ソフトバンクのデジタル人材を自治体DXの即戦力に 【志摩市編】

2023年3月6日掲載

ソフトバンクのデジタル人材を自治体DXの即戦力に【志摩市編】

「誰一人取り残さないデジタル化」の実現を目指すソフトバンクでは、自治体の市民サービス向上や業務の効率化、地域活性化を図ることを目的に、多くの自治体にデジタル人材を出向させています。

2022年4月にソフトバンクとDX推進に関する連携協定を締結した三重県志摩市では、総務省の「地域活性化起業人制度」を活用して、ソフトバンクの社員1名をデジタル戦略企画監として受け入れています。ソフトバンクのデジタル人材がいかに自治体をアップデートしていくのか、その取り組みを取材しました。

目次
志摩市 副市長 世古 勝 氏

世古 勝

志摩市 副市長

志摩市 政策推進部 デジタル戦略企画監 谷口 修 (ソフトバンクから出向)

谷口 修

志摩市 政策推進部
デジタル戦略企画監
(ソフトバンクから出向)

なぜ志摩市ではデジタル人材が必要だったのか

まず最初に、世古副市長に伺います。志摩市がDXで何を目指しているのか、その方針をお聞かせください。

世古副市長:志摩市のDXでは3つの方針を掲げています。

1点目は「市民の皆さまの利便性向上」で、オンライン申請の拡充や申請の簡略化を進めていきます。また、年齢層にあわせた情報発信方法も検討していて、ご高齢の方にはプッシュ型で、若年層には求める情報にすぐ辿り着けるようコンテンツを検討しています。

2点目は「観光業におけるデジタル活用」です。志摩市の基幹産業である観光業を中心に、マーケティングや公共交通の分野でデジタル活用を進めていきたいと考えています。コロナ禍で観光に対する価値観が大きく変わりましたので、まずは志摩市への誘客が弱い東日本や九州そして今年からはインバウンドにも目を向けて、新しい志摩市の魅力を発信していきます。

3点目は「市役所業務の効率化」です。成果が見えることでDXに対する職員のモチベーションが上がりますので、まずは効果を実感しやすいペーパーレス推進から取り組みはじめています。また近いうちにビッグデータの活用や業務の自動化を実現したいと考えています。

ありがとうございます。これらのDX方針を実現するにあたって、なぜ民間企業からデジタル人材の受け入れが必要だったのでしょうか。

世古副市長:2020年の10月から新しく橋爪市長が就任されて、持続性のある新しい志摩市を作りたいというメッセージを掲げました。志摩市は魅力的なコンテンツにあふれる地域ではありますが、人口減少による担い手不足やコロナ禍による観光業への大打撃など、大変厳しい状況に直面しています。こうした中で、理想のまちづくりを進めるためには、さまざまなデジタル技術を活用した「チェンジ」が必要となりました。

それには、デジタル技術の専門知識が豊富でアグレッシブに物事を進められる人材が不可欠です。庁内の職員ではデジタルへの知見が不足していますし、一から育成するには時間が足りません。それであれば即戦力として民間の力を借りようと、今回の出向受け入れに至った次第です。

どの企業に相談すべきか検討を進める中で、ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」という理念に共感しまして、谷口さんに来ていただくことになりました。

インタビューの様子

ソフトバンクのデジタル人材による志摩市のDX推進

それでは次にソフトバンクの谷口さんに伺います。志摩市に出向が決まった時はどのように感じましたか。

谷口:正直に言うと、最初は伊勢志摩地域にある自治体だという程度の認識しかなく、志摩市のことをよく知りませんでした。しかし、これまでのキャリアでさまざまな経験をしてきたこともあってか、自治体に出向と聞いてもあまり不安は感じなかったですね。それよりも自分の経験を生かして地域に貢献できる機会は貴重だなというのが率直な感想でした。

実際に志摩市に住んでみると、美しいリアス海岸の景色や美味しい海産物、そして人の優しさに触れることができて、素晴らしい経験をさせてもらっているなと感じます。

さまざまな経験というと、谷口さんはソフトバンクでどのような業務に携わってきたのでしょうか。

谷口:最初はコンシューマ事業の営業担当でしたが、その後は法人営業、営業企画、事業企画、英国駐在、役員補佐、プロダクトマネジメントなどを経て、直近は米国企業とのジョイントベンチャーで事業戦略と営業を担当しておりました。海外の人とも仕事をしてきましたし、そもそもソフトバンク自体が合併を繰り返してきた歴史があるので、「当たり前が違う人」と一緒に仕事することを楽しむ素養が培われてきたのかもしれません。

かなり幅広いご経験をされていますね。志摩市に来てからはどのような業務を行っているのですか?

