九州のホームセンターがゼロから始めたデジタル化 :ホームセンター「グッデイ」柳瀬社長 × 「チェンジ」福留社長

2023年10月26日更新

2022年04月08日掲載

九州のホームセンターがゼロから始めたデジタル化 ホームセンター「グッデイ」柳瀬社長 × 「チェンジ」福留社長

北部九州・山口でホームセンター事業を運営する株式会社グッデイは、経験と勘による店舗経営に危機感を感じ、いち早くデジタルツールの活用に着手しています。小売り流通業のトップイノベーターであるグッデイの代表取締役 社長 柳瀬様と店舗運営部 部長 玉木様、また人財研修、テクノロジーの二軸から企業の生産性向上を支援している株式会社チェンジの代表取締役 福留様を迎え、地域の小売流通業がどのようにデジタル化をすすめたらよいかお話しいただきました。

ソフトバンクの法人マーケティング本部で副本部長を務める原田を司会者に、ディスカッション形式でデジタル化のヒントをお届けします。

※本記事は2022年2月に開催したウェビナー「北部九州・山口でホームセンターを運営するグッデイにみる、経験と勘による店舗経営から脱却するためのDXとは」の内容を再編集したものです。

目次

柳瀬 隆志 氏
嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長
株式会社グッデイ 代表取締役社長
株式会社カホエンタープライズ 代表取締役社長

1976年生まれ。 東京大学経済学部卒業後、2000年三井物産株式会社入社。 2008年ホームセンター「グッデイ」を運営している、家業である嘉穂無線ホールディングス株式会社に入社。 営業本部長・副社長を経て2016年6月、嘉穂無線ホールディングス株式会社、及び株式会社グッデイ代表取締役社長就任。 2017年4月、クラウド活用やデータ分析事業の株式会社カホエンタープライズ代表取締役社長就任。

玉木 敬介 氏
株式会社グッデイ
店舗運営部 部長

93 年株式会社グッデイ入社 店舗店長・バイヤー・商品企画室長・商品部部長を経て、現在店舗運営部部長。グッデイ全 64 店舗の運営・管理を担っている。

福留 大士 氏

株式会社チェンジ
代表取締役兼執行役員社長

鹿児島県生まれ。中央大学法学部卒業後、アクセンチュアに入社。 コンサルタントとして、政府官公庁や金融機関などの業務改革やIT導入プロジェクトに携わる。 2003年に株式会社チェンジを設立し、代表取締役に就任。 現在は、「地域が抱える社会課題をデジタル技術で解決する」ことを事業の中核と捉え、DX×地域創生領域でのリーダーを目指している。 子会社のトラストバンクが運用するふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」は累計1兆円超の寄付を地域に届けている。 また、複数の企業経営に加え、前橋市・太宰府市のまちづくりアドバイザーや日本政策投資銀行の地方創生アドバイザーを務めている。

原田 博行

ソフトバンク株式会社
法人マーケティング本部
副本部長

通信業界での20年以上にわたる法人営業を経て、2018年10月から現所属でインサイドセールス部門、2020年4月にデジタルマーケティング部門を担当。2021年4月から両部門を統括し、デジタルセールスの促進を担う。

グッデイはなぜデジタル化に取り組んだのか

グッデイの昔の姿、デジタル化へのイメージ

原田:デジタル化の先進的な取り組みを行っている株式会社グッデイですが、以前はどのような状態だったのでしょうか。

柳瀬氏:私は2000年から東京の商社で貿易の仕事に携わっていて、携帯電話とPCさえあれば世界中どこにいても仕事できる環境が整っていました。ところが2008年にグッデイに入社すると、メールアドレスがないどころかインターネットも使えず、社員や店舗間のコミュニケーションは電話とFAXという有様でした。予算制度も前年の売上を超えるように頑張ろうというレベルの数値管理で、損益計算書を読める店長は皆無でした。
グッデイはもともと「嘉穂無線」という家電量販店だったので、デジタルには強かったはずですが、なぜこれほどIT化が遅れたのかと凄く衝撃を受けた記憶があります。

原田:インターネットやメールがなくても、仕事が成り立っていたのですね。

柳瀬氏:それしか知らないから、それが当たり前だったんです。
幸いにしてPOSシステムを導入していたので、データを収集する仕組みは整っていました。ただし、こういった基幹システムを自分たちで管理・運用していたために、「これが最高のシステムだ」というプライドが生まれてしまったのだと思います。「クラウドはセキュリティ的に脆弱」「インターネットは個人で使うもの」という昔ながらの価値観が浸透していました。

