労基署監督官はココを見る!企業が知るべき労基署調査のチェックポイント
2022年7月26日掲載
「次々に法律が変わるが何に気を付ければいいのか」「法改正に伴い自社の労務管理に問題はないか」など悩まれている企業に向けて、働き方改革関連法への対策について、元労働基準監督官の目線で徹底解説します。
「働き方改革関連法」労働行政が指導する4つのポイント
■2019年から施行されている「働き方改革関連法」に関して、労働行政の目線から重要なポイントを教えてください。
労働行政では、主に4つのポイントを中心に指導を行っています。
① 時間外労働の上限規制
原則として 月45時間・年360時間までの時間外労働協定の上限 が、国によって定められました。さらに臨時的な事情で労使が合意する場合(特別条項)においても、上回ることができない上限が設けられています。これを超えて働かせた場合は厳重な処罰の対象になります。
② 年次有給休暇の5日間取得義務
年次有給休暇(年休)を10日以上付与された労働者に対して、付与日から 1年以内に少なくとも5日間の年休を取得させる ように義務づけられました。これまでは従業員から申し出がなければ年休を与える必要がありませんでした。法改正後は、使用者が時季を指定して5日間の年休を与えなければなりません。
③ 労働時間の客観的な把握
4つのポイントの中で一番重要なのが、労働時間の客観的な把握ができているかどうかです。これまでは労働時間の確認を、賃金計算や時間外労働の上限超過確認などのタイミングで行っていた方も多いと思いますが、健康管理の観点から常に把握するように変わりました。以前はほとんど時間管理されていなかった管理監督者や、労働者である役員の方々も対象となります。
厚生労働省から「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が出されています。これは労働時間を客観的に把握せよという内容です 。タイムカードやICカード、PCの利用時間などの記録をもとに、始終業時刻を労働者ごとに確認 するように求めています。監督指導の中心は、労働時間の状況確認からはじまります。チェックを受けやすい内容ですので、しっかり対応しましょう。
④ 産業保健機能の強化
健康確保という観点においても、労働基準監督署が重点的に確認するのは労働時間の管理状況です。対応できていない企業には繰り返し指導を行いますが、それでも改善されない企業や重大悪質な事案に関しては刑事手続きを含め厳正に対処するとされています。これらの働き方改革関連法とあわせて、同一労働同一賃金の制度への対応も必要となります。コロナ禍でクローズアップされにくくなっていますが、労働行政は厳しい目線で監督指導を行っているということを、あらためて認識しましょう。
長時間労働の抑制に向けて
■労働基準監督署ではどのような方針で監督指導を行っているのですか?
近年重点的に指導しているのが、長時間労働の抑制に向けた監督指導 です。1ヵ月あたり80時間を超えて時間外労働を行っている事業場、および過労死・過労自殺などの労災請求が行われた事業場に対して、重点的に監督指導を行います。
2021年9月には 「脳心臓疾患の労災認定基準」が改正 されました。これまでは、1ヵ月に100時間、あるいは2~6ヵ月平均で月80時間を超える時間外労働を行っていた労働者が脳心臓疾患を発症した場合は労災認定するとしていました。この基準は「過労死ライン」と呼ばれていますが、このラインを越えなければ労災ではないと判断されてきました。
ところが、過労死ラインを超えていないにも関わらず裁判で労災と判断される事案が相次いだため、近年の働き方を考慮して新たな基準が定められました。例えば、過労死ラインには至らないものの長時間の労働をしていて、加えて深夜や交代制勤務など身体的な負荷や精神的負荷があった場合は労災認定すると改められました。時間外労働が 月65時間を超えると改正労災認定基準のグレーゾーン に入ってきますので、今後は60時間以内に抑えるよう注意が必要です。
監督官は何を見る?
