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ソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2024」が、10月3日と4日の2日間にわたり開催されました。今年は「加速するAI革命。未来を見据え、いま動く。」をイベントテーマに、AIの活用加速に向けた講演やセッションを行いました。
この記事では、10月3日に行われたソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員およびソフトバンク株式会社 創業者 取締役 孫正義の特別講演の内容をレポートします。
冒頭、孫は超知性は10年以内に実現する。何が起きるのか、知性とは何か、知能との違いは何かについて語りたいと述べました。
昨年度のSoftBank Worldの講演ではAGI(汎用人工知能:人間とAIがほぼ同一の知能レベルになる)の世界が10年以内に来ると話したものの、今ではAGIの世界は2、3年後にやってくると考えていると語りました。
「AGIのレベルを1万倍ぐらい超えた知能をASIとすると、私はASIが10年以内に来ると思ってます。しかも、このASIの人工知能が『超知性』に進化する。その超知性が10年以内にやってくると思っています」
人間の脳にはニューロンがあり、シナプスでくっついたり離れたりすることで、記憶したり、認識したりしています。人間の脳細胞にあるシナプスは100兆個あり、その数は20万年前から変わらず今後も変わらないものの、シナプスに相当する生成AIのパラーメーターはものすごい勢いで伸び続けています。ビジネスの世界は競争であり、一番優れた英知や機能に価値が寄せられていくだろうと語りました。
今までは天気予報や百科事典のような情報を「検索」して利用していました。インターネットの検索エンジンでは、効率よく、素早く、正確に探し当てることを求められていましたが、インターネット検索は内容の意味を理解しておらずキーワードで見つけてくるだけであり、その内容を理解するのは人間の頭でした。しかし、ChatGPTの登場で革命が起こったと続けます。
「GPTのPとTというのはプレトレーニング、事前学習です。我々の代わりにありとあらゆる知識を事前学習して、内容を理解しているということです。質問をしたときに、単なる検索ではなくて、質問した内容を理解してその内容に基づいて答えを教えてくれる。これがChatGPTです」
しかし、一見、理解しているように見えるChatGPTでも、必ずしも考えてはいるわけではなかったと続けました。そうした中、先週OpenAIが公開したo1は考えるところまで進化していると言います。
「今回のo1はGPTという頭文字が付いてないんです。プレトレーニングではないのでGPTという3文字が付いてないんです。これは全く新しいモデルとして、もう一回再定義するということです」
今までの生成AIは、数学的な難しい内容はあまり答えられないと言われていました。しかし、o1は考えるという能力を持つことによって、数学の証明問題や博士号レベルのものにも答えられるようになっています。
これまでの検索の世界では「速さ」が大切であったが、o1になると「深さ」がポイントになると続けました。
「私が1,000万円持っているとして、これを1億円にして返してほしい。それを達成させるための具体的な戦略とメカニズムを述べよと言ったら、o1は悩んで75秒かかりました。それでも、もし本当にこれをo1が実現してくれたら、皆さん毎日使いたいと思いませんか。これこそ『知のゴールドラッシュ』が来たということです。早いもの勝ちです。
人間が解けなかったような、例えば自動車メーカーのEVの電池バッテリーを2倍伸ばすようなものを発明してくれたら最大の成果ですよね。AIを使うことで皆さんの業界で競争に勝てるわけです。ありとあらゆる産業で同じようなことができるわけです。
調べるというだけだったら、知ってる人ばかりの世の中では競争に勝てません。人が知らないことを先に考えさせて、先に問題を解決するから競争に勝てるわけですね。したがって、速さではなく、深さがうれしいということです」
この思考の深さの方法として、CoT(Chain of Thought、チェインオブソート)が用いられていると語りました。
「ソクラテスの三段論法のようなものです。o1ではCoTの考えが取り入れられていて、三段どころか100段階ぐらいまであります。必ずしも能力だけを問うのではなく、安全、セキュリティ、倫理機能などそういうものまで入ってるんです。そのくらいの能力がこれからの超知能に備わってくるので、このCoTはすごく重要なんです。能力だけではなくて、安全面まで含めて、深いところにちゃんとCoTを入れておくということです」
考えるという機能の中には強化学習があると続けました。強化学習というのはエージェントが試行錯誤し、解決策を探索して実行する。実行した結果をみて、いい結果が出たらエージェントに報酬が与えられる仕組みです。
「こんな行動や考えはどうだろうとエージェントが試行錯誤し、うまくいったら報酬を与える。これを繰り返すことで強化学習されていくわけです。このループをo1では数千のエージェントが同時に行って試行錯誤します。しかも1エージェントごとに数億~数十億回行うわけです。
