU(Baseband Unit)と比較した場合のTCOを以下に示します。GPUaaSによる売上を生み出すことができないx86ベースのvRANやASICベースのカスタムBBUに対し、AI-RANの優位性が明確に示されています。
東京の都市部を600セルでカバーする場合のAI-RANの収益性


・ROI = (GPUaaSの5年間の売上 – 集約サイトの5年間のTCO) ÷ 集約サイトの5年間のTCO
・設備投資(CAPEX)に対する売上比率 = GPUaaSの5年間の売上 ÷ 集約サイトのCAPEX
5. AIインフラの社会実装に向けて
AI-RANは、通信業界が直面する課題を解決しつつ、AI市場の成長を取り込み、新たなビジネスチャンスを創出します。同時に、高信頼性、低遅延、高いセキュリティーなど、独自の高い付加価値を提供することで、将来の産業の発展と経済成長に大きく貢献します。
AI-RAN技術は日々進化しています。継続的な技術開発と検証を通じてその価値と優位性を証明し続けます。一方で、技術革新を社会に実装するためには、単なる技術の進歩だけではなく、持続的な成長できる事業として形を整えることが重要です。技術革新とそれを社会に実装するための事業戦略の両面で研究を進め、AIを運ぶ新たなインフラを社会に提供することを目指していきます。引き続きご注目ください。