量子コンピュータとは? 文系初心者向けに分かりやすく解説
2023年12月21日掲載
2023年3月に理化学研究所で国産量子コンピュータの初号機「叡(えい)」が稼働し、量子コンピュータの注目度が高まっています。ここでは、ビジネスに関わる文系初心者にも分かりやすいように量子コンピュータの初歩をご紹介します。
量子コンピュータとは?
量子コンピュータとは、量子力学の原理を用いた新世代のコンピュータのこと を指します。量子ビットと呼ばれる情報の最小単位を使用することで、従来のコンピュータが一度に処理できる情報量を劇的に超える可能性を秘めています。それにより、大量のデータを一度に処理したり、現行のテクノロジーでは解決が難しい複雑な問題を可能な限り迅速に解決する能力を有しています。
量子コンピュータが現実のテクノロジーとして開発されるようになったのは1980年代からのことです。その後も、Google、IBM、Microsoft などの大手テクノロジー企業や、各国の研究機関などが量子コンピュータの開発を進めており、さまざまなアプローチや技術が生まれています。今日では量子コンピュータの開発は非常に活発で、その応用分野は広がりつつあり、新たな発見と技術革新が求められています。
古典コンピュータと量子コンピュータの違い
量子コンピュータが出てきてから、従来型のコンピュータのことを古典コンピュータと言うようになりました。「京」や「富岳」などの有名なスーパーコンピュータも古典コンピュータを発展させたシステムです。
従来型である古典コンピュータは、「ビット」と呼ばれる情報の単位を使用します。ビットは0または1の値を取り、この2つの数値を利用して情報を符号化します。そのため、一度に1つの情報だけを処理します。
量子コンピュータでは、「量子ビット(qubit)」という情報の単位を使用します。量子ビットは一度に0と1の両方の状態を持つ(重ね合わせ※1)ことができるほか、異なる量子ビットどうしが結びつく(量子もつれ※2)こともあります。このように、量子ビットは複数の状態を同時に取ることができるため一度に多くの情報を処理することが可能になります。結果、量子コンピュータでは計算速度が格段に上がり、特定の問題について古典コンピュータよりもはるかに高速に解を見つけることができるのです。
しかし、量子コンピュータを実現するためには、極低温環境や特殊な素材が必要という大きな課題もあります。
古典コンピュータ
量子コンピュータ
情報の単位
計算能力
物質の性質
環境要因
比較的一般的な環境
技術課題
・物理的な大きさ
・消費電力
・熱的な問題 など
・量子ビットの安定性
・量子エラー など
重ね合わせとは、量子ビットが同時に複数の状態に存在できる能力を指します。これが量子コンピュータの驚異的な計算速度を可能にしています。
古典的なビットが0または1のいずれかの状態にしか存在できないのに対して、量子ビットは0と1の中間状態を含む無数の状態を同時に持つことができます。重ね合わせの状態は観測されるまで不確定であり、観測によって初めて特定の状態に落ち着きます。
量子のもつれとは、2つ以上の量子ビットが複雑に関連付けられ、一方の状態が他方の状態に影響を及ぼす現象のことです。これにより、量子情報を迅速に伝達することができます。
量子コンピュータの種類
量子コンピュータは主に「量子ゲート方式(または量子回路方式)」と「量子アニーリング方式」の2つに分類されます。
量子ゲート方式(量子回路方式)
量子ゲート方式は、量子ビットに対して一連の量子ゲート(操作)を適用することで計算を行う方式です。これは古典的なコンピュータの論理ゲート(AND、OR、NOTなど)に相当しますが、量子ゲートは量子ビットの重ね合わせや量子のもつれといった性質を利用します。量子アルゴリズム(ショアのアルゴリズムやグローバーのアルゴリズムなど)がこの方式を採用しています。
一般に、量子ゲート方式は大規模な数値計算や素因数分解、データベース検索など、あらゆる難解な問題に対して強力な計算能力を発揮しますが、誤り訂正の問題などがあり、現在も開発が進行中です。
量子アニーリング方式
量子アニーリング方式は、最適化問題を解くための特化型の量子コンピュータで、エネルギー状態が最も低い状態(最適解)を探すことで問題を解きます。
運送ルートの最適化やポートフォリオ最適化など特定の問題や特に最適化問題を高速に解くことができます。現時点で商用化されている量子コンピュータの中には、この方式を採用しているものもあります。
量子コンピュータの応用例とは
量子コンピュータの重ね合わせや量子もつれの性質を利用することで高速計算ができるようになるため、今までリソースと時間的に難しいと考えられていた難問を現実的な時間内に解くことが可能になると考えられています。その高速な計算能力を生かして、大規模なシミュレーションや機械学習への応用が期待されています。
<応用例>
気候予測
創薬
金融とリスクモデル
クライム・プリベンション
物流とスケジューリング
トラフィック最適化
データ分析とAI
また、量子コンピュータの高速計算が実現すれば、既存の暗号化システムが解読されてしまい危険にさらされる可能性があると言われています。一方で、量子コンピュータを用いることで新たな形の高度なセキュリティシステムの開発を推進できるとも考えられています。つまり、量子コンピュータの高度化はセキュリティの「脅威」と「機会」の両方を内包しており、その発展は我々のデジタルセキュリティの未来に大きな影響を与える可能性があります。
まとめ
量子コンピュータはまだ研究開発の段階にあり、性能と信頼性にはまだ課題が残っています。しかし、多くの研究機関や企業が次世代の量子技術の開発に取り組んでおり、その進歩に注目が集まっています。このまま量子コンピュータの進展が続けば、多くの分野に影響が及ぶことでしょう。これらの応用分野での量子コンピュータの利用が現実的になると、人類が直面する多くの課題解決に道を開くかもしれません。
このように、量子コンピュータの進展は、私たちのビジネス環境に大きな変化をもたらす可能性があります。従来のテクノロジーでは難しい課題解決に対応することで、新たなビジネスチャンスや変革を生み出す可能性があります。ぜひ引き続き注目していきましょう。
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