
7月14日に開催されたソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2026」で、ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一が、ポストAGI(人工汎用知能)時代を見据え、社会基盤全体を守るために不可欠となる企業システムのモダナイゼーションと、企業が今取るべき備えについて語りました。
目次
歴史が示す「基盤からつくり替える」必要性

AIの進化により、ビジネスの現場では新しい可能性が広がっています。一方で、サイバーモデルの登場により、企業にはこれまで以上に堅牢なシステム基盤が求められています。宮川が講演のキーワードとして挙げたのは、「AI時代に向けた企業システム全体のモダナイゼーション」です。宮川は、歴史的な都市災害の教訓やAIの最新活用事例を交えながら、企業が今後必要となる備えについて話しました。
冒頭、紹介したのは、1871年に米国シカゴで起きた大火災です。都市の中心部が大きな被害を受けたこの災害をきっかけに、近代都市の土台がシカゴで生まれたといいます。
「燃えてしまったものを再現するか、そもそも燃えない基盤へと一から刷新するのか。シカゴが選んだのは後者でした」
それまでの街並みをそのまま再現するのではなく、防火を前提とした都市設計や建築規制、インフラ整備によって「そもそも燃えない街」へとつくり替える発想です。
宮川は、この考え方を現代に重ね、「企業のシステムは、シカゴのような燃えない基盤になっているのかを問うてみたい」と投げかけました。
今や、企業活動の多くはシステムに支えられています。「サイバー攻撃により業務が停止すれば、もちろん売り上げが減る。中でも一番大事なのは、経験上、信頼を失ってしまうこと。そして、企業そのものの継続という言葉にも直結する。われわれ企業に求められるのは、止まってから復旧する力ではありません。企業システム全体を止まらない基盤へと刷新すること」とし、企業の継続性を考える上で、サイバーセキュリティーは非常に重要なテーマの一つだと説明しました。
AIは「使う道具」から、自ら行動する「ポストAGI」時代へ

では、なぜ今、モダナイゼーションが必要なのか。宮川はその背景として、このわずか3年間でAIの能力が急速に高まり、AGIに手が届くレベルに近づきつつあることを挙げました。

「AIは、人が指示を出して初めて動くものでした。しかしAIエージェントの登場によって、AIが自ら考え、判断し、行動するようになりました。AIは『単なる道具』から『自律的に仕事を進める存在』へ変わりつつあります」
AIの進化のスピードを踏まえ、「残念ながら、われわれ人類はAIの処理能力に追いつくことはできないと感じている」と述べ、人とAIがどのように共存していくのかを考える時代に入ったとの見方を示しました。
また、現在を「プレAGI時代」と位置付け、近い将来、AGIの到来が宣言されることで「ポストAGI時代」に入り、これまでとは全く違う世界が訪れるとの考えを示しました。
最新ユースケースをデモンストレーション
宮川は、AIの活用例として、グループ企業であるSB Intuitionsが開発した国産生成AI「Sarashina(さらしな)」を用いたリアルタイム翻訳のデモンストレーションを披露しました。宮川が話した日本語を英語に翻訳し、本人の声質や抑揚を保ったボイスクローンでリアルタイムに再現する様子を実演し、言葉の壁を越えた新たなコミュニケーションの可能性を示しました。

デモンストレーションでは、会場とデータセンターを通信でつなぎながら翻訳処理を行いました。ボイスクローンは、事前に宮川が日本語の原稿を約1分間読み上げて学習させたと紹介し、「リアルタイム通訳が、こうしたスピーチの会場でも使えるようになった」と述べました。
「歴史的な古い言葉や四字熟語、人名、地名など、日本語ならではの表現にも対応できるようチューニングしている。海外での講演も可能になってきた」と展望を述べました。
さらに宮川は、AIエージェントを活用して企業の顧客体験を向上する対話型AIプラットフォームを展開する米国のAIスタートアップ「Sierra(シエラ)」と戦略的パートナーシップを締結し、日本市場における独占販売代理店として提供を開始することを発表しました。ソフトバンクのカスタマーサポートのやりとりを想定したデモンストレーションでは、AIが本人確認から、契約内容の確認や、より適したプランの提案、SMSによる手続き用リンクの送付までを自然な会話を通して行いました。
また、ソフトバンクのオンライン専用ブランド“LINEMO”のコールセンターで実施した検証では、API接続とシナリオ確認を経て、わずか2週間で実装。短期間ながら、課題解決率97%、ユーザー満足度93%という高い結果が得られたことを挙げ、「この精度であれば、実用化レベルに達していると感じてもらえたのではないか」と話しました。

