SNSボタン
記事分割(js記載用)

5Gのミリ波を “反射” して通信エリアを拡大。イベント会場で「反射板」の効果を検証

5Gで利用される電波の中でも、特に大容量・高速通信に適しているのが「ミリ波」です。一方で、直進性が高く、建物や人などの障害物の影響を受けやすいという特性があります。ソフトバンクはこの課題の解決に向け、ミリ波の通信エリアを広げる手段として「反射板」の活用を検討してきました。5月に新潟県で開催されたイベント「ながおか米百俵フェス~花火と食と音楽と~」の会場で行った試験運用を振り返ります。

話を聞いた人

ソフトバンク株式会社 プロダクトR&D本部 基盤技術研究室 新技術研究開発部

林 合祐(りん・ごうゆう)

ソフトバンク株式会社 モバイルネットワーク本部 無線技術開発部

李 宜浩(りー・ぎこう)

5Gのミリ波の特性を最大限に生かす「反射板」

そもそも「ミリ波」とは、どのような特長を持つ電波なのでしょうか?

 「ミリ波は、5Gで利用される電波の中でも特に高い周波数帯の電波です。現在のスマートフォンで広く利用されている4Gや5GのSub6帯と比べて、より広い帯域幅を確保できるため、高速・大容量通信を実現しやすいことが大きな特長です。

例えば、大規模なイベント会場では、多くの来場者が動画を視聴したり、SNSに写真や動画を投稿したりします。こうした環境では通信量が急激に増えますが、ミリ波は大量の通信を処理できるため、混雑時の通信品質向上に大きな可能性があります。

とても快適に通信できそうな印象です。

 「そうですよね。ただ、ミリ波は周波数が高く直進性が強いため、建物や樹木、人などの障害物に遮られやすいという特性を持っています。そのため、基地局からの電波が直接届く場所では高い性能を発揮できる一方、直進性が高いため回り込む力が弱く、建物の陰などでは通信しにくくなる場合があります」

そこで、反射板が登場するんですね?

 「ミリ波の性能を十分に発揮するには、電波を必要な場所へどう届けるかが重要です。そこで、3年ほど前から、ミリ波の通信エリアを広げる手段の一つとして反射板に着目してきました。

「メタサーフェス反射板」と言って、微細な素子を周期的に配列した人工構造体です。素子の配置や設計を工夫することで、電波を鏡のように正反射させるだけでなく、任意の方向へ反射させることができます。直進性の高いミリ波を反射板で反射させることで、距離や障害物などの影響で電波が弱まる「減衰」を抑制し、効率良く通信が可能になるという仕組みです。今回採用した反射板は、軽量で持ち運びしやすいよう、金属ではない素材を用いて製作しています。

当初は、スマートフォンなど移動する端末への活用も検討していました。しかし、スマートフォンは人と一緒に移動するため、安定した効果を出そうとすると反射板を大型化する必要があり、設置や運用が難しいことが分かってきました。

そこで着目したのが、ミリ波に対応したCPE(Customer Premises Equipment:構内設置機器)と反射板の組み合わせです。CPEは固定設置できるため、反射板で狙った場所へ電波を届けやすくなります。ソフトバンクではちょうど、イベント会場向けにミリ波対応のCPEを活用したWi-Fi提供の検討を進めていました。イベント会場では一時的に通信需要が急増する一方、常設設備の設置が難しいケースもあります。こうした環境で反射板を活用できれば、より柔軟に通信エリアを拡張できるのではないかと考えました」

反射板が大きいほど多くの電波を反射できるため、一般的には通信エリアを広げやすくなります。一方で、大型化すると持ち運びや設置が難しくなります。実際のイベント会場での利用を想定し、さまざまなメーカーとシミュレーションを重ねながら検討を進めた結果、A1サイズ(594mm×841mm、大日本印刷株式会社製)の反射板を採用しました。

反射板の開発にあたり大日本印刷から寄せられたコメント

メタサーフェス技術を活用した反射板(PASREACHTM)は、電源や免許を必要とせず、ミリ波だけでなくSub6帯にも対応しています。電波の入射方向と反射方向を独立して設計でき、反射波の拡がりも設定可能なため、利用シーンに応じて狙った方向へ電波を届けやすいことが大きな特長です。今回の試験運用では、ソフトバンクと連携し、イベント会場でも使いやすいよう、設置環境や伝搬条件を考慮しながら設計・シミュレーションを重ね、最適な仕様に仕上げました。

具体的には、試験運用で何を検証したのでしょうか?

 「今回の試験運用では、大きく3つのテーマを検証しました。1つ目は、反射板を活用することで、ミリ波が直接届かない場所でも通信エリアを構築できるかという点です。 実際のイベント会場で、反射板を介してミリ波をCPEへ届け、安定した通信が可能かを確認しました。

2つ目は、反射板の角度調整です。反射板は、設置するだけで効果が出るものではなく、狙った場所に電波が届くよう角度を合わせる必要があります。現場で短時間に設置でき、将来的には全国のイベント会場でも同じように運用できる設置・調整方法を確立することを目指しました。

3つ目は、反射板を経由した通信が実際にイベント会場で役立つかという点です。反射板を使って受信したミリ波をWi-Fiに変換し、来場者向けの通信環境として十分な性能を発揮できるかを検証しました」

通信エリア拡大の効果を確認。実用化へ向けて引き続き検証

実際に反射板を設置した結果、どのような成果が得られましたか?

 「今回の会場では、移動基地局車から約240m離れた場所に反射板を設置しました。さらにその先のCPEを置いた場所は、建物や設備の影響で、もともとミリ波の電波が届かないエリアでした。反射板を設置したことで、圏外だった場所でもミリ波を受信できるようになり、Wi-Fiとして来場者に提供できることを確認できました。ピーク時には約300台の端末が接続するなど、実際のイベント環境でも十分活用できる手応えを得ています」

 「イベントに来場していた方が、SNSでソフトバンクのWi-Fi提供を投稿してくれるなど、利用者に快適なネットワーク環境を提供できたことが何よりの成果だと感じています。また、当日、イベント主催者から、『対策してくれたことで、来場者が通信環境に不便を感じず利用できています』とのお言葉をいただき、今回の取り組みが来場者の快適なイベント体験にも貢献できたことを実感しました」

試験運用で見えてきた課題はありますか?

 「今後、各地のイベント会場でも早く、正確に設置・運用できる方法を整備していくことが重要だと感じました。CPEは事前に人の往来を考慮した高さに設置していましたが、イベント当日は人や日傘により、一時的に電波が弱くなることも確認されたため、実際の会場状況に応じて高さを調整し、安定した通信品質を確保しました」

反射板を鏡に見立て、反射板の片側と受信側に目印を置き角度を調整

本格的な運用開始について教えてください。

 「今回の試験運用を通じて技術的な有効性は確認できましたが、実運用に向けては改善すべき点の発見もありました。例えば、芝生では反射板の設置条件によって指向方向が変化するケースも確認できました。今後は、さまざまな環境でも安定した性能を発揮できるよう、設置方法や架台の改善を進めていきたいと考えています」

 「人や日傘などの影響を受けにくい設置方法についても引き続き検討を進めています。今後もイベント会場での実証を重ねながら、スマートフォンなどの通信を必要に応じて5G・4G回線からWi-Fiへ振り分け、モバイルネットワークの混雑を緩和する『Wi-Fiオフロード』と組み合わせることで、ミリ波をより多くの場面で活用できるようにしていきます」

(掲載日:2026年7月6日)
文:ソフトバンクニュース編集部