GIGAスクール構想に基づいたPCの導入が、生徒を生き生きとさせた理由とは?(長崎県佐世保市 LTE PC導入事例)
2023年8月16日掲載
長崎県北部に位置する佐世保市では、国のGIGAスクール構想を受け、令和2年度より「スマート・スクール・SASEBO構想」を立ち上げ、ICT(※1)活用の推進を行っています。
これまでもWi-Fi環境下でICTツールを活用していたものの、各学校40台程度しか端末を配付しておらず、全児童生徒が同時にネットワークを利用するためには、新たなネットワークを構築するなどの環境整備の必要がありました。それらの課題を解決するため、PC本体にSIMカードを内蔵して通信が可能なPC(以下:LTE PC)を市内70校に導入。このことでWi-Fi環境がない場所でも高速なインターネット接続が可能になり、教室内にとどまらず校外活動やグラウンドでも利用が可能になり、さらには家庭の通信環境に左右されずに端末持ち帰りが実施できるなど家庭学習にも活用ができる環境整備を実現しました。
本記事では、佐世保市教育委員会の尾﨑氏、市内中学校教諭の福田氏へのインタビューをもとに、LTE PC導入時の課題とその対策方法、授業スタイルの変化をご紹介していきます。
コロナ禍が残した教育現場への課題。いつでもどこでも学習ができる環境整備の重要性
佐世保市では、以前より学校内の特定エリアにWi-Fi環境を整備しICT活用を行っていたものの、各学校に40台程度しか端末が配付されていないため、毎日端末を活用することができないなどの不便さを感じていたと言います。またコロナ禍の影響により自宅学習の環境整備の必要性も高まり、家庭の通信環境に左右されず通信ができ、持ち帰りも可能な端末が求められていました。そんな課題を解決するため、まず最初にICT活用をこれまで以上に推進するための組織体制を整えたようです。当時の様子を市の教育委員会でICT活用を主導していた尾﨑氏はこう振り返ります。
「佐世保市では教育の情報化を進めるにあたり、令和2年11月に『教育委員会スマート・スクール・SASEBO推進室』を新設しました。メンバーには5課11名の職員が兼務しており、それぞれの関係する部署の垣根をこえて協議を行うことで、学校現場の教育の情報化をより一層円滑に推進していく体制を整えています。また、国のGIGAスクール構想を受け、機器の整備などを行うための基本方針である『スマート・スクール・SASEBO構想』も策定し、この構想に基づき、さまざまな教育施策などを加味しながらICT活用の推進を行っています」(尾﨑氏)
ICT活用の一環としてLTE PCの導入を決めた背景には、コロナ禍の影響で自宅学習の環境整備が強く求められていたことにあると尾﨑氏は続けます。
「そこで考えたのがLTE通信ができる端末の整備でした。整備した台数は、市内小中学校と義務教育学校、分校含め全70校・20,511台です。スマート・スクール・SASEBO構想では、『いつでもどこでも使える令和の万能文房具』として端末を活用していくことが念頭にありました。そうすることによって、誰一人取り残すことなく全ての子供たちが、Society5.0(※2)時代を力強く生き抜く能力を養うことを目指しています。また、PCを家庭へ持ち帰って、家庭の通信環境に左右されることなく自宅学習に使えるという点も大事なポイントになると考えました。LTE通信ができる端末であればいつでもどこでも端末の活用ができます。その甲斐もあって、全70校で自宅への端末持ち帰りを実施しています。また、授業で毎日ICTを活用している教員の割合も93.4%と高い割合を示していますし、教室内の利用にとどまらず、グラウンドや校外での学習に端末を活用できている点も、導入による大きな効果だと感じています」(尾﨑氏)
LTE PCを導入するにあたっては電波対策など、ソフトバンクの支援が不可欠だったと言います。
「LTE PCを導入するにあたり、まずは各学校の電波状況の調査をしていただきました。そして電波が弱い教室や校舎の陰になるところについては、電波を増幅していただきました。また、電波微弱な地域の学校については、基地局の電波対策をしていただきました。このことにより、学校のみでなく学校周辺の電波状況も改善し、地域住民の皆さんの利便性も向上しました」(尾﨑氏)
「デジタルに置き換わることで自分の意見を言いやすくなり、意見の交流が深まったと感じます」
佐世保市教育委員会 学校教育部 総合教育センター課 指導主事 尾﨑 慶次郎氏
LTE PCの活用によってさまざまな効果が生まれ、授業のスタイルも変化したと言います。
「令和3年の1月から3月に各現場に端末を配布しはじめ、令和3年の4月から本格稼働したのですが、一つ目の効果として、授業のスタイルが少しずつ変わってきています。これまでの授業では、先生が質問したことに対して、いわゆる元気のよい子が積極的に手を挙げるというイメージでしたが、LTE PCを導入したことで、自分の意見を簡単にPCに入力できるようになり、意見の交流や対話的な授業がより広がったのではないかなと思っています。以前から主体的・対話的で深い学びの実現を目指していたのですが、自分たちの意見が反映されると分かれば自ずと主体的な部分が出てきます。そうすることで、対話が広がり、学びがどんどん深まっていくのではと思います。また、もう一つの効果として、なかなか学校にこられない子の支援にもつながったと思います」(尾﨑氏)
「クラスの班の中だけだった意見交流が、クラス全体、さらにはクラスを超えて交流可能になりました」
佐世保市立 祇園中学校 教諭 福田 陵斗氏
佐世保市立祇園中学校で理科を担当されている福田教諭もLTE PCを活用するようになって、子供たちの意識が変わってきたと語ります。