- ソフトバンクとSierra、AIエージェントでカスタマーサポートの顧客体験を変革するサービスの日本展開に向けた戦略的パートナーシップ契約を締結~Sierraの対話型AIプラットフォームをソフトバンクが日本市場で独占販売代理店として販売開始(2026年7月14日、ソフトバンク株式会社 プレスリリース)
AIが企業活動を支える力になる一方で、サイバー攻撃の力にも

講演の後半で宮川が再び取り上げたのが、サイバーセキュリティーです。「AIは企業活動を支える力になる一方で、攻撃者にとっても強力な手段になり得る」とし、企業のシステムにどのようなインパクトを与えるのかを話しました。
サイバーモデルとは、一定の安全管理のもとで制限を緩和し、高いサイバー能力を実現したAIモデルであり、古いソフトウエアや設定ミス、脆弱な認証などを組み合わせ、「どこから侵入され、何が狙われるのか」まで分析できると説明しました。
このモデルを使ってソフトバンク社内の約700システムを検証したところ、1万500件の脆弱性が見つかったと言います。また、2026年6月に発表したAIを活用して脆弱性の検出から修正支援までを行う新ソリューション「Patching as a Service(パッチング・アズ・ア・サービス)」には137社から診断要望が寄せられ、すでに診断が完了した企業からは、1システムあたり平均280件の脆弱性が確認されたことを話しました。

続けて、サイバーモデルを用いたデモンストレーションを紹介しました。デモは、許可を得た上で検証用環境を用意し、一般的なECサイトを想定して実施しました。「AIがシステムを分析し、結果として、個人情報の取得やシステムダウンまで実行できた」と説明。このECサイトにはファイアウォールが導入されていましたが、サイバーモデルはさまざまな角度から攻撃経路を見つけ出し、防御を突破したといいます。「AIから見れば、われわれがやった対策などは、防御にすらなっていないのかもしれません。だからこそ、これから必要になるのは『企業システム全体の総点検』と『最先端AIに対応したソースコードの入れ替え』だと思います」と述べ、AI時代の脅威に対応するには、従来の対策の延長では不十分であるとの危機感を示しました。

「モダナイゼーション」で、人間中心の開発からAI前提のシステムへ刷新
こうした変化に企業はどう備えるべきなのか、宮川が示した答えが、AI時代のモダナイゼーションです。
「AI時代のモダナイゼーションとは、従来の人間中心だったシステム開発の前提を、AI前提へ刷新すること、つまりサイバーAIに対抗できる設計、運用、コードへと変えていくことです」

これまでの企業システムは、多くの人や会社が関わって設計・開発されており、その過程で、入力漏れや設定の矛盾、想定外の連携ミスが残ることがあります。
システムの脆弱性は、そのようなコード、設計、運用のゆがみから生まれます。人間には完璧に見えているシステムでも、AIから見ると攻撃可能な穴が残っている可能性があります。実際にサイバーモデルは、長年信頼されてきたシステムからも、未発見の攻撃の穴を見つけました」と説明しました。AI時代に企業が事業を継続していくためには、「脆弱性を見つけて直すだけではなく、AI自身が構築して、AI自身が守れるシステムへと根本から変えていくことが必要」であるとし、全ての産業でモダナイゼーションを進めていく必要があると訴えました。

システム刷新の第一歩「Patching as a Service」

一方で、システム全体の刷新には時間がかかり、その間にも、AIによるサイバー攻撃のリスクは日に日に高まっています。宮川が緊急対応として示したのが、Patching as a Service(以下「PaaS」)です。
PaaSは、現行システムの脆弱性を把握し、それに応じたパッチを適用していく取り組みです。宮川はこれを「攻撃を受けて治療するというパターンではなく、先に弱点を見つけて耐性を作るやり方」であると説明。

また、ソフトバンクでは、脆弱性診断から修復までの自動化を進めるとともに、1,000名の支援体制を編成し、国内企業3,000社へ提供していく考えを示しました。
ポストAGI時代へ。社会基盤全体を共に守り抜く
AIは、生活を豊かにするという大きな恩恵をもたらします。一方で、その力はサイバー攻撃にも使われる可能性があります。全てがつながる社会である今、自社だけを守ればいいという考えではなく、企業同士が協力し、日本の社会基盤全体を共に守り抜いていく必要があります。

最後に宮川は、会場に向けてこう呼びかけ、講演を締めくくりました。
「激動の時代です。素早い実行こそ最大の防御になります。そして、それを1社だけではなく束で実行することが、強い国づくりにつながっていくと思います。ポストAGI時代に向けて、強い日本を一緒につくっていきましょう」

詳しくは、ビジネスブログ でレポートしています。
(掲載日:2026年7月23日)
文:ソフトバンクニュース編集部
SoftBank World 2026 公式サイト
SoftBank World 2026の講演は、一部を除き、
2026年8月31日(月)まで公式サイトからオンデマンド視聴可能です。




