
ソフトバンクが約10年にわたり研究開発を進めてきた「空飛ぶ基地局」HAPS。2026年8月、日本で商用化に向けた通信試験を実施し、スマホやドローンとの通信などに成功しました。9月17日に開催した記者説明会から、その成果と今後の展望を紹介します。
目次
約10年の挑戦。HAPSがいよいよ商用化に近づく
ソフトバンクは2026年8月、成層圏通信プラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」を活用し、日本国内で商用化に向けた通信試験を実施しました。
HAPSは、上空約20kmの成層圏を飛行しながら、地上のスマホなどにモバイル通信を届ける「空飛ぶ基地局」です。災害などで地上の基地局が利用できなくなった場合の通信手段をはじめ、山間部や離島などへの通信エリアの拡大、ドローンなど上空を移動するモビリティへの通信提供などが期待されています。
9月17日に開催した記者説明会では、プロダクトR&D本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長の上村征幸が、今回の試験で確認した成果や今後の展開について説明しました。
ソフトバンクがHAPSの研究開発に着手したのは2017年。機体設計や飛行試験、成層圏からの通信試験など、機体と通信の両面で開発を重ねてきました。


HAPSには、空気より軽く浮力を利用して飛行する「LTA(Lighter Than Air)型」と、飛行機のように揚力を利用する「HTA(Heavier Than Air)型」があります。今回の試験には、米国のSceye, Inc.(以下「Sceye」)が開発したLTA型HAPSを使用しました。

「研究着手から来年で10年という大きな節目を迎える前に、日本上空でHAPSが使えることをぜひ証明したいと思い、これまで準備を進めてきました。飛行性能と通信性能、この二つは、2017年に検討を始めた頃から変わらず、災害対策に使うために必要だと考えてきた機能です。一方で、この10年の間に社会情勢の変化や技術の進化もありました。そうした変化に対応するために、今回はドローン、そしてAIを見据えたエッジコンピューティングの検証も行いました」

(写真左:藤野矩之、写真右:上村征幸)
米国から約1万5,000km。太平洋を横断して日本へ
今回使用したSceyeのHAPSは8月9日午後10時(日本時間)、米国ニューメキシコ州を出発しました。成層圏まで高度を上げた後、風を利用しながら日本を目指しました。
上村は飛行ルートについて、「13日をかけて、太平洋の赤道に近いところで日本に向かう風に乗りながら日本を目指しました。当初の予定通り高知県まで来て、そこで滞空しながら通信試験を行いました」と説明。

「高度は17kmぐらい、岸からも10kmぐらい離れていましたが、肉眼でも米粒ほどの大きさにはっきりと見えました。現地の方も『あれは何だ』と気付くぐらいで、その状態で予定していた2日間、きっちり試験することができました」と現地での様子を紹介しました。

試験終了後は北側のルートを通り、今度は米国に向かう風を利用して帰還。往復約3万km、30日間にわたるフライトとなりました。説明会で上村は「控えめに言っても、大成功だったと思っています。30日で終えましたが、まだまだ余力を残していたなと感じました」と手応えを強調しました。
一方、回収した機体については現在も詳細な分析を進めています。成層圏という過酷な環境を長期間飛行したことによるハードウエアへの影響などを確認し、今後の運用に生かしていく予定です。

スマホで通話や動画視聴。緊急速報メールも確認
日本上空での飛行と並んで重要な検証となったのが、HAPSから地上のスマホへ安定して通信を届けられるかという点です。今回の試験では、HAPSに搭載した4G LTE相当の基地局を、地上ゲートウェイを介してソフトバンクのコアネットワークへ接続。スマホによる双方向通信を行いました。
試験では、音声通話やSMSに加えて、Webブラウジング、LINE、Zoomによるビデオ通話、YouTubeの動画再生などを実施しました。通信速度は実測最大で下り36Mbps、上り4.8Mbpsを記録しました。上村は、「今回は試験的に用いた通信設備なので、まだまだ伸びしろがあると思っています」と説明しました。

商用化を見据えた安定性について、「単なるワンコールの試験ではなく、100回発信して、100回正常に通話できることを確認する試験も行いました。どれぐらいのエリアをカバーできているのかや、既存の地上の基地局への干渉についても確認しました」と細かく検証したことを挙げました。
また、大規模災害時の利用を想定し、緊急地震速報や津波警報などをスマホへ一斉配信する緊急速報メールの動作を確認。海上保安庁の協力の下、118番への緊急通報試験も実施しました。
約10年の研究開発の中で、「本当に日本で飛ぶのか」「日本上空から安定して通信できるのか」と尋ねられることが多かったという上村。
「これまでは実績がくなかなか胸を張って言えませんでしたが、これからは試験サービスの結果から『日本上空でHAPSのサービスを提供できます』と言えると思っています」と今回の成果を振り返りました。
ドローン、エッジコンピューティング、レーザー測距も検証

