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2021年2月19日掲載
アリババDAMOアカデミー(達摩院)は2017年10月に誕生し、未来に向けた先端技術開発に専念し、「アリババよりも長く存続してほしい」と当時のアリババグループ会長・ジャックマーの願望が託され、注目を浴びてきました。設立から3年経った現在、アリババDAMOアカデミーはどのような成果を残してきたのでしょうか。代表的な事例を整理してみます。
アリババDAMOアカデミー(Alibaba DAMO Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook、中国語では「達摩院」と称する)は、2017年10月のAlibaba Cloudの年次イベント「2017年杭州・雲棲大会(The Computing Conference 2017)」でその誕生がアナウンスされ、3年間で1,000億人民元の資金を投入し、科学技術の未知の世界を探索し、人類のミッションを駆動力とし、基礎科学と創新的技術の研究開発を進めるといったミッションを掲げてきました。
アリババは「2036年までに世界に1億人の就職を創り出し、20億人にサービスを提供し、1,000万社の企業にビジネスプラットフォームを提供することで、世界5番目の経済体を目指している」と発表しています。
この目標を達成するには、数多くの問題を解決しなければなりません。そこで「利益も出せる、かつ楽しい問題解決のための研究(Research for solving problems with profit and fun)」という趣旨で設立されたのが、アリババDAMOアカデミーなのです。
アリババDAMOアカデミーは、アリババの既存する研究開発体制から独立して運営する「院長責任制」という形を取っています。そして「常に未来に向けて科学技術の力で未来の問題を解決すること」といったミッションのもと、先端技術領域の研究開発に集中しています。現在は、マシン・インテリジェンス、データ・コンピューティング、ロボット、フィンテック、Xラボといった5つの領域において、14のラボから構成されています。
具体的な各領域の中身は、以下をご参照ください。
そしてアリババDAMOアカデミーは現在、世界に7カ所(北京・杭州・シンガポール・テルアビブ・ニューヨーク・サニーベール・シアトル)の研究開発拠点を有しており、グローバルな技術体制で研究開発に取り組んでいます。
アリババDAMOアカデミーは、設立後の3年間で、どのような成果を創り出したのでしょうか。その代表的な成果を、時系列で紹介します。
2017年11月、スマートシティプラットフォーム「ET City Brain(城市大脳)」を正式に発表。同月に中国科学部などの国家機構に、中国の「国家次世代人工知能オープン・イノベーション・プラットフォーム(National Open Innovation Platform for Next Generation Artificial Intelligence)」として選出されました。
City Brainとは、データ・ドリブン型シティーガバナンスを目指し、あらゆるリアルタイムの都市データを活用して都市のオペレーション上の欠陥を即座に修正し、都市の公共リソースを全体で最適化していくシステムです。
City Brainにより、都市行政モデル、都市サービスモデル、都市産業開発に数えきれないほどのブレークスルーがもたらされました。たとえば事故・渋滞の検出とスマートな対応、コミュニティと公共の安全、交通渋滞と信号制御、公共交通機関と配車などに活用されたのです。
このシステムには、DAMOアカデミーのCity Brain Labが開発した天曜・天鷹・天機・天鏡・天擎など多くのAIプロダクトとサービスが活用されています。現在、中国国内では杭州、蘇州、マカオ、重慶などの都市に、海外ではマレーシアのクアラルンプールに導入されています。
2018年5月には、量子コンピューティング向けの量子回路シミュレーター「太章(Taizhang、タイザーン)」 の開発に成功。81個の量子ビット数、40層の回路深度を基準にしたランダム量子回路をシミュレートできるようになりました。さらに2019年9月、DAMOアカデミーの量子ラボは制御可能な量子ビットの開発に成功しました。
2020年12月には、量子回路シミュレーターエンジン「太章2.0」のアルゴリズムやハードウェア開発ツールであるACQDP (Alibaba Cloud Quantum Development Platform)をオープンソース化しました。
