ソフトバンク、「AIデータ基盤」 提供開始
鍵は分断された社内データの統合
2025年8月15日掲載
世界各地で紛争が起こりサプライチェーンが分断されるなど、世界的に不確実性が高まっている。このようななか重要になるのが、刻々と変わる状況に対応するためのデータに基づく迅速な意思決定だ。そのためには、正確なデータの把握とAIや自動化などを活用した迅速な処理・分析が欠かせない。カギとなるのが、AIを効果的に活用するための「AIデータ基盤」だ。その重要性と、実現に向けた道筋を探る。
AIは全社規模で使ってこそ、効果を発揮
データ環境の整備が急務
データに基づく迅速な意思決定を支える環境整備は、日本ではどの程度進んでいるのだろうか。例えば、AIの活用について米中などAI先進国では、既に全社的な活用が進んでいる。一方、日本では一部の先進企業を除き、部門ごとの活用やPoC(概念実証)レベルにとどまる企業が多い状況だ。ソフトバンク株式会社 データソリューション本部の藤平氏は、「AIは、特定部門に限定した活用では十分な成果を得にくく、全社規模でデータを活用することでこそ、本来の効果が発揮されます」と警鐘を鳴らす。
多くの日本企業で、AIの全社的な活用を阻害している大きな要因が、データ基盤の未整備である。データが各業務システムにひも付いているため部門ごとにサイロ化しているケースが多く、部門を超えて活用しようとすると、オンプレミスからクラウドまで多種多様なシステムに分散したデータを収集しなければならない。収集するためには部門間の調整が必要で、収集できてもデータの形式が揃っておらず、整備が必要となるケースも多い。このようにAIを活用した分析を行うにも、そこに至るまでに多くの工程が必要で、迅速なAI活用が難しい。藤平氏は、「AIを活用したDXを目指す企業は多いものの、そのためにはまずAIデータ基盤の環境整備が必要です」と語る。
ソフトバンク株式会社 法人統括 データソリューション本部 本部長 藤平 大輔 氏
ソフトバンクはいち早く全社的なAI活用を推進
このようにAI活用に苦戦する日本企業が多い中、ソフトバンクはいち早くAI活用の基盤として必要なデータの集約・整備に取り組んできた。そのために2020年、米国Databricks (以下、データブリックス)の「データ・インテリジェンス・プラットフォーム」を導入。全社的なAIデータ基盤の構築に着手した。
データブリックスの「データ・インテリジェンス・プラットフォーム」は、大規模データのリアルタイム処理が可能で、構造化・非構造化データを単一のプラットフォームに統合できる。AI開発にも対応しており、高度なセキュリティーも実現。データ収集からAI活用までを、ワンストップで実現する。
ソフトバンクは、個人向けのモバイルやブロードバンド事業、法人向けのICTソリューション事業など多様な事業を行っているが、データブリックスの「データ・インテリジェンス・プラットフォーム」を活用して、数千ものサイロ化したデータリソースを統合し、迅速なデータ処理・分析を実現した。そうすることで、多様な事業のデータをサイロ化することなく事業横断的に把握できるようになり、マーケティングなどにAIを活用しシナジー向上を実現した。さらに藤平氏は、「処理性能や開発生産性の向上に加え、エラーの発生率が大幅に低減し、運用の安定性と開発効率が飛躍的に改善されました。性能が向上したから新しい機能を実現でき、データのエラーがないから工数もかからないというメリットが享受できています」と効果を語る。
自社の経験に基づくノウハウを生かして
「データアドバイザリーサービス」を提供
ソフトバンクは、自社での取り組みで得た知見やノウハウを基に、データブリックスと戦略的提携を行い、同社の「データ・インテリジェンス・プラットフォーム」を活用し、AIデータ基盤を軸に企業経営をサポートする「データアドバイザリーサービス」の提供を開始した。このAIデータ基盤を利用することで、企業のあらゆるデータをワンプラットフォームで蓄積・管理することが可能になり、売り上げや顧客に関するリアルタイムデータの可視化や、多種多様なデータを用いた分析ができるようになる。自動化機能も備えており、鮮度の高いデータを効率良く用いた迅速な意思決定が実現する。
