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フィジカルAIへの “3つの誤解”。導入の鍵は作業の可視化とデータの蓄積 ー SoftBank World 2026 講演レポート

ソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2026」で、ソフトバンクロボティクス株式会社 取締役 兼 CBO 吉田健一が登壇し、ロボット、AI、人が共存するこれからの現場オペレーションをテーマに、フィジカルAIの可能性と実装に向けた課題が語られました。

フィジカルAIへの期待と現実。現場から見た3つの誤解

冒頭、ソフトバンクロボティクスの事業領域について紹介。

「われわれは2026年7月現在、全世界33カ国でAIとロボットの事業を展開しています。注力領域は、施設管理、物流、生産、飲食など、実際にロボットによるオペレーションが行われる産業です。人が担う役割は絶対になくならないので、ロボットと人とAIを全部組み合わせたオペレーションがどういうものになるのか。施設管理の現場や、物流の現場、生産の現場、飲食店などに携わっている会社だと思っていただければと思います」と紹介しました。

そして、「期待感が先行していて、開発現場の実態と一致していないと感じています」と述べ、フィジカルAIをめぐる “誤解” をキーワードに3つの論点を提示しました。

誤解①3年後にはヒューマノイドが家事をやるようになる

最初に取り上げたのは、数年以内に人型ロボットが家庭に入り、洗濯物を畳むなどの家事を担うようになるという期待です。

「皆さんは新しい技術が出ると期待をふくらませるのですが、実際はそんなに甘くありません」と述べ、期待が先行しやすい状況に注意をうながしました。

まず従来のロボットについて、「これまでのロボットはプログラム型で、プログラムされたことをやっているだけなんです」と説明。

清掃ロボットや配膳ロボットも、周囲を理解しているように見えて、実際には「障害物を検知したら止めるというプログラムを処理しているだけ」だとしました。

一方、フィジカルAIは、「『ちょっと床掃除しておいてよ』と言ったら、『分かりました』と言って床を掃除する。人にぶつかってはいけないということも分かっていますし、壁の近くも掃除しなければいけないことも分かっている」と語り、フィジカルAIを搭載したロボットが指示の意味を理解して行動する世界を示しました。

「ただし、実現に向けた課題はデータ不足です。人間がどう動くと洗濯物が畳めるのかなど、物理的な動きのデータが全然足りていません」と説明し、「技術的には実現可能だけれども、人間のように多様な作業を行うには、学習に必要な動作データが不足しています。これがフィジカルAIです」と現状を整理しました。

さらに、見た目に派手な動作が難しさを示すわけではないとも指摘。「ダンスやバク転ができるロボットは、人間からすると『すごい』と感じますが、事前に動作を設計できる動きは、必ずしも周囲を理解して判断するフィジカルAIを必要としません」と述べました。

一方、「ケーブルを穴に差すときなど、人間は目で見てやっているわけではなくて、手の感触で『ちょっと右に寄りすぎたから左かな』とやって、最後に押し込んでいますよね。この細かい動きのデータを取るのが大変です」と説明。

家庭で複雑な家事を担うロボットが短期間で一般化するわけではないとし、フィジカルAIへの期待を現実的にとらえる必要性を訴えました。

誤解②フィジカルAIは日本の製造業を救う救世主である

2つ目に取り上げたのは、フィジカルAIを製造業中心の技術としてとらえる見方です。「特に『日本の製造業を救うのがフィジカルAI』という話が非常に多いのですが、そんなにシンプルな話ではない」と述べました。

特定の作業を実行できるデータモデルができればハードウェアの位置付けも変わるとし、「フィジカルAIが実用化されると、ハードウェアは何でもよくなります。例えば、ハーネスをカチッと留められるデータモデルを学習させて作ったとしたら、その作業を実行するロボットは正直、何でもいいんです」と述べ、競争力の源泉が機体そのものからデータモデルへ移っていく可能性を示しました。

一方で、従来型ロボットの価値がなくなるわけではないとも補足。「1か0かではなくて、例えばハーネスを留める作業でも、95%程度はプログラム型で対応し、最後の部分だけフィジカルAIを使うという考え方です」と語り、プログラム型ロボットとフィジカルAIを組み合わせる考え方を示しました。

