オープンデータ×自治体で地域課題に挑む:静岡県データ活用アイデア学生コンテスト開催レポート

2025年1月30日掲載

オープンデータ×自治体で地域課題に挑む:静岡県データ活用アイデア学生コンテスト開催レポート

地域課題の解決に向けたデータ活用の取り組みが全国各地で進展しています。そんな中、静岡県は新たな試みとして「オープンデータ等活用アイデア学生コンテスト」を開催しました。
このブログでは、コンテストの様子や、参加した学生および主催した静岡県ご担当者の皆さまへのインタビューをご紹介します。

目次

静岡県のオープンデータの取り組み

オープンデータは、国や地方公共団体、事業者が保有するデータのうち、誰でも容易に利用できるよう公開されているデータです。営利目的や非営利目的を問わず二次利用が可能であり、機械判読に適した形式で提供され、無償でアクセスできることが求められます。日本では2016年に「官⺠データ活用推進基本法」が施行され、国や地方公共団体に対してオープンデータの推進が義務付けられました。

オープンデータによって、行政の効率化・信頼性の向上のほか、住民や企業との協働が促進され、地域問題の解決や地域経済の活性化につながることが期待されています。
実際に、自治体のごみ収集情報を活用したアプリの開発や施設・イベント情報を活用した情報発信サイトの運営など、市民や企業によるオープンデータを活用した新しい取り組みが全国で広がっています。

静岡県では、県および市町のオープンデータを利用できるWebサイト「ふじのくにオープンデータカタログ」を公開し、オープンデータの整備を進めています。また先進的な取り組みとして、県のほぼ全域をレーザースキャナーなどで測量して3次元点群データとして取得し、仮想空間上に再現する「VIRTUAL SHIZUOKA(バーチャル しずおか)」というプロジェクトを推進。誰もが自由に使えるデータとして無償公開することで、産業・建設・観光・交通・防災など幅広い分野の発展を支える基盤データとしてまちづくりやビジネスへの貢献を目指しています。

また、県内企業や住民への普及啓発活動として、オープンデータを使って地域課題に対する解決策を考えるアイデアソン・ハッカソンや、まち歩きをしながらテーマに沿った情報を集めて誰でも自由に使える地図を作成するマッピングパーティといったイベントの開催にも取り組んできました。
しかし、開催回数や期間、参加人数が限られていることや、次世代のデータ活用人材である学生の参加が少ないことが課題になっていました。
そこで今回、新たな取り組みとして「オープンデータ等活用アイデア学生コンテスト」を開催しました。

学生から地域課題を解決するアイデアを募集

コンテストでは、県内の高校生・大学生・専門学校生などを対象に、オープンデータを使って地域課題や身近な困りごとを解決するアイデアを募集しました。
学生がデータへの理解を深めながら十分に時間をかけて取り組めるよう、アイデアの募集期間には6月4日から10月25日までの約5カ月間が設けられ、最終的に県内12校から96作品の応募がありました。作品を応募した学生の多くが、このコンテストで初めてオープンデータを利用し、データ収集や分析の手法を身に付けるきっかけとなりました。

その後、一次審査を経て上位8作品が最終審査に進み、作品を制作した学生によるプレゼンテーションが12月8日に実施されました。ここでは静岡県デジタル戦略担当部長のほか、県内大学や企業などの有識者が審査員を務め、「データの活用・分析の適切性」「アイデアの実現可能性や独自性」「表現力や論理性」などの観点で審査が行われました。

コンテストにおける学生のプレゼンテーションの様子

LINEヤフー社のビッグデータを使ったデスクリサーチツール「DS.INSIGHT」

今回のコンテストでは、柔軟なアイデアの創出を促すため、行政のオープンデータだけでなく民間が保有するビックデータも活用対象となり、LINEヤフー社のビッグデータを使ったデスクリサーチツール「DS.INSIGHT」が参加者の作品づくりに活用されました。
DS.INSIGHT」は、Yahoo! JAPANの検索データ・属性データを分析できるツールで、潜在的な消費者のニーズや市場動向を詳細に分析し、自動で可視化することができます。すでに多くの自治体で観光プロモーションや都市計画、災害対策など、多岐にわたる行政分野で利用されています。

