AI-RANとは? 特長やユースケース、ソフトバンクの取り組みを解説

2025年4月21日掲載

AI-RANとは? 特長やユースケース、ソフトバンクの取り組みを解説

近年、AIの進化と通信技術の発展により、私たちの生活は大きく変化しています。膨大なデータが行き交う現代社会には、高速で効率的な通信ネットワークが不可欠です。
そこで注目されているのが「AI-RAN」です。しかし、その具体的な内容を知らない方も多いのではないでしょうか。本ブログでは、AI-RANとは何か、その特長やユースケース、ソフトバンクの取り組みについて、分かりやすく解説します。

目次

RANとは?

まず、AI-RANを理解するために、RAN(Radio Access Network:無線アクセスネットワーク)を説明します。RANはスマートフォンなどのモバイルデバイスと、通信事業者のコアネットワークをつなぐ重要な橋渡し役です。基地局やアンテナなどの設備を通じて、モバイルデバイスから送受信される電波を適切に管理することで通信を可能にしており、通信の品質や速度に直接影響を与えます。電波が届きにくい場所や多くの人が一度に通信を行う場所では通信が不安定になるため、RANを適切に管理し、最適な状態に保つことが必要不可欠です。

AI-RANとは?

AI-RANとは、AI(人工知能)とRANの技術を組み合わせて、相互活用することで新たな価値を創出するAI時代の社会インフラコンセプトで、AIのためのRAN、RANのためのAI、さらに計算リソースの有効活用までを含んでいます。

AI-RANのコンセプト

従来のRANでは、人が複雑な設定や調整、管理を行っていました。しかし、AI-RANでは、AIがネットワークの最適化や調整を自動で行います。これにより効率的なネットワーク運用や高品質な通信サービスの提供が可能となります。
さらに、AIによってRANが高度化され、隣接する基地局同士をAIで連携させることで、電力や周波数などの高度化や効率化が可能になります。AI-RANの計算リソースは、RANのためだけに構築するとネットワークのピーク時に合わせた設計となるため、深夜などには未使用の計算リソースが多く発生してしまいます。しかし、ほかのAIサービスと併用することで、計算リソースを最大限に活用することが可能になります。

AI-RAN:AIと無線アクセスネットワーク(RAN)の融合

AI-RANの特長

①超低遅延でリアルタイムなAI処理の実現

現在、大規模なAIの計算はクラウドで処理する必要があり、インターネットを経由することで応答に時間を要してしまいます。AI-RANでは、高速大容量かつ低遅延なRANと地域ごとに分散された計算リソースが融合することでエッジAIが実現するとともに、基地局付近でAIを実行することでこの遅延がほとんど感じられないほど短くなります。

AI-RANが実現した場合の現在との通信速度の比較

②大容量・多様なデータを効率処理

8K映像やセンサーデータなどの大容量データを、ネットワーク経由でクラウドに送信して一括処理する方式では、伝送容量が逼迫し、リアルタイム性やシステム全体の安定性に課題が生じます。AI-RANは、基地局付近に配置されたエッジコンピューティング資源を活用し、デバイスの近くでデータを一次処理して、必要な情報のみをクラウドに送信することで、こうした課題を回避できます。

将来的には、自動運転やスマートビルなど、AIが共存する社会の実現が期待されています。その中で、AIは地域や建物単位で、画像・音声・センサーといった多様な情報(=マルチモーダルデータ)を統合・解析することが求められ、そのために扱うデータ量や計算量は飛躍的に増大します。AI-RANは、こうしたマルチモーダルデータをネットワーク上で効率的に分散処理し、大規模なマルチモーダルAIの実行を支える基盤として、極めて重要な役割を果たします。

③セキュアなネットワークで安心を提供

AI-RANは通信事業者の閉域ネットワーク内でデータを扱うため、高度なセキュリティ対策が施されており、データのやり取りを安全に行うことができます。外部からの不正アクセスや情報漏えいのリスクを最小化しつつ運用できるため、安心してビジネスを展開できます。

AI-RANのユースケース

AI-RANは、AI社会を支える革新的なインフラとして、さまざまなユースケースが期待されています。具体的には以下のような例があります。

・自動運転支援
自動運転車のカメラ映像を基に道路状況をリアルタイムで分析し、瞬時に判断を下すなど、 リアルタイムでのスムーズなコミュニケーションが実現可能となります。