ソフトバンクはAIデータ基盤を提供するだけでなく、それをどう活用するかという出口戦略まで含めた支援を重視している。このサービスでは、ソフトバンクが持つ多様なサード・パーティー・データを活用できるのも大きなメリットだ。例えば、グループ会社のLINEヤフーなどのトレンドデータ、モバイル事業による人流データなどである。自社のファースト・パーティー・データに、これら世の中の動きを掛け合わせた分析が可能になる。「ファースト・パーティー・データだけでは分からない需要予測が可能になります。予測困難な経済環境の中で、より高精度な需要予測が求められる今、これらのデータを活用することで売り上げ拡大に貢献します」(藤平氏)。
このサービスを提供するデータソリューション本部は、データ活用に長けたデジタルマーケティング本部が改組した部署である。「データ活用に慣れており、失敗を含め多くの経験をしています。これらのノウハウを用いて、お客様自身が社内で継続的にデータ活用を進められるようになるまで、実践的な支援を続けます。多くの企業が直面する課題は、そもそも何から始めればよいのかが分からないという点にあります。当社は、課題の洗い出しからロードマップの策定、実行支援まで、各段階に応じた最適な支援を提供しています」(藤平氏)。
「データアドバイザリーサービス」は、AIデータ基盤を軸に、環境構築からデータの利活用までワンストップで支援する
体制の構築から自走まで一貫した伴走支援
AI活用によるDX推進において、AIデータ基盤の導入だけでは解決しない課題もある。人材や組織面だ。システムだけを整備しても、DX人材やDXを推進できる組織体制がなければDX推進はおぼつかない。コンサルティングファームなどに頼むという方法もあるが、それでは自社内にノウハウが溜まらない。
そこで、ソフトバンクは自社の構築経験に基づく「データアドバイザリーサービス」を提供。3カ月から半年かけて、企業がデータとAIを効果的に活用するための基盤整備を支援する。「データアドバイザリーサービス」で提供する支援は、データ活用の戦略構築、システムのグランドデザイン、体制の構築、データガバナンスの提案である。これらの活動を通じ、社内のプロジェクトメンバーに考え方やノウハウを伝えていく。
戦略や推進体制などデータ活用に向けた骨格が決まればシステムエンジニア部門に引き継ぎ、具体的な施策を進める。システム構築などのサポートはソフトバンクが行いつつ、そのうえで日々データを活用していけるよう伴走。最終的に導入企業が自走できるように導く。
AIデータ基盤の構築と「データアドバイザリーサービス」について藤平氏は、「特にお勧めしているのは、金融・製造・小売りといった大企業です。これらの企業は多くのデータをお持ちですが、組織がサイロ化しがちで身動きができなくなっているケースも少なくありません。組織が大きくなればなるほど調整が難しく、第三者が入った方が話がまとまりやすいというメリットもあります」と語る。
ソフトバンクは今後、自社のデータ利活用環境の構築経験に基づく「データアドバイザリーサービス」の提供を通じて、企業がデータとAIを効果的に活用できるように支援する。 将来的にはOpenAIおよびソフトバンクグループが開発・販売に合意している企業用最先端AI「クリスタル・インテリジェンス(Cristal intelligence)」※との連携も見据え、外部サービスとの連携を通して、より高度なマーケティングの実施や業務効率化など、企業のデータ・AI活用をさらに推進していく。
将来的には、ソフトバンクグループのAI関連サービスとの連携も見据える
最後に藤平氏は、「経済環境が厳しくなることが自明な中、データの重要性はますます高まっています。今こそデータ活用が自在にできるよう、もう一段シフトアップしておく必要があります」と語った。
関連サービス
Databricks(データブリックス)
複雑なデータ基盤運用によりサイロ化・高コスト化している企業データも統合する、次世代データ基盤。コストの大幅削減やデータ処理の高速化につなげます。