
大阪の象徴として、四季折々の表情で訪れる人々を魅了する大阪城。その一帯は国の特別史跡「大坂城跡」に指定されており、文化財保護に伴う厳しい制約から、長年にわたり通信環境の改善が極めて難しいエリアでした。
ソフトバンクは、約150時間に及ぶ景観調査と20回の協議を重ね、2026年2月に本丸周辺の通信環境を改善。文化的価値を守りながら、どのように基地局整備を実現したのか、舞台裏を担当者に聞きました。

ソフトバンク株式会社 エリア建設本部 関西ネットワーク技術部
畔柳 響兵(くろやなぎ・きょうへい)

ソフトバンク株式会社 エリア建設本部 ネットワークマネジメント部
石川 健太(いしかわ・けんた)
特別史跡ならではの制約。長年解決できなかった本丸周辺の通信課題

今回の対策前、大阪城の本丸周辺では、どのような通信課題があったのでしょうか。
石川 大坂城跡の敷地内には、電波が十分に届かず、圏外になる場所が点在していました。電波が届く場所でも、来訪者が増えると通信容量が不足し、データ通信が滞る、いわゆる「パケ詰まり」が発生することがありました。
私たちが現地を訪れた際にも、電話がつながりにくかったり、業務で使うメッセージの通知が届かなかったりする場面がありました。売り場でQRコード決済の画面を開けない、敷地内で地図や翻訳アプリを利用できないといったケースもあったといいます。
大阪城は市街地の中心に位置しているにもかかわらず、そのような課題があったのですね。
畔柳 大坂城跡の敷地内にはこれまで基地局が設置されておらず、公園の外側にある基地局から、できる限り本丸周辺へ電波を届ける方法を取っていました。しかし、大阪城の本丸は周囲よりも高い位置にあります。電波には直進する性質があるため、低い場所にある基地局から本丸へ電波を届けようとしても、周辺の地形に遮られてしまいます。
さらに、周辺の基地局から本丸までは距離もあり、電波が届いても、十分な通信容量を確保することは困難でした。
なぜ大坂城跡の敷地内には、これまで基地局を設置できなかったのでしょうか。
石川 最大の理由は、大坂城跡が国の特別史跡であり、文化財の保護を最優先しなければならないことです。一般的な基地局であれば、建物の上にアンテナを設置したり、地面にコンクリート製の柱を建てたりする方法があります。しかし、特別史跡の区域内では天守閣や石垣などに通信設備を直接設置することができず、地下には歴史的な遺構が残っている可能性があるため、地面を掘削することもできません。
仮に設備を設置可能な場所があっても、景観を損なわないことが求められます。「文化財を傷つけない」「地面を掘らない」「設備を目立たせない」という条件を守りながら、基地局に必要な性能を確保する必要があるため、なかなか実現できませんでした。

今回の整備以前にも、ネットワーク対策を検討していたそうですね。
畔柳 2018年頃から、他キャリアと連携し、基地局を公園内の施設へ設置する案や、目立たない設備で柱を建てる方法など、大阪城周辺の通信環境改善のためのさまざまな方法を検討しました。
しかし、基地局に必要な性能と、特別史跡に求められる文化財保護や景観への配慮を両立できる案をまとめられず、計画は難航。最終的に、当時の設置計画は2020年に中止となりました。
一度中止となった計画が、再び動き始めたきっかけを教えてください。
畔柳 大きなきっかけとなったのが、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)です。万博の開催に伴い、国内外から大阪城にも多くの観光客が訪れることが見込まれていました。そうした中、大阪城の指定管理者から通信環境の改善への要望が寄せられ、ネットワーク対策に向けた計画が再び動き始めました。
対策を終えたのは万博の開催後になりましたが、この機会を逃せば、大阪城のネットワーク対策はさらに難しくなるという危機感がありました。万博後も多くの観光客が訪れると見込まれたため、万博の終了後も協議を継続しました。