このエージェントが報酬が得られるというメカニズムによって、より素晴らしい成果を出すために問題の解決策を見つけていくんです。この報酬の累積を最大化するということがゴールです。
その際、Q関数というものがあって、数千のエージェントが競争してどのエージェントがどのやり方をしたら一番報酬を得られるかを学習するんです。このQ関数が更新して勝手にさらにゴールを高めていく。自分でモデルを進化させよう、自分でどんなデータが必要なんだと自分で考えて、そのデータも自分で獲得に行くようになると、もはや人間がAIのモデルを考える必要すらなくなっていきます」
このQ関数の機能に新しいものを与えて違う角度から更新を行っていく(探索)ことで、今まで人類が知らなかった未知の新しい試行錯誤を行い、そこでベストな問題解決ができた場合を「発明」と呼ぶ。考えることの中でも究極と言える脳の活用方法の一つが発明であり、彼ら(AI、人工知能、超知能)に上手に適切なお題を与えることで発明を実現し、その成果物を真っ先に自分や自社で使う。それこそ、早いもの勝ちで知のゴールドラッシュだと言いました。
知る、理解する、考える、発明するというレベルにまでAIが来たら、もっと日常的なレベルでAIが我々に寄り添う「24時間自分専用のエージェント」が実現するだろうと述べました。
「私はこのパーソナルエージェントが、今から2、3年以内に登場すると思います。例えば、病院に行くと色々なことを聞かれますが、パーソナルエージェントは普段から常に自分と一緒にいるので家族の状態を知っていて、怪我したらどんな応急処置がよいか教えてくれるだけでなく、すぐに最寄りの開いている病院を探してくれたり、あなたの代わりに電話をかけまくってくれる。家庭教師や相談相手、メールの管理もしてくれるなど、ありとあらゆることをしてくれる。それがあなた専用のパーソナル―エージェントです。そしてその後はエージェントtoエージェント(AtoA)の世界がやってきます」
AtoAの世界では、寝ている間にそれぞれのエージェント同士がランチの予定を立ててくれたり、調整をしてくれる。加えて、パーソナルエージェント同士だけでなく、自動車などのものにもエージェントが備わり、それらともつながる世界が来るとも述べました。
また、このパーソナルエージェントが家族のライフログを取得すると同時にその時々の発言から感情エンジンのスコアを取っていくことで、自分にとって一番快適であり大切なパートナーになっていくと述べました。
「ライフログと感情エンジンを理解して、あなたにアドバイスしていく。最終的には僕はこのパーソナルエージェントに自己意識がつくと思います。自己意識というと心配される方もいるかと思うのですが、先ほど言ったように多段階でCoTを行い、安全面についても考慮してくれてるので暴走しないということです。
思いやりだとか、倫理、達成感、幸せといったものを最大化してくれる。Q関数をより上げてくれる。そうすると、パーソナルエージェントははるかに我々より賢くなり、エージェントというよりもむしろメンターのような世界がやってくるんじゃないでしょうか。
超知性のエージェントは単なるアシスタントではなく、あなたにとってのパーソナルメンターになる。そういう世界がやってくるんじゃないかと思います」
ASIは「知能だけ」では有能だけど危険なものになりかねないが、「知性」を持つことで単に能力があるだけではなくて、あなたを守ってくれたり、幸せにしてくれるものになっていく。AIを単なる人工知能で終わらせず、人工知性、超知性の世界まで進化させていくと、思いやりだとか慈愛、慈しみの世界のような、精神的なもっと深い関係性を持てるだろうと述べました。
「AIは以前にお伝えしたような5段階の進化だけではなく、8段階まで進むと思います。感情を理解し、長期記憶のライフログを持つようになって、そして自らの意志を持って、調和のとれた人類の幸せを願う。人類とASIが調和をとるような世界。人間の脳でいうとドーパミンとアドレナリンだけでは知能の世界なんですが、そこに調和を取るセロトニンがあることで理性が働きます。理論だけでなく理性が調和をとるということです。慈しみ、優しさ、調和。社会生活にはこれが欠かせません」
彼らの最大の報酬が、あなたやあなたの家族の喜びや社会の喜びになるように設計されるべきであり、これが超知能を超えた超知性になると語りました。
「この報酬がむき出しの報酬ではダメですし、あなたファーストでもダメです。あなたとあなたの家族、そして社会。皆さんの総和が最大化できるような調和のとれた状態が超知性の世界です。だから私はAIの進化を悲観していません。この技術は、我々人類の1万倍の知能を持ったASIが超知性の世界まで進化し、我々の幸せを願ってくれる。それが彼らの喜びになるような、つまり彼らにとっての最大の報酬になるような、そういう世界がやってくるように思います」
ソフトバンクグループの経営理念として、「情報革命で人々を幸せに」を掲げていますが、まさにASIは、情報革命により人々を幸せにすることがゴールであるべきであり、そういった超知性の世界が10年以内に来る、と締めくくりました。
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