自治体の防災対策 〜「だれひとり取り残さない」避難支援を目指す愛知県日進市の事例〜

2025年4月24日掲載

自治体の防災対策 〜「だれひとり取り残さない」避難支援を目指す愛知県日進市の事例〜

愛知県日進市では近年の自然災害の甚大化を受け、地震や津波、土砂災害などのリスクへの備えとしてデジタルを活用した防災対策を推進しています。
その一環として、令和6年に愛知県のスマートシティモデル事業において日進市を代表としたコンソーシアムを設立し、同年11月には複数のコンソーシアム外協力事業者との連携による避難所開設運営訓練が市内の小学校で開催され、市民が「日進市LINE公式アカウント」を利用したデジタル防災サービス(以下、LINE防災)を体験しました。また、訓練当日には複数の事業者の協力のもと、LINE防災と連携した避難所における物資手配・配送の実証実験も行われました。

本記事では、日進市で訓練の開催およびLINE防災の企画を担当された大澤紀夫氏にお話しをうかがいました。

目次

愛知県 日進市 大澤 紀夫 氏

大澤 紀夫 氏
愛知県 日進市
生活安全部 防災交通課
課長補佐(危機管理・防犯安全)兼 防犯安全係長

日進市における防災の課題と取り組み

愛知県の中央部である尾張と三河の境に位置する日進市では、近年の自然災害の甚大化、市街化の進行などにより洪水、土砂災害などのリスクが高まっていることから、災害時の被害を最小化し、被害の迅速な回復を図る「減災」の考え方を防災の基本理念としています。

「幸いなことに、これまで日進市では大規模災害は起きていませんが、全国的には甚大な災害が発生していることから、今後、日進市で災害が発生したときに市民が受ける影響は大きいと考えています。そこで市民の被害を最小限に食い止めるために、日進市では避難所開設運営訓練を行い、災害発生時における自身の安全の確保や避難所への避難方法などを市民へお伝えしています。
また交通分野では、自動運転バスのレベル4運行の実現など次世代を見据えた公共交通を日進市の都市計画の重要なツールと位置付けるとともに、国や愛知県などの関係機関と連携して幹線道路の整備事業も進めています。
令和7年8月には道の駅『マチテラス日進』が開駅予定であることから、交通の結節点や市民の憩いの場、市の魅力を広める場として活用しつつ、災害時の救急活動拠点として防災倉庫やマンホールトイレも設置し、災害の発生に備え平時における防災イベントにも注力していきたいと考えております」(大澤氏)

※日進市では災害時に備え、迅速な避難活動および避難所の開設、市民の防災意識向上のため拠点避難所となる小中学校を会場に平成30年度より避難所開設運営訓練を実施しています。

防災におけるデジタル活用の重要性

日進市では以前から防災分野にデジタル技術を活用したいと考えていました。そうした中ICTなどの先進技術の活用により、県下自治体での都市機能の高度化促進を目的とした愛知県のスマートシティモデル事業の公募が開始されました。そのタイミングでソフトバンクからLINE防災の提案を受け、令和5年度には日進市LINE公式アカウントを用いた効果検証がスタート。令和6年度にはさらに機能を追加したLINE防災と避難所における物資手配・配送を連携させた効果検証や実証実験が行われました。

「平時から避難所への避難において、市民が使い慣れたプラットフォームであるLINEを用いることで、このLINE防災は市民の受容性が高いことを確認できました。
しかし、避難所へ避難した際の受付手続きが煩雑であることや、紙ベースで受付を行うことにより、市が避難者情報を把握するのに時間を要するといった課題が残っていました。
そこで、避難所の受付に関する課題解決に向け、令和6年度の避難所開設運営訓練ではLINE防災にマイナンバーカードを活用したデジタルチェックイン機能を提供し、参加した市民にサービスを体験してもらいました」(大澤氏)

「デジタルチェックイン機能」で受付を行う様子 「デジタルチェックイン機能」で受付を行う様子
体験ブースでLINE防災を試してもらう様子 体験ブースでLINE防災を試してもらう様子

