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国産生成AIが行政窓口の判断をサポート。ソフトバンクが藤枝市で「Sarashina」を活用したナレッジ検索システムを実証

国産生成AIが行政窓口の判断をサポート。ソフトバンクが藤枝市で「Sarashina」を活用したナレッジ検索システムを実証

住民票や戸籍の手続き、福祉や介護に関する相談など、自治体の行政サービスは、私たちの暮らしに密接に関わっています。業務の効率化や職員を支援する手段として自治体でも生成AIの活用が始まっていますが、住民対応などの実務では、単に回答できるだけでなく、その根拠や安全性まで含めた「信頼性」が欠かせません。

ソフトバンクは、総務省の「公共分野における信頼できるAIを用いた開発実証事業」に採択され、2026年6月から、静岡県藤枝市を実証フィールドに、SB Intuitionsが開発する国産生成AI「Sarashina」とソフトバンクの生成AIサービス「dailyAI」を活用したナレッジ検索システムの回答品質や根拠提示、安全性などの実証に取り組んでいます。

実証の概要や狙いについて、ソフトバンクと藤枝市の担当者に話を聞きました。

村上 航大

ソフトバンク株式会社 技術統括 プロダクトR&D本部 プロダクト開発推進部

村上 航大(むらかみ・こうだい)

プロジェクトマネージャーとして、実証全体の企画・推進、システム開発・検証のマネジメントを担当

田中 範明

藤枝市 企画創生部 情報デジタル推進課 課長

田中 範明(たなか・のりあき)さん

藤枝市プロジェクトリーダー。実証内容の企画支援、庁内関係部署との調整、職員からのフィードバックの取りまとめを担当

持続可能な行政サービス実現のために、生成AIをどう生かせるか

昨今、さまざまな分野で生成AIの活用が広がっていますが、自治体でも活用が進んでいるのでしょうか?

田中さん: 藤枝市では、ChatGPTが登場した頃から生成AIを積極的に使っていこうと、職員による業務活用を進めてきました。現在はアイデア出しや翻訳、情報の取りまとめなどに活用し、業務効率化を図っている段階です。

田中 範明

村上: 藤枝市に限らず自治体への生成AI導入は進んでいると感じています。一方で、使い方を見ると文書作成や要約などにとどまるケースも多く、窓口対応など実際の行政業務まで浸透しているケースはまだ多くありません。

行政業務では、法令や通知などの根拠に基づいて判断し、その内容を説明する責任があります。今回の実証では、そうした行政の実務に踏み込んで、生成AIが職員の業務をどこまで支援できるのかを確かめたいと考えています。

今回、実証フィールドとして藤枝市を選んだのはどのような理由からでしょうか?

村上: ソフトバンクはこれまで、自治体の業務調査やBPR(業務改革)支援などを通じて、行政の業務そのものへの理解を深めてきました。そうした中で見えてきた現場の課題を、生成AIによってどう解決できるかを検討してきました。

藤枝市とは以前から包括連携協定を締結するなど関係があり、お互いのことを理解していたことも大きかったです。また、藤枝市ではすでに生成AIを活用しており、その次の段階として実務に踏み込んだ検証を行うという点でも方向性が一致しました。

村上 航大

田中さん: 日本全体で人口減少が進む中、藤枝市でも今後、働く世代の減少が予想されています。限られた職員数で行政サービスの質を維持し、さらに質の高いサービスを提供しながら持続可能な行政運営を続けるには、AIの活用を前提とした業務改善にも取り組んでいく必要があります。

今回、ソフトバンクから国産生成AI「Sarashina」を使った窓口業務の実証について提案をいただき、ぜひ一緒に挑戦したいと考えました。

国産生成AIとRAGを組み合わせ、行政実務での活用を検証

藤枝市役所

今回の実証は、総務省の「公共分野における信頼できるAIを用いた開発実証事業」の一環として実施されています。野村総合研究所(NRI)が全体統括事業者としてプロジェクト全体の統括や成果の取りまとめを担い、ソフトバンクがサービス開発事業者、藤枝市が実証のフィールドとなるユーザ機関として参加。官公庁や自治体向けのITコンサルティングを手掛けるグラビス・アーキテクツ株式会社(公共AIナレッジ研究会)とも連携し、行政業務における国産生成AIの有用性を検証します。

プロジェクト体制

市役所の実務に踏み込んだ検証とのことですが、何を行うのでしょうか。

村上: 市役所の窓口業務を中心に実証を行います。市役所には、戸籍の手続きや生活保護などさまざまな相談が寄せられます。窓口の職員は相談内容に応じて、法律や国からの通知など、判断の根拠となる情報を確認した上で回答する必要があります。

こうした業務は職員の知識や経験に依存する部分も大きいです。そこで、生成AIによって必要な根拠を探し、職員が回答するまでのプロセスを支援できないかと考えています。

実証の対象となるのは、市民課、地域包括ケア推進課、福祉政策課の3部署です。

具体的にはどのような仕組みで行うのですか。

村上: 法令や通知、マニュアルなどから質問に関連する情報を検索する「RAG(検索拡張生成)」の仕組みと、SB Intuitionsが開発する国産生成AI「Sarashina」を組み合わせます。ソフトバンクの生成AIサービス「dailyAI」をベースに実証用のシステムを構築し、職員が質問の意図を踏まえた回答案と、その根拠となる情報を確認できる環境を整えます。

さらに、AIを動かす基盤には、データの保存・処理を日本国内で完結するクラウドサービス「Cloud PF Type A」を活用する予定です。AIモデルだけでなく、それを支えるクラウド基盤まで含めた環境で実証を行います。

