人流データ利活用のススメ②【活用事例で解説】~ 「ジブリパーク開業」によるインパクトを読み解く~
2023年12月18日掲載
自宅にいながら買い物をしたり、友人とオンラインで飲み会をしたりと、スマートフォンなどのデジタル技術の発達により、人々の行動が複雑化しています。デジタル技術は人々の位置情報を正確に取得することを可能にし、こうした人流データの利活用により、社会インフラや自社の事業検討を効果的かつ効率的に行えるようになってきました。
本記事では、都市計画や交通計画などのノウハウを有し、社会インフラに関わるコンサルタントとして活躍するパシフィックコンサルタンツ株式会社の札本氏に、人流データの最新状況と利活用に向けたポイントを説明いただきました。
大規模施設の開業によるインパクト
皆さん、こんにちは。第一弾の記事はお読みいただけたでしょうか?
第一弾では社会インフラの整備のインパクトを題材にしましたが、今回、第二弾では、“まち“へのインパクトとしては社会インフラに並ぶ「大規模施設の開業」を題材に話を進めてまいります。
今回、題材にしたのは2022年11月にオープンした「ジブリパーク」です。このような大規模施設ができると、一般的には「新しく出来た施設は人が集まりそう」や「周りの施設は人が減りそう」といったようないわゆる“数”のイメージや議論がされているかと思います。
果たして大規模施設ができたとき、周りの施設や地域にとって“数”の影響が起きているのか?その他の影響はないのか? そのような観点で、「全国うごき統計」を活用し分析してみました。
「全国うごき統計」とは
ソフトバンクの携帯基地局のデータをもとにした数千台の端末の位置情報データに、パシフィックコンサルタンツ株式会社が保有する都市計画や交通計画のインフラに関するノウハウを加えて生成した人流データサービスです。
人流データに基づく実態: “社会インパクト”と“人の変化”は異なる!?
今回は、「全国うごき統計」を活用して、観光施設があるエリア間の周遊状況の分析や各施設があるエリアの滞在時間を計算。ジブリパーク開業前後の変化を分析しました。なお、滞在時間を細やかに把握できることも「全国うごき統計」の一つの特長です。(30分に1回といったようなデータ取得方法の場合には、どうしても滞在時間などの分析は粗くなってしまいます)
また、今回は「観光分析パッケージ」という分析結果がひとまとめにされたものを利用しました。データ提供と違い、クロス分析など詳細な分析はできないものの、比較的に安価に分析結果がみられることが長所です。そのため、このような地域の変化を簡易にとらえることには有効な方法ですので、ぜひ今回の事例を通して「このような活用方法もあるんだ!」と思っていただけると幸いです。
まず分かったことは、周辺観光地の来場者数は多少増減があるものの大きな変化ではないという結果でした。それよりも顕著だったのは、ジブリパークと周辺観光地を周遊する人数の増加です。
次に各施設の滞在時間ついて分析しました。その結果、新設されたジブリパークは、女性の約4割が3時間以上の滞在をしていることが分かりました。
一方で周辺の観光地をみてみると、そもそも長時間利用が考えられる水族館(名古屋港水族館)では、1時間未満の利用者の割合が増加し、短時間利用が多いと考えられる神社仏閣(熱田神宮)には大きな変化がありませんでした。
これらの分析結果を通してこの地域におけるジブリパークの影響をあらためて考えると、果たして来場者数のような“数”の議論だけで良いのでしょうか?周遊の結びつきや使われ方(滞在時間など)といったいわゆる観光の“質”の議論が重要であることをご理解いただけたのではないでしょうか。
“質”を捉えた上での検討のための人流データ活用
ジブリパークの分析事例のように、人流の“質”を捉えた検討を通じて、まちで提供するサービスやビジネスをより良いものにする具体例をいくつかご紹介します。
例えば、大規模施設間の移動といった“大きな需要“だけでなく、周遊をより円滑にするような小さな需要も取り逃さない交通手段を提供することで、周遊をより活性化することが可能になります。
また、影響を受けうる近隣の大規模施設の使われ方(例:滞在時間など)の変化に着眼することで、その施設の近くで自社が提供しているサービスの中身を改良するヒント(具体的には、時間やユーザーの使われ方に応じたメニューの改定など)を得ることができるのではないでしょうか。
さらには、人の動きをとらえることで、大規模施設の近くといった施設の立地に着眼した店舗計画のコストパフォーマンスをより向上させることも可能になると考えます。
ここまで人流の“質”が、提供するサービスやビジネスをにとっていかに有用なものであるか解説してきました。
人流の“質”をとらえるためには、まちや施設を使う人をとらえることが重要であり、人流ビッグデータ、とりわけ属性が正確にとれたり、交通手段が分かる「全国うごき統計」は有効なデータです。
さて、これまで社会インフラ・大規模施設を題材にお話してまいりましたが、最後となる第3回では、日常に変化をもたらすという意味ではインパクトが非常に大きなイベント”を題材に、人流データ活用の重要性について説明していきます。ぜひ引き続きお読みいただければ幸いです。
後記
本記事では、札本氏に人流データ活用のポイントを説明いただきました。データの種類を整理し、目的に合わせたデータ選定が重要となることが分かりました。
携帯電話基地局データとGPSデータの使い分けについて、より詳細な情報を知りたい方は札本氏登壇のウェビナーをご確認ください。ウェビナーでは、各種人流データの取得方法による特徴や活用シーンごとの人流データの選定ポイントについて解説いただいています。
また、ソフトバンクでは、携帯電話基地局データをもとにした人流統計サービス「全国うごき統計」を提供しており、機能概要と合わせてユースケースを紹介しています。どんな課題をどう解決できるのかを確認いただき、貴社の人流データにぜひご活用ください。