中之島ロボットチャレンジ2023レポート 高精度衛星測位によるロボット自律移動の現在と未来
2024年2月19日掲載
2024年1月28日、大阪市中之島公園で屋外自律移動ロボットの実証実験「中之島ロボットチャレンジ」の本走行会が開催されました。
「中之島ロボットチャレンジ」は、自律移動ロボットの実用化に向けた技術開発の一環として大学や企業向けに公開実験の場を提供するために実施されており、参加者は2025年万博でのデモンストレーションを目指して、「自動ゴミ回収ロボット実現」に向けた腕試しを行いました。
ソフトバンクとALES(ソフトバンクとイネーブラー株式会社との共同出資により設立された会社)は2020年から本イベントのスポンサーとして参加し、ロボットの位置測位に関する技術サポートやセンチメートル級測位サービス「ichimill(イチミル)」の補正情報提供や専用端末貸し出しを行っています。
本記事では、大会の様子と高精度位置情報を用いたロボットの自律移動制御についてご紹介します。
中之島ロボットチャレンジ2023の概要:街中での自律走行
2018年から始まり、計6回目の開催となる今年は、自動ゴミ回収ロボットの実現に向けて街中での自律走行にフォーカスしています。各チームが開発した合計15台のロボットはチーム間でタイムを競うのではなく、大阪市の中央公会堂と中之島図書館周辺の道路を完走することが目的です。
中央公会堂および中之島図書館を周回する約500mの歩道(図中赤線)が走行コース。
走行ルートは、通行人も多く通る公道。実験中という掲示案内はあったものの、天候や歩行者などの環境の変動要素に対応しつつルートを外れないように走行する必要があるため、ロボットの自律移動にはハードルが高い環境だったといえます。それでも各チームは試行錯誤を重ねてトライ。途中、雨が降ったりもしたものの、結果、参加ロボット15台のうち7台が完走、1台は「5周回チャレンジ」完走という発展課題もクリアしました。
各チームのロボットは大きさも形もさまざま。こちらは神戸高専ロボティクスチームの4足歩行の動物型ロボット「Unitree Go1」。
5周回チャレンジを達成した神戸高専ロボティクスチームの「Navit(oo)n」 通行人も多く通る公道で5周を走り切るには、高い稼働安定性が求められる。
雨天時に走行することになってしまった奈良女子大学・北陽電機と同チームの「Arno」号。
高精度位置情報による自律移動の制御
全チームが走行を終えた後、今回のチャレンジで見事完走したプロアシストチームの 猪熊一行氏とパナソニックアドバンストテクノロジーチームの 高橋三郎氏、そして中之島ロボットチャレンジ 2023の委員長を務める神戸市立工業高等専門学校 准教授 清水俊彦氏に、高精度位置情報とロボットの自律移動制御について話を聞きました。
プロアシスト 猪熊一行氏
パナソニックアドバンストテクノロジー 高橋三郎氏
神戸市立工業高等専門学校 准教授 清水俊彦氏
ロボットの自律走行時の制御手段として、位置情報がどのように役立つのでしょうか?
プロアシスト 猪熊一行氏: ロボット自律走行時には、まず位置情報を認識するためLiDARやカメラを使って外部の情報を得て、その情報に基づいて地図を作ります。そして、自律走行時にはその地図と照合しながらロボットが自分の位置を認識します。つまり、周りの環境を見ながら自分の位置を知るということをやっているのですが、LiDARやカメラの場合、太陽など照明条件で見え方も変わってきます。特に我々が使っているLiDARは二次元のものなので線的にしか物体が分からず、また、周辺状況が変わったりするとなかなか難しいところがあります。
その一方で、ダイレクトに位置情報が分かるシステムとしてGPSなどの衛星測位技術を用いて得た位置情報を使う方法があります。一般的なGPSだとかなり誤差が大きいのですが、ichimillでは同社の補正情報を用いたRTK測位を行うことで、非常に精度の高い位置情報を得られます。ダイレクトに自分がどこにいるのかが分かるので、自律走行の制御に非常に役に立ちます。
神戸市立工業高等専門学校 准教授 清水俊彦氏: 自律移動の制御方法として、LiDARも、ichimillをはじめとする高精度位置情報も非常によく使われています。どちらも不得意な分野がありまして、例えばichimillは屋内だと衛星からの信号を受信できないので精度がでません。一方でLiDARは、広い公園や海、圃場などの周りに障害物が一切ないような状態では、相対的に記録するのが難しいため、利用ができません。
長所・短所を生かしてそれぞれに沿ったシチュエーションでLiDARとichimillを使い分けていくナレッジが溜まってきています。
位置測位手段として、ichimillの優位性はどこにありますか?