デジタル化に踏み切ったきっかけ

原田:そうした状況を打破するために、柳瀬さんはどのようなことに取り組んだのでしょうか。

柳瀬氏:ITリテラシーが低い社員達にどうしたらITツールを受け入れてもらえるか、7年近く悶々と考えていました。特にExcel のハードルが高く、バイヤーはレポート作成のために22時まで残業しているような状態だったため、簡単に使えるデータ分析基盤が必要だったのです。
2015年には基幹系のデータをクラウドのデータウェアハウスに移行して簡単にデータを見られるようにしたのですが、分析するためにはシステム部に依頼する必要がありました。プログラミングスキル不要で誰でも簡単に使える仕組みはないだろうかと色々なツールを試した結果、たどり着いたのがデータ分析プラットフォーム「Tableau」です。
こうしたSaaSといわれるツールとクラウドを組み合わせることで、自分がやりたいことを簡単に実現できることに気付き、デジタル化の取り組みがようやく動きはじめます。
同じ年に「Google Workspace™」というグループウェアを導入し、スムーズな情報共有を可能とするコミュニケーション環境を整えました。

※SaaS:ベンダが提供するソフトウェアをインターネットを通じて利用できるサービス

原田:社長自らSaaSを使い始めたことが大きな転機となったのですね。
株式会社チェンジではIT人材の育成やテクノロジーのサポートを行われていますが、福留社長は今のお話しを聞いてどのように思われますか。

福留氏:最近のシステムは汎用的に作られているので、これまで技術的な制約でできなかったことが誰でも簡単に実現できるようになりました。では次に何に取り組むべきかというと、柳瀬さんが取り組まれたように、経営者の意思決定と現場オペレーションの見直しが必要です。つまり「人」の部分を変えることが大事で、新しく人を採用したり社長自らデジタルへの理解を深めることが、変革のポイントになると考えています。

データ分析プラットフォーム & グループウェアの導入メリット

原田:Tableau とGoogle Workspace を導入してみて、良かった点をお聞かせください。

柳瀬氏:Tableau を使うメリットは、簡単かつ安価にデータを可視化できる点です。当社では、商品別・日別・店舗別の売上データを集積していますが、Excel では分析できないほどデータ量が膨大でした。 そのため、以前はデータベースを作るためだけに数千万円~数億円の投資が必要で、開発に半年かかるといわれていました。にも関わらず投資した本人が使えるわけではなく、ベンダに頼らざるをえない状態です。一方で、クラウドのサービスを活⽤すれば少額の投資でデータ分析基盤を⽤意できますし、そこにデータを集めた上でTableauをつなげると、すぐにデータ分析を実践することができます。

Google Workspace は情報共有の点で大きな効果を発揮しています。以前は店長からメールで送られてきたレポートをわざわざ紙に印刷して、分厚いフォルダにファイリングしていました。今ではGoogleDrive で情報を整理できますし、チャットで状況の把握やコメントもできるので、コミュニケーションが格段によくなりました。コロナ禍でテレワークにした際も、Google Workspace を使っていたお陰でスムーズに移行出来たので良かったですね。

原田:なるほど。データを蓄積するだけでなく、民主化して自分たちで使えるように昇華させていたのですね。
店舗運営の責任者である玉木さんは、現場でどのようなメリットを感じましたか。

玉木氏:現場では従来の紙と電話を使った業務に不便さを感じていました。例えばデータ分析する際は、大量のデータから必要な数値を探してExcelで加工していたのですが、慣れていないのでとても大変でしたね。人によって元データの作り方がバラバラだったので、本当に正しい分析結果なのかも疑問に思っていました。Tableau であれば、ワンクリックで簡単に必要なデータを見られるので、現状分析が容易になりました。しかも全員が同じデータを見ているので、分析結果の解釈や認識のズレがなくなります。
また、Google Workspace は共同作業に優れていると感じます。以前はExcel で加工したデータをメールで送って、受取り側が再び加工するという非効率的な作業を行っていましたが、スプレッドシートを使うことで複数人が同時に作業できるようになりました。