・医療現場での遠隔自動手術
AI-RANの超低遅延、大容量かつセキュリティの高いネットワークにより、
リアルタイムに高度な作業が必要な遠隔自動手術なども実現が可能になります。

・インフラ設備の点検
パイプチェックや橋梁点検など、スマートフォンのカメラをかざすと作業ガイドさせるような重い処理を 行うソリューションなどを使用する場合でも、高度かつ高速なAI診断ができます。

・産業用ロボットの高度化
企業情報などをロボットとやり取りする際もAI-RANならセキュアな閉域ネットワーク上でやり取りが可能なため、リスクを抑えつつ、AIロボットと自然な会話ができるようになったり、膨大なデータを低遅延で処理できるようになることで人間とロボットがシームレスなインタラクションを行えるようになり、高度な作業指示にも対応可能になります。これにより生産性向上とコスト削減に大きく貢献することが期待されます。

ソフトバンクのAI-RANの取り組み

①AIデータセンターとの連携

AIや5Gなどの技術進展によって社会課題の解決が期待される一方、現在のデータ処理・通信インフラでは、AIの大量データ処理の対応が難しいとされています。
そのため、ソフトバンクは、AIの処理・計算能力を飛躍的に向上させる基盤として、現行インフラの構造を変える「次世代社会インフラ」の構築を進めています。
この次世代社会インフラの実現に不可欠な技術としてソフトバンクはAI-RANを提唱し、AI-RANの実現に向けて、高度な計算能力と迅速なデータ処理が可能なAIデータセンターとの連携を進めています。

②「AI-RANアライアンス」を設立

ソフトバンクではAI-RANの分野で世界をリードする先進的な活動を行っています。2024年2月には、AI-RANの技術の普及と発展を促進するために、モバイルとAIのリーディングカンパニー10社と1大学と共に「AI-RANアライアンス」を設立しています。
「AI-RANアライアンス」では、AIとRANのインフラ共通化と活用をゴールとし、3つの研究領域を設定しています。

・AI and RAN
通信に直接関係のないAIの処理とRANの処理を、同じコンピューティング基盤で行う技術です。これにより、夜間など通信トラフィックが少ない時間帯でも余剰の処理能力をAIに無駄なく活用できます。

・AI on RAN 基地局のAI機能を利用して、近くのユーザーやデバイスに即時性の高いサービスを直接提供する技術です。データを遠隔のクラウドに送信する必要がなく、低遅延でのサービス提供が可能となるため、エンドユーザー向けの革新的なサービスの開発を促進します。

・AI for RAN AIを活用してRAN自体の性能を向上させる技術です。現在の制約を超えて、無線効率の向上、消費電力の削減、運用効率の向上を実現します。AIがネットワークの状況をリアルタイムに分析し最適な周波数割り当てなどを行うことで、ユーザーに最適な通信環境を提供します。

AI-RANの主要領域
AI-RANアライアンス

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③AI-RAN統合ソリューション「AITRAS」を開発

AI-RANのコンセプトを具現化した製品「AITRAS(アイトラス)」を開発しています。NVIDIAだけでなく、富士通株式会社やレッドハッド株式会社などのパートナー企業と協力し、高性能かつ効率的なシステムの実現を目指しています。

まとめ:AI-RANの実現で変わる社会

AI-RANは、通信業界だけでなく社会全体に大きな影響をもたらす可能性を秘めています。環境への配慮や新たなビジネスモデルの創出など、これからの社会に求められる要素を兼ね備えた技術として、その未来に大きな期待が寄せられています。
ソフトバンクをはじめとする企業の取り組みにより、近い将来、AI-RANが私たちの生活をさらに便利で豊かなものにしてくれるでしょう。
あらゆるAIビジネスの創出を支え、AIが人々の生活の中に浸透し、幸せな社会にするために、ソフトバンクは次世代社会インフラの実現に向け挑戦をし続けます。

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角田 麻貴
ソフトバンクビジネスブログ編集チーム
角田 麻貴
ソフトバンクにて新規事業開発などを経験後、2021年よりB2Bマーケティングに従事。
イベントやウェビナーの企画運営を担当したのち、2024年よりコンテンツ制作に携わる。

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