SNSボタン
記事分割(js記載用)

データの質を自動評価して高品質なAIモデルを構築。ロボットの頭脳となる基盤モデル開発コンペティションで優勝

データの質を自動評価して高品質なAIモデルを構築。ロボットの頭脳となる基盤モデル開発コンペティションで優勝

ロボットが人の指示を理解し、日常の作業を自律的に行う。そんな未来の実現に向けて、ロボットとAIを組み合わせた「フィジカルAI」の研究開発が進んでいます。

一般社団法人AIロボット協会が主催する「ロボット基盤モデル開発コンペティション」において、ソフトバンクと国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」)および三菱電機株式会社(以下「三菱電機」)が合同チームとして出場し、優勝しました。日常生活における動作の精度を競い合った本コンペティションについて、開発の背景や裏側を担当者に聞きました。

話を聞いた人

ソフトバンク株式会社 コーポレートIT本部 技術企画部

西原 大輝
(にしはら・ひろき)

鈴木 裕真
(すずき・ゆうま)

堀 隆之
(ほり・たかゆき)

膨大な学習データと実環境での正確な動作に挑む

今回参加した「ロボット基盤モデル開発コンペティション」とは、どのようなものなのでしょうか?

 「一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)が主催する、生活支援ロボットを動かすためのAIモデルの開発を競うコンペティションです。AIの分野では、文章や画像を扱う生成AIが広く知られるようになってきましたが、今回のテーマは、それをさらに現実世界の動作につなげていく領域です。ロボットがカメラなどから得た情報をもとに周囲の状況を理解し、必要な動きを判断して実行する。そうしたロボットの “頭脳” にあたるモデルを、各チームが開発しました。

コンペティションでは、AIRoAが収集した数万時間に及ぶロボット動作の学習データを使って、ロボットが日常の作業をどれだけうまく実行できるかを競いました。シミュレーション上の精度ではなく、実環境での作業成功率などが求められ、より実践的な内容でした」

カゴの中のハンカチを認識し、つかむロボット

ロボットが行う日常の作業とは具体的にどのような動きですか?

鈴木 「物をつかんで持ち上げる、電子レンジの扉を開けるといった動きです。こうした動きは、人が日常の中で何げなく行えていますが、ロボットにとってはとても難しいんです。食品は形や硬さがそれぞれ違いますし、服は柔らかく、毎回同じ形をしているわけではありません。どこを見て、どこをつかみ、どのくらいの力で動かすのか。ロボットは、一つ一つの情報を判断しながら動く必要があります」

3社で合同チームを組む中で、ソフトバンクはどのような役割を担ったのでしょうか?

 「ソフトバンクは主に、AIモデルの学習・評価、データ処理、学習パイプラインの構築、シミュレーションによる検証を担当しました。ロボット動作データには、映像、関節の動き、対象物の位置、作業の成否など、さまざまな情報が含まれます。こうしたデータをAIモデルが学習できる形に処理をして、まずはシミュレーションでロボットの動作を検証。問題なく動けば実空間でロボットを動かしていきます。

ロボットを動かす技術というと、ロボット本体に目が行きがちですが、その裏側では大量のデータを扱い、モデルを学習し、評価し続ける仕組みが必要になります。ソフトバンクは、AIやデータ処理、計算基盤に関する知見を生かせる部分が多くあり、AI開発の基盤となる部分を担いました」

コンペティションで特に苦労した点を教えてください。

西原 「大変だったのは、限られた期間の中で、データ処理、学習、評価、改善のサイクルを何度も回す必要があったことです。提供されたデータは整理されていない “生のデータ” で、全てを学習させようとするとそれだけで1カ月以上かかるほどの膨大な量かつ品質にもばらつきがありました。こうしたデータを学習させ、ロボットを動かし、どの変更が性能向上につながったのかを一つ一つ確認し、その結果を見て次に何を変えるかを試行錯誤しなければいけません。短期間で多くの検証を重ねる必要があり、技術的にも時間的にも難しい取り組みでした」

鈴木 「さらに、苦労したのはデータの量だけではありません。学習したモデルの結果を実際のロボットの動作に結び付けるところも難しいポイントでした。ロボットの場合は、シミュレーション上の結果が良くても、実機で必ずうまく動くとは限りません。また、『1センチ動かして』と指示しても9ミリしか動かないような物理的な誤差が発生することもあります。1〜2週間かけて学習させた結果が実機では失敗に終わることもありました」

大量のデータから “学習に効くデータ” を見極めて抽出

今回のコンペで成果につながったポイントを教えてください。

鈴木 「大きなポイントは、膨大なロボット動作データをそのまま使うのではなく、モデルの学習に有効なデータを見極めたことです。AIの学習では、データが多いほど良いと思われがちですが、ロボット動作データの場合は、必ずしもすべてのデータが性能向上につながるわけではありません。そこでロボットのデータの質を評価し、モデルの学習に有効な質の高いデータを選別することで、より現実世界で高い作業成功率を出せる高品質なモデルの構築を目指しました。

質の高いデータを抽出するには、『どのデータが高品質なのか』を評価する必要があります。そこで、私たちはタスクを達成したときの画像と、ロボットのカメラが認識している状態の違いをAIに比較させ、どれだけ直線的で無駄がない動きだったのかをスコアリングし、スコアが高いものを質の高いデータと判断しました」

西原 「データをスコアリングした後、学習させるデータの選び方にも工夫をしました。例えば、100点の動きだけを選んで学習させると、ロボットが誤差でわずかにずれただけで、AIが対応できずに失敗してしまいます。実機の誤差をカバーして、多少のブレを許容できるように、あえて『少し質が悪いデータ』を混ぜ合わせるなどのバランス調整も行いました」

今回の成果には、どのような意義があると感じていますか?

 「ロボット基盤モデルの性能向上において、データの質や選び方が非常に重要であることを示せた点に意義があると考えています。AIモデルの構造を工夫することはもちろん重要ですが、ロボットのように実世界で動くAIでは、どのようなデータを学習させるかが結果に大きく影響します。今回のコンペでは、データキュレーションを通じてデータを選別し、実作業の成功率を評価してもらうことができました」

鈴木 「AIが現実世界で動く『フィジカルAI』の研究開発につながる知見を得られたと考えています。従来のロボットは工場などで同じ動きを繰り返し行う存在でしたが、汎用的な動きができるようになれば、将来的には家庭や店舗などで、人を支援しながら日常のさまざまなタスクを担う存在になっていきます。今回のコンペティションでは、そうした汎用的な判断をするロボットのAIモデルを開発し、シミュレーションやデータ上の評価だけではなく、現実世界で作業を成功させるかどうかが問われました。データ活用や学習の進め方を考える上で、今回の成果は一つの手応えになったと感じています」

(掲載日:2026年7月7日)
文:ソフトバンクニュース編集部