自治体職員が民間企業に出向して見つけた新しい働き方~ぺーパーレス化編~
2024年3月28日掲載
自治体が抱える複雑な課題に対応し、市民からの期待に応えるためには、働き方改革が欠かせません。このシリーズでは、自治体職員がソフトバンクへの出向を通じて新しい働き方を体験したり、他自治体の先進事例から得た知見を紹介します。自治体職員の”気づき”をもとに、自治体の業務効率化と職員の働きやすさの向上に必要な考え方やアクションを全3回で取り上げていきます。
柔軟なワークスタイル、ペーパーレス化、生成AIの活用など、自治体業務をより効率的に、そして職員が働く環境をより快適なものに変革しようとするこれらの取り組みは、住民サービスの質を高め、地域の持続可能な発展への道を切り開くための重要なステップです。
現在、業務効率化や行政サービス向上、そしてAI活用に向け、多くの自治体で取り組みを進めているペーパーレス化。しかし、推進にあたっては、一部の部署のみが奮闘する場面も多く見られ、全庁的な取り組みとする上では、解決すべき多くの課題があります。
本記事では、全庁を巻き込んだペーパーレス化の推進方法について、ソフトバンクに出向中の自治体職員のインタビューを通じて検討していきます。
職員に聞く、ソフトバンクと自治体の大きな違いは?
自治体からソフトバンクに出向されて、働き方や働く環境は大きく変わったと思います。何か気付くことはありましたか?
神戸市役所Gさん: オフィスに来てはじめに気付いたのは、机の上に紙がほとんどないことです。どのフロアを見ても同様で、全社的にペーパーレス化が進んでいることにとても驚きました。
長野県庁Aさん: 紙がないことに加えて、オフィスに設置しているコピー機の数が非常に少ないことにも驚きました。利用している方も少ないことから、ソフトバンクはペーパーレス化が当たり前の環境になっていることにも気付かされました。
確かに、ソフトバンクでは全社的にペーパーレス化が進んでいますね。身の回りに紙資料がない環境の中で、働き方に具体的な変化はありましたか?
神戸市役所Gさん: 場所に縛られない働き方ができるようになったと感じています。自治体では紙で保管される資料も多く、出張先や在宅勤務時には資料が参照できないために、庁舎に行かざるを得ないことも多くありました。一方、ソフトバンクでは過去の文書も全てPC上で閲覧・検索ができるため、出社しなくても資料を見ながら業務を行うことができますし、紙資料を文書室へ探しに行くといった手間も減りました。
庁舎でしか紙資料を参照できないことが、自治体のテレワーク活用推進における大きな課題となっている。
長野県庁Aさん: 紙がない環境になり、仕事のやり方が変わったと感じています。例えば、これまで県庁で会議をするときは、全員分の資料を印刷したり、全員が入ることのできる会議室を確保しなければならず、事前準備に大変時間がかかっていました。一方ソフトバンクでは、オンライン会議が基本のため資料を印刷する必要はありませんし、会議室の確保も最小限で大丈夫です。実際、この1年で社内会議のために資料を印刷したことは一度もありませんし、空いた時間でほかの作業を行うことができるため、とても効率よく働けているように感じます。
職員が思う「ここを真似したい!」
それでは、ソフトバンクで働いてみて、ペーパーレス化に関して自治体でも真似したい・取り入れたいと思うことはありますか?
神戸市役所Gさん: 組織全体でペーパーレス化に取り組む姿勢は、出向元にもぜひ取り入れたいです。組織としてペーパーレス化に取り組むことは、コストや環境に対する効果の大きさはもちろんですが、業務効率の向上にも繋がっていると感じます。
長野県庁Aさん: 社員が快適に業務を行うためのツールが導入されているのも、ソフトバンクでペーパーレス化が浸透している要因の1つかと思います。例えば、ソフトバンクでは、コラボレーションツールとしてGoogle Workspace を使っていることで、クラウド上に保存された資料をいつどこでも確認・編集できますし、社員1人1つずつZoomアカウントを持っているので、オンライン会議もすぐにはじめられます。こういったツールの利便性を日々の業務の中で実感しており、自治体でペーパーレス化を推進する際にもツールの導入は必要だと感じました。
ただ、紙文化が根付いている自治体においては、ツールを導入するだけではペーパーレス化の取り組みを全庁に広げることは難しいとも思います。
ぺーパーレス化を自治体で推進するには
では、実際に自治体が、全庁を巻き込んでぺーパーレス化を推進するにはどんなことをすべきだと考えますか?