導入メリット

Tableau
Google Workspace
  • 比較的安価にデータ分析に取り組むことが可能
  • ワンクリックで必要なデータを見ることができる
  • 自身でカスタマイズしやすい
  • Google Drive で情報を整理&共有しやすい
  • Google Chat で気軽にコミュニケーションできる
  • Google スプレッドシートで同時に複数人が編集できる

今すぐ変えるべき5つのアナログ業務

原田:福留さんは業務のデジタル化に関する相談を受けることが多いかと思いますが、何から手を付けるのがよいとお考えですか。

福留氏:アナログな業務の5大要素というものがありまして、「紙」「判子」「電話」「FAX」「現金」といわれています。このいずれかのデジタル化をお勧めしていて、最も簡単に取り組めるのは、社内コミュニケーションを電話からチャットに切り替えることです。プライベートで考えてみると大事な要件以外は電話を使わなくなって、ほとんどチャットでコミュニケーションしていますよね。プライベートで使っている便利なサービスを仕事でも同じように使うことは、手軽に取り組めるデジタル化です。どうしても電話でのコミュニケーションをやめられない事情があるならば、契約書の電子化やキャッシュレス化などできることから着手することをお勧めします。

アナログな業務の5つの要素

デジタルツールの現場浸透

現場へ浸透させるための下準備

原田:柳瀬さんはどのようにしてデジタルツールを現場に浸透させたのですか。

柳瀬氏:例えばTableau の場合、各部署から若手社員を集めて毎週勉強会を行いました。いきなり現場に渡しても使いこなせる人はいないと思ったので、データサイエンスで必要な知識を学ばせて、部署ごとに使いこなせる人材がいるようにしたんです。今まで普通に店舗で働いていた社員でも、今では私が敵わないくらいのスキルを身に着けています。

原田:現場では業務のデジタル化が進むことに混乱や戸惑いはありましたか。

玉木氏:当時は「恐る恐る新しいツールを使っている人」と、「私は私のやり方でやる」という人に二分されていました。しかし社長が率先して使っていたので、私も使ってみることにしたんです。そこで、とても便利だということに気付き、周りの人たちにも紹介したところ、徐々に浸透していきました。

原田:ITツールを入れれば魔法のように課題が解決すると想像されがちですが、実際には「人」の部分で地道な積み上げが必要ということですね。

デジタル化のポイントは、会社として何にこだわるか

原田:これまでさまざまな企業を見てきた福留さんは、デジタル化を進めるにあたって経営者にはどのような意思決定が求められると思いますか。

福留氏:会社として経営者として何にこだわるかを考えると、デジタル化の糸口を掴めると思います。お客さまの利便性にこだわるならばキャッシュレスに取り組むべきですし、お客さまとのスムーズなコミュニケーションを重視するのであれば、電話以外の手段も取り入れるべきでしょう。何を実現したいのか経営者が突き詰めて、その実現手段としてITツールを活用することでデジタル化が活性していくと考えています。

柳瀬氏:確かに私達はDXをやりたいと考えていた訳ではなく、経営の意図・現場のマインド・お客さまのご要望を一致させるために、データ分析と情報共有のデジタル化に取り組みました。「もっとお客さまのために努力しよう」と私が口頭で呼びかけても、精神論では現場が離れてしまいます。デジタルを使って客観的にデータを見ることで、経営と現場のマインドが揃うようになりました。

原田:とても学びが多く楽しい時間でした。本日はありがとうございました。

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ウェビナーアーカイブ

北部九州・山口でホームセンターを運営するグッデイにみる
経験と勘による店舗経営から脱却するためのDXとは

経験と勘による店舗経営に危機感を感じ、デジタルツールの活用に着手した株式会社グッデイの柳瀬社長。小売流通や地域におけるデジタル推進の状況や、どこからデジタル化を始めたか、DXが地方創生に与える影響をお話いただきます。また、店舗運営の責任者である玉木さまには、グッデイ社内での変革について現場目線で語っていただきます。デジタル化をまだ始められていない企業のみなさまが一歩を踏み出す後押しとなるウェビナーです。
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野邊 慎吏
ソフトバンクビジネスブログ編集チーム
野邊 慎吏
2021年よりソフトバンク法人マーケティング部門でドキュメント制作に携わる。主に中小企業の経営者を対象にした定期刊行冊子の編集を担当。

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