コンテストでは、「DS.INSIGHT」を使って静岡県内地域への来訪者の動向や観光地や特産物などが、ほかのどのようなキーワードと組み合わせて検索されることが多いかなどを分析し、地域の課題把握や解決策の検討に役立てた作品が発表されました。

DS.INSIGHTで出来ること

ツールを活用した多角的なデータ分析が評価されたソフトバンク賞のアイデア

今回のコンテストでは特別賞として、「DS.INSIGHT」を効果的に活用した作品に「ソフトバンク賞」が授与されました。
ソフトバンク賞には静岡県立大学 経営情報学部 経営情報学科3年の飯塚 遥さんと佐野 果蓮さんの作品「ペットツーリズムの市場拡大のための提案 ―旅マエ・旅ナカ・旅アトそれぞれの場面で考えるー」が選ばれました。
この作品は、ペット用品販売額の推移データを基に、ペット連れ旅行の需要が今後増加すると分析し、静岡県でペットツーリズムを盛り上げるためのアイデアを提案したものです。
旅行者の行動を旅行前・旅行中・旅行後の3つのフェーズに分け、各フェーズにおける旅行者の興味関心をオープンデータや「DS.INSIGHT」を使って分析し、「ペット連れ旅行を検討している人は、ペットの食事について検索している人が多いので、観光地や宿泊施設でペットフードを小分け販売してはどうか」など、ペットを連れて旅行しやすい地域づくりのための具体的なアイデアが提案されていました。
審査員からは、「DS.INSIGHT」の多様な機能を効果的に活用し、分析結果をアイデアに結びつけた点が評価され、「ぜひこのアイデアを実現させてほしい」との講評がありました。

ソフトバンク賞を受賞した学生の作品

ソフトバンク賞を受賞した飯塚 遥さんと佐野 果蓮さんに、今回の作品のポイントや、「DS.INSIGHT」を使ってみた感想をうかがいました。

ーどんなきっかけでコンテストに参加しましたか。
佐野さん「大学の授業の一環で静岡県データ活用推進課の出前講座に参加した際、このコンテストの案内があり、応募しました」

ー今回のアイデアのポイントを教えてください。
佐野さん「大学のゼミ活動で中部横断道の経済効果を調査するため、道の駅でフィールドワークをしていた際、ペット連れの観光客の多さに気づいたことから、観光政策の中でも『ペットツーリズム』に焦点を当てた点にオリジナリティがあると思います」
飯塚さん「静岡県の伊豆地域にはペットと遊べる施設がたくさんあるので、地域の特性を活かしたアイデアを提案できたと思います」

ー難しかったことはありますか。
佐野さん「自分たちの探しているデータがどこに掲載されているのか見つけるのが大変でした」
飯塚さん「統計によっては市町ごとにファイル形式が異なっていて、データの比較に苦戦したこともありました」

ー「DS.INSIGHT」を使ってみていかがでしたか。
佐野さん「対面のアンケート調査は授業でやったことがあったものの、ビックデータの分析は初めてだったので難しいかなと思ったのですが、『DS.INSIGHT』を使ってみてビッグデータってこんなに分かりやすく分析できるんだ!と意外でした」
飯塚さん「『共起キーワード』機能で、特定のキーワードと一緒にスペースを空けて、よく検索されているキーワードを調べると意外なキーワードがたくさん出てきて、検索している人の属性も分かるので、分析がどんどん広がって面白かったです。自分達が知りたい情報を得るために、どんなキーワードを分析すれば良いか、試行錯誤しました」
佐野さん「国の統計データはマクロ視点での分析になりますが、『DS.INSIGHT』はより具体的に消費者の思考や行動が見えるので、ミクロ視点で分析できる点が良かったです」
飯塚さん「行政のオープンデータの更新頻度は1年~5年間隔が多いですが、『DS.INSIGHT』は数日前も含めたタイムリーなデータが分析できるのも良かったです」