■労働基準監督官は調査で何をチェックしているのか教えてください。
まずは労働時間をどのように把握しているかです。賃金台帳をもとに残業代の支払い状況を確認しますが、問題がありそうな人をピックアップし、36協定を超過していないかなど厳重にチェックします。自己申告制で客観的な労働時間の把握ができていない場合は、PCのログや警備記録も調べ、労働時間の状況を確認していきます。
その上で、賃金の支払い状況と労働条件の確認 です。時間外労働に対して賃金が支払われているか、労働条件通知書が交付されているか、就業規則の内容や、変形労働時間制の場合は届け出が提出されているかなどをチェックします。あわせて、安全衛生管理体制の確認 です。定期健康診断の受信状況や長時間労働者への面接指導、安全衛生委員会の確認や、事業場内を巡回して安全衛生管理指導などを行います。このようにチェック項目は多岐に及びます。
不正をなくすために
■調査で問題を指摘された場合、企業はどのような対応をすればよいのでしょうか。
法違反や放置すると問題になる事柄があれば、監督官から是正勧告書または指導票が交付されます。これに対して、いつまでにどのような改善を行ったかを是正報告書にまとめて提出する必要がありますが、改善が確認できなければ再び調査(監督)します。是正報告書の内容に虚偽の報告があれば送検されるリスクがあるため、適切に報告する必要があります。
最近のトピックスとして「公益通報者保護法」が改正となり、2022年6月から施行されています。以前は、コンプライアンス違反や不祥事などの内部告発に対して、報復人事を行うなどの例が少なくありませんでした。今回の法改正では、通報者が安心して告発できる組織内部の窓口の設置や、通報者への不利益な扱いを行わないように定めています。また、通報者の範囲に一年以内の退職者や役員が加わっています。加えて、社内の調査者が通報者の情報を漏えいしないように、罰則付きの守秘義務が課されました。こうした 通報者保護の体制が整備されていくことで、今後は内部告発が増えていくことが予想されます。
実際に内部告発から送検されたケースですが、残業代を適切に支払っていないとして是正勧告を受けた不動産販売業者がありました。その後、改善報告が提出されたものの、実際には虚偽の打刻をさせられたという通報が相次ぎました。タイムカードを確認すると終業時刻が手書きになっていて、その下に打刻の痕跡が残っており、結局会社ぐるみの改ざんだということで会社と社長を送検し、結果的に罰金刑が課されました。
気軽に相談できる窓口を設け、通報があった際には誠実に対応することが重要 です。風通しのよい職場環境を作り、従業員との意思疎通を図ることでトラブルは防げます。
知らないでは済まされない労務管理
■最後に、適正な労務管理への取り組みを進める企業へアドバイスをお願いします。
労働条件や安全衛生管理などを定める労働基準法令は、違反した場合には罰則が科されます。この時になって「法律を知らなかった」と言っても決して許されることにはなりません。最近では労務管理に関する情報を簡単に調べられるため、従業員の方が労務管理に詳しい場合もあります。経営者の方が知らなかったことでトラブルに陥ったというのもよく聞く話です。こうした事態を回避するためにも、積極的に労務管理や安全衛生管理の知識を習得するように心掛けましょう。
いったん送検されてしまうと、世間からはブラック企業として扱われてしまいます。実際に、ある小売店が繁忙期に最長で300時間を超える時間外労働と休日労働をさせていたという事案がありました。過去に是正勧告を受けていたものの改善がみられないということで送検されたのですが、一ヵ月間の過労死ラインを大幅に超えている過去に例のないケースだったため、新聞やニュースで取り上げられました。マイナスのイメージがつくと客離れは進むでしょうし、そのお店で働くことに憧れていた従業員達も嫌気が差して次々に離職してしまったそうです。いままで大丈夫だったからと放置せず、会社倒産のリスクがあることを認識していただきたいと思います。
まとめになりますが、働き方改革に対応するためにも、労働時間の客観的な把握はマストです。自社で対応できない場合は専門家にアドバイスを求めましょう。
貴重なお話ありがとうございました。
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