谷口:志摩市には、専門的な知識をもとに組織横断の取り組みを推進する「監」というポジションがあるのですが、私はデジタル戦略企画監として全庁的なデジタル化の取り組みを推進しています。例えば、各課の担当の方から相談を受けて実現に向けた取り組みを一緒に考えたり、直近では志摩市のDX推進計画の草案を作成したりしています。

庁内の知見だけでは解決が難しかった困りごとや課題に対して、デジタルの切り口から解決につながるテクノロジーや事例をご紹介し、各課の担当者と解決まで伴走しながら進めていく。それがデジタル戦略企画監としての私の役割です。

課題解決の好事例があればお聞かせください。

谷口:今年最も注力したのはペーパーレスの推進で、DXの第一歩として行いました。例えば、決裁手続きには、それまでの経緯や関連資料を添付することになっています。そのため、関係者とやり取りしたメールを全てプリントアウトして決裁書に添付するなど、膨大な量の紙が使われていました。さらに会議資料でも大量の紙が使われていました。そこでソフトバンクが実施したペーパーレスの取り組みを参考にプロジェクトを発足し、紙の削減を進めました。

具体的にはどのようにペーパーレスのプロジェクトを進めているのでしょうか。

谷口:副市長にプロジェクトオーナーになっていただき、各課から1名ずつプロジェクトメンバーを選出してもらいました。そして、情報と総務の担当部長をプロジェクトリーダーに、情報と総務の担当課メンバーで事務局を立ち上げました。まず、副市長から全庁にプロジェクト開始の案内をしていただき、次にどのような紙を印刷しているか調べることからはじめました。この調査で洗い出した書類を「すぐに削減できる書類」「ツールがあれば削減できる書類」「削減すべきでない書類」に分類し、「すぐに削減できる書類」が3割だったことから、3割削減という目標値を設定して月次で進捗報告を行なってきました。

今は第一段階の「すぐに削減できる書類」の削減が完了し、「ツールがあれば削減できる書類」に着手しています。今年度中に大型モニタを全ての会議室に導入する予定で、会議時の配布資料削減に取り組んでいきます。また、電子決裁システムと文書管理システムの導入も進めています。承認プロセスの証跡を残しつつ紙の削減を実現したいと考えています。

ペーパーレスの推進によってどのような効果が得られたでしょうか。

谷口:対前年比で3割削減の目標は達成し、年間で約120万枚の紙資源を削減することができました。また、業務効率化や環境保護というのはもちろんですが、スペースの有効活用にもつながるのではないかと期待しています。おそらく庁内の約3分の1のスペースが紙のために使われているので、ペーパーレスが進むことで、職員がもっと働きやすく住民の皆さまと接しやすい庁舎に変わっていくと思います。

庁内のDXを推進するにあたって、谷口さんが留意している点はありますか。

谷口:志摩市役所で働いてみて素晴らしいと思うのは、庁内に自然な会話が非常に多いことです。相談事があれば基本的に会いに行って直接話すので、オンラインコミュニケーション中心のソフトバンクとは大きく異なります。こうした貴重な対面コミュニケーション文化を壊してしまうのはもったいないので、何でもかんでもオンライン化してしまわないように気を付けたいと思っています。

例えば、固定電話での内線の取り次ぎは効率化しても良いのではないかと思っています。こうした非効率的な時間を削減していくことで、対面でのコミュニケーションをよりプレミアムなものにしていきたいと考えています。

