2018年3月16日
省エネ住宅が日本を救う!?その基準と特典について
「省エネ」が注目されるようになってからずいぶんたち、「省エネ住宅」と呼ばれる家も建てられるようになりました。今回は省エネ住宅について、その基準やもらえる補助金・今後の展望などをご紹介したいと思います。
四季のある日本に必要な省エネ住宅
日本列島は南北に長く、温帯に位置しているため、比較的四季がはっきりしていると言われます。夏は暑く、冬は寒いですよね?これが電力消費にどういった影響を及ぼすかというと、一般的には冷暖房に費やす電力が増えると言われています。暑い夏や寒い冬には電気料金が高額になりがちですよね。
我が国の一般家庭において、冷暖房関連の消費電力はなんと約30%を占めています。
この部分を削減することにより、電力の大幅な節約を見込むことができます。「節約」は、この場合「コントロールできる幅が広がる」と同義に使われます。
コントロール可能な範囲が広がれば、突発的な事象(健康被害を生み出すレベルの高温/低温など)にも電力によって対応が可能になり、国民生活を守ることにつながります。
そのため、政府は住宅に関する省エネルギーの基準を設けて、対象者への補助金などを充実させることで省エネ住宅の普及を推進しています。
政府が定めた省エネ住宅の基準
どんな基準で「この住宅は省エネルギー住宅だ」と言えるのでしょうか。
政府が定めたこの省エネ基準は、実は設定時期によって複数存在しています。
なぜ複数存在するかというと、元になっている法律(エネルギーの使用の合理化に関する法律:通称『省エネ法』)が度々改正されているためです。
ⅰ)1980年:旧省エネ基準
ⅱ)1992年:新省エネ基準
ⅲ)1999年:次世代省エネ基準
ⅳ)2009年:トップランナー基準
ⅴ)2013年:外皮+一次エネルギー消費量基準
『トップランナー基準』:名称の由来
2009年に設定された省エネ基準は、通称を『トップランナー基準』と言います。これはどういった理由で名付けられたのでしょうか?1997年COP3にて採択された京都議定書は、当時の地球環境保護の常識を揺るがす厳しい内容でした。それに対応するために、電力消費についても相当に厳しい基準を設ける必要があったのです。そのため政府は、「電力を消費するさまざまな機器について、それぞれの機器の中で、もっとも優れた消費効率を持つ機器を基準にする」と決定しました。これが『トップランナー』の名称の由来です。
一つずつ細かく解説することは控えますが、政府が考える省エネ住宅とは、「快適に過ごせて、しかも経済的。健康にも配慮されており、耐久性も高い」というものです。
ポイント | 内容 |
---|---|
快適性 | 夏は涼しく、冬は暖かい。 |
経済性 | 光熱費が安価。 |
健康 | 結露によるカビなどの発生を抑制。 ヒートショックを予防。 |
耐久性 | 結露による建築材の老朽化を抑制。 |
ヒートショックで亡くなる人は、年間約19,000人。交通事故死が5,000人を下回ることを考えると、重要なポイントですね。
省エネ法の改正や技術の進歩にともなって変容している省エネ基準は、主に住宅の外皮(外壁や屋根など住宅を包む部分)に関する機能を向上させるためのものでした(もちろん、外皮以外の部分についても基準は厳格化の傾向にありますが)。
外皮の性能が上がることによって、断熱(冬に家の中から暖かい空気が逃げることを防ぐ)と遮熱(夏の暑い空気が家の中に入ってくることを防ぐ)に関する効率が上がり、電力消費量を下げるという趣旨です。
年間暖冷房エネルギー消費量※1の試算

- ※1国交省において、一定の仮定をおいて試算
出典:国土交通省資料(省エネルギー基準改正の概要)をもとに作成
上記の冷暖房エネルギー消費量の推移をご覧いただけば分かる通り、外皮に関する基準を厳格化してきた効果はあったと言えるでしょう。
ただ、2013年の改正からは、外皮のみならず、生活で使用する二次エネルギー(換気、照明、冷暖房などに用いられる電力や灯油など)も一次エネルギーに換算して効率化を求められるようになってきています。
省エネ住宅で補助金がもらえる!?
もし政府の考える省エネ住宅の基準をクリアしていると、我々にはどんなメリットがあるのでしょうか?なんと補助金がもらえます!補助金を支払ってでも住宅の省エネ化を進めたい、という政府の意気込みを感じますね。
具体的に言うと、「建築物省エネルギー性能表示制度」というものがあり、認定料を支払って(合格し)認定を受けると、最大50万円の補助金を受け取ることができます。
- この制度は、「Building-Housing Energy-efficiency Labeling System」と言う英語表記から、BELSと呼ばれています。
ちなみに認定料は、一戸建ての場合は、認定の範囲によって30,000円か50,000円ですが、新築時だけでなく、増改築時にも申請が可能です。
詳細は、一般社団法人住宅性能評価・表示協会のホームページをご覧ください。
ほかにもある省エネ住宅の経済的メリット
2008年に「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が成立しました。
「長期優良住宅」とは、「長期にわたって住み続けられる優良な住宅」のことで、省エネに関する性能もこれに含まれるため、国土交通省が補助金制度を創設して、促進を図っています。
一戸あたり最大150万円の補助金が受け取れて、当初は新築のみが対象でしたが、現在では増改築も対象となっています。

国が創設した補助金は全て活用したいですね。
また、長期優良住宅には補助金以外にも、税制度において控除額の上限が引き上げられたり(実質的な減税)、住宅金融支援機構から金利優遇措置を受けられたりするなど、さまざまなメリットが存在します。
新しく家を建てる、もしくは増改築する、といった際には、制度上のメリットを最大限活用するべきですね。
義務化される省エネ住宅
国が定めた省エネ基準は強制力があるものではなく、あくまでも努力義務にすぎません。そして、「努力した人や企業に対しては、補助金/減税/金利優遇という恩恵を与えますよ」というものです。
しかし、国のエネルギー政策の方向性を示したものである「エネルギー基本計画」では、2020年に現在の省エネ基準を義務化する方向で記載されています。
義務化されることによって表面化した、省エネ基準が抱える課題をいくつかご紹介します。
① やっぱりお金がかかる省エネ化
省エネ基準に適合した住宅を建設する場合、(当然ですが)資材と工法の両面でコストが割高になる傾向があります。 基準を無視して住宅を建設した場合と、省エネ基準に適合した住宅を建設した場合では、一般的に最低約5%後者の方が高価になると言われています。仕様次第で数千万円にも及ぶ住宅価格の「5%」は、仕様を決定する上で、重要なポイントとなります。
ハウスメーカー各社は、この「5%」を消費者に受け入れてもらうために、省エネ住宅の素晴らしさ(特に経済的メリット)を訴求することにより、新築戸数全体に占める省エネ住宅の割合を上げようと努力しています。
② 大工さんにとっては死活問題
省エネ基準をクリアするために住宅に求められる重要な機能の一つに、「気密性」があります。 気密性は、建築資材だけでなく工法も重要な要因となるため、中小の建設事業者にとっては採用が難しいという側面をもっており、実際に中小工務店が建設した住宅の省エネ基準適合率は2~3割にとどまると推計されています。
そこで国土交通省は、「省エネ施工技術習得支援のための5ヵ年計画」を策定し、中小の建設事業者でも省エネ基準に適合した住宅の建設が容易になるように支援を進めています。

これからの大工さんは、カンナがけが上手いだけではダメなのです。
単なる努力目標だった「省エネ」が、さまざまな環境の変化を経て義務化されることにより、私たちの社会も構造自体を変えて行く必要があるのかもしれません。