※DS.INSIGHTは、午後には前日までの集計データを確認することができます。


-今後どんなことに役立てられそうですか。
飯塚さん「データを使うことで、課題が明確になって相手に伝わりやすくなることが分かりました」
佐野さん「今回身に付けたデータ活用の手法を、これから取り組む卒業論文にも応用していきたいです」

静岡県立大学 経営情報学部 経営情報学科3年 佐野 果蓮さん(左) 飯塚 遥さん(右)

静岡県立大学 経営情報学部 経営情報学科3年 佐野 果蓮さん(左) 飯塚 遥さん(右)

今後のオープンデータ活用の推進に向けて

今回のコンテストを主催した静岡県デジタル戦略局データ活用推進課の色本 裕雅氏に、コンテストの成果や今度の展望についてうかがいました。

静岡県デジタル戦略局データ活用推進課 色本 裕雅氏

静岡県デジタル戦略局データ活用推進課 色本 裕雅氏

ー静岡県が行ってきたデータ利活用の取り組みについて教えてください。
色本氏「静岡県はオープンデータを活用したアイデア創出を促進するため、アイデアソン・ハッカソンを2021年から実施してきました。また、職員が県内大学に出張してオープンデータや統計に関する出前講座を実施したり、各地でワークショップを開催しています。こうした取り組みを通じて、県民にオープンデータ活用の意識を広めることを目指しています」

―コンテスト開催にはどのような背景があったのでしょうか。
色本氏「これまで行ってきたイベントでは参加者がなかなか思うように集まらず、特に学生の参加が少ないことが課題になっていました。また、データ収集や分析、アイデア出しのための十分な時間を確保することができていませんでした。これから地域のデータ活用を推進していくには、次世代のデータ活用人材の育成が不可欠と考えていますので、学生が参加しやすく、データ分析の手法を身に付けられる機会を設けたいと思っていました。こうした経緯から、今回のデータ活用アイデア学生コンテストを開催する運びとなりました」

ーコンテストではオープンデータだけでなく、「DS.INSIGHT」も活用いただきましたが、どのような狙いがあったのでしょうか。
色本氏「これまで実施してきたアイデアソン・ハッカソンの反省として、なかなかオープンデータだけでは具体的なアイデアの創出につながりにくいという課題がありました。そのため、今回は『DS.INSIGHT』で民間のビックデータも活用し、学生ならではの新鮮な視点や発想力を存分に活かした提案を行っていただけるようにしました」

ー今回の取組の成果と今後の展望について教えてください。
色本氏「コンテストでは、新たな観光資源の発掘や環境保護に関する取り組みなど、多様な地域課題に対する具体的な解決アイデアが提案されました。
学生の皆さんがこうしたアイデア創出の過程で、データ分析の手法を身に付けながら地域の課題に対する理解を深められたことは、非常に大きな成果だったと思います。
また、参加した学生同士や審査を行った企業との間で交流が深まる機会にもなりましたので、ぜひアイデアの実現に向けて交流が続いていくことを期待しています。
今後も引き続き、オープンデータ活用の促進に取り組んでいきたいと思います」

ー参加した学生にどのようなことを期待しますか。
色本氏「ぜひ今回のコンテストで身に付けたデータ分析の手法や地域課題に対する視点を、今後の学習や研究に生かしていただけたらと思います。そして将来的には、地域社会におけるデータ活用のリーダーとして活躍し、地域の発展に寄与する人材として成長されることを期待しています」

このコンテストを通じて、静岡県の将来を担う若者たちがデータ活用の力を学び、地域社会のさまざまな分野で活躍することが期待されます。

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