業務のデジタル化を進めることで、職員の皆さまに戸惑いはないでしょうか。

谷口:市役所の職員は、ワクチン接種などの新型コロナウイルス感染症対策、避難所開設などの災害対策、マイナンバー、マイナポイント関連事業など、通常業務に加えて今すぐやるべきことに常に追われ続けていて、じっくりとDXに向き合う余裕がないように見えます。そんな状況ですので、新しいツールを導入するとなると、余計な時間がかかるのではないかといった心配をする方がいらっしゃるのは確かです。

そのため、職員から寄せられた懸念事項には、誠実に対応することをプロジェクトで徹底しました。新しい取り組みをスピーディに進めるとなると小さな声はスルーしがちですが、私たちのプロジェクトでは寄せられた意見には抜け漏れのないように対策を検討し、副市長から全職員向けのメッセージを月に1~2回発信していただきました。

いただいた意見には必ず応えるという姿勢を示しながら、「皆さまの協力でこんな成果が出ました」と副市長ご自身の言葉で伝え続けていただくことで、職員の当事者意識は徐々に高まってきたのではないかと思います。

デジタル化へのマインド変化には、組織のトップからの発信も重要ということですね。

谷口:そうですね。橋爪市長がよくおっしゃっている言葉に「チェンジ」があります。子や孫の世代へ「自慢できる新しい志摩市」を作ろうと。組織のトップがこうしたメッセージを定期的に発信していただくことで、DXのような新しい取り組みへの共感は着実に育まれていると思います。

しかし、トップダウンで物事を進めると、現場では多少なりとも混乱が生じるものです。私は職員の皆さまが何に困っているかを顕在化し、解決策を一緒に考えることで、志摩市のDX推進を下支えしていきたいと考えています。

谷口さんが今後成し遂げたいと考えている構想を教えてください。

谷口:ここまで庁内の業務改革についてお話ししましたが、市民の皆さまに向けた行政サービスに関してもDXを推進していきたいと考えています。

例えば、行政に関する情報がWebサイトや複数のアプリに散らばっていて不便だという声がありましたので、間もなくリリースする志摩市の公式LINEアカウントに情報を集約する予定です。また、LINEのセグメント機能を使って必要な情報だけが最適なタイミングで届くように設定することで、行政と市民のコミュニケーションを発展させていこうと考えています。

あと、これは実際に住んでみて分かったことですが、志摩市はとても広い上に海岸が入り組んでいて移動にとても時間がかかります。しかも、公共交通の空白地帯が存在していて、ご高齢の方が買い物や病院に出掛けるのが不便という声もあります。デマンドバスなど、デジタルテクノロジーを活用することで便利な公共交通を実現していきたいと考えています。

このように、実現してよかったと感じていただけるサービスを1つでも多く残していくことで、志摩市におけるDXの礎を築きたいと思っています。

インタビューの様子

デジタル人材を受け入れて何が変わったか

最後に世古副市長へ質問です。ソフトバンクからデジタル人材を受け入れて、どのような変化があったでしょうか。また、今後どのような取り組みを推進していきたいとお考えでしょうか。

世古副市長:谷口さんに来ていただいてから、やはりデジタル化への意識改革は大きく進みました。私たちだけでは苦手意識が強かったデジタル化ですが、豊富な知識で強力に後押しいただけるので、DXに取り組むハードルが低くなったと感じています。特にデジタルの分野は変化が激しいので、ソフトバンク流のスピード感でプロジェクトを進める姿は大変参考になっています。今後も、市民の皆さまに向けたオンラインサービスの拡充や、庁内業務の効率化・自動化を官民一体となって進めていきたいと考えています。

また、志摩市では2023年6月に「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」、2024年には市制20周年を迎えます。国内外から注目されるチャンスですので、志摩市の魅力を広く発信し、お越しいただいた皆さまにご満足いただけるよう、デジタルの活用に一層注力して参ります。

デジタル活用で志摩市の魅力が一層高まることを期待しています。ありがとうございました。

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野邊 慎吏
ソフトバンクビジネスブログ編集チーム
野邊 慎吏
2021年よりソフトバンク法人マーケティング部門でドキュメント制作に携わる。主に中小企業の経営者を対象にした定期刊行冊子の編集を担当。

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