今回の試験では、HAPSからスマホへの通信だけでなく、将来のHAPSの活用を見据えた新たな技術検証にも取り組みました。
一つ目は、HAPSとドローンを組み合わせた通信です。HAPSの通信環境下でドローンを自動飛行させ、飛行制御や位置情報の送信、映像伝送を安定して行えることを確認しました。災害時には、HAPSで通信エリアを形成し、その通信を利用してドローンを飛ばすことで、被害状況の確認や物資輸送などへの活用が期待されます。

二つ目は、HAPSを活用したエッジコンピューティングの技術検証です。スマホから送られたデータをHAPSに搭載したサーバー上で処理して返すことで、クラウド上で処理する場合と比べて通信の遅延を40%以上低減。HAPS内で応答処理を行い、その結果をスマホへ返す試験に世界で初めて※1成功しました。
さらに、将来の光無線通信を見据え、飛行中のHAPSを地上からレーザー光で追尾しながら距離を測る実証にも世界で初めて※2成功しました。

ドローンとの通信、エッジコンピューティング、レーザー測距の実証について、詳しく紹介しています。
- ※1
HAPS上にモバイルコアとウェブサーバーを搭載し、スマホからの通信を地上ネットワークを経由せずにHAPS内で応答処理し、その結果をスマホへ返す試験に成功したのは世界初。2026年8月23日時点の公開情報に基づく(ソフトバンク調べ)
- ※2
成層圏を滞空するHAPSに地上からレーザー光を送信して追尾しながら、HAPSに搭載したCCRからの反射光を地上で連続的に受信するレーザー測距の実証に成功したのは世界初。2026年9月8日時点の公開情報に基づく(ソフトバンク、一橋大学および国立極地研究所調べ)。
2027年以降の商用化へ。まずは災害時の活用から
今回の試験結果をもとに、ソフトバンクは2027年以降の国内商用化を目指して、運用体制の整備や通信品質の向上を進めていきます。当初の重要な用途として想定しているのが災害時の通信です。上村は、「来年からは災害が起きたときに駆けつけて、いち早く空からエリアを復旧し、通信できるようにするところに取り組みたい」と今後の運用について説明しました。
今回、日本の管轄エリアを飛行したのは約7日間でしたが、次の段階では「数カ月、日本上空に滞空しながら、災害があってインフラの復旧が必要になれば駆けつける」運用を想定しているといいます。
当面は米国からHAPSを飛ばして日本へ移動させる計画ですが、上村は、2年後をめどに日本国内にも機体の格納・運用拠点を設け、日本から飛行させて国内で回収する構想を明らかにしました。また、南海トラフ地震のように被害が広範囲に及ぶ災害への対応には複数機が必要になるとして、技術的な検証を重ねながら運用規模を拡大していく考えを示しました。
HAPSは太陽光で発電しながら飛行します。地上で長期間停電が続くような状況について、「都市の機能が停止したときにこそHAPSが使えるのではないか」とコメント。一方、HAPSの活用は災害時だけに限りません。平時には、ドローンなど上空を飛行するモビリティへの通信提供や、エッジコンピューティングを組み合わせた活用も想定しています。上村は、成層圏に滞空し続ける通信ネットワークというHAPSの特長を生かして「さまざまなユースケースが考えられる」とした上で、「事業の拡大や事業性を追求していきたい」と今後の展望を語りました。
地上の通信インフラを空から補完する新たな手段として、実用化への取り組みを進めていきます。


約10年にわたる研究開発を経て、日本上空での通信試験成功という大きな節目を迎えたHAPS。ソフトバンクは今回得られた飛行や通信、運用に関するデータや知見を生かして通信品質や運用体制をさらに磨き、2027年以降の日本国内でのHAPS商用化を目指します。

- 日本初、「空飛ぶ基地局」HAPSの商用化に向けた試験サービスの提供に成功(2026年9月2日 ソフトバンク株式会社 プレスリリース)
(掲載日:2026年9月30日)
文:ソフトバンクニュース編集部
UTXでソフトバンクが目指す世界

ソフトバンクは、地上のモバイルネットワークと、人工衛星や成層圏通信プラットフォームを活用した非地上系ネットワークを融合することで、いつでもどこでもつながり続ける世界を目指します。