2019年7月には、RISC-Vに準拠した組み込み用プロセッサー「玄鉄910(XuanTie910)」を発表。5G、人工知能、及び自動運転用チップを設計・製造することができ、チップの性能を向上するとともに大幅にコストダウンすることも実現可能だと言われています。
また、玄鉄910 IP Coreを全面的に開放することで、開発者はFPGAソースコードを無料でダウンロードし、迅速にチップを設計することができるようになると言われています。さらに、CPU IP、SoCプラットフォーム、及びアルゴリズムなどが含まれたカスタマイズ向けチップ開発プラットフォーム (Domain specific SoC)も提供することが発表されているのです。
2021年1月には、「玄鉄910」とAndroid Open-Source Project(AOSP)との互換性を実現できるようになりました。そのエコシステムの構築に、一歩前進したと言えるでしょう。
Graph-Learn(GL、以前のAliGraph)は、大規模なグラフを扱う深層学習GNN(Graph Neural Network、グラフ・ニューラル・ネットワーク)の開発と活用に設計された分散フレームワークであり、すでにオープンソース化されています。GLは、実際の課題から始まり、GNNモデルに適した一連のプログラミングパラダイムを抽象化したものであり、アリババ社内の検索推奨、ネットワークセキュリティ、ナレッジグラフなど、多くの業務シナリオに利用されています。
GLは、移植性とスケーラビリティに重点を置いており、産業シナリオでのGNNの多様性と急速な開発に対応するため、開発者にとってより使いやすいものになっています。 GLに基づいて、開発者はGNNアルゴリズムを実装したり、グラフのサンプリングなど実際のシナリオに合わせてグラフ演算子をカスタマイズしたりすることが可能です。またインターフェイスはPythonとNumPyの形式で提供されており、TensorFlowまたはPyTorchと互換性があります。
現在のGLには、TensorFlowと組み合わせて開発された数種類のクラシックモデルが組み込まれています。Dockerまたは物理マシンで実行可能で、スタンドアロンと分散の両方のデプロイメントモードをサポートしています。
2019年9月には、AI推論用チップ「HanGuang 800(含光800)」を発表。シングルチップのコンピューティングパフォーマンスとしては、ピーク時では78563 IPS、ResNet-50推論テスト(画像認識ニューラルネットワーク)におけるエネルギー消費効率は500 IPS/Wをもって業界での優位性を示しています。
このチップは既にアリババ社内のオンラインショップ画像検索サービス「拍立淘(pailitao.com)」、都市管理システム「Cuty Brain」などに利用されており、社外では、コンピューター・ビジョン、インダストリアル・コントロール・システム(ICS)、車載用デバイス、データセキュリティなどの領域で活用されています。
新型コロナウイルスが中国で拡散し始めた時には、診断時の検査精度と検出効率を大幅な向上を可能としたCT画像解析ソリューションを提供しました。データを使用して学習したディープ・ラーニング・アルゴリズムにより、新型コロナウイルスの異種を含むさまざまな種類の肺炎の確率の予測が可能になりました。また、肺領域のセグメンテーション法を使用して、肺全体に対する病変の割合と罹患体積比の計算を行うことも可能です。
このほかの新型コロナウイルス対応の取り組みとして、健康状況デジタル証明書ソリューションである支付宝(アリペイ)健康コードも提供。一気に全国に広がりました。これは、アリババのペイメントアプリであるアリペイで個人の健康状況を証明するデジタル証明書であり、赤・黄・緑と3色のQRコードを利用して個人の健康状態を証明することができます。QRコードをスキャンするだけで、健康コードが表示され、コードが緑色であれば健康状況良好、赤と黄色の場合は、規定に基づいて隔離や健康チェックが行われる仕組みです。オフィスビル、住宅コミュニティ、高速道路インターチェンジなどで健康コードを見せるだけで健康状況を証明することができるようになったため、感染リスクの低下につながりました。
2020年7月には、アリババグループ傘下の金融会社・アントグループが保有するブロックチェーン技術ソリューションを「アントチェーン(AntChain)」という新しいサービスブランドとして打ち出しました。その中核技術には、DAMOアカデミーのブロックチェーンラボの成果が生かされています。知的財産専門メディアであるIPR Dailyとグローバル特許データベースであるIncoPatによると、アントグループは2017年から2020年6月30日までの期間で、世界で最も多くブロックチェーン関連特許の出願情報を公開したと発表されているのです。