150時間の調査と20回にわたる協議。見え方と性能を両立した基地局整備
特別史跡ならではの厳しい制約がある中で、どのような対策を行ったのでしょうか?
石川 基地局の設置場所として選んだのが、大阪城天守閣のすぐ横にある複合施設の屋上です。その施設への設置は以前も検討していましたが、当時は塀の瓦の強度が課題となり、実現には至りませんでした。しかし、その後、工事が行われ、基地局を設置するための条件が整うことが分かりました。
ただし、建物への設置課題が解消しても、すぐに設置が認められるわけではありません。来訪者からアンテナがどのように見えるのか、天守閣や周辺施設を含む景観を損なわないかを、関係者と綿密に確認する必要がありました。

天守閣近くの施設の屋上に設置された基地局
関係各所とは、どのように調整を進めたのでしょうか。
石川 大阪市の全面的な協力のもと、文化庁への申請に向けて、有識者をはじめとする関係者に、基地局の必要性や設置方法、景観への配慮について説明しました。設置場所やアンテナの見え方について意見をいただくたびに案を見直し、計20回にわたる協議を重ねて計画を詰めていきました。
特に難しかったのが、アンテナの見え方です。アンテナが目立てば景観を損ねてしまいます。一方で、見えにくい場所に隠しすぎると、必要なエリアへ電波を届けられません。景観への影響を抑えつつ、通信設備としての性能を維持できるよう、関係者と細かく調整しました。
アンテナを目立たせないために、具体的にどのような取り組みを行ったのでしょうか。
畔柳 まず、基地局の設置候補を4カ所に絞り、大阪城を訪れる人の視点を想定した10カ所の撮影地点から見え方を確認しました。設置位置や高さを少し変えるだけでも、大阪城や周囲の建物と重なったときの見え方は変わります。そこで、実物大の基地局設備の模型を候補地に設置し、遠くから見た場合や近くから見た場合など、さまざまな条件で写真を撮影しました。
石川 また、アンテナの色にもこだわりました。通常の基地局で使われる色に加え、景観になじむ茶色や、建物の壁面に近い色など、5色の模型を用意しました。景観全体の中でどのように見えるかを比較し、設置場所や色を検討しました。アンテナの見え方を確認する景観調査に費やした時間は、延べ約150時間に上ります。


交渉開始から、どの程度の期間がかかったのでしょうか。
石川 2023年半ばから交渉を開始し、基地局を設置するまで約2年半かかりました。同規模の基地局であれば、早ければ6カ月、標準的には1年程度で整備することが多いのですが、今回はこれまで手がけたネットワーク対策の中でも特に難易度が高く、通常より長い時間を要しました。
通信環境は、どのように変わったのでしょうか。
畔柳 今回設置した基地局から直接電波を届けられるようになり、周辺の基地局だけでは安定してカバーできなかった本丸周辺の通信環境を大幅に改善できました。以前はSNSの利用も難しい場所がありましたが、現在は動画も視聴できるようになっています。
石川 電波の発射後に現地を確認した際、大阪市の職員の方からも「こんなに変わるんですね」と驚きの声をいただきました。これまで電波が届かなかった天守閣内の会議室でも、電話やオンライン会議ができるようになったと聞いています。

オンライン会議でスムーズにやりとりができるように
大阪城以外の観光地や特別史跡などのスポットでも同様の取り組みを行っていくのでしょうか?
畔柳 今回の取り組みは、関西エリアでソフトバンク初となる、国の特別史跡での通信環境改善事例です。設置位置やアンテナの色、大きさを確認し、さまざまな方向から見え方を検証した上で、関係各所と調整を重ねる進め方は、他の文化財や観光地でネットワーク対策を検討する際にも生かせると考えています。これまで対策が難しいとされてきた場所でも、関係者の意見を丁寧に聞きながら、文化的価値の保全と安定した通信環境の整備を両立させていきたいです。
(掲載日:2026年8月17日)
文:ソフトバンクニュース編集部