LINE防災の主な機能紹介

LINE防災の主な機能紹介

①防災マップ
ハザードマップや避難所・避難場所の位置を確認することができ、平時の備えを強化するとともに避難時の避難行動をサポートする機能。

②防災用品
非常用持ち出し品や備蓄品をチェックすることで、一人一人の災害に対する備えを強化する機能。

③PUSH通知
自治体から発信される災害情報をプッシュ通知で発信し、視覚的に分かりやすく表示する機能。

④防災リンク集
自治体が設定したURLやコンテンツにLINEから遷移することができる機能。

⑤マイ・タイムライン
平時・災害発生時の行動を登録して、ひとりひとりのマイ・タイムライン(防災行動計画)を作成し、いざという時に落ち着いて防災アクションを取るための備えを強化する機能。

⑥安否回答
災害発生時にLINEから自身の安否状況や位置情報を友だち登録済みの相手に共有することができる機能。

⑦個別支援計画
日進市の要援護者向け個別支援計画申請書をデジタルで作成し、PDFで保存できる機能。

⑧避難所チェックイン
マイナンバーカードと連携したデジタルによる避難所チェックインと避難所・避難者情報の可視化ができる機能。

避難所チェックイン機能の役割

避難所チェックイン機能の役割

(参考)避難所チェックインから物資手配・配送の流れ

(参考)避難所チェックインから物資手配・配送の流れ

訓練でのLINE防災の効果と課題

令和6年度の訓練では訓練対象地域の市民にLINE防災のサービスを提供し、平時・災害・避難時のそれぞれの機能を体験してもらう形で実施しました。加えて、避難所として開設した相野山小学校および竹の山小学校・北中学校(小中併設校)では、ソフトバンクがLINE防災のサービス体験会(体験ブースの出展)・デジタルでの避難所チェックインの実証実験をおこなうとともに、避難所にチェックインした避難者情報を活用した支援物資の手配・避難所への物資配送を実施しました。

「事前にマイナンバーカードを登録しておく必要はありますが、従来の紙による受付では約6分30秒かかっていた手続きがデジタルチェックインだと約30秒で完了し、90%超の時間短縮となり、訓練参加者の体感としても迅速な避難所チェックインにつながるといった意見もいただきました。
災害発生時は非常に混乱することが予想されるので、避難所での受付や避難者情報の確認作業などをスムーズに実施できるよう、市民と自治体の両方でしっかり事前準備をしておくことが大事だと考えています。そうした事前準備や市民への意識啓発、災害発生時の迅速な支援の実現には、市民が日常使いしているLINEというプラットフォームは非常に有効だと実感しました。また、デジタルでの避難所チェックイン情報を活用した支援物資の手配・配送においては、自治体職員の業務効率化や負担軽減にもつながる結果となっています。
一方で、訓練で課題と感じたことはLINE防災に関する市民への周知です。訓練開催前には自治会や自主防災組織への説明会や訓練のチラシ配布など、市民向けにLINE防災の事前周知を行いましたが、それでも周知が行き届いておらず端末操作に時間を要してしまうシーンがありました。
加えて、自治体側でも市民がスムーズに受付できるように、案内板の設置などを今後検討する必要があると感じました。また、今年度の実証では行わなかったのですが、LINE防災ではインターネットにつながらない状態でもデジタルチェックインを行えるよう、専用端末の設置といった対応策も可能なため、こちらの利用も検討をしていきたいと思います」(大澤氏)

今後の展望について

最後に、今後の日進市におけるデジタルを活用した防災の展望についてもうかがいました。

「これまでに実施した訓練でデジタルを活用した防災機能は非常に有効だと確認できましたので、令和7年度には訓練の実施対象を個人や各世帯にも広げた一斉防災訓練の実施を検討しています。
今後はソフトバンクのご協力をいただきながら、市のさまざまな情報発信や予約機能、通報機能など便利なサービスを提供している日進市LINE公式アカウントと連携したLINE防災の活用の検討を行っていければと考えています。」(大澤氏)

インタビューに答える大澤氏

行政と民間企業が手を取り活用を進める防災ソリューション。平時から活用することで、防災意識の啓発・早期警戒・迅速な対応・被害軽減・住民の安心など、災害対策の強化と地域の安全・安心の確保につながります。日進市をはじめ、LINE防災の今後の自治体での活用に大きな期待がかかります。

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