アントグループは、2016年にブロックチェーン事業を開始以来、サプライチェーン・ファイナンス、クロスボーダー送金、知的財産権保護、食品偽装防止、デジタル物流、慈善寄付金追跡などの領域でブロックチェーン技術を生かしてきました。
アントチェーンは、ブロックチェーン基盤となるBaaS(Blockchain as a Service、ブロックチェーン・アズ・ア・サービス)オープンプラットフォーム、ハードウェアとソフトウェアを一体化したマシン、セキュアデータコンピューティングサービスなどを提供しており、複数関係者の連携・協業における信頼関係を確立しています。2020年9月には、「アントチェーン」を活用した国際貿易・金融サービスプラットフォーム「トラスプル(Trusple)」も発表しました。トラスプルを利用することにより、すべてのマーチャントがより手軽に低コストで世界中の顧客に自社の製品やサービスを販売できるようになったのです。
2020年9月には、天・空・地面のマルチソースデータを分析するAIエンジンAI Earthをリリースしました。AI Earthは、DAMO アカデミーのコンピューター・ビジョン・テクノロジーを採用し、地球観測のマルチソースデータのインテリジェントな分析を実現する業界初のソリューションだと言われています。AI Earthは、教師あり学習技術と教師なし学習技術をベースに、多くの革新的なアルゴリズムが入っています。
現在は、RGB画像、マルチスペクトル画像、ハイパースペクトル画像、ビデオ画像をサポート。リアルタイムで地表の状況データと時空変化データを組み合わせて分析することにより、高い観察精度を実現できています。今後は、AIが地球を理解することを目指し、宇宙空間でより大きな価値を発揮することが期待されています。
2020年9月には、宅配のラストワンマイル問題を解決するための自律型配送ロボット「小蛮驢(シャオマンリュ)」を発表しました。ロボットは1回でおよそ50個の荷物を搬送することができ、1回の充電で最大100キロ走行可能です。
小蛮驢は、強化学習技術(Reinforcement Learning)を利用しており、混雑した環境下でも自らルートを決めて走行することができます。また、Alibaba Cloud独自の高精度測位技術により、GPSの電波が弱い場所や電波が届かない場所でも走行することができます。さらに、自社開発のヘテロジニアス・コンピューティング・プラットフォームや3D Point Cloud Semantic Segmentation(PCSS)技術、ディープラーニングを活用することで、障害物を識別し、人や自動車の動きを数秒前に予測して、安全性を高めることができます。
2020年12月にはGraphScopeというユーザーフレンドリーなPythonインターフェイスを介して、コンピュータークラスター上でさまざまなグラフ操作を実行するためのワンストップ環境を提供する、統合分散グラフコンピューティングプラットフォームを発表しました。分析、インターアクション、グラフ・ニューラル・ネットワーク(GNN)計算用のGRAPE、MaxGraph、Graph-Learn(GL)など、Alibabaテクノロジーのいくつかの重要な要素を組み合わせることにより、大規模なグラフデータのコンピューティングが簡単になります。
2021年1月には、AI最適化ソルバー「MindOpt」をオープンソース化しました。MindOptは、線形計画法、混合整数計画法、非線形計画法、ブラックボックス最適化、オンライン最適化、その他の一般的な最適化ソルバー機能など最適化問題を解くためのソルバーです。現在は国際ランキングに参加し、世界をリードする成果を上げています。
MindOptは最適化問題を解決するための専門的なコンピューティングソフトウェアとして、高速計算能力、優れたアルゴリズムを持っており、クラウドコンピューティング、小売、金融、製造、運輸、エネルギーなどの分野で広く使用できます。Alibaba Cloudで「MindOpt」で柔軟なコンピューティングリソーススケジューリングの最適化を実現することにより、毎年数億人民元を節約できると言われています。
アリババDAMOアカデミーではこの3年間、様々な領域において研究開発に励み、確実な成果を収めてきました。最後に、アリババDAMOアカデミー設立当時、会長であったジャック・マーから下された3つのミッションを紹介しましょう。
この3つのミッションを、アリババDAMOアカデミーは果たして実現できるのか。今後も引き続きアリババDAMOアカデミーの動向に注視しつつ、皆さんに共有していきたいと考えています。
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