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前回、竹内さんが暮らして感じる車社会や高齢化とひもづく地域交通の課題とともに、それを解決するデジタルの力「MaaS」を学んできました。今回は、実は意外と知られていない「水インフラ」に対する課題とデジタルの可能性について掘り下げてお話を伺います。
PROFILE
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竹内 由恵
TAKEUCHI YOSHIE竹内 由恵(たけうち よしえ)
タレント(元テレビ朝日アナウンサー)1986年、東京都生まれ。2008年にテレビ朝日アナウンス部に入社後、多くの看板番組を担当。結婚を機に退社し、夫の勤務地である静岡での暮らしをスタート。35歳で長男を出産。現在は、バラエティー番組から報道番組まで幅広い分野で活躍中。
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河本 亮
KAWAMOTO RYO河本 亮(かわもと りょう)
ソフトバンク株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部
第一ビジネスエンジニアリング統括部
統括部長WOTA株式会社との資本業務提携をリードしソフトバンクでの水インフラに関わる共創事業を推進。
生活にはなくてはならない「水」。実は日本でも抱えている課題とは

静岡県は全国でも水質が良い県という話もあります。実際に移住されて静岡の水はいかがでしょうか。
静岡の水は蛇口からそのまま飲めるくらいおいしいです!
日本にいると、水が普通に使えるのは当たり前という意識がありますが、実は全国で水インフラ、水道管の老朽化が進んでいて、「漏水」や「断水」が多発しているといった話もありますが、ご存じでしたか?
え、そうなんですか? そもそも、日本の水道に関して何か問題があるというのが意外です。水資源は豊富なイメージなので……。
自然災害の影響で静岡でも断水が発生する事態もありましたね。いつも使えている水が急に使えなくなることについて、何か思うことなどはありますか?
私の住んでいる地域では断水は起こらず直接の影響は受けていないのですが、以前、海外の田舎町に行った時に断水してしまってシャワーが使えなくなったことを思い出しました。
数日シャワーを浴びられなかったのですが、それだけで気持ちが落ち込んでしまって。普段は当たり前のように水が使えているのに、シャワーを浴びられないだけでこんなにも気持ちに影響するんだというのを実感しましたね。
重要な災害時の「水」の確保。そこにもデジタルの力が活用され始めていた
シャワーを浴びられないことによるメンタルの影響なども考えると、災害時に水インフラをどう確保するのかは、やはり課題だと思います。そういった水が手に入りづらい災害地域での活用も視野に入れて、水の再利用をデジタルの力で解決しようと実はソフトバンクが水インフラプロジェクトに取り組んでいます。水を循環させて再利用できる小さな浄水場のようなプロダクトを活用して課題解決しようとしているんです。
今回は、ご担当者の河本さんにお越しいただき詳しくお話を伺っていこうと思います。よろしくお願いします。
はい!よろしくお願いいたします。
早速ですが、WOTA BOXと、WOSHがこちらです!

これが水の再利用が可能なプロダクトですか? まるでスタイリッシュな家電ですね。どのようなものなのでしょうか? 実際に触ったり、使ってみたりしてもいいですか?

はい。このシャワーセットの横にある装置がWOTA BOXという製品です。この中に4つ見えるのが水をろ過するフィルターでして、浄水場で行っている水処理がこの中でできるようになっています。例えばシャワーを浴びた後の排水をこのフィルターにかけることで、排水の98%が再生循環されます。100Lの最初の水があれば、本来であれば2人くらいしかシャワーを浴びられないところを、これを使えば100人くらいがシャワーを浴びられるようになります。
従来の水処理はアナログな業界で、水の状態を把握するのに人が水の色を見たり、においを嗅いだり、音を参考にして水処理に関する判断をしています。一方、 WOTA BOXではそういった情報をセンサーから収集し、その水質に対してどういった水処理を行えば供給水質が担保でき、コストも最適化できるのかを、人の判断を介さずにアルゴリズムが自律制御してくれるんです。

それはすごい! こんなところにもデジタル技術が使われているんですね。
はい。この製品は災害時に活躍することが期待されていて、実際に企業や自治体での防災対策として導入が広がっています。先般のトルコ・シリア大地震でも日本の国際緊急援助隊(JICA)に活用されています。冒頭にお話がありましたが、2022年9月の静岡県清水区の台風15号においては私たちも現地での被災地支援を実施しました。
断水時には、命に関わる飲用水を優先するため、皆さんシャワーを我慢していらっしゃいます。実際に、WOTA BOXを被災地にお届けした際、「1週間ぶりにシャワーを浴びた」という声も伺いました。また、「被災翌日からここまで全く入浴できずに、日に日に余裕が無くなっていく心情だった」「子どもとシャワーを浴びることができて、本当によかった」などのお声を頂きました。
静岡の断水の時も活躍していたんですね。限られた水で効率よく多くの人に水を提供できるなんて災害現場でありがたい存在ですね。
有事の際に使うのも重要なのですが、これが当たり前のように日常でも使われることが重要です。有事の際にいきなり使うのは気持ちの面でのハードルがあるので、いろいろな自治体で普段からご利用いただいています。これまでですと、お祭りやラグビー大会、キャンプ場、サーフィン大会会場のイベントなどで使っていただきました。