神戸市役所Gさん: 全庁を巻き込んでペーパーレス化を推進していくためには、推進体制の構築や職員の意識醸成といった、庁内の土台作りから行う必要があると考えます。
自治体業務には、法令の関係で紙での対応が必須の業務や、紙で対応する方が効率的だと感じる業務も少なくありません。そのため、推進の土台ができる前にデジタルツールを導入しても活用率が上がらず、宝の持ち腐れになってしまう可能性があります。組織としてペーパーレス化を推進する体制を整え、必要な紙での対応は残しながらも、職員一人一人がペーパーレス化に向けて業務のあり方を見直す意識を持つことが、全庁を巻き込んだ推進への第一歩になるのではないでしょうか。
先ほど土台作りというお話がありましたが、具体的にどのように進めていけばよいと考えていますか?
神戸市役所Gさん: 具体的な土台作りの方法としては3点挙げられます。
1つ目は、推進体制の構築です。自治体における取り組みの例としては、金沢市の事例が挙げられます。金沢市では、市長自らが参加する会議体(金沢市DX会議)を設置し、迅速なDX方針の意思決定を行っていることに加えて、各部局の長が参加する組織(デジタル戦略推進本部)を設置することで、その組織を通じてトップの意思決定を庁内の隅々まで伝える体制を構築しています。
参考:金沢市DX会議
神戸市役所Gさん:2つ目は、印刷状況の可視化です。具体的な取り組みとしては、「印刷枚数の把握」と、「印刷物の分類」が挙げられます。
「印刷枚数の把握」の取り組みとしては、部署ごとの印刷枚数を集計したり、印刷物の種類ごとに集計したりするなど、さまざまな方法があります。このような取り組みによって、具体的な印刷状況を可視化することで、現状の課題を整理することができます。また、可視化されたデータを庁内に公表することで、各課のペーパーレス推進の意識付けやモチベーションの向上にも期待できます。
また、「印刷物の分類」の取り組みとしては、庁内の印刷物に削除の優先順位をつけ、3つに分類する方法があります。これは、ソフトバンクのほか、さまざまな自治体でも実施されている方法で、何から手を付けていけばよいかが明確化されるため、具体的なアクションの検討に生かすことができます。
神戸市役所Gさん: 3つ目は、庁内ルールの策定です。例えば、下図のように細かく具体的な庁内ルールを定めることで、職員の日々の業務にまで意識を浸透させる仕組みを作ることができます。ペーパーレス化は、環境を一新しないと進まないという印象を持ちがちですが、実は職員の意識を変えるだけで印刷枚数をかなり削減することが可能です。特に、会議資料やプレスリリース時の記者配布資料の電子化など、全庁に共通する業務のルール策定は削減効果が大きいと言えます。また、庁内全体のルールではなくても、部署のトップが、部署内のルールや目標を定め所属する職員のペーパーレス化の意識を高めることは、大変効果が大きく重要な取り組みだといえます。
長野県庁Aさん: そういった、ペーパーレス化に向けた組織の土台作りができた後、意識だけでは変えられない部分や、より業務効率を上げられる部分にツールを導入していくこともペーパーレス化の推進には重要だと考えます。例えば、ペーパーレス会議を円滑に実施するにはモニタは必須とも言えますし、会議の参加者が議事録を共同編集で作ることができればより効率的に業務を行うことができます。
土台作りができた環境にツールを導入すると、職員がその機能をフルに活用できるようになり、より高い導入効果を生むことができると思います。
神戸市役所Gさん: ソフトバンクで業務を行う中で、ペーパーレス化を組織全体で推進することの重要性に気付きました。
また、ペーパーレス化を推進したいと思っているが、何から手を付けてよいか分からないと感じている自治体の皆さんには、まずは庁内の体制構築や意識醸成などの土台作りを進めていただき、今後導入するデジタルツールが最大の効果を発揮できるような環境を作っていただきたいと思います。
まとめ
ペーパーレス化の実現により職員が多様な働き方を選択できるようになることは、多様なバックグラウンドを持つ人たちがのびのびと働き、最大限の力を発揮することのできる職場づくりにも繋がります。そして、そのような働き方の変化が、住民サービスの向上にも繋がっていくと、お二人の話を通じて感じました。
連載:自治体職員が民間企業に出向して見つけた新しい働き方
本シリーズでは以下2記事を掲載しています。本記事とあわせてぜひご覧ください。
「生成AI活用編」
ソフトバンクで取り組む生成AI活用を自治体で取り入れるためにはどうすればよいか、を考える
「ソフトバンクの働き方編」
自治体とは大きく異なるソフトバンクのワークスタイルや組織風土に着目
ソフトバンクの自治体ソリューション・関連サービス
自治体DX推進サイト「ぱわふる」
「ぱわふる」は『Power of Furusato(ふるさとにパワーを)』をコンセプトとし、自治体が抱えるさまざまな課題を解決するための自治体ソリューションや自治体導入事例を紹介しています。
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