GNSS観測データの活用方法と今後の可能性

2022年11月9日掲載

全国3,300ヵ所の独自基準点によるGNSS観測データの活用方法と今後の可能性

東北大学大学院理学研究科は、ソフトバンクとALES株式会社の協力のもと、2社および国内の12研究機関18部局が参画する「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」を2022年8月に設立しました。


プレスリリース:ソフトバンクの独自基準点のデータを利活用するコンソーシアムを設立

コンソーシアムでは、ソフトバンクが全国3,300ヵ所以上に設置している独自基準点から取得するGNSS(※1)の観測データについて、地震や気象などの幅広い地球科学の分野での活用方法を検証するとともに、新しい地球科学の創成を目指しています。

コンソーシアムの発足を主導した東北大学大学院理学研究科の太田准教授に、独自基準点から得られるGNSS観測データの活用方法と、今後の可能性についてお話を伺いました。

目次
ゴディバジャパン常務執行役員 櫛山伸也氏

太田 雄策 氏

東北大学大学院理学研究科付属
地震・噴火予知研究観測センター
准教授

GNSS観測データの解析を通じて、地殻変動のメカニズムを明らかに

ー地震・噴火予知研究観測センターでの、太田先生のご研究内容について教えてください。

専門は地震学、測地学という分野になります。地面の動きから地震や火山といった自然現象の理解を進めるという研究です。例えば大きな地震が起きると、GNSS観測点が動きます。その観測点の動きを時系列的に追うことで、地震のメカニズムを明らかにすることなどに取り組んでいます。

加えて、リアルタイムでGNSS観測データを解析することで、即時的に地震の震源断層を決めるという技術の開発も行っています。この技術によって、地震の後に大きな津波が起こるような場合、推定した震源断層から、津波がどこにどの程度の大きさで来るのかが、かなり正確に分かるようになります。

津波予測がリアルタイムでできれば防災や減災につながりますので、国土地理院と共同研究しながら社会実装も進めています。

ー解析の対象は、GNSS観測点で取得したデータということでしょうか?

もう少し丁寧にいうと、観測点がGNSSから受信した信号の生データです。そのデータを自分達で解析、座標値を推定して使っています。

ほかには、GNSSからの信号の伝搬遅延量も観測の対象となります。

GNSS衛星からは、マイクロ波で信号が送られてきますが、衛星と観測点の間に雲や火山の噴煙があると、マイクロ波が伝わってくるのが遅れます。その「遅れたこと」自体がデータになります。

どの衛星からのマイクロ波が遅れたかを調べることで、どこにどのくらい遅延要因が発生していたのかが分かります。例えば線状降水帯のような、雨を降らせる水蒸気の塊がどこにあるのか、場合によっては火山の噴煙がどこにあるのかといった情報が、現場を見なくてもGNSSのデータから推察できるんです。

きっかけは「独自基準点3,300ヵ所」 ソフトバンクの高密度なGNSS観測網の活用開始

ーGNSSデータの取得手段として、ソフトバンクの独自基準点に着目された経緯を教えてください。

ソフトバンクがGNSS観測点となる独自基準点を全国に3,300ヵ所以上設置し、そのデータを活用して高精度測位が可能な「ichimill」というサービスを提供するというニュースを見たことがきっかけです。

プレスリリース:センチメートル級の測位サービスを11月末から提供開始

ー着目された点は、3,300ヵ所という独自基準点の数でしょうか?

はい、まずは基準点の数が3,300ヵ所以上と高密度だった点が1番ですね。また、地殻変動の観測に使えるレベルのデータが絶対に残されているはずだと考えました。

そこでソフトバンクへデータ利用希望の旨を相談し、現在に至るやり取りが始まりました。

2021年の日本測地学会講演会発表申し込み締め切り日の1週間前に宮城県と福島県のデータをいただいたのですが、データを見た瞬間に「これは使えそう」と確信しました。そこですぐに解析し、締め切りに間に合わせて学会で発表しました。

国土地理院が運営するGEONET(※2)の電子基準点1,300ヵ所を大きく上回る、3,300ヵ所以上の観測点が日本国中にある、そしてそれが地殻変動観測に活用が可能である、という発表内容に対して学会内外での反響は非常に大きく、データ利用のためのコンソーシアム設立の話にもつながっていきました。

ーソフトバンクの独自基準点から得られるデータの精度は、どのように検証されたのでしょうか?

座標のばらつきを検証する実験を行った結果、従来利用している国土地理院が運営するGEONETの電子基準点と、ソフトバンク独自基準点では、あまり差が出ないことが確認できました。その上で、ソフトバンクの独自基準点は高密度に配置されているため、GEONETの電子基準点がない場所のデータも取れることは大きなメリットになると感じました。

また、地殻変動の観測という観点からは、GEONETを補完するデータとして問題なく使えるだろうという評価になりました。

測地学では、座標値を高い精度で推定するために、高性能な受信機やアンテナを使用しています。それらの基準に則っているかが論文化する際には重要なのですが、ソフトバンクの独自基準点はその基準を満たしており、研究に使える精度を担保できるレベルの運用がされていることがわかりました。

ーこれまでの研究と比較して一番変わったのは、基準点の多さに起因するところでしょうか?

現状はその通りです。

加えて、これからの応用という点で言えば、ソフトバンクの独自基準点のデータにはBeiDou(中国のグローバル軌道衛星群)を含めたマルチGNSSのデータが含まれており、現状受信可能な測位衛星の信号をほぼ全てと言っていいくらい受信できています。

衛星の数が多ければ、観測点との間で収集できる情報量が増えますから、今まで以上に高解像度での解析ができる可能性が高いです。そのデータセットが3,300ヵ所以上という高密度であるということが、今後の応用可能性という点では大きいと思っています。

今後の展望について

ー高密度なGNSS観測データを使うことで、今後どのような成果が期待できますか?

地球科学という観点からは新しいデータというだけで価値がありますし、防災・減災という観点から見ても、これまでにない研究成果を提供できると我々は考えています。

成果は、すでに出始めています。近年ですと2020年の11月末から能登半島の先端部で続いている群発地震のメカニズム解析に利用されています。この地震は初めは何が起きているのか、その全貌をつかむことが難しかったのですが、ソフトバンクの独自基準点のGNSS観測データをGEONETや大学独自のGNSS観測点と併用することによって、そのメカニズムが明らかになりつつあります。

地震に関する総合的な評価をする地震調査研究推進本部 地震調査委員会という政府の組織があるのですが、その委員会における能登半島の事例における検討でも、ソフトバンクの独自基準点のデータは取り上げられています。この委員会は、国の推進する地震防災の活動に直結する組織です。そういった組織にまでデータが届くようになってきたということは、ソフトバンク独自基準点のデータが、GEONETを補完するデータとして、社会的に非常に重要な役割を担いつつあると言えるでしょう。

こうした高密度なGNSSデータの活用は、大きな可能性を持っていると考えています。我々のような大学・研究機関、とソフトバンクのような民間事業者がコンソーシアムの活動を通じて連携することで、新しいシナジーを生み出せるのではと期待しています。

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松島 香織
ソフトバンクビジネスブログ編集チーム
松島 香織
ソフトバンクにて2013年よりB2Bマーケティングに従事。
イベント企画、ブランドマネジメント業務を経て、2019年からオウンドメディア運営に携わる。
主な担当領域は自治体/文教/建設業のDXに関するコンテンツ。

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