たしかに、災害時以外もいろいろと使えそうですね。
また、南海トラフ地震の可能性があると言われる中、先んじて静岡県藤枝市ではWOTA BOXの活用を進めており、災害時に正常に稼働できるよう、市民のサッカー大会や宿泊型避難訓練などでシャワー運営の習熟を図っています。まさに平時から防災の備えを日常化している事例になります。

地域交通のMaaSもそうでしたが、このプロダクトもすでに広く活用が進んでいるのですね。静岡は毎年局地的に豪雨が起こる時期があり、台風も必ず来ますし、水の被害がけっこうある地域なので、こういったものはありがたいですね。
そうですね。藤枝市も特に意識が高いように感じます。
この手洗い機器も使わせていただきますね。…わ! 特ににおいもなく、普段使っている水と何ら変わりないですね。

出てくるのが不純物をほとんど含まない軟水なので、いつもより肌ざわりがやわらかく感じるかもしれません。電源さえあればどこでも手洗いが可能です。ちなみに蛇口の横部分にはスマートフォンを深紫外線(UV-C)で除菌してくれる機能も搭載されています。
へー!それは便利ですね。こちらは災害時だけではなく、さまざまな場所に日常的に設置されているんですよね。今後どこかで見かけた時もぜひ使ってみたいと思います。
プロジェクトが描く未来。水インフラ設備の老朽化問題の解決も目指す
実際に使えると実感が湧いてきますね。他にもこの製品でできることはあるのでしょうか。
今後は今の水処理の制御や処理の技術に加え、生物処理を行うプロダクトがリリースされる予定です。汚物を含めた水までを再生循環できるようなプロダクトで、すでに実証実験をしている段階です。

こちらは軽井沢の個人宅の様子なのですが、建物にこのプロダクトを接続し、シャワー、トイレ、キッチンの生活排水をその中で再生循環をします。既存の上下水道インフラには接続せず、このプロダクトだけで生活をするという実証を進めてきました。トイレからの汚物はシャワーやキッチンとは別の系統で水処理を行っています。
それだけで大丈夫なんですね。すごい!

技術的なハードルはすでにクリアできているということになります。これが実現すると、先ほど冒頭で話のあった水インフラの老朽化問題の解決にもつながっていくと思います。人口が多く、インフラを維持するコストを捻出できる都市部においては今の水インフラを残し、人口の少ない地域においては自律分散型のインフラを導入するといった使い分けもできるようになります。
1戸につき1台導入する方が効率が良くなるケースもあるんですね。
どちらがいい・悪いではなく、コスト効率を考えて最適配置をできる環境をつくるのがわれわれが目指しているビジョンです。

さて、ここまでお話を伺ってきて、水インフラプロジェクトで変わる未来って何だと竹内さんは思われますか?
汚れた水をその場で循環して使うと聞くと、少しだけ「大丈夫かな」という思いもあったりするのですが、環境にも良さそうですし、今後の持続的な水の利用を考えると、当たり前になったらいいなと思います。
どこでも手を洗えたり、シャワーを浴びたりできるようになったら、海や山など自然を楽しむキャンプ場やレジャー施設に設置されていたり、手が汚れやすい一次産業での活用にも良さそうですね。
いいですね!ぜひトライしてみたいですね!
すてきな未来ですね。河本さんありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。

竹内さんが描く、WOTAでつくる未来は「キャンプで活用、デジタル水インフラ」
さまざまな地域の課題とデジタルの可能性。「地方創生」につながる未来とは
さて、これまでさまざまな地域の課題と、それを解決できるデジタルの可能性について学んできましたが、いかがでしたでしょうか?
地域ごとに状況が違いますし、まさに水のお話もそうでしたが、自分では気づいていない問題があることがわかりました。そして、今まで解決できなかったことが、デジタルによってもしかしたら解決できるかもしれないという新たな視点が加わったように感じます。
このような形で、今まで諦めていたことやどうにもならないと思っていた課題が、実は今の最先端の技術で解決できることもあるということを、すごくよく理解しました。そう考えると、ニュースなどでよく見る社会課題っていうのも、デジタルの力が解決してくれるのかもしれませんね。これからはニュースに触れる際、新しい視点が加わりそうです。

たくさん学んでいただきありがとうございます!今後もデジタルがどのように社会課題を解決してくれるのか、楽しみですね。
はい、これからも注目したいと思います!!