フィジカルAIの効果は、すでに自動化が進んでいる産業よりも、自動化が進んでいない産業で大きくなると説明。清掃、警備、飲食、小売、施設管理など、人手への依存度が高い領域に可能性があるとしました。

例として清掃業務を挙げ、「トイレ掃除は毎日するものなので、お金がかかったとしてもデータを貯める意味がある」と述べました。

しかし、「研究所でデータを貯めるだけではもう間に合わない。トイレの種類があまりにも多すぎて、研究所ではシミュレーションできないんです」と現状を説明。

最後に、「初期段階では遠隔操作も活用し、現場で作業データを蓄積することで、段階的に自動化率を高めていくという話です」と述べ、現場を持ち、実際の業務データを蓄積できる企業こそが、フィジカルAIを育てるうえで優位に立てると位置付けました。

誤解③フィジカルAIが各産業のビジネスモデルを根幹から変える

3つ目に示されたのは、フィジカルAIがもたらす変化は、一つひとつの作業をロボットに置き換えることだけではないという点です。

「『フィジカルAIは非常に大きなインパクトがありビジネスモデルが変わる』ということに対して、少し違うイメージを持っています」と述べました。

例として紹介されたのが、AIが自動販売機の運営を担った海外の実験。「どういう商品を仕入れるか、価格をいくらにするか、メールで仕入れ先と交渉して、実際に発注するところまでAIがやります」と説明し、AIが単なる作業支援ではなく、ビジネス全体の運営に関わる可能性を示しました。

さらに、「AIは、ある特定のKPIを最大化するように設定すると、そのために全力を使う。AIが利益を最大化するためのモデルを作って、その指示をする先に人なりロボットなりが出てくる」と語りました。

この考え方は、施設管理にも応用できるとし、「監視カメラ映像から通常と異なる状況を検知しアラートを上げる仕組みを導入すると、人による警備では見えていなかったことが見えるようになります」と説明。

「『床が濡れていたら教えて』と書けば、床が濡れていたら教えてくれる」と述べ、AIが現場の状況を検知し、人やロボットに指示を出す構想を紹介しました。

さらに、「一個一個の作業をするフィジカルAIも大事だが、例えば施設全体がフィジカルAI化する、レストラン全体がフィジカルAI化する、工場全体がフィジカルAI化する。フィジカルAIのインパクトは単体の作業代替にとどまらず、現場全体の意思決定とオペレーションを変えることにある」と位置付けました。

完成品を待つのではなく、現場で育てるフィジカルAI。鍵となる作業データの蓄積

「フィジカルAIを実装していくには、日々の業務を通じて作業データを蓄積し、自動化できる範囲を段階的に広げていくことが必要です。そのため、作業頻度が高く、現場で継続的にデータを集められる領域でフィジカルAIの活用が期待されています」と述べ、ソフトバンクロボティクスが清掃や警備などの現場で培ってきた知見を踏まえ、フィジカルAIの可能性を具体化するための2つのアプローチを紹介しました。

1つ目は、現場作業の可視化です。

「まず、作業されている方に全部カメラを付けて、すべての作業を洗い出しましょう。その上で、これは毎日やっているからロボット化に向いている、かつ技術的にもできやすいので、フィジカルAIにするのがよいのではないかと考えます」と説明。

「その次に行うのが、ロボットの遠隔操作です。最初は自動ではできていないので、遠隔操作で人が操作することになります。人が操作してできるのであれば、データがたまれば自動化されます。人が操作してもできないことは、フィジカルAIにもできません」と述べ、まず人が遠隔操作で実行できるかを確認し、その作業データを蓄積していく流れを示しました。

2つ目は、施設管理や清掃などの共通業務から始める方法です。

「活用場面がまだ見えていない場合でも、多くの会社では施設管理や清掃業務があります。まずはそうした共通業務の中で活用し、現場でデータを集めながら進めていきましょう」と、フィジカルAIを導入するうえで重要なのは、完成されたロボットを待つことではなく、現場で動かしながらデータを集めていくことであると語りました。

最後に、「フィジカルAIは非常に大きなことだけれども、雲をつかむようで、具体的な話につながらないところがあります。その中でも、皆さんの会社で役に立ちそうなこととして、2つのアプローチをご紹介しました」と締めくくりました。

(掲載日:2026年7月31日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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