AIナレッジ検索システム概要

数ある業務の中から、なぜ市民課、地域包括ケア推進課、福祉政策課を実証のフィールドとして選んだのでしょうか。

田中さん: まずはスモールスタートで取り組みたいと考えました。その中でも、多くの法令に基づいて判断する必要があり、さまざまな問い合わせが寄せられる部署として、この3部署を選びました。

行政では定期的に人事異動があります。一方、今回対象となる業務では、相談者一人一人の背景が異なり、それぞれの状況を法令に照らして判断する必要があります。そのため、経験豊富な職員に対応が集中してしまうこともあります。

異動してきたばかりの職員でも、生成AIが法的な根拠やマニュアルを示してアシストすることで、必要な情報にたどり着きやすくなれば、ベテラン職員の負担軽減にもつながります。職員が変わっても、質の高いサービスを安定して提供できる環境をつくっていきたいと考えています。

行政実務で期待される国産生成AIならではの強み。日本語特有の表現や地域性を適切に解釈し、職員の判断をサポート

藤枝市役所の窓口

行政の現場で生成AIを使う上で、特に重要になることは何でしょうか。

田中さん: 今回対象となる業務では、一人一人の事情に応じて判断が変わります。「前の人にこう回答したから、次の人にも同じ回答をすればよい」というわけではありません。個々の状況を理解し、根拠となる法令に照らして判断するための知識や経験が必要になります。

生成AIには、そうした判断を支援する役割を期待しています。ただ、最終的に市民の方とコミュニケーションを取るのは人です。法令や制度を調べる時間をできるだけ短縮して、その分、市民の皆さんと向き合う時間を増やしたい。それが行政サービスの質の向上にもつながると考えています。

田中 範明

行政業務との相性という点で、Sarashinaにはどのような可能性を感じていますか。

村上: 今回確かめたいのは、単純なモデル性能だけではありません。

国産生成AIであるSarashinaには、日本語の表現や、日本の文化・慣習を踏まえた文脈の理解という面で期待しています。行政の窓口では、相談者が置かれた背景を読み取る必要がありますし、地域によって使われる言葉や表現が異なることもあります。

そうした日本語特有の表現や地域性をどこまで適切に解釈し、意図をくみ取った回答につなげられるのか。実際の行政業務の中で検証していきたいと考えています。

今回の実証では、Sarashinaだけでなく海外生成AIも用い、同じRAG基盤などの条件で比較します。単純な回答精度だけではなく、根拠提示や説明責任、業務への適合性なども含めて評価していく予定です。

生成AIの回答が正しいかどうかは、どのように評価するのでしょうか。

村上: 生成AIが回答案を出す際には、どの情報を根拠として参照したのかも合わせて表示します。職員が一つの画面上で回答と根拠を確認し、妥当性を判断できるようにします。

また、職員から回答に対する評価を継続的にフィードバックしてもらい、その結果をチューニングに反映します。

村上 航大

田中さん: AIが出した回答が本当に正しいのか、ハルシネーションが起きていないかは、市の職員がその都度判断します。その評価をシステムの改善につなげていく形です。

あくまでも生成AIは職員を支援するものです。最終的な判断や説明は職員が担うことが前提になります。

行政情報を扱う上で、どのような環境が重要だと考えていますか。

田中さん: 行政では重要な情報を扱います。そのため、今回使用する生成AIが国内で開発され、データを扱う環境も国内で運用される点には期待しています。

行政情報を安心して扱える環境であることは、生成AIを実務で利用していく上で重要なポイントだと考えています。

行政におけるAI活用の可能性を考える第一歩。実証で得た知見を全国の自治体へ

田中 範明/村上 航大

実証は今後、どのように進めていくのでしょうか。

村上: まずは藤枝市の対象業務を整理し、どの場面で生成AIを活用するのが適切かを確認した上で、実際の業務で試していきます。利用する職員からフィードバックを受けながら、回答精度や参照するナレッジを継続的に改善していく予定です。

また、今回重視しているのが、AIが参照するナレッジそのものの整備です。法律や通知、参考資料など、行政の判断に必要な情報を整理し、制度改正などに合わせて継続的に更新できる形にしていきます。
このナレッジ整備については、グラビス・アーキテクツとも連携し、公共AIナレッジ研究会で検討している、行政ナレッジを体系的に整理・活用するための公共AIナレッジベースの考え方を取り入れながら進めていきます。 将来的には、自治体ごとに個別の仕組みをつくるのではなく、全国の自治体が持つ行政ナレッジを共通の考え方で整理し、他の自治体でも活用できる形にしていくことを見据えています。

今回の実証は、行政におけるAIのあり方を考える第一歩です。行政業務で生成AIを活用するためには何が必要なのかを実際の現場で確かめ、今後の取り組みにつなげていければと思います。

田中さん: 国産の生成AIが、日本の行政業務に合った形で活用できることに期待しています。
まずは今回の3部署で実証しますが、効果を確認できれば、将来的には他の窓口業務にも活用を広げていきたいと考えています。

そして生成AIによって業務を効率化できれば、職員の負担を軽減するだけでなく、生まれた時間を市民の皆さんと向き合うことに使えます。それによって行政サービスの質をさらに高めていければと思っています。

関連リリース

静岡県藤枝市の窓口業務効率化に向けて、国産生成AIとソブリン性を備えたクラウドを活用したナレッジ検索システムの実証を開始(2026年7月1日 ソフトバンク株式会社)

(掲載日:2026年9月10日)
文:ソフトバンクニュース編集部