「LTE PCを理科の授業で利用しています。これまでは資料などを白黒で印刷して配布していましたが、LTE PCでは鮮明なカラーのデジタル画像を見ながら授業を進めることができるので生徒たちからも好評です。また、PCを使えば簡単にグラフを作れるので、これまでグラフを書くのが苦手だった子も取り組みやすくなりました。
今までの授業では、個人の意見をノートに書いたりホワイトボードに貼ったりして、それぞれの意見を4人の班の中で共有するという手法だったのが、LTE PCを活用することで、共有シートに意見を書き込み、学級全体で意見を共有できるようになりました。話すことが苦手な子や消極的な子供たちが、自分の意見を発信できる場にもつながっていると思います。これまでなかったクラス間の交流も生まれたことも導入の効果としてよい点だと感じています
小テストをする際も、以前は紙を配布してテストを行い、テスト後に回収して丸付けをして、さらに点数をノートやPC上に転記していくという行程が必要でした。LTE PCの活用により、テスト後にすぐ正解を表示できるだけでなく、子供たちの点数を自分のPCでデータとして受け取ることができるようになりました。これまでとは全くスピード感が違います。テストの結果を入力するだけでグラフが出来上がるので、それを見ながら弱点を探したり、次のテストまでにどんな改善をすればよいかという分析にも活用しています」(福田氏)
さらに、LTE PCの導入は先生だけでなく生徒たちの学習のスタイルにも変化を与えていると言います。
「自宅に通信環境がなくても、PCを持ち帰って利用できるようになったのは大きなメリットです。雲の写真を撮ってレポートにまとめるという課題を出したときも、LTE PCを持って外に出るだけで、写真を撮って、文章にまとめて、提出までできるのがとても便利でした。
子供たちは新しいものに興味津々で、LTE PCを使って写真や動画を撮ったり、タイピングをしたりすることで、新しい授業スタイルを楽しんでいます。教員から『こうやって使うんだよ』と教えるよりも、自分たちで『こういう使い方どうですか?』とさまざまなアイデアが出てきます。LTE PCを使うことで多彩な興味や可能性を引き出してあげたいです」(福田氏)
Wi-Fi環境下で端末を利用している他の自治体の学校では、規模の大きい学校で同時に端末を使用する際、通信が重くならないよう時間を分けて使うことがあるとよく聞きますが、LTE回線なら全学級、全学年が必要なタイミングで利用できる点も大きなメリットだと言えます。では、必ずしも全員がPCの扱いに慣れているとは言えない中で、活用を進めるためにどのような工夫をされてきたのでしょうか。尾﨑氏は教員のICT活用指導力の差を埋めるためのさまざまな取り組みを行なってきたと言います。
「今回の端末導入によって戸惑われた先生がいるのも事実です。使っていかなければならないと思っていても、苦手な先生も当然います。その対策として、佐世保市では教職員専用学びの知見共有サイト「スマート・スクール・SASEBO羅針盤」を開設しました。そこで授業で使えるネタや校務で使えるネタを各学校から投稿していただき、教職員間の知見の共有を図りました。研修の環境も整えました。研修というと大体1時間半から2時間という長時間をイメージしますが、15分ほどの短いオンデマンド研修を閲覧できるようにして、多くの先生方に見ていただき知識の差をなくしていこうと取り組んでいます。先生方からも好評です。また、LTE PCを導入した4校に1名の割合でICT支援員を配置しています。今後はこの配置を維持することで、授業を進めていく中で操作に困っている教員に対するサポート体制を充実させていきます」(尾﨑氏)
子供たちがLTE PCを使うことでどんな発見や発想が生まれるのか。教育現場でICTツールを使う本質とは
福田教諭は現場が考える今後の取り組みと、将来的な展望についてこう語ります。
「今後は、学校行事の風景を動画で撮って家庭内で見てもらったり、保護者がそれに対してコメントができるようにするなど、学校と家庭がつながれる場所を作っていきたいです。ICTツールを使えば実現するのではないかと思って計画しています。
どの現場でもICTが活用されていく時代なので、教師も子供たちと一緒に使い方を覚えていくことが大事なことだと思います。また、本筋は見失ったらいけないと感じる部分もあり、何のために使うのか、これを使ったらどんな変化があり、どんなよいことにつながるのかを考えることも大切にしていきます。LTE PCを使わせるための授業ではなく、使うことできちんと学びを得る、ということを生徒たちに教えていきたいです」(福田先生)
「子供たちが自らの可能性を最大限に引き出し、それぞれが目指す夢に向かってまい進してもらいたい」
佐世保市教育委員会 学校教育部 総合教育センター課 指導主事 尾﨑 慶次郎氏
最後に、尾﨑氏に「スマート・スクール・SASEBO構想」の今後の展望について教えていただきました。
「今の世の中はすごく先行きが不透明で、将来の予測が困難な社会ですが、そんな中でも子供たちが自らの可能性を最大限に引き出し、それぞれが目指す夢に向かってまい進することによって、自分たちの人生を豊かに過ごしてもらえる。そんなふうになっていってもらえたらなと考えています」(尾﨑氏)
「全ての子供たちへ、新時代を力強く生き抜く力を」
スマート・スクール・SASEBO構想の取り組みは、これからも進化し続けます。
※1 Information and Communication Technologyの略。情報や通信に関する技術の総称。PCやスマートフォンなどの端末からネットワークを利用して情報を共有することを指す。
※2 内閣府が提唱する、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のこと。
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