プロアシスト 猪熊一行氏: 恥ずかしながら、我々のチームはこれまでなかなか完走できなかったんです。2020年にichimillを導入して、いきなり完走ができました。ichimillによる位置情報の安定性と精度の高さに非常に感激しました。
パナソニック 高橋三郎氏: 今回、もともとは違うGNSSのモジュールをつけていたんですが、試験走行した際に少し調子が悪かったため、その場でソフトバンクさんからichimillを借りて走行したところ、制御するのに十分な精度が出ていることが確認できました。現地調達ですぐに使える使い勝手の良さに助けられました。
移動制御以外でのichimill活用方法があれば教えてください。
プロアシスト 猪熊一行氏: ログデータがきちんと残せるので、走行後に地図と照合して解析したり、振り返りをする際に非常に役に立っています。また、ロボット開発においては、位置情報はichimillでばっちり分かるので、我々はそれ以外の箇所、例えば走行時に障害物だけを検知するような仕組みや、駆動に関わるようなハードウェアの開発などに注力できます。
神戸市立工業高等専門学校 准教授 清水俊彦氏: 自動ゴミ回収ロボットの実用化という視点で考えると、GPSが付いていないゴミの位置を地図上の共通情報としてほかのロボットにどのようにして伝えるのか、ということが課題になります。情報共有ができれば、ロボットが組織的にゴミの回収をできるということになりますので。
これを簡単にする技術が、ソフトバンクのichimillです。ichimillは地図上の絶対位置として、「ゴミを発見したロボットとゴミの位置」をほかのロボットにも共通言語として出せるんです。ロボットの形態が異なっていたとしても、地球上の絶対位置としてゴミの位置を発信できる強烈なツールですね。
さらに今回の大会では、ichimillの見える化オプションを利用して、リアルタイムにロボット10台の位置情報を同時に把握する機能も試験しました。ゴミ回収の実用シーンでは、操作者はどこか別の場所に座ったまま、PC画面上の衛星写真でロボットがどこに何台いるかを把握し、ロボットから緊急アラームが出た際だけ状態を確認するというようなシステムが必要になりますので、その実現に向けた一歩も踏み出せたのかなと思います。
10台のロボットに搭載されたichimillを通じて、ロボット現在地をリアルタイムにシステム側で把握できるシステム。
中之島ロボットチャレンジの展望
最後に、中之島ロボットチャレンジ 2023の委員長を務める清水氏は今回の実施結果を振り返って、屋外という不確定要素が多い環境下で周回完走を達成したチームが増え、さらに5周回完走を達成したチームも出たという結果について、「実運用に求められる自律移動の安定性が増してきた」と評価します。
自律移動ロボットで目指すのは「一人が複数台のロボットを遠隔操作して、効率的にゴミ回収するシステム」と語る清水氏。その技術育成のための実践の場である中之島チャレンジを、ソフトバンクとALESは高精度測位サービス「ichimill」を通じてこれからもサポートしていきます。
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関連サービス
高精度位置測位サービス「ichimill」
ichimill(イチミル)は、準天頂衛星「みちびき」などのGNSSから受信した信号を利用して、RTK測位を行うことで誤差数センチメートルの測位を可能